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新型コロナウイルスの不活化ワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの不活化ワクチン.jpg
bioRxivという、
まだ査読をされていない論文が公開されているサイトに、
2020年4月19日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの不活化ワクチンの、
猿を使用した臨床試験の結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関しては、
多くの治療薬が候補としては挙げられていますが、
今の時点で決め手となるような薬がないことは、
何となく見えて来たような気がします。

そうなると、感染のコントロールのために、
期待されるのはワクチンの開発です。

2009年の「新型インフルエンザ」騒動の時には、
従来の手法を用いた不活化ワクチンが、
通常では考えられないような早さで製造され、
高い有効性を示しました。

しかし、これは従来のインフルエンザワクチンによる実績と経験とが、
あったからこその結果です。

コロナウイルスのワクチンについては、
SARSやMERSの時にも研究はされながら、
比較的短期間で流行が収束したために、
結果として実用化はされませんでした。
また、その実用化に向けての研究の過程で、
ワクチンの接種による、
感染時の肺病変の重症化促進などの危惧が認められました。
ワクチンを接種した方が重症化のリスクが増える、
という可能性です。
これはワクチンの直接作用という可能性もあり、
またワクチンによる不完全な抗体の誘導が、
感染時の悪化を招く、
所謂抗体依存性感染増強反応の可能性も示唆されました。

従って、今回の新型コロナウイルスのワクチンは、
ただ出来たというだけでは充分ではなく、
実際の接種の前にその有効性や安全性について、
インフルエンザワクチンの時とは比べものにならないような、
慎重な検証が必要になるのです。

今回のワクチンの完成が、
そう容易いことではない、
という理由がそこにあります。

ワクチンの製法についても色々な考え方があります。

これまでの感染症予防のためのワクチンは、
実際のウイルスを培養を繰り返すなどして毒性を弱めてそのまま使用する、
生ワクチン、
ウイルスに処理を加えて毒性のない状態にして投与する、
不活化ワクチン、
の2種類がありました。

不活化ワクチンには、
不活化処理した病原体をそのまま使用するか、
抗原タンパクをバラバラにして使用したり、
ウイルス粒子に似た構造を作ってそこに抗原を発現させて利用したり、
免疫増強剤を添加するなど複数の方法があります。

それ以外にウイルスそのものではなく、
ウイルス遺伝子の一部を、
他の遺伝子と結合させるなどして使用する、
RNAワクチンやDNAワクチンという、
これまで感染症予防のためには実用化はされていない、
新しい製法によるワクチンも、
今回開発が行われています。

遺伝子を利用したワクチンは、
何より「早く作れる」という点が一番の利点です。
これまでのワクチンは、
ウイルス遺伝子が作ったタンパク質を、
抗原として身体に投与したのですが、
遺伝子を利用したワクチンは、
遺伝子を人間の細胞に感染させて、
人間の細胞に抗原を作らせると言う点が全く違うのです。

無毒化したウイルスをベクター(乗り物)にして、
そこに標的となる抗原の遺伝子を埋め込んで感染させる、
ウイルスベクターワクチンという手法もあります。

さて、現状多くのワクチンプロジェクトが、
世界中で進行していますが、
実現に近い位置にあるのは、
今日ご紹介するシノバックという中国のメーカーによる不活化ワクチン、
アメリカモデルナ社のRNAワクチン、
イギリスオックスフォードのウイルスベクターワクチンなどです。

日本では大阪大学などがDNAワクチンを、
田辺三菱製薬が偽ウイルス粒子に抗原を発現させる、
というようなタイプの不活化ワクチンの開発に着手しているようです。

今回ご紹介するシノバック社のワクチンは、
最もシンプルな不活化ワクチンで、
基本的には現行のインフルエンザワクチンと同じ製法で作られているものです。

これで成功するなら苦労しないよ、
と言う感じはちょっとするのですが、
上記論文においては猿に接種した臨床試験において、
有効な中和抗体が誘導され、
新型コロナウイルスの感染実験で、
感染予防効果が確認され、
抗体依存性感染増強反応のような有害事象も、
認められなかったと報告されています。

これはまだ動物実験の段階ですが、
もう臨床試験の段階に入っているようです。

どのワクチンが最初に接種を開始し、
日本は国産を含めどのワクチンを使用することになるのか、
現時点では全く分かりませんが、
個人的には古典的な製法のワクチンで、
一定の有効性と安全性とが認められるのであれば、
それに越したことはないのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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