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SARSの抗体の一部が新型コロナウイルスに有効? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの中和抗体の交差免疫.jpg
Nature誌に2020年5月18日にウェブ掲載された、
SARS患者の回復後のリンパ球が産生する抗体の一部が、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体でもあるという、
興味深い検査結果についての論文です。

ウイルスなどの病原体が身体に侵入して感染を起こすと、
それを排除しようとする免疫の仕組みが働きます。
そして、病原体が排除された回復期になると、
その病原体を速やかに排除するために、
病原体の特徴的な部分に結合する、
抗体というマーカーのようなタンパク質が、
B細胞というリンパ球によって産生されます。

仮にまた同じウイルスが感染を起こそうとして侵入すると、
その抗体が速やかにそこに結合して、
その侵入を許さないのです。

これが抗体がウイルスを排除して、
同じ病気に2度罹らないようにする仕組みです。

個別のウイルスに対しては、
通常そのウイルスにのみ結合する抗体が産生されます。

ただ、ウイルス自体に似通った性質がある場合、
違うウイルスに対しても同じ抗体が結合し反応する、
ということもありえます。

あるウイルスに対する抗体が、
他のウイルスに対しても有効である場合、
これを交差免疫と呼んでいます。

さて、
今回の新型コロナウイルスはSARSの原因ウイルスと、
高い類似性があります。
分類的にも、
同じβコロナウイルスのサルベコウイルス亜属に属します。

上記文献の著者らは、
SARSから回復した患者の血液より、
メモリーB細胞という抗体産生細胞を取り出し、
SARSに反応する抗体の分析を行なっています。

SARSの原因ウイルスに反応する抗体と言っても、
1種類ではなく多くの抗体が存在しているのですが、
その中に他のコウモリなど動物由来のコロナウイルスに対しても、
中和抗体として働くような抗体があることを発見しているのです。

であるならば、
SARSから回復した患者のリンパ球が産生する抗体の中に、
今回の新型コロナウイルスを中和するような抗体も、
あるのではないでしょうか?

そうした推測のもとに、
25種類の主に感染に関わる突起の部位に結合する抗体を解析。
それが新型コロナウイルスの中和抗体として、
働くかどうかを検証しています。

25種類の抗体のうち8種類は新型コロナウイルスにも結合し、
特にS309とネーミングされた抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体として働くことが、
疑似ウイルス中和アッセイという厳密な手法により確認されました。

これは本物のウイルスではありませんが、
それに非常に近い疑似ウイルスを細胞に感染させ、
それを抗体が阻止するかどうかを見ている検査で、
かなり信頼性の高いものなのです。

このS309というモノクローナル抗体を合成して、
投与すれば理屈の上では新型コロナウイルスには感染しません。

勿論新型コロナウイルス感染症自体から回復した患者によって、
同様の検証を行なえばより確実であるのですが、
その検証の手がかりにもなる訳です。

抗体と簡単に言いますが、
実際にはウイルスの結合部位に対する抗体も、
SARS原因ウイルスにおいて20種類以上も同定されていますから、
どの抗体が確実にウイルスの中和に働くのか、
それともあまり働かないのか、
ワクチンの開発も含めて、
その辺りの検証はそう簡単なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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