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新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性(中国の多施設臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスに対するクロロキンの効果.jpg
British Medical Journal誌に2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性を検証した、
中国での多施設臨床試験の結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在している薬の1つが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

またヒドロキシクロロキン単独の効果については、
以前査読前の論文をご紹介しましたが、
そこでは62名の患者さんを2つの群に分けて、
一方にヒドロキシクロロキンの投与を行ない、
症状改善までの期間が2日程度短縮した、
という結果が報告されています。
ただ、単独施設の結果ですし、
長期の予後や治癒を見たものではないので、
それでクロロキンの有効性が認められた、
とは言い難いものでした。

今回の研究は中国の複数施設によるもので、
偽薬を使用したような厳密な方法ではありませんが、
PCR検査の陰性化を指標としているので、
より客観的な評価とは言えると思います。

対象は中国国内の16の病院に入院した、
新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者150名です。

軽症というのは発熱や咳などの症状はあるものの肺炎はない事例で、
中等症というのは肺炎があるものの、
呼吸不全のような状態ではなく、
動脈血酸素飽和度は94%以上に保たれているものです。
これまでの臨床試験は、
ほぼ肺炎患者のみを対象としていましたから、
より軽症の患者を対象としているのが今回のポイントです。
新型コロナウイルス感染症の診断はPCR検査で確認されています。

対象者をくじ引きで2つの群に分けると、
半数は通常治療を行い、
もう半数はヒドロキシクロロキンの使用を行います。
使用方法は最初の3日1日1200ミリグラムという高用量を用い、
その後は1日800ミリグラムを、
軽症から中等症であれば2週間、
結果として重症化した場合は3週間継続する、
というものです。
これは以前の単独施設研究では1日400ミリグラム5日でしたから、
高用量に変更されています。
症状出現から治療開始までに期間は平均で16.6日(3から41日)ですから、
正直かなり遅いという印象は持ちます

くじ引きはしていますが、
偽薬などは使用せず、
患者さんも主治医も、
どのような治療がされているのかは分かっている、
という形式です。
これは臨床試験としては不充分ですが、
予後がまだ不明の致死的となることもある感染症の治療なので、
やむを得ないところがあります。
日本で現行行われている新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験は、
概ね、施設によって使用薬剤を決め、
それを患者の希望により投与する、
という方法であるようです。
一部でくじ引きの試験も行われているのかも知れませんが、
情報は持っていません。

主な有効性の判定指標は、
投与後28日の時点でのPCRの陰性化率です。
通常治療というのは、
抗ウイルス剤はアルビドールやロピナビル・リトナビル、エンテカビルなどで、
抗菌剤やステロイドなども使用されているケースがあります。
一時もてはやされたロピナビル・リトナビルは、
ほぼ候補薬からは退場しているという感じです。

その結果…

治療開始28日の時点でのPCRの陰性化率は、
通常治療群が81.3%に対して、
ヒドロキシクロロキン使用群は85.4%で、
その差は統計的には有意ではなく、
その点でもヒドロキシクロロキン治療の有効性は否定されました。
また症状改善までの期間での比較でも、
両群に明確な差は認められませんでした。
一方で有害事象はヒドロキシクロロキン群で多く認められ、
その内容は下痢、嘔吐が主なもので、
3例は重篤な事例が認められています。

このように、今回の臨床試験においては、
ヒドロキシクロロキンの使用が、
新型コロナウイルスの排除に有効である、
という結果は得られませんでした。

投与のタイミングは前述のようにかなり遅いので、
より早期に使用が行われれば、
有効性が確認された可能性は否定出来ませんが、
現状ヒドロキシクロロキンが、
明確に新型コロナウイルス感染症に有効とする根拠はなく、
その心血管系や網膜に対するリスクを考えると、
その使用はこれまでより慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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