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新型コロナウイルス感染時のACE2受容体と免疫との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には廻って、
それからレセプト作業に入る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACE2とインターフェロンγの論文.jpg
Cell誌に2020年4月27日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの感染様式についての論文です。

基礎実験のデータなので、
ここで示される知見が、
臨床でも成り立つとは言えないことに注意が必要ですが、
内容は非常に興味深いものです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の人体への感染では、
ウイルスの突起が細胞のACE2を受容体として結合し、
それからセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素の働きを借りて、
細胞の中に入ります。
感染経路がこれだけなのか、
という点については別の知見もありますが、
いずれにしてもACE2とTMPRSS2が発現している細胞では、
感染が成立し得る、ということは間違いがありません。

当初下気道の細胞のみに主に感染が起こる、
という見解が主体でしたが、
その後上気道や腸管の感染が成立しないと、
説明の付かないような現象が認められ、
研究が重ねられて知見は修正されました。
ただ、そうしたデータの多くは、
ACE2受容体の発現のみを見ているものなので、
それが感染することと同じではありません。

今回の研究では、
人間の細胞のうち、
鼻の粘膜のゴブレット細胞と、
2型肺胞上皮細胞、
そして腸管上皮細胞の3種類の細胞が、
ACE2とTMPRSS2の両者の遺伝子を発現していて、
新型コロナウイルスの感染を受ける可能性があると、
確認されました。

この知見は、
新型コロナウイルスが、
実際に上気道症状と肺炎などの下気道症状、
そして下痢などの消化器症状の3つを主に示すという、
臨床的な知見とも合致するものです。

新型コロナウイルスはそれぞれ独立に、
鼻粘膜と肺と腸に感染し、そこで増殖するのです。
その増殖の仕方により、
出現する症状には差がある訳です。

ウイルスの侵入に対して身体の細胞は、
インターフェロンなどのサイトカインを産生して、
ウイルスを撃退しようとします。

ただ、今回の研究では意外なことに、
インターフェロンにより気道の内皮細胞において、
ACE2の遺伝子発現が刺激され増加する、
ということが明らかになりました。

インターフェロンは、
ウイルスを退治するための武器のようなものですが、
それがACE2を増加させることによって、
結果的に感染を促進しているのではないか、
というのが上記文献の著者らの推測です。

ただ、ACE2自体には肺障害を抑制するような働きがあり、
細胞がウイルスに感染するとACE2の発現は抑制されますから、
そうした仕組みによりバランスが保たれている、
というようにも考えられます。

単純にこの知見から、
ACE2の善悪を論じるのは行き過ぎではないでしょうか?

こちらをご覧下さい。
ACE2とインターフェロンγ.jpg
今回の知見をまとめた図がこちらになります。
ネズミの実験が行われることがしばしばありますが、
この図にあるように、
インターフェロンによるACE2の増加は、
ネズミでは認められない現象で、
ネズミでこうした実験を行うと、
その結果を見誤る可能性がありそうです。

これは1つの実験結果としては興味深いものですが、
複雑な感染と免疫応答の、
1つの側面を示しただけのものとも言え、
今後の知見の更なる積み重ねにより、
感染の詳細なメカニズムが、
明らかになることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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