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低ナトリウム塩の健康効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウム減少塩と健康.jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
低ナトリウム塩の活用効果を数理モデルで検証した論文です。

過度な塩分制限には異論もありますが、
現代人が塩分を必要以上に多く摂っていることは事実で、
1日10グラムを超えるような塩分の摂取が、
高血圧や脳卒中、虚血性心疾患、慢性腎臓病、
胃がんなどの病気のリスクを増加させることは、
多くの精度の高い疫学データや臨床データによって、
実証された事実です。

健康な食生活として、
そのため適度な減塩が重要であることは、
これも間違いがありません。

ただ、味覚というのは習慣的な部分が大きく、
また文化的な側面もあります。
昔の人間は今より運動量が多く、
塩分も多く喪失していました。
食事も保存の利くものが重宝されたので、
自ずと塩分濃度の高いものが好まれたのです。

それを変えることはなかなか困難です。

最近無理なく減塩を達成するための方法として、
注目されているのが「低ナトリウム塩」です。

これはどういうものかと言うと、
塩化ナトリウムが主体の通常の塩の、
一部を塩化カリウムに変えてしまいます。

そうすると、
通常の塩より、
ナトリウムは大きく減少して、
カリウムが増加する、
ということになります。

実は塩化カリウムも味としては塩辛く感じるので、
それほど違和感なく、
普通の食塩の代わりに使用することが出来るのですね。

カリウムはナトリウムの排泄を促すので、
ナトリウム自体の含有量が少ないことと、
ナトリウムの排泄が促されることの相乗効果で、
減塩効果がもたらされるということになります。

日本においても複数のメーカーから、
この低ナトリウム塩が販売されています。

それでは、通常の食塩をこの低ナトリウム塩にすることで、
どのくらいの健康効果が期待されるのでしょうか?

1つ危惧されるのは腎機能低下がある場合で、
進行した腎機能低下があるとカリウムの排泄が低下するので、
高カリウム血症になりやすく、
その段階では低ナトリウム塩を使用することで、
むしろ高カリウム血症が増悪する、
という可能性も否定出来ません。

そこで今回の研究では中国において、
慢性腎臓病を持つおよそ1700万人に対して、
通常の食塩を、
その20から30%を塩化カリウムに置き換えた、
低ナトリウム塩に変更することで、
心血管疾患のリスクがどのように変化するのかを、
これまでの疫学データや臨床データを基にした、
数理モデルを使って解析しています。

今流行りの「ビッグデータからAIが予測した」という解析に近いものです。

その結果、
低ナトリウム塩を活用することにより、
総人口を対象とした場合、
年間で461000人の心血管疾患による死亡が予防され、
これは心血管疾患による死亡を、
11%抑制することに匹敵すえると想定されました。
その一方で低ナトリウム塩で誘発される高カリウム血症により、
年間約11000人が死亡するという可能性があります。
これを差し引きして、
年間45万人の死亡が予防され、
慢性腎臓病のある対象者に限ると、
年間で21000人の死亡が予防されます。
これは慢性腎臓病の対象者の心血管疾患による死亡のうち、
8%を抑制したということになります。

このように、
トータルでみて低ナトリウム塩の使用は、
心血管疾患のリスク低下において、
非常に有効な方法である一方、
高カリウム血症のリスクが想定される対象に対しては、
慎重に行う必要があり、
今後どのようにその使用を広げるべきか、
議論が必要であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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