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新型コロナウイルスの猫から猫への感染について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナの猫猫感染.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年5月13日ウェブ掲載されたレターですが、
3匹の飼い猫を新型コロナウイルスに感染させて、
猫から猫への感染が成立するかを検証した実験結果です。

ウィスコンシン大学と東大などの共同研究です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が、
人間以外にペットにも感染するという話は、
これまでにも何度かご紹介しています。
有名なものでは犬には感染しないけれど猫には感染する、
という知見がありました。

新型コロナウイルスが大流行しているニューヨークでは、
ブロンクス動物園で虎とライオンが呼吸器症状を呈し、
新型コロナウイルス感染症と診断されています。
これは感染していた飼育員から、
感染したものと想定されています。

つまり、ネコ科の動物は新型コロナウイルスに感染する、
というのはほぼ間違いのないことです。

これは人間からネコ科の動物という場合の話です。

それでは、猫から猫への感染は成立するのでしょうか?

それを検証したのが今回の実験で、
ちょっと倫理的に如何なものか、という気がしますが、
3匹の家猫に新型コロナウイルスを鼻から接種したところ、
その感染に伴いRT-PCR検査は陽性となり、
かつその猫を、感染していない猫と接触させると、
その数日後には感染していなかった猫にも、
RT-PCR検査が陽性となったことが確認されました。

今回の猫は、
感染しても何ら症状を呈していません。

つまり、濃厚接触をすると、
猫から猫に感染が広がることはほぼ間違いがなさそうです。

現状不明な点は、
人間から猫に感染した新型コロナウイルスが、
再度人間に感染する可能性はないのか、
ということです。
現状猫から人間への感染は証明されていませんが、
絶対感染しない、という主張は、
あまり根拠はないように思えます。

現状の注意点としては、
新型コロナウイルス感染症に罹った時には、
人間のみならず、ネコ科の動物との接触も避け、
感染した可能性のある猫については、
一定期間は極力家の中で飼い、
外には出さないようにすることが望ましいと考えられます。
猫を介して感染が広がる可能性が否定出来ないからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症と温度との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は何もなければ事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの加熱による不活化.jpg
medRxiv誌という査読前の論文を集めたサイトに、
2020年5月5日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの加熱に伴う不活化を検証した論文です。

今日はこれを含めて3編の論文をご紹介し、
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)と温度や気候との関係を考えます。

ウイルスはその種別によって、
温度が低い方がより増殖しやすいものもあれば、
温度が高めの方が増殖しやすい性質のものもあります。

それでは、新型コロナウイルスはその点どうなのでしょうか?

最初の論文はそれを検証したもので、
主にRT-PDR検査目的で患者さんの検体を採取した際に、
他の場所に付着したウイルスが、
どのくらいの温度で不活化するかを実験しています。
まず37度の温度においては、
24時間でウイルスの感染力は殆ど低下せず、
48時間でも低下はするものの感染力は維持されていました。

これが42度の室温下になると、
24時間後には感染力はほぼなくなり、
48時間では感染はしない状態になります。

更に56度の室温下では、
30分でウイルスは不活化して感染力はなくなります。

ただ、56度で30分置いた後においても、
ウイルスのRNA自体はそのまま保たれていました。

つまり、56度の高温で30分維持すると、
ウイルス自体は不活化して、
感染力は失うのですが、
ウイルスが死滅したということではなく、
活動出来るような環境に置かれれば、
感染力も回復する可能性がある、
ということになります。

これは遺伝子検査などを行なう際に、
56度で30分検体を置いておけば、
その場では感染するリスクなく検体を扱えて、
遺伝子自体の抽出には問題は生じない可能性が高い、
ということを意味しているのです。

一時お湯を飲むとウイルスが死ぬ、
というようなトンデモ情報が世間をにぎわしたことがありましたが、
確かに熱いお湯を30分以上飲み続ければ、
ウイルスの不活化には成功しますが、
それは現実には不可能ですし、
ただお湯を飲んだだけではウイルスは不活化しないのは、
これはもう間違いのないことなのです。

では次の知見です。
コロナウイルスと中国各地の気候.jpg
気温や湿度とウイルス感染との関連、
というのも議論になるところです。
単純に言えば、流行は夏になると自然に収まるのでは、
というような意見の真偽です。

この論文は2020年のEur Respir Jに掲載されたレターですが、
中国全土の新型コロナウイルスの感染地域において、
その場所の気温や湿度紫外線量と、
感染の起こり易さとの関連をみたものです。
感染の起こり易さは、
1人の患者が何人に感染させるかを示す、
基本再生産数(R0)という指標と、
累積の患者数で検証しています。
その結果、気温や湿度、紫外線量と感染の起こり易さとの間に、
明確な関連は認められませんでした。

現状の新型コロナウイルスの感染と、
季節は関連なのではないか、
ということを示唆する知見です。

では最後にこちらです。
コロナウイルスと気候変動.jpg
これも査読前の論文サーバー、medRxivに、
2020年5月5日に掲載されたものですが、
数理的なモデルを用いて、
新型コロナウイルスの感染力と、
気候変動との関連を検証したものです。

medRxivに載せられている論文は玉石混交で、
ある日本のクリニックからの、
ただ市販の抗体キットで抗体を測ってみただけ、
というような学会の地方会レベルのしょぼい論文から、
ネイチャー掲載レベルまでその質は様々です。

この論文は中国のものですがかなり高度な内容です。

新型コロナウイルスの感染力を、
その飛沫粒子の安定性という観点から分析し、
それを元にして検証を行なっています。
飛沫がどれだけの水分を含むか、
風がどのように吹いているか、
気温はどのくらいか、
というような因子によって、
飛沫粒子の物理的な振る舞いは推測が可能なので、
それを足掛かりにして分析をしようという発想です。

その結果、
北緯30度付近では12月から2月の冬の時期に、
飛沫粒子の安定性は高まって感染力も高まり、
それが気温の上昇と共に北半球全体に広がって、
4月くらいに流行はピークに達します。
その後徐々に感染力は低下して、
北半球では5月以降に流行は収束に向かいます。
一方で南半球では4月から8月に掛けて感染力は高まり、
その後はしばらく維持されることになると推測されています。
つまり、大枠では感染は北半球では夏場に掛けて収まりそうですが、
完全に終息することはなく、
油断していると秋口から再び、
というパターンになる可能性が高そうです。

新型コロナウイルスに、
現時点で明確な季節性などの特徴はなさそうですが、
その飛沫感染などの動態から考えて、
日本のような北半球では、
夏場の時期は減少する可能性は高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の検査法の特徴と限界 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス感染症の経過と検査結果.jpg
JAMA誌に2020年5月6日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の診断法についてのミニレビューです。
横浜市立大学の梁明秀先生らによる執筆です。

これは内容は目新しいことはなく、
今までの内容をまとめた総説です。
引用されている文献もその殆どは、
これまでこのブログでもご紹介したものです。
本ブログのこれまでの新型コロナウイルス関連の記事を読んで頂ければ、
内容はその中に網羅されています。

ただ、まとめとして素晴らしい図が付いているので、
それだけは是非ご紹介したいと思います。
こちらです。
コロナウイルス感染症の経過と検査結果の図(小).jpg
ちょっと細かくて見づらいと思いますが、
これまでに分かっている、
新型コロナウイルスの診断指標についての、
全てがこの1枚に網羅されています。

是非元図もご覧下さい。
内容はこの図を見て頂ければそれまでなのですが、
以下蛇足的に解説します。

新型コロナウイルス感染症の確定診断には、
通常鼻腔などからの検体によるPCR検査が活用されています。

これは正確にはRT-PCRと言います。
PCRというのはDNAの特定の配列を増幅して検出する、
という技術ですが、
RT-PCR(reverse transcription PCR)というのは、
DNAではなくRNAに対して同様の増幅と検出を行う、
という技術のことです。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルスなので、
PCRではなくRT-PCRという方法が行われているのです。
RNAはそのまま増幅出来ないので、
まず逆転写酵素という酵素を利用して、
RNAに相補的なDNAを合成し、
それからそのDNAをPCRで増幅するのです。

ウイルスというのは増殖に必要な遺伝子と、
それを守るためと、
感染するために必要な、
タンパク質だけからなる存在です。
この遺伝子が細胞に入り込むと、
細胞の増殖の仕組みを利用して、
自分達の遺伝子を増やし感染を広げていくのです。

その本体は感染する遺伝子なので、
それを検出する方法が診断としては確実なのです。

現状日本などで使用されているRT-PCRのキットは、
このウイルスに特徴的な複数の塩基配列を検出しているので、
それが適切に使用されれば、
陽性の診断を誤ることはほぼありません。

つまり、他のコロナウイルスなどを、
間違って検出して陽性としてしまうことはないのです。

誤るのは操作のミスがある場合と、
日本の事例でもあったように、
他の検体に汚染されてしまうような場合です。

ただ、RNAが検出されれば、
感染のあったことは確定しますが、
その時点でウイルスが感染力を持っているとは限りません。

以前ブログでも紹介した、
身体の様々な部位のPCR検査の陽性率を比較した論文があり、
そこでは、RNA自体は長期間検出されたものの、
症状発現から8日以降においては、
検出されたウイルスの培養には成功していません。
これは検査は陽性であっても、
その遺伝子断片がウイルスとして、
感染したり増殖する能力は既にない、
という可能性を示唆しています。

アメリカのCDCは、
新型コロナウイルスに感染した医療従事者が、
現場復帰する目安として、
3日以上無症状で、
症状出現後10日以上経っていること、
を1つの指標としていますが、
これはその意味で概ね妥当な方針なのです。

PCR検査をいたずらに繰り返して、
その結果に一喜一憂することは、
検査の性質上適切とは言えません。

抗体検査は、
身体がウイルスの侵入に対して、
それを無力化する抗体を産生するので、
それを血液で測定するというものです。

抗体というのは抗原のタンパク質に対して産生されるので、
複数の種類の抗体が同じウイルスに対して作られます。
抗体自体にもその役割により、
IgGやIgM、IgAなどの種類があります。
通常感染初期に作られるのがIgM抗体で、
その後増加し長く存在するのがIgG抗体です。
現状血液でのIgM抗体とIgG抗体の測定が可能ですが、
本当の意味で感染を防御する、
中和抗体のみを測定している、
という訳ではありません。

上の図にあるように、
PCR検査は症状出現の当日もしくは翌日には、
既に高率に陽性になりますが、
抗体は概ね症状出現後1週間以降に陽性となり、
IgM抗体は3週間目くらいをピークにしてその後は減少。
IgGは少なくとも8週間以上持続して検出されます。

現行多くの抗体迅速検査キットが販売されています。
ただ、これは定量的なものではなく、
どの抗体を測定しているのかは、
個々のメーカーの企業秘密になっているので、
その結果はまちまちで一定していない、
という欠点があります。
PCR検査とは異なり、
新型コロナウイルス以外のウイルスに対して、
陽性を示す可能性もあります。

どのタンパク抗原に対する抗体が、
どのような役割を果たしているのか、
どれが中和抗体で感染阻止の作用があるのか、
そうしたメカニズムが明らかにならないと、
抗体検査の意味も明確にはならないのですが、
その点の知見はまだ充分ではないのです。

たとえばB型肝炎ウイルスの中和抗体はHBs抗体ですが、
それ以外にHBc抗体やHBe抗体など、
複数の抗体があり、
それぞれに陽性の意味合いは異なります。
中には持続感染を示す抗体もあるのです。

何を測っているのか分からない状態で、
それが診断や治療においてどのような意味を持つのか、
何も言えないというのが現状なのです。

その段階で「全国民に抗体検査を!」とかと言うのは、
ただの暴論で、
内容を理解していないからこそ言える、
脳内お花畑的な言説です。
せめて「RBD-S蛋白に対するIgM ELISAの有効性はどうか」
くらいに限定して議論をするべきではないかと思います。

今分かっていることは、
どう作用するのか分からない抗体が、
PCRが検出されにくくなる回復期に一致して増加する、
というだけのことに過ぎないのです。

最近富士レビオで保険収載されたのが抗原迅速検査で、
これは特定のウイルス抗原に対する抗体を利用して、
ウイルス抗原を検出しようとするものです。
今使用されているインフルエンザの迅速診断と、
同じ理屈の検査です。

上記のレビューの執筆者である梁先生は、
新型コロナウイルス抗原に特異的な抗体を発見された専門家で、
その知見が抗原キットの開発に活かされているのかと推測します。

この検査は使用されている抗体が本当に、
新型コロナウイルスに特徴的な抗原のみと結合するのか、
と言う点がポイントで、
キットの出来不出来によって、
診断能は大きく違うという可能性があります。
PCRと同様の使用法が想定されるのですが、
ある程度の抗原量がないと陽性になりませんし、
他のウイルス抗原に反応してしまう、
という可能性もあります。

そんな訳で現行の検査はいずれも帯に短したすきに長しで、
どれをもって確実というものはなく、
特に抗体検査については、
どの抗原に対する抗体をどのように測定するのか、
その根本の部分が確立されないと、
検査だけしまくっても、
意味のないものになる可能性が高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性(中国の多施設臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスに対するクロロキンの効果.jpg
British Medical Journal誌に2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性を検証した、
中国での多施設臨床試験の結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在している薬の1つが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

またヒドロキシクロロキン単独の効果については、
以前査読前の論文をご紹介しましたが、
そこでは62名の患者さんを2つの群に分けて、
一方にヒドロキシクロロキンの投与を行ない、
症状改善までの期間が2日程度短縮した、
という結果が報告されています。
ただ、単独施設の結果ですし、
長期の予後や治癒を見たものではないので、
それでクロロキンの有効性が認められた、
とは言い難いものでした。

今回の研究は中国の複数施設によるもので、
偽薬を使用したような厳密な方法ではありませんが、
PCR検査の陰性化を指標としているので、
より客観的な評価とは言えると思います。

対象は中国国内の16の病院に入院した、
新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者150名です。

軽症というのは発熱や咳などの症状はあるものの肺炎はない事例で、
中等症というのは肺炎があるものの、
呼吸不全のような状態ではなく、
動脈血酸素飽和度は94%以上に保たれているものです。
これまでの臨床試験は、
ほぼ肺炎患者のみを対象としていましたから、
より軽症の患者を対象としているのが今回のポイントです。
新型コロナウイルス感染症の診断はPCR検査で確認されています。

対象者をくじ引きで2つの群に分けると、
半数は通常治療を行い、
もう半数はヒドロキシクロロキンの使用を行います。
使用方法は最初の3日1日1200ミリグラムという高用量を用い、
その後は1日800ミリグラムを、
軽症から中等症であれば2週間、
結果として重症化した場合は3週間継続する、
というものです。
これは以前の単独施設研究では1日400ミリグラム5日でしたから、
高用量に変更されています。
症状出現から治療開始までに期間は平均で16.6日(3から41日)ですから、
正直かなり遅いという印象は持ちます

くじ引きはしていますが、
偽薬などは使用せず、
患者さんも主治医も、
どのような治療がされているのかは分かっている、
という形式です。
これは臨床試験としては不充分ですが、
予後がまだ不明の致死的となることもある感染症の治療なので、
やむを得ないところがあります。
日本で現行行われている新型コロナウイルス感染症に対する臨床試験は、
概ね、施設によって使用薬剤を決め、
それを患者の希望により投与する、
という方法であるようです。
一部でくじ引きの試験も行われているのかも知れませんが、
情報は持っていません。

主な有効性の判定指標は、
投与後28日の時点でのPCRの陰性化率です。
通常治療というのは、
抗ウイルス剤はアルビドールやロピナビル・リトナビル、エンテカビルなどで、
抗菌剤やステロイドなども使用されているケースがあります。
一時もてはやされたロピナビル・リトナビルは、
ほぼ候補薬からは退場しているという感じです。

その結果…

治療開始28日の時点でのPCRの陰性化率は、
通常治療群が81.3%に対して、
ヒドロキシクロロキン使用群は85.4%で、
その差は統計的には有意ではなく、
その点でもヒドロキシクロロキン治療の有効性は否定されました。
また症状改善までの期間での比較でも、
両群に明確な差は認められませんでした。
一方で有害事象はヒドロキシクロロキン群で多く認められ、
その内容は下痢、嘔吐が主なもので、
3例は重篤な事例が認められています。

このように、今回の臨床試験においては、
ヒドロキシクロロキンの使用が、
新型コロナウイルスの排除に有効である、
という結果は得られませんでした。

投与のタイミングは前述のようにかなり遅いので、
より早期に使用が行われれば、
有効性が確認された可能性は否定出来ませんが、
現状ヒドロキシクロロキンが、
明確に新型コロナウイルス感染症に有効とする根拠はなく、
その心血管系や網膜に対するリスクを考えると、
その使用はこれまでより慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「2001年宇宙の旅」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2001年宇宙の旅.jpg
1968年に製作されたSF映画の金字塔にして、
鬼才スタンリー・キューブリック監督の最高傑作、
「2001年宇宙の旅」です。

これは1968年の公開当時には、
その映像の当時としては信じられない完成度と高度な技術自体は、
画期的な映像表現として評価されたのですが、
その内容はあまりに難解とされ、
一部のSF作家やマニア以外には、
殆どまともな批評はなされませんでした。

宇宙から飛来したモノリスという謎の黒い物体が、
人間の進化の引き金を弾き、
猿を人間に、そして人間を超人類に進化させる、
という純粋SF的ドラマは、
当時の感覚ではとても一般には理解されなかったのです。

ただ、SF作家アーサー・C・クラークによる原作は、
内容は同じでももっと分かり易く平明なものです。
それをいささか意地の悪いキューブリックは、
徹底して台詞を減らし、
サイレント映画に近い技巧を駆使、
イメージ優先の大胆な省略や抽象化を取り入れて、
意図的に観客を煙に巻く映画作りをしたのです。

一例を挙げると、
この映画は人類誕生前、近未来の月面の出来事、
探査船ディスカバリー号におけるコンピューターの反乱、
宇宙の彼方への旅と新人類の誕生、
というオムニバスの年代記のような構成になっているのですが、
人類誕生前のパートは一切台詞やナレーションはない、
サイレント映画の趣向で、
そこから近未来のパートへの移行は、
猿が放り投げた骨が、
そのまま宇宙を航海する宇宙船に繋がるという、
「ジャンプショット」で処理されています。
これが公開当時には殆ど理解はされず、
「猿の話がどうして急に宇宙船になるの?」
と殆どの観客の煙を巻き、
多くの批評家も理解していなかったので、
内容には触れない意味不明の批評しかありませんでした。

僕はこの映画は高校生の時にリバイバルで観ました。
これは待望のリバイバルであったと思います。
劇場は京橋のテアトル東京です。
この映画は映像の前に「前奏曲」が付くんですね。
その時の上映では、
スクリーンに光りを当てただけで、
音楽のみを流していました。
それからおもむろにスクリーンが開くと、
「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れて、
太陽と月と地球が一直線に並ぶという、
絶妙の圧倒的ファーストカットがあって、
どうなるかと思うと次は原始時代のサイレント劇ですから、
何と言うか壮大な実験映画という趣きです。

その後も骨から宇宙船のジャンプショットに、
クラシックなワルツに乗せて、
宇宙旅行が描かれるという構想。
巨大な月基地のビジュアルと、
圧倒的な映像詩が続きます。
ドラマとして優れているのは、
後半のディスカバリー号の部分ですが、
一番の役者はコンピューターのHALというのも、
この破格な映画にふさわしい趣向です。
そしてクライマックスは宇宙のかなたへのトリップシーンで、
新人類の誕生を多くの記号で綴ったラストも、
その後多くの模倣を生みました。

好き嫌いはともかくとして、
歴史に残る映画であることは間違いがないですね。
キューブリックは天才と言われますが、
大したことのない映画も多いですよね。
何を描いても物凄くドライな描写で、
普通の人間ドラマでそれをやられると、
ちょっと持たないな、という感じになるのですが、
この映画はその徹底してドライな部分が素材にマッチしていて、
唯一無二の作品になったのだと思います。
普通の人間同士の対話やドラマなんて、
殆どないですもんね。

またよくこのクオリティで完成にこぎつけましたよね。
これはもう奇跡的な感じがします。
大作映画というのは勿論沢山ある訳ですが、
こういうオリジナルで完成形の予測が付かないような映画の場合、
往々にして途中で予算がなくなり頓挫したり、
逆に途方もなく予算オーバーして、
それでいて撮り切れていないとか、
現場でもめて何度もスタッフやキャストが交代するなど、
トラブルが続出することが多いからです。
その点この映画は、
お金も勿論掛かったと思いますが、
ほぼ完璧に全ての場面が撮り切れていて、
その点でも映画史に特筆するべき映画だと思います。

この映画は未来を舞台にしていて、
それも2001年と明記してしまっているでしょ。
こういう映画は本当に2001年になったら、
ゴミ箱行きではないかと昔は想像されていたんですよね。
「未来は1つしかない」という感覚が、
常識としてあったからなんですね。
でも、実際に2001年が過去になってしまっても、
この映画は観続けられていますし、
その価値が失われるということもないですよね。
これも映画史において画期的な出来事であったと思います。
今ではこういうことは全然言われないでしょ。
「並行世界」と言ってしまえばそれまでですね。
エヴァンゲリオンだって舞台は2015年とされていますが、
それを過ぎても全然平気ですよね。
何故平気かと言えば、
その始まりはこの映画にあった、
というように思います。

そんな訳で映画史に燦然と輝く、
金字塔のような映画であることは間違いがなく、
気力が充実している時に、
映画館の大画面で御覧頂ける機会があれば、
必見であることは間違いがありません。
これはテレビやモニターの小さい画面では、
ほぼほぼ作り手の意図通りのものは、
感じることの出来ない種類の映画であるからです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「卒業」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
卒業.jpg
1967年のアメリカ映画で、
結婚式場から花嫁をさらうラストが、
あまりにも有名な青春映画です。

これは僕にとっては、
一時期一番好きな映画の1本だったんですよね。
高校生から大学に入ったくらいの時まで。
今は別にそんな風には思えないのですが、
昔を思い出して何かほろ苦い気分にはなります。

これね、最初に観たのが高校生の時かな。
京橋のテアトル東京でリバイバル上映があったんですね。

当時の洋画のロードショーは、
ビデオもDVDもネット配信もなかったので、
2から3割は旧作のリバイバルだったんですよね。
高校生の時には僕的には一番映画にのめり込んでいて、
映画史上の名作と呼ばれるものを、
全て観尽くしてやろう、
くらいの気分でいたのですが、
なかなか旧作はやってくれないのです。

だから、念願の作品を観ることが出来た、
というような時には、
観られた、というだけでもう感動するんですね。
映画自体の出来は二の次で、
「観ることが出来て良かった!」という気分に満たされるのです。

当時はまたテレビでね、
「映画の名シーン100」みたいな番組を、
ゴールデンタイムのスペシャルでやっていたんですよね。
ただ、映画の場面をランキング形式で流すだけの、
何の工夫もない番組なのですが、
そこで「感動のラストベスト10」みたいな時には、
必ずこの「卒業」の、
結婚式から花嫁を連れ出すところを流すんですね。
観たいなあ、と思いながら、
観られないという時間が続いて、
ようやく…という感じでリバイバルがあったので、
これはもう、観る前から感動することは決まっていたようなものなのです。

これね、奥手の青年の筆下ろしものなのですね。
セックスシーンをフィーチャーすれば、
B級ポルノになるようなお話なんですね。
それがレコードのA面とB面みたいに(これ自体レトロな喩えですね)、
途中で夢から覚めるように変換されるのです。
性的な空想の物語が、
現実の恋愛に変換されるのですが、
それがまたラストで現実をちょっと超える、
という感じになる訳です。
この「最後にちょっと超える」という辺りが、
この映画が公開当時多くの観客の心に、
強く響いた理由だと思います。

前半はただの筆下ろし物語なのに、
物憂げな表情のダスティ・ホフマンがいて、
そこにオープニングで「サウンド・オブ・サイレンス」が流れると、
何かちょっと深淵で、不思議な雰囲気が醸成されるでしょ。
当時の僕にとってはそれだけで、
何だろう、青春というものの陰の部分が、
クローズアップされたような気分になりました。

この映画はサイモン&ガーファンクルのこの曲がなければ、
成功しなかったと思います。
ただ、サイモン&ガーファンクル自体も、
この映画がなければそこまでビッグにはならなかったのですね。
両者にとって相互補完的な名曲なのです。
ある意味薄っぺらな物語が、
その謎めいた曲のおかげで、
深淵な何かを感じさせたのだと思います。

世間知らずのインテリ青年が、
社会の仕組みと本物の恋愛を知るまで、
みたいなお話でしょ。
高校生の頃はこの主人公を、
自分に重ね合わせて観ていたんですよね。
今にして思うと、
傲慢というのか恥ずかしい感じがしますが、
青春というのはそうしたものかも知れません。

ネットの感想など見ると、
今の人はこのくらいのお話でも、
倫理的に抵抗を感じるみたいなんですね。
まあ、時代は変わっているということなのだと思います。
そんな訳で今では成立しないようなお話なのかも知れませんが、
僕にとっては一時期この映画が、
間違いなく偏愛の対象ではあったのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病では新型コロナウイルス感染症が多いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには回る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスと糖尿病.jpg
Diabetes Research and Clinical Practice誌に、
2020年5月12日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症と糖尿病との関連についての、
メタ解析の論文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、
慢性病などの基礎疾患のある人に多い、
というのは2020年1月時点の症例をまとめた論文にも、
既に出て来る知見です。
その代表は高血圧と糖尿病です。

ただ、その後多くの報告はありますが、
実際にその地域の糖尿病の有病率と比較して、
新型コロナウイルス感染症に罹る人の中で、
糖尿病の患者さんが本当に多いのか、
というような点については、
あまり明確な情報がありません。

そこで今回の研究では、
2020年2月25日までという比較的早期の時点で、
報告された新型コロナウイルス感染症の臨床データを、
まとめて解析するメタ解析という手法で、
この問題の検証を行っています。

結果としてこの時期の臨床データは全て中国由来のもので、
9つの臨床研究のトータル2007名の新型コロナウイルス感染症の患者データを、
まとめて解析したところ、
患者の中での糖尿病の有病率は9%(95%CI: 6から12)で、
平均年齢は56.5歳でした。

過去に報告された中国での2型糖尿病の有病率は、
45から54歳で7.3%、55から64歳で11.0%と報告されていますから、
これを比較する限り、
必ずしも新型コロナウイルス感染症に糖尿病の患者さんが罹りやすい、
というようには言えません。
そもそも1割程度は糖尿病の患者さんが存在する集団で、
実際に感染した患者さんのうちの比率も、
ほぼ同程度であるからです。

次に新型コロナウイルス感染症の重症度と、
糖尿病の有無との関連を見てみます。

すると、
病状が中等症の患者さんにおける糖尿病の有病率は、
7%(95%CI: 4から10%)であったのに対して、
重症の患者さんにおける糖尿病の有病率は、
17%(95%CI:13から21%)と上昇が認められました。
中等症の患者さんの平均年齢は46.4歳、
重症の患者さんの平均年齢は56.5歳でした。

つまり、糖尿病があっても、
新型コロナウイルス感染症に罹りやすい、
ということはなさそうですが、
一旦罹った場合には重症化しやすい可能性はある、
ということになります。
これは他の感染症と同様、
と言って良いように思います。

従って、
2009年の新型インフルエンザのワクチン接種時にも、
そうした対応が取られましたが、
今後接種される際のワクチンの優先順位は、
糖尿病など悪化しやすい持病のある患者さんでは、
優先することが妥当であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの不活化ワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの不活化ワクチン.jpg
bioRxivという、
まだ査読をされていない論文が公開されているサイトに、
2020年4月19日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの不活化ワクチンの、
猿を使用した臨床試験の結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関しては、
多くの治療薬が候補としては挙げられていますが、
今の時点で決め手となるような薬がないことは、
何となく見えて来たような気がします。

そうなると、感染のコントロールのために、
期待されるのはワクチンの開発です。

2009年の「新型インフルエンザ」騒動の時には、
従来の手法を用いた不活化ワクチンが、
通常では考えられないような早さで製造され、
高い有効性を示しました。

しかし、これは従来のインフルエンザワクチンによる実績と経験とが、
あったからこその結果です。

コロナウイルスのワクチンについては、
SARSやMERSの時にも研究はされながら、
比較的短期間で流行が収束したために、
結果として実用化はされませんでした。
また、その実用化に向けての研究の過程で、
ワクチンの接種による、
感染時の肺病変の重症化促進などの危惧が認められました。
ワクチンを接種した方が重症化のリスクが増える、
という可能性です。
これはワクチンの直接作用という可能性もあり、
またワクチンによる不完全な抗体の誘導が、
感染時の悪化を招く、
所謂抗体依存性感染増強反応の可能性も示唆されました。

従って、今回の新型コロナウイルスのワクチンは、
ただ出来たというだけでは充分ではなく、
実際の接種の前にその有効性や安全性について、
インフルエンザワクチンの時とは比べものにならないような、
慎重な検証が必要になるのです。

今回のワクチンの完成が、
そう容易いことではない、
という理由がそこにあります。

ワクチンの製法についても色々な考え方があります。

これまでの感染症予防のためのワクチンは、
実際のウイルスを培養を繰り返すなどして毒性を弱めてそのまま使用する、
生ワクチン、
ウイルスに処理を加えて毒性のない状態にして投与する、
不活化ワクチン、
の2種類がありました。

不活化ワクチンには、
不活化処理した病原体をそのまま使用するか、
抗原タンパクをバラバラにして使用したり、
ウイルス粒子に似た構造を作ってそこに抗原を発現させて利用したり、
免疫増強剤を添加するなど複数の方法があります。

それ以外にウイルスそのものではなく、
ウイルス遺伝子の一部を、
他の遺伝子と結合させるなどして使用する、
RNAワクチンやDNAワクチンという、
これまで感染症予防のためには実用化はされていない、
新しい製法によるワクチンも、
今回開発が行われています。

遺伝子を利用したワクチンは、
何より「早く作れる」という点が一番の利点です。
これまでのワクチンは、
ウイルス遺伝子が作ったタンパク質を、
抗原として身体に投与したのですが、
遺伝子を利用したワクチンは、
遺伝子を人間の細胞に感染させて、
人間の細胞に抗原を作らせると言う点が全く違うのです。

無毒化したウイルスをベクター(乗り物)にして、
そこに標的となる抗原の遺伝子を埋め込んで感染させる、
ウイルスベクターワクチンという手法もあります。

さて、現状多くのワクチンプロジェクトが、
世界中で進行していますが、
実現に近い位置にあるのは、
今日ご紹介するシノバックという中国のメーカーによる不活化ワクチン、
アメリカモデルナ社のRNAワクチン、
イギリスオックスフォードのウイルスベクターワクチンなどです。

日本では大阪大学などがDNAワクチンを、
田辺三菱製薬が偽ウイルス粒子に抗原を発現させる、
というようなタイプの不活化ワクチンの開発に着手しているようです。

今回ご紹介するシノバック社のワクチンは、
最もシンプルな不活化ワクチンで、
基本的には現行のインフルエンザワクチンと同じ製法で作られているものです。

これで成功するなら苦労しないよ、
と言う感じはちょっとするのですが、
上記論文においては猿に接種した臨床試験において、
有効な中和抗体が誘導され、
新型コロナウイルスの感染実験で、
感染予防効果が確認され、
抗体依存性感染増強反応のような有害事象も、
認められなかったと報告されています。

これはまだ動物実験の段階ですが、
もう臨床試験の段階に入っているようです。

どのワクチンが最初に接種を開始し、
日本は国産を含めどのワクチンを使用することになるのか、
現時点では全く分かりませんが、
個人的には古典的な製法のワクチンで、
一定の有効性と安全性とが認められるのであれば、
それに越したことはないのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2019年12月のフランス、新型コロナウイルス感染事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フランスの新型コロナ一例目?.jpg
Antimicrobial Agents誌に2020年5月3日ウェブ掲載された、
従来言われているより早い時期に、
新型コロナウイルスの感染症が発生していたのでは、
というフランスからの報告です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
2019年12月に中国武漢市周辺で発生し、
日本での最初の事例は2020年1月15日に確認されています。
1月6日に武漢市より帰国をした方です。
フランスにおいては同じく武漢市に滞在歴のある旅行者から、
2020年1月24日に確認されたのが最初の事例とされています。
しかし、実際には2019年12月からは、
季節性インフルエンザの流行があり、
インフルエンザ肺炎の事例も複数報告されていました。
その時点では新型コロナウイルス感染症を疑ってのPCR検査などは、
殆ど行われてはいなかったので、
そこに紛れ込みの事例があった、
という可能性は否定出来ません。

今回の報告はパリに近い集中治療室を持つ病院において、
2019年12月2日から2020年1月16日の間に、
インフルエンザ様症状で集中治療室に入室し、
呼吸器や鼻腔の検体サンプルが保存されていた患者の、
新型コロナウイルスのPCR検査を改めて施行したものです。

その結果、1例のサンプルでPCRが陽性となりました。

その患者はアルジェリア出身で長くフランス在住の42歳の男性で、
中国への渡航歴はありません。
肺炎のため2019年12月27日に入院しています。
その時の胸部CT画像がこちらです。
フランスの新型コロナ1例目?のCT.jpg
新型コロナウイルス肺炎に典型的な、
多発性のすりガラス陰影と記載されています。
ただ、陰影は片側が優位で、
区域性に広がっているようにも見えます。
個人的にはとても典型的な像、
とまでは言えないように思います。

この1例だけで2019年の12月から、
新型コロナウイルス感染症がフランスに広がっていた、
とまでは言えないように思いますが、
日本でも同様の事例のある可能性は充分にあり、
こうした検証も行うことによって、
現状は感染経路の特定が困難な事例においても、
また別の見方が出来るようになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用の心疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン併用の効果.jpg
JAMA Cardiology誌に2020年5月1日ウェブ掲載された、
フランスやアメリカで比較的多く使用されている、
2種類の内服薬を併用する新型コロナウイルス感染症の治療が、
心臓に与える影響についての論文です。

これはこの治療のリスクを検証したもので、
この治療の効果を検証したものではありません。
上記論文の著者らは、
この治療自体もあまり評価はしていないようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在しているのが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

この治療を推奨しているフランスの研究者は、
今度はこの併用治療を受けた、
1061名の新型コロナウイルス感染症の患者さんにおいて、
10日以内に91.7%で症状の改善が認められた、
というデータを公表しています。
ただ、論文化は少なくとも英語ではされていないようです。
また、このデータはコントロールなどはなく、
ただ、治療を受けていた患者を後から調べると、
9割は改善していた、というだけのものなので、
それが治療の効果であるのかどうかは、
正直何とも言えないと思います。

ただ、この結果がアメリカのニュースで取り上げられて、
大騒ぎというような感じを見ていると、
メディアに踊らされるのは、
日本に限った話ではないようです。

その有効性はともかくとして、
ヒドロキシクロロキンもアジスロマイシンも、
共に心臓に作用して、
QT延長という心電図の異常を伴うことが指摘されています。
そして、QT延長は、
重症の不整脈の発生に結び付き易いと考えられているのです。

実際にその影響はどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はアメリカはボストンの単独施設において、
PCR検査と画像診断で新型コロナウイルス肺炎と診断され、
少なくとも1日以上ヒドロキシクロロキンが処方された、
トータル90名の患者さんにおいて、
アジスロマイシンとの併用と心電図変化との関連について検証しています。
90名中53名ではアジスロマイシンが併用されていました。

ヒドロキシクロロキン単独の使用では、
明確な使用後の補正QT時間の延長は認められませんでしたが、
アジスロマイシンとの併用では、
中央値で23ms(0-40)と比較的明確なQT時間の延長が認められました。

ヒドロキシクロロキン単独では、
19%に当たる7名が、
補正QT時間が明確な異常値と言える500msを超えていました。
そのうちの3名ではQT時間が60ms以上大きく増加していました。
アジスロマイシンとの併用群では、
21%に当たる53名中11名で補正QT時間は500msを超えていて、
13%に当たる7名で60ms以上の増加が認められていました。
補正QT時間が異常に延長するリスクは、
治療前の補正QT時間が450ms以上であると7.11倍(95%CI;1.75から28.87)、
ループ利尿剤を使用していると3.38倍(95%CI: 1.03から11.08)、
それぞれ有意に増加していました。
また、1例の患者さんが経過中に心停止を来していました。

このように、
ヒドロクロロキンとアジスロマイシンとの併用は、
QT延長のリスクが高く、
治療前のQT時間が長めであったり、
利尿剤を使用しているような患者さんでは、
その使用にはより慎重な判断が、
必要であるように考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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