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新型コロナウイルスに対するアデノウイルス5型ウイルスベクターワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アデノウイルスベクターの有効性.jpg
Lancet誌に2020年5月22日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対する、
ウイルスベクターワクチンの、
中国での臨床試験結果をまとめた論文です。

査読された雑誌に掲載されるものとしては、
おそらく最初の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験結果です。

世界各国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
ワクチン開発が行われています。

今回ご紹介するのは、
中国が国策として推進しているプロジェクトの1つで、
アデノウイルス5型を用いたウイルスベクターワクチンです。
中国政府とカンシノバイオロジクス社というバイオ企業の共同研究です。

ウイルスベクターワクチンというのは、
他の無害なウイルスの遺伝子の一部に、
目標とするウイルスの遺伝子を取り込ませて、
それを人間に感染させることにより、
免疫を誘導しよう、という手法のワクチンです。

アデノウイルス5型というのは、
風邪ウイルスの一種で人間にも感染しますが、
無症状か軽い風邪症状のみで治癒します。
それを利用して新型コロナウイルスの免疫を、
同時に付けてしまおう、という方法なのです。

中国はこの手法を用いたエボラワクチンを開発していて、
臨床試験においても一定の有効性と安全性を得ています。

ただ、エボラに対しては多くのメカニズムによるワクチンが、
世界中で開発され臨床試験が行われていますが、
まだスタンダードに使用出来るようなワクチンはないようです。
かなりリスクが高いようなワクチンや、
成功する可能性も低そうなワクチンが、
アフリカでは次々と臨床試験がされていて、
言葉は悪いですが世界中のワクチンメーカーが、
ワクチン開発の実験場として、
エボラとアフリカを利用しているような側面もあります。

それはともあれ…

中国はエボラで同じタイプのワクチンの製造に成功しているので、
運ぶ遺伝子を新型コロナウイルスの抗原に変えるだけで、
比較的簡単にワクチン製造に着手出来たようです。
使う抗原遺伝子としては、
ワクチンの突起(スパイク)を構成する、
糖蛋白の遺伝子が利用されています。
これはスパイクの細胞との結合部位に対する抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体である可能性が高いからです。

この臨床試験はワクチンの容量設定と安全性、
そして接種による免疫反応を確認するためのもので、
偽ワクチンなどによるコントロールはなく、
被験者を3つの用量接種群に分けて、
その比較を行っています。

195名の中国武漢市在住の市民で、
新型コロナウイルス感染症の罹患歴がなく、
抗体検査でも陰性が確認されている108名を、
低用量群、中用量群、高用量群の3群に分け、
1回ずつウイルスベクターワクチンを接種して、
接種後28日の時点での抗体上昇や細胞性免疫の賦活作用を、
比較検証しています。

その結果、受容体結合部位に対する抗体の、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群でも97%、高用量群では100%に認められました。
中和抗体の上昇について見ると、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群では50%、中用量群では50%、
高用量群では75%に認められました。

接種に伴うT細胞の活性化は、
接種後14日をピークとして認められました。

有害事象については、
接種部位の疼痛が最も多く54%に認められ、
発熱が46%、倦怠感が44%、頭痛39%、筋肉痛17%と続いていました。
高熱や倦怠感、筋肉痛が出現するのは、
接種後24時間以内で、
48時間以上継続したケースは認められませんでした。

このワクチンはアデノウイルス5型を元にしているので、
接種前のアデノウイルス5型の抗体価が高いかどうかが、
その有効性や安全性に影響するという可能性があります。
今回の臨床試験においては、
高熱などの接種後の有害事象は、
アデノウイルス5型の抗体価が高い事例では少なく、
一方で中和抗体の陽性率は、
アデノウイルス5型抗体が高力価では低くなっていました。
つまり、アデノウイルス5型の感染の既往があると、
このワクチンの有効性は低くなってしまう可能性があります。

このタイプのワクチンは、
有害性の少ないウイルス自体を接種する形式なので、
安全性は高いと想定されます。
ただ、元のウイルスの免疫に影響されるという点が欠点です。
また、新型コロナウイルスの、
一部の抗原遺伝子しか使用していないので、
中和抗体が28日の時点で上昇したとしても、
それが本当にその後の感染予防に有効であるかどうかは、
現時点では分かりません。
中和抗体の陽性率もそれほど高いとは言えません。

今後実際により多くの対象者にワクチンを接種して、
その感染予防効果を検証するような臨床試験に移ると思われるので、
その結果を注意深く見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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