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「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ブルジョワジーの秘かな愉しみ.jpg
ルイス・ブニュエルの代表作、
「ブルジョワジーの秘かな楽しみ」です。

ルイス・ブニュエルはスペイン出身の映画監督で、
独特のアクの強さとブラックユーモアに彩られた作風は、
中毒性があり、唯一無二の個性があります。

何度か回顧上映や特集が日本でも行われていて、
そのうち千石の三百人劇場で行われた回顧上映に、
何度か足を運びました。
これも多分高校生の時だったと思います。

「皆殺しの天使」と「銀河」が初上映だったのかな?

両方ともその時に観たのですが、
これはあまりピンと来なかったですね。

キリスト教がベースになった奇想なので、
キリスト教に馴染みがないと、
どうもピンと来ない部分があるんですね。

「皆殺しの天使」というのは、
パーティーの後で何故か屋敷から、
外に出ることが出来なくなってしまう参加者の話で、
ラストは一旦外に出られたものの、
今度は教会から出られなくなってしまう、
というオチでした。

シュールで面白そうでしょ。
でも、実際にはそう面白くはなかったんですね。
割とリアルな描写なので、
不条理に外に出られないという現象が、
映像的に面白くないんですね。
思いつきは面白いんだけど映像的には面白くならなかった、
という感じの作品でした。

「銀河」の方はモロにキリスト教のパロディなので、
これもちょっと駄目でしたね。

ブニュエル駄目かな…と思っていたのですが、
この「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」は面白かったですね。
こんなに面白くていいのかしら、
と思うくらい面白くて、
ブニュエルの真価を感じました。

これね、あるお金持ちの一家が、
食事をしようとすると、結局食べることが出来ない、
というエピソードを連ねた映画なんです。

その都度色々な理由で、色々なものを食べられないのですが、
それを変奏曲のように繰り返してゆくのです。

まあ、発想は「皆殺しの天使」とも同じなんですね。
欲望は常に満たされない、
という人生の本質を描いているのですが、
「皆殺しの天使」の方はシチュエーションが1つしかなくて、
描写もリアルなので面白くならないんですね。

この映画の場合は、
「美味しいものがあるのに食べられない」という状況が、
ビジュアルにも訴え掛けるものがあることと、
オムニバスの形式で演出もバラエティに富んでいるので、
飽きさせないですし、
後半になると相乗効果で物語が膨らんでゆくんですね。
この類稀な面白さは、
是非観て体験して下さい、としか言えません。

モンティ・パイソンのコントにも似たセンスですが、
同じ時代ですし、
おそらくヨーロッパにはその頃、
こうした自虐的に自分達を嗤うような、
そうしたセンスがあったんですね。
モンティ・パイソンに、
ちょっと「藝術」というスパイスを振りかけると、
この映画になる、という感じです。

アイデア自体は誰でも一度は思いつくようなものなのですが、
それを1本の長編映画として成立させるのは、
それはもう生半可な腕では出来ないですね。
映画史を眺めても、
こうした発想の映画が、
これだけ高いレベルで作られたことは、
あまり類がないと思います。

あまりこれまで観たことのない、
不思議で面白い映画が観たいという方には、
とてもお勧めの1本です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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