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新型コロナウイルスの年齢による感染しやすさとACE2遺伝子との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEと年齢論文.jpg
JAMA誌に2020年5月20日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の年齢分布の謎を、
鼻粘膜のACE2遺伝子発現量で説明した論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染症は、
小児の感染事例が少ないことが特徴で、
流行の当初は小児の感染事例はないとされていました。
その後感染が全世界に拡大するに至って、
乳幼児を含む小児の感染事例も報告されるようになりましたが、
それでも小児の事例は2%未満(上記文献の記載)という少なさです。

この現象には幾つかの異なった説明があります。

代表的なものは、
小児はこのウイルスに感染しづらいというものと、
感染はするけれども軽症に終わる、
という2つの説明です。

そのどちらが正しいのかについては、
現状正確には分かっていません。

新型コロナウイルスはSARSと同じように、
細胞にあるACE2受容体に結合して、
それを足掛かりに細胞内に侵入して感染します。

これも当初は下気道のACE2にのみ感染して、
肺炎を起こす、というように考えられていましたが、
今では鼻粘膜などの上気道にもACE2が発現していて、
そこにも感染することが分かっています。

今回の研究では、
このACE2の発現に年齢による差があるのでは、
という推測のもとに、
多数例で鼻粘膜のACE2遺伝子の発現を調べ、
その年齢による違いを比較検証しています。

喘息の関連因子を検証するために採取された、
4歳から60歳の305名の鼻粘膜の検体を、
10歳未満、10から17歳、18から24歳、25歳以上、
という4群に分けて、ACE2遺伝子の発現量を比較したところ、
10歳未満の年齢では、
それ以外の年齢区分と比較して、
有意にACE2遺伝子の発現量が低下していました。
それを図示したものがこちらです。
ACEと年齢の図.jpg
このように鼻粘膜のACE2遺伝子発現量は、
18歳くらいまでは年齢とともに増加することが分かります。
この違いは喘息の有無や性差に影響はされませんでした。

つまり、
小児では上気道のACE2が少なく、
そのために新型コロナウイルス感染症に罹り難いのでは、
ということが推測されます。

ただ、気管支肺胞洗浄液によるACE2活性を調べた以前の報告では、
年齢による差は見られなかったという結果が発表されています。

上気道と下気道で発現が異なっているという可能性はありますが、
それは証明されたものではなく、
今回の研究結果は非常に興味深いものですが、
今後別のデータや研究により、
補強される必要はありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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