「バベットの晩餐会」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1987年のデンマーク映画でアカデミー外国語映画賞も受賞した、
名作「バベットの晩餐会」です。
これは本当に素晴らしい映画です。
僕は作り手の深い企みに感心し、
とても感動してかなり泣きました。
ただ、ちょっと特殊な設定と思想がベースにあるので、
その点で好みが分かれるところはあると思います。
それでですね、
もしこの映画をまだ観ていない方がいたら、
絶対あらすじなど読まないで、
このブログもここまでしか読まないで、
是非映画を観て下さい。
これね、ちょっと先入観を裏切るんですよ。
それがある意味感動のツボなので、
予備知識はない方が絶対いいんですね。
良かったと思われたら、後を読んで下さい。
面白いと思わなかったら、
そうですね、
1年後くらいにもう一度観て見て下さい。
ひょっとしたら、今度は感動するかも知れません。
これはそんな映画です。
この映画はね、多分年寄り向きなんですよ。
舞台も限界集落で、
老人が年を重ねるばかりで先がないでしょ。
その年寄りがね、
「ああ、無駄に年を重ねてしまった。やりたいことは出来なかった。
本当に好きな人とは一緒になれなかった。
もう身体も自由に動かない。俺って駄目じゃん」
と思うでしょ。
その後悔がね、
別に「コクーン」みたいに若返るのではなく、
何の奇跡も起こらないのに、
すっと一瞬とは言え、消えてしまう。
「ああ、人生って良かったな」と思ってしまう、
そうした出来事を描いた映画なんです。
これ、どういうお話にしますか?
ちょっと想像してみて下さい。
超自然的なことなしでやるんですよ。
とても出来るとは思えないでしょ。
それを易々とやっているのがこの映画です。
凄いですよね。
貴族のおぼっちゃんの軍人の若者がいて、
高名で女たらしのオペラ歌手がいるんですね。
お金持ちで世俗の名声もあるという立場の人。
もう一方にデンマークの海辺の寒村があって、
清貧の中厳格なキリスト教の戒律を守って暮らしている、
美しい姉妹がいるんですね。
2つの世界は全く相容れないし、
2つの世界の住人が、
同じ感情に結ばれるというようなことは、
現実には無理なんですよね。
でも、お互いに相手を求めているようなところ、
いいなあ、と思っているようなところはあるんですね。
丁度肉体と精神のように、
対立しながら惹かれ合っているんですね。
その2つが奇跡的に1つになるのですが、
それを可能にしたのが、
宝くじと高級料理という、
どちらも清貧な世界とは真逆の存在、
というところがこの作品の発想の素晴らしさです。
こんなこと、普通思いつきません。
2つの階層や社会の対立と融和を描きながら、
それを惹かれ合いながら、
結局添い遂げることなく終わった男女の物語に、
重ね合わせている点が感動的で素敵ですよね。
オペラという藝術、高級料理という藝術、
いずれも金持ちの道楽で金持ちに奉仕するという側面がある訳ですが、
その2つの藝術が清貧な生活にある種の価値を与え与え合うという辺りも、
その深い洞察に感心する思いがあります。
映画の最初に描かれる2人の若者、
いずれも俗物でこんな男に姉妹が引っかからなくて良かった、
と観ていて思いますよね。
それが違うんですよね。
この辺りの作劇も絶妙だと思います。
北欧の神秘的なムードも活きていますよね。
食事も古典のフランス料理を再現した本物で、
途中でドン・ジョバンニの二重唱が歌われますが、
これもなかなかいいんですよ。
ラストは色々な捉え方があると思いますが、
もともと最後の晩餐ですし、
「1つの時代」が終わった、
ということでいいのではないでしょうか。
原作は中編というくらいの分量で、
後から読んだのですが、
映画はほぼ忠実に原作を映像化しています。
ただ、受ける印象は少し違います。
原作はもう少し厳しい内容で、
孤高の藝術家の矜持のようなものが強く描かれているのですが、
映画はその点はもっとウェルメイドな感じで、
立場や世界の違う登場人物達が、
一時的には気持ちを通わせているように描かれています。
ただ、小説と映画の立ち位置ということで考えると、
このくらいが丁度良い、という気もします。
台詞はほぼそのまま原作のものが使用されているので、
映画では不明の台詞の意味は、
原作を読むと分かります。
登場する姉妹の父親の牧師は、
キリスト教、プロテスタントのルター派なんですね。
清貧な生活こそ信条なのですが、
有名オペラ歌手が訪ねて来て、
「宗派は?」と訊くと、
「カトリックです」と答えるでしょ。
普通なら、「それなら娘と会うのはお断りだ」と言ってもいいのに、
何も言わずに受け入れてしまうでしょ。
これはね、この人たちは排他的ではないんですよ。
むしろ、カトリックでお金持ち、みたいな人が来ると、
どう接していいのか分からなくて困ってしまうんですね。
「お友達にはなれない人だな。困ったな」
という感じなんですね。
こういう宗教の描き方というのも、面白いですよね。
普通もっと排他的に描きますよね。
そうではない、というところが、
融和的な存在の強さと弱さを同時に描いているというところが、
この作品の1つの肝である、
というようにも思います。
いずれにしても、
好きな方にとっては、
一生の宝物になる映画です。
好き嫌いはあると思いますが、
一度は観る値打ちがあると思いますし、
その人の人生経験によっても、
印象は変わる映画だと思います。
アメリカでリメイクされるそうですが、
ほぼ間違いなく酷いことになると思うので、
封切られても絶対観には行かないつもりです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1987年のデンマーク映画でアカデミー外国語映画賞も受賞した、
名作「バベットの晩餐会」です。
これは本当に素晴らしい映画です。
僕は作り手の深い企みに感心し、
とても感動してかなり泣きました。
ただ、ちょっと特殊な設定と思想がベースにあるので、
その点で好みが分かれるところはあると思います。
それでですね、
もしこの映画をまだ観ていない方がいたら、
絶対あらすじなど読まないで、
このブログもここまでしか読まないで、
是非映画を観て下さい。
これね、ちょっと先入観を裏切るんですよ。
それがある意味感動のツボなので、
予備知識はない方が絶対いいんですね。
良かったと思われたら、後を読んで下さい。
面白いと思わなかったら、
そうですね、
1年後くらいにもう一度観て見て下さい。
ひょっとしたら、今度は感動するかも知れません。
これはそんな映画です。
この映画はね、多分年寄り向きなんですよ。
舞台も限界集落で、
老人が年を重ねるばかりで先がないでしょ。
その年寄りがね、
「ああ、無駄に年を重ねてしまった。やりたいことは出来なかった。
本当に好きな人とは一緒になれなかった。
もう身体も自由に動かない。俺って駄目じゃん」
と思うでしょ。
その後悔がね、
別に「コクーン」みたいに若返るのではなく、
何の奇跡も起こらないのに、
すっと一瞬とは言え、消えてしまう。
「ああ、人生って良かったな」と思ってしまう、
そうした出来事を描いた映画なんです。
これ、どういうお話にしますか?
ちょっと想像してみて下さい。
超自然的なことなしでやるんですよ。
とても出来るとは思えないでしょ。
それを易々とやっているのがこの映画です。
凄いですよね。
貴族のおぼっちゃんの軍人の若者がいて、
高名で女たらしのオペラ歌手がいるんですね。
お金持ちで世俗の名声もあるという立場の人。
もう一方にデンマークの海辺の寒村があって、
清貧の中厳格なキリスト教の戒律を守って暮らしている、
美しい姉妹がいるんですね。
2つの世界は全く相容れないし、
2つの世界の住人が、
同じ感情に結ばれるというようなことは、
現実には無理なんですよね。
でも、お互いに相手を求めているようなところ、
いいなあ、と思っているようなところはあるんですね。
丁度肉体と精神のように、
対立しながら惹かれ合っているんですね。
その2つが奇跡的に1つになるのですが、
それを可能にしたのが、
宝くじと高級料理という、
どちらも清貧な世界とは真逆の存在、
というところがこの作品の発想の素晴らしさです。
こんなこと、普通思いつきません。
2つの階層や社会の対立と融和を描きながら、
それを惹かれ合いながら、
結局添い遂げることなく終わった男女の物語に、
重ね合わせている点が感動的で素敵ですよね。
オペラという藝術、高級料理という藝術、
いずれも金持ちの道楽で金持ちに奉仕するという側面がある訳ですが、
その2つの藝術が清貧な生活にある種の価値を与え与え合うという辺りも、
その深い洞察に感心する思いがあります。
映画の最初に描かれる2人の若者、
いずれも俗物でこんな男に姉妹が引っかからなくて良かった、
と観ていて思いますよね。
それが違うんですよね。
この辺りの作劇も絶妙だと思います。
北欧の神秘的なムードも活きていますよね。
食事も古典のフランス料理を再現した本物で、
途中でドン・ジョバンニの二重唱が歌われますが、
これもなかなかいいんですよ。
ラストは色々な捉え方があると思いますが、
もともと最後の晩餐ですし、
「1つの時代」が終わった、
ということでいいのではないでしょうか。
原作は中編というくらいの分量で、
後から読んだのですが、
映画はほぼ忠実に原作を映像化しています。
ただ、受ける印象は少し違います。
原作はもう少し厳しい内容で、
孤高の藝術家の矜持のようなものが強く描かれているのですが、
映画はその点はもっとウェルメイドな感じで、
立場や世界の違う登場人物達が、
一時的には気持ちを通わせているように描かれています。
ただ、小説と映画の立ち位置ということで考えると、
このくらいが丁度良い、という気もします。
台詞はほぼそのまま原作のものが使用されているので、
映画では不明の台詞の意味は、
原作を読むと分かります。
登場する姉妹の父親の牧師は、
キリスト教、プロテスタントのルター派なんですね。
清貧な生活こそ信条なのですが、
有名オペラ歌手が訪ねて来て、
「宗派は?」と訊くと、
「カトリックです」と答えるでしょ。
普通なら、「それなら娘と会うのはお断りだ」と言ってもいいのに、
何も言わずに受け入れてしまうでしょ。
これはね、この人たちは排他的ではないんですよ。
むしろ、カトリックでお金持ち、みたいな人が来ると、
どう接していいのか分からなくて困ってしまうんですね。
「お友達にはなれない人だな。困ったな」
という感じなんですね。
こういう宗教の描き方というのも、面白いですよね。
普通もっと排他的に描きますよね。
そうではない、というところが、
融和的な存在の強さと弱さを同時に描いているというところが、
この作品の1つの肝である、
というようにも思います。
いずれにしても、
好きな方にとっては、
一生の宝物になる映画です。
好き嫌いはあると思いますが、
一度は観る値打ちがあると思いますし、
その人の人生経験によっても、
印象は変わる映画だと思います。
アメリカでリメイクされるそうですが、
ほぼ間違いなく酷いことになると思うので、
封切られても絶対観には行かないつもりです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。