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オピオイドによる副腎機能低下 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オピオイドによる副腎不全.jpg
2019年のBMJ Case Rep.誌に掲載された、
痛み止めとして広く使用されているオピオイドによる、
見逃されがちな副作用についての症例報告です。

オピオイドというのは、
オピオイド受容体に結合して、
強い鎮痛効果を示す一連の薬剤の総称で、
その代表は麻薬でもあるモルヒネですが、
医療用としては多くの薬剤が鎮痛目的で使用され、
以前はその用途は癌の痛みに限られていましたが、
オピオイドとしての作用が比較的弱い薬剤は、
癌の痛み以外にも使用されるようになっています。

その副作用として多いのは、
便秘、吐き気、呼吸抑制などですが、
頻度は少ないものの無視出来ない副作用の1つが、
副腎皮質の機能低下です。

オピオイドには脳下垂体のACTHというホルモンの、
分泌を抑制するような作用があると指摘されています。
ACTHは副腎皮質刺激ホルモンですから、
その分泌が低下することにより、
副腎からのステロイドホルモンであるコルチゾールの分泌が低下し、
副腎機能が低下すると考えられているのです。

副腎皮質機能低下症は、
通常はだるさ程度の症状のみですが、
身体に強いストレスが加わると、
血圧低下などの強い症状を呈します。
食前の低血糖症状も、
副腎皮質機能低下症の症状の1つです。

事例は18歳の女性で、
Hollow visceral myopathyという難病に苦しんでいました。
このあまり適当な翻訳語のない病気は、
消化管の運動機能異常による腸閉塞症の1つです。
腸の平滑筋細胞に変性が起こり、
広汎な消化管の運動障害により腸閉塞を繰り返し、
食事を摂ることが困難となるのです。

患者は急性の小腸閉塞のため入院となり、
手術が予定されたため強いオピオイドである、
フェンタニルが注射で投与されました。
それからトラマドールという飲み薬のオピオイドが、
術後に6日間投与されました。

すると、その間に2回の食前低血糖発作が出現しました。

血糖は異常低値を示しましたが、
血液中のインスリン濃度は感度以下で、
朝8時の血液のコルチゾール濃度は3.95μg/dLと低値で、
ACTHも10pg/mlと低下していました。
迅速ACTH試験でACTHの注射によるコルチゾールの反応をみたところ、
コルチゾールの反応は正常で、
このため低血糖の原因は副腎皮質機能低下で、
その原因は副腎ではなく下垂体の可能性が高い、
というように想定されました。

そこでトラマドールの使用を中止したところ、
24時間後にはコルチゾール濃度は正常化し、
低血糖発作の発症もなくなりました。
そして、フェンタニルを再度注射したところ、
コルチゾールの低下が再び認められました。

こうした検査結果より、
今回の食前低血糖は、
オピオイドによる副腎機能低下によるものと、
診断されました。

オピオイドによる副腎機能低下は、
投与後早期に起こる一方で、
原因薬剤を中止すれば、
速やかに改善するという特徴があります。

日本での症例報告では、
オピオイドを中止せずに、
コルチゾール製剤の補充で経過をみた、
という事例が報告されていますが、
個人的にはそれはあまり適切な対応とは言えず、
矢張りはっきりと副腎機能低下の兆候が認められた場合には、
他剤への変更を含めて、
オピオイドを中止するのが望ましいように考えます。

今日はオピオイドの、
あまり知られていない副作用の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染に伴う低カリウム血症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カリウムと新型コロナウイルス.jpg
JAMA Network Open誌に2020年7月11日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の合併症としての、
低カリウム血症についての論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は、
気道などのACE2を受容体として感染しますが、
それによりACE2はその本来の働きを低下させます。

ACE2は、
レニン・アンジオテンシン系に抑制的に働く酵素で、
その働きにより血圧は低下しますが、
ACE2が抑えられることにより、
結果としてレニン・アンジオテンシン系が活性化するので、
ナトリウムは蓄積して血圧は上昇、
カリウムは排泄されて低カリウム血症が生じます。

このことから、
新型コロナウイルスに感染して、
ACE2の活性が低下すると、
結果として低カリウム血症になる、
という可能性が示唆されるのです。

高度の低カリウム血症になると、
筋脱力や重症の不整脈などが生じ、
それが新型コロナウイルス感染による身体のダメージを、
より重いものにするという可能性も考えられます。

それでは、
実際に新型コロナウイルス感染症では、
低カリウム血症が合併症として生じているのでしょうか?

今回の研究では、
中国で武漢市と共に一時期感染が拡大した温州市の2つの病院で、
新型コロナウイルス感染症と診断されて入院した175名の患者を、
低カリウム血症なし(血液カリウム濃度が3.5mEq/Lより高い)、
軽度低カリウム血症(血液カリウム濃度が3から3.5mEq/L)、
高度低カリウム血症(血液カリウム濃度が3mEq/L未満)の3群に分け、
その頻度と特徴を比較しています。

その結果、
カリウム値が正常であったのは全体の46%で、
軽度低カリウム血症が37%、高度低カリウム血症が18%で、
全体の半数以上が低カリウム血症を呈していました。

高度の低カリウム血症の患者は、
そうでない患者と比較して、
炎症反応や体温、筋系酵素の上昇などがより高く、
感染の重症化と関連している可能性が示唆されました。
カリウムの補充を行った患者では、
比較的その反応は良好で、
特に軽度の低カリウム血症においては、
速やかにカリウム値は正常化していました。

今回の検証において、
新型コロナウイルス感染症の患者の多くにおいて、
低カリウム血症が認められ、
感染の重症度と低カリウム血症の重症度との間にも、
一定の関連が認められました。

ただ、今回のデータからは、
低カリウム血症が感染重症化の要因の1つであるのか、
というような点は明らかではなく、
カリウムの補正が予後の改善に結び付くかどうかも、
明らかではありません。

この問題は今後検証が必要であると思いますし、
カリウムの補充の有効性についても、
今後の知見を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「エル・シド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
エル・シド.jpg
1961年公開のスペクタクル史劇「エル・シド」です。

この映画は最初にテレビで観て、
それからwowowやBSで完全版に接しました。
本当は大スクリーンで観たい映画ですが、
その機会は殆どありません。

一時期ハリウッドでスペクタクル史劇が流行して、
次々と大作が作られたことがありました。
シネラマや70ミリという大画面の映画興行と丁度リンクしていて、
大画面の効果を活かせるジャンルとして、
スペクタクル史劇が最適であったのです。

そして、このスペクタクル史劇の主役として、
次々と大作に出演したのが、
チャールトン・ヘストンでした。

最初に圧倒的なビジュアルで成功を収めたのが、
旧約聖書の出エジプト記を題材にした「十戒」で、
その後映画としても評価されたのが、
キリストの生涯を、
ユダヤ人の青年の目から描いた「ベン・ハー」でした。
この2本の映画は、
いずれもサイレント時代の同題の映画のリメイクです。

この「エル・シド」は、
「ベン・ハー」の2年後にアメリカとイタリア合作で作られた、
イタリアテイストを入れた、
ハリウッド風スペクタクル史劇です。

そのため、
チャールトン・ヘストンの相手役は、
イタリアの名花ソフィア・ローレンです。

当時はイタリア映画の最盛期で、
フェリーニやアントニオーニなど、
芸術性の高い映画もありましたし、
ホラー映画やスパイ映画など、
娯楽映画も量産されていました。
時代は少し下ってマカロニウエスタンと称される、
イタリア製西部劇が量産されたことも皆さんご存じの通りです。

その娯楽路線の1つとして、
スペクタクル史劇も結構作られていて、
その部分とハリウッド史劇が合体した映画が、
この「エル・シド」なのです。

舞台はスペインで、
中世の一時期ムーア人に支配されていたバレンシア地方を、
スペイン人の手に取り戻した英雄とされる、
エル・シドの生涯を描いた物語です。

アメリカとイタリア製ですが舞台はスペインで、
ローマやギリシャが定番の舞台であったスペクタクル史劇とは、
ちょっと雰囲気を変える目的があったようです。

まあ時代考証などは、
ほぼほぼ出鱈目と言って良い映画なのですが、
純正ハリウッドの映画とは、
ちょっと別種のアクの強さがあって、
僕は最初に観た時から、
結構惹き付けられましたし、
今も割合に気に入っている映画です。

キリスト教徒とイスラム教徒の軍勢の激突でしょ。
なかなか個性的で良いんですよね。
甲冑の軍団が揃ったところとか、
動く要塞みたいなものが海岸を行進するところとか、
その量感が凄いでしょ。
これは「指輪物語」のビジュアルの元ネタですね。
それを人力でCGなしでやっているのが凄いのです。

それからラストがね、
深手を負って助からないと察したエル・シドが、
自分の死体を馬に括りつけて、
敵の前に放つように遺言するんですね。
それで相手が「エル・シドは不死身だ」と恐れて撤退するという、
こういうのはハリウッド製史劇にはあまりない、
伝奇小説的な味がありますよね。
その辺が僕は好みです。

そんな訳で映画史的には、
そう大したことはない映画なのですが、
伝奇小説的個性強めのスペクタクル史劇として、
個人的には気に入っている1本です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「情事」(アントニオーニ監督) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
情事.jpg
1960年に公開されて世界的に大きな話題を振りまいた、
ミケランジェロ・アントニオーニ監督の代表作の1つ、
「情事」です。

これは当時としては、
かなり生々しい性描写もある映画ですが、
勿論いわゆるアダルト映画ではなく、
むしろ観念的な藝術映画です。

ただ、その題名と言い、
公開当時のポスターや宣材と言い、
映画会社側はエロ映画と間違えて、
騙される観客も一定数は期待しているな、
という感じの宣伝です。

同時のロードショーというのは、
まあ、ちょっとそんな感じもあったのですね。

ミケランジェロ・アントニオーニは、
倦怠とも言うべき独特のムードと、
不条理劇と言ってもおかしくないような、
不思議なストーリーで一時期は世界を席巻した、
イタリアの映画監督です。

僕はこの雰囲気が割と好きで、
名画座で「赤い砂漠」を最初に観て、
その赤を強調した映像美と、
倦怠の雰囲気に魅了されました。

その後「欲望」と「さすらいの2人」も名画座で観ました。
どちらもとても面白かったのですが、
現代風俗を入れたり、
スターを投入したり、
ちょっとヒット狙いのような、
色気も感じました。

アントニオーニの出世作で代表作と言うと、
必ず名前が出て来るのが「情事」ですが、
僕が映画を熱心に観ていた高校から大学くらいの時期には、
殆ど名画座でも上映はされませんでしたし、
ビデオも発売はされなかったと思います。

観たい、観たいと思っていて、
そのうち忘れてしまい、
今回初めて全編をブルーレイで鑑賞しました。

さすがに古いな、という感じはしますが、
なかなか良かったですね。

これね、
3角関係の男と女2人がいて、
付き合っている方の女性が、
孤島にクルーズに出掛けて、
他の2人もいる前で忽然と姿を消してしまうんですね。

その後残された2人が、
消えた女性を探すのですが、
手がかりもなく、
探しているうちに2人は愛し合ってしまいます。

ただ、消えた女性に対する疚しさのようなものが、
2人の関係を微妙に不安定なものにしているので、
そのことを鬱陶しく思った男は、
他の女と行きずりで関係を結んでしまいます。

これで結局どうなるの…と、
観客の多くが思っていると、
何と言うのかひどく身も蓋もない、
という感じで映画は終わってしまいます。

公開当時の映画文法の常識からすると、
最初に消えた女性が、
その後全く登場しない、
というようなストーリーは有り得ないんですね。
また、キャラクターの人格や心理は、
基本的に一貫していないといけない筈です。
変化がある時にはその説明や必然性が必要なんですね。
しかし、この映画では主人公2人の感情は、
常に一定せず揺らいでいて、
愛し合った次の場面では、
もう他の女性と愛し合ったりしているのです。
それも何の必然性も描かれていません。

それで、この映画は物議をかもして、
多くの批判も浴びたのですが、
今になってみると現実はそんなものですよね。
感情なんで常に揺れ動いて一貫性などないものですし、
この映画の本質は、
いる筈の人がいなくなった時の、
残された人間の喪失感や倦怠のようなものなので、
それが持続するためには、
いなくなった人物はそのままでいるしかないのです。

これは不条理劇のように見えて、
不条理というのとはちょっと違うんですね。
単純に人間同士の力学を検証したドラマであるからです。

この映画は撮影が凄いですよね。
非常に贅沢に作られています。
最初のクルーズでも、
本物の海に役者が飛び込んで、
そのまま結構長く泳いでしまったり、
島の景観も見事に捉えられていますね。
途中で女流作家に群衆が集まるような場面があって、
スペクタクル映画みたいな大規模な撮影がされています。
それがそうわざとらしくなく、
全体の画調に溶け込んでいるでしょ。
凄いと思います。

アントニオーニの映画は、
不条理劇が流行った時期に、
如何にもそうした感じで流行したのですが、
今観ると決してそうしたものではなく、
時代の空気と理詰めの心理の物語であったのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーと高血圧リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動などがあり、
1日忙しく都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと高血圧リスク.jpg
2020年のClinical Nutrition誌に掲載された、
コーヒーの飲用習慣と高血圧との関連についての論文です。

コーヒーには多くの健康に良い効果が認められていて、
その中には心血管疾患リスクの低下作用も挙げられています。

ただ、高血圧とコーヒーとの関連については、
長期的にはコーヒーに高血圧の予防作用がある、
というような報告のある一方、
短期的にはコーヒーに含まれるカフェインの作用により、
脈拍は上昇し血管は収縮して、
血圧上昇に結び付く、
という報告もまた複数存在しています。

コーヒーの飲用習慣と高血圧との関係は、
それほど単純なものではないのです。

今回の研究はコーヒーの母国の1つであるブラジルでのものですが、
35から74歳の一般住民15105名を登録した疫学データを活用して、
そのうち登録の時点で高血圧のない8780名を、
コーヒーの接種量毎に解析し、
高血圧の中間値で3.9年の観察期間中の発症リスクと、
コーヒーの飲用習慣との関連を検証しています。

今回の対象者の90%はコーヒーを飲んでおり、
飲む量の中間値は1日150ミリリットルでした。

登録者のうち経過中に1285名が高血圧を発症していました。

コーヒーを飲む習慣がないか殆ど飲まない人と比較して、
コーヒーを毎日1から3杯飲む人では、
高血圧の発症リスクは18%(95%CI: 0.68から0.97)、
有意に低下していました。

喫煙歴を補正した上で検証すると、
非喫煙者のみの対象者では、
1日1から3杯コーヒーを飲む人は飲まない人よりも、
高血圧の発症リスクがより低く、
21%(95%CI:0.64から0.98)有意に低下していました。
一方で喫煙歴があるか現在の喫煙者では、
コーヒーによる有意な高血圧発症リスクの低下は、
認められませんでした。

1日3杯を超えるコーヒーでは、
高血圧発症リスクの有意な低下は、
確認されませんでした。

このように今回のブラジルでの検証においても、
1日1から3杯くらいのコーヒーを飲む習慣は、
高血圧の予防効果が確認されました。

勿論コーヒーがカフェインを含むことは事実で、
一時的な血圧上昇の可能性はあるのですが、
中長期的には高血圧に関しても、
予防的に働く可能性が高いと、
そう考えて大きな誤りはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの重症化と遺伝子との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナ重症化リスクと遺伝子.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年6月17日ウェブ掲載された、
呼吸不全を来した重症の新型コロナウイルス感染症と、
遺伝子多型との関連についての論文です。

今非常に注目されている知見の1つです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の初期には、
この病気の8割は軽症、
というような言い方が良くされました。
その後無症候性の感染者が水面下には多く存在している、
というような知見が明らかになり、
それほど感染の重症化という問題は、
簡単ではないというのが現状の認識かと思います。
ただ、この病気が大多数は軽症か無症状でありながら、
一部が重症化して急性の呼吸不全を来し、
そうなると高い致死率を呈するというのは、
一貫した特徴であると言えます。

それでは、
同じように感染しても一部が重症化するのは何故でしょうか?

小児が重症化しにくいことは間違いがありませんが、
同じ年齢層でも重症化は一部です。
年齢のみでは説明困難です。

ウイルスの一部が強毒性に変異したのではないか、
というような説もありますが、
今のところ証明はされていません。

そこで1つ想定されるのは、
患者の側の体質などの因子です。

今回の検証では、
SNPと呼ばれる点遺伝子変異を広範に検証することにより、
新型コロナウイルスの重症化と、
患者の遺伝子背景との関連を比較しています。

対象となっているのは、
イタリアとスペインで新型コロナウイルスに感染し、
重症化して呼吸不全に至った,
イタリアの835名とスペインの775名で、
それぞれ1255名と950名のコントロールと比較して、
大規模な遺伝子変異の解析を行なっています。

その結果、
有意な重症感染リスクの増加が認められたのは、
第3染色体短腕のrs11385942という変異と、
第9染色体長腕のrs657152という変異でした。

このうち第3染色体の変異は、
重症感染のリスクを1.77倍(95%CI:1.20から1.47)、
第9染色体の変異は、
重症感染のリスクを1.32倍(95%CI:1.20から1.47)、
それぞれ有意に増加していました。

第3染色体の変異については、
複数の遺伝子に関連があり、
その中にはウイルスが感染する際の受容体となるACE2に関連する遺伝子や、
サイトカインの産生に関連する遺伝子などが認められました。

第9染色体の変異については、
ABO血液型の遺伝子と同じ部位の変異で、
血液型毎の解析を行うと、
A型は他の血液型と比較して、
重症感染のリスクが1.45倍(95%CI:1.20から1.75)有意に増加しており、
逆にO型は他の血液型と比較して、
重症感染のリスクが35%(95%CI:0.53から0.79)有意に低下していました。

この血液型の新型コロナウイルスの感染リスクについては、
別個の臨床データや疫学データもあり、
A型が罹り易く、O型が罹り難い、
と言う点においてはほぼ一致しているので、
そのメカニズムはともかくとして、
そうした傾向のあること自体は間違いがなさそうです。

この遺伝子変異の多型と感染の重症化との関連が、
どの程度の重要性があるかは、
今のところはまだ不明ですが、
こうした検証の中から、
感染予防や治療への知見が得られる場合もあるので、
今後の検証の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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無症候性心筋梗塞の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務仕事などする予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
無症候性心筋虚血.jpg
British Medicl Journal誌に2020年5月7日ウェブ掲載された、
急性期には診断されなかった心筋梗塞の、
予後に与える影響についての論文です。

心筋梗塞というのは、
心臓を栄養する冠動脈という血管が、
血栓や解離などによって閉塞し、
その末梢の領域に血液が流れなくなるという病気です。
急性期に発見されれば、
緊急のカテーテル治療を行い、
血流が再開することも可能ですが、
一定時間以上血液が流れない状態が持続すれば、
その部位の心臓の筋肉は壊死してしまい、
その部位によっては命に関わることもあります。

通常心筋梗塞はその発症の時に、
持続する強い胸の痛みを生じますから、
その発生に気付かないことはないように思います。
しかし、実際には典型的な症状がなく、
心筋梗塞を発症することがしばしばあり、
報告によると心筋梗塞の3分の1から2分の1は、
本人がそうと気付かないうちに起こっている、
というデータもあります。
特に糖尿病の患者さんや高齢者では、
自律神経障害などのため、
痛みを感じにくい状態となっており、
そのためこうした気付かないうちに発生する、
心筋梗塞の頻度が高いと考えられています。

こうした急性期に診断されなかった心筋梗塞は、
その後に別の理由で測定された心電図において、
異常Q波と呼ばれる所見があって発見されることがあり、
最近では心臓の造影MRI検査によって、
心筋梗塞による障害部位が、
後から見付かることもあります。

通常急性心筋梗塞に罹患すると、
その後の再発のリスクや、
心血管疾患による死亡のリスクなどは高まるとされています。
そのために、
心筋梗塞に一度罹った患者さんでは、
長期の医学的管理や、
予後改善のための治療が必要となります。

それでは、こうした罹患後のリスクの増加は、
急性期に気付かれなかった心筋梗塞においても、
同じように認められるものなのでしょうか?

その点については、
これまでにあまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティック・レビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の検証を行っています。

これまでの30の臨床研究に含まれる、
トータルで253425名の患者データをまとめて解析した結果、
急性期に診断されず、後から心電図で判明した心筋梗塞は、
その後の総死亡のリスクを1.5倍(95%CI: 1.30から1.73)、
心血管疾患による死亡リスクを2.33倍(95%CI:1.66から3.27)、
その後の心血管疾患発症リスクを1.61倍(95%CI: 1.38から1.89)、
それぞれ有意に増加していました。

急性に診断されず、後からMRIで診断された心筋梗塞は、
その後の総死亡のリスクを3.21倍(95%CI:1.43から7.23)、
心血管疾患による死亡リスクを10.79倍(95%CI:4.09 から28.42)、
その後の心血管疾患発症リスクを3.23倍(95%CI: 2.10から4.95)、
それぞれ有意に増加していました。

このように、
心電図とMRIのお診断能には差があるので、
その結果には違いがありますが、
急性期に診断される心筋梗塞と同等のリスクが、
急性期には診断されずにその後に無症状で見付かる心筋梗塞にも、
存在していると考えた方が良いようです。

ただ、現状ではそうした心筋梗塞に対して、
どのような予防的介入が有効であるのか、
という点についてのデータは殆どありませんし、
健診などで気付かれなかった心筋梗塞を発見することが、
本当に意味のあることであるかどうかも、
証明はされていません。

今後そうした点についての検証が急務であるように思いますし、
その上で急性期に診断されなかった心筋梗塞の、
今後の対応についての指針が示されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アジスロマイシンと死亡リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アジスロマイシンの死亡リスク増加.jpg
JAMA Network Open誌に2020年6月17日ウェブ公開された、
広く使用されている抗菌剤の、
短期的な死亡リスク増加についての論文です。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)は、
マクロライド系の抗菌薬の1つで、
同じマクロライドのクラリスロマイシンと比較すると、
肝臓の薬物代謝酵素の影響などを受けにくいため、
併用薬剤の制限が少ない、
1日に1回や場合によって1回のみの使用で良い、
という利便性があり、
上記論文ではアメリカで最も処方されている抗菌薬の1つ、
という記載がありますが、
アメリカのみならず日本においても、
広く使用されている抗菌薬の1つです。

しかし、2012年に発表された論文において、
アジスロマイシンの使用が心臓由来の突然死のリスクを増加させる、
という結果が報告されて物議をかもしました。
マクロライド系抗菌剤では、
心電図におけるQT延長という変化が起こり易く、
それが重症の不整脈の引き金となる可能性が示唆されたのです。

ただ、その後に発表された6つの疫学研究の結果では、
そのうちの3つの研究では心疾患やその死亡と、
アジスロマイシンの使用との間に、
一定の関連が認められましたが、
残りの3つの研究では無関係という結果でした。

つまり、この問題はまだ解決されているとは言えないのです。

そこで今回の研究では、
アメリカの大手健康保険会社である、
カイザー・パーマネント社の医療データを活用して、
カリフォルニア州において年齢がから30から74歳で、
アジスロマイシンを使用した1736976件と、
ペニシリンのアモキシシリンを使用した6087705件を、
比較検証しています。

影響する因子を補正した結果として、
アジスロマイシン使用群では、
投与後5日以内の心血管疾患による死亡リスクが、
アモキシシリン群に比較して、
1.82倍(95%CI: 1.23から2.67)有意に増加していました。
ただ、以前報告のある心臓突然死については、
有意な増加は認められませんでした。
また、使用後6日から10日後では、
心血管疾患による死亡リスクの有意な増加は認められませんでした。

アジスロマイシンの使用はまた、
投与5日以内の心血管疾患以外の原因による死亡リスクも、
アモキシシリンに比較して、
2.17倍(95%CI: 1.44から3.26)、
総死亡のリスクも2.00倍(95%CI: 1.51から2.63)、
それぞれ有意に増加させていました。

このように今回の大規模な検証においても、
アジスロマイシンの使用はペニシリンと比較して、
心血管疾患疾患による死亡リスクを増加させていました。
今回の研究は実際の処方データを後から解析したものなので、
アジスロマイシンが原因で死亡リスクの増加が起こっている、
というように言い切れるものではないことに注意が必要ですが、
特に心疾患を持っていたり、そのリスクの高いような患者さんに対する、
アジスロマイシンの使用については、
今後はより慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染における免疫の持続期間 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスにおける抗体の持続期間.jpg
Nature Medicine誌に2020年6月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
抗体の持続期間を検証した論文です。

これはほぼ予想されていた現象ですが、
改めて提示されると矢張りショッキングで、
抗体を測定することで、
新型コロナウイルスに対する免疫の有無を推定しようという、
現状の考え方に大きな疑問を投げかける知見です。

ウイルス感染に対して人間の身体は、
そのウイルスに特異的に結合する抗体を産生し、
その抗体価が一定レベルに維持されると、
その後の再感染は阻止されます。

これがたとえば麻疹(はしか)のような病気の場合には、
一度感染して血液のIgG抗体が上昇すると、
基本的にはその後一生麻疹に罹ることはありません。
終生免疫が獲得されるのです。

一方でインフルエンザウイルスの場合には、
ある特定の型のウイルスに感染して抗体が上昇すると、
その後1から2年程度は、
同じ型のインフルエンザには罹りませんが、
その後は再び感染するようになります。
つまり抗体が感染を防御するレベルまで上昇している期間は、
麻疹のように長くはないのです。

実際には免疫には液性免疫と細胞性免疫とがあり、
抗体で確認出来るのは液性免疫だけですが、
上記の説明はその点を簡略化しています。

それでは、新型コロナウイルスに一度感染すると、
どのくらいの期間その抗体は、
感染防御レベルを維持するのでしょうか?

今回の研究では中国において、
濃厚接触者のRT-PCR検査で陽性となったものの、
その後2週間の病院隔離期間中に症状が見られなかった、
無症候性感染者37名を、
軽症で有症状の感染者37名と、
年齢性別などをマッチングさせて、
回復期の抗体上昇とその後の抗体価の経過を観察したものです。

感染確認からRT-PCRでウイルスが陰性となるまでの期間は、
有症状の感染者が中間値で14日に対して、
無症状感染者は19日で、
無症状である方が、
ウイルスが陰性になるまでの期間はより長くなっていました。
炎症性サイトカインなどの上昇は無症状より有症状の方が高く、
そのために免疫反応も無症状では低くなることが示唆されます。

ウイルス特異的IgG抗体は、
退院後8週間までには、
無症状感染者の93%、有症状感染者の97%で低下していました。
抗体価は中間値で、
無症状感染者は71.1%、
有症状感染者は76.2%低下していました。

退院後8週間までに、
無症候性感染者の40.0%、
有症状感染者の12.9%で、
IgG抗体は陰性化していました。

これをより感染防御の指標とされる、
中和抗体価で検証すると、
トータルなIgG抗体よりその低下幅は少なかったのですが、
それでも退院後8週までに、
無症状感染者の81%、
有症状感染者の62%で中和抗体の低下が認められました。
その抗体価の低下率の中間値は、
無症状感染者で8.3%、
有症状感染者で11.7%低下していました。

このように回復後2か月というかなり早期の時点で、
感染者の多くの抗体価は低下していて、
特に無症状感染者の4割では、
その時点でIgG抗体は陰性化していました。

勿論免疫は抗体価のみで判断出来るものではなく、
抗体が低下しても、
感染自体は一定レベル防御されている可能性はあります。
中和抗体の低下はトータルなIgG抗体より少ないという点も考えると、
回復後2か月で完全に免疫がなくなる、
というようには考えない方が良さそうです。

ただ、同じβコロナウイルスでも、
SARS原因ウイルスやMERS原因ウイルスでは、
同様の検証でIgG抗体は1年程度は陽性化していることが、
確認されていますから、
それと比較しても、
今回の新型コロナウイルスに対する人間の抗体産生は、
如何にも弱く持続も短い、
ということは間違いがなさそうです。

先日スイスで経時的に抗体価を測定したデータを、
ご紹介しましたが、
そこでは3週まで上昇した抗体価が、
4週目には低下して5週目には再度上昇する、
という奇異な動きをしていました。
抗体価が無症状感染者では早期から低下する、
という現象が起こっていると考えると、
このデータも説明が可能になりそうです。

現行不特定多数の住民の抗体価を測定して、
ウイルス感染の広がりを評価しようという試みや、
抗体価が陽性である無症状者であれば、
もう免疫があるので再感染はすぐにはしない、
というような判断がされていますが、
仮に今回のデータが間違いのないもので、
回復後2か月以内に抗体が陰性化する事例も少なくはないとすると、
そうした試みや判断は、
大きな誤りである可能性があります。

個人的には今回のデータは事実に近く、
新型コロナウイルスの免疫は特に無症状感染者では、
長くは持続しないという印象を持っていますが、
これは多くの風邪症候群のウイルスと同じ性質を持っているということです。
何度も繰り返し感染することにより、
症状はより軽度になり、
免疫は徐々に強化されて、
罹りにくくなるのだと思います。
ただ、厄介なことはこの病気が軽視出来ない重症化率と致死率を、
持っているということで、
どうやら有効で安全なワクチンの開発に成功するまでは、
現状の古典的なマスクなどの予防法と、
その良し悪しは置いておくとして、
感染者の経路や接触者をトレース出来るような、
社会生活の管理化でしのぐしかないのが、
現状であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ざくろの色」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

何もなければ1日家にいる予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ざくろの色.jpg
アルメニアのパラジャーノフ監督の代表作、
1969年製作の「ざくろの色」です。

アルメニアの中世の詩人の生涯を描いた映画ですが、
サイレント映画とトーキーの中間、
というくらいの感じの作品です。
殆ど劇中の役者同士の台詞はなく、
章毎に解説とも言えないくらいの字幕が入り、
それがナレーションで読まれるだけで進行されます。

ナレーションの字幕自体象徴的なものなので、
物語の詳細もはっきりはしません。

様式的な演技と原色の色彩が独特で、
それだけであれば、
フェリーニなど同じことを、
もっと娯楽に寄せて大掛かりにやっているのですが、
パラジャーノフ監督の方法論は、
基本的に娯楽を無視していて、
全く観客に内容を理解させよう、
というような意識がないことと、
タルコフスキー監督とも似通った、
中央アジアの土着の独特なムードがあるのが特徴です。

水が絶えず流れ落ちている石の壁の感じであるとか、
群がる羊や血を流す鶏の群れであるとか、
独特のエキゾチックな魅力があります。
意図的に中世の宗教画のような、
平面的な世界を再現していて、
それがちょっとチープでヘタウマのような感じがあるのが、
また面白いのです。

この映画にはアルメニアのオリジナル版と、
最初に世に出たロシアの再編集版とがあり、
編集で場面の前後や構成が入れ替わっているのが特徴です。
ある意味順番はどうでも良いというような感じがあって、
これも通常のモンタージュなどの技法とは、
正反対のことを考えている、という風もあります。

サイレント映画というのは、
基本的にこういうものだったんですね。
映像表現を切り張りするような感じ。
それが次第に1つの物語を語り、
観客の感情をかきたてるために、
映像の順序を独自に文法化して、
そこに音が入ることによって、
トーキー以降は物語としての映画が進歩したのですが、
この映画はその映画文法を一旦外したところに成立していて、
そのため順番はどうでも良いし、
ある順番で並べて観たからと言って、
それで感情のかきたてられる、
ということもないのです。

面白いとは言えませんし、
正直もう少し分かりやすくしてくれてもな、
というようには思いますが、
日本や西洋、韓国や中国の映画とは、
また全く違った感性の作品で、
一見の価値はある藝術作品ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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