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「彼らは生きていた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
彼らは生きていた.jpg
指輪物語で有名なピーター・ジャクソン監督が、
自分の祖父が従軍した第一次大戦の塹壕戦を、
実際の記憶フィルムを最新技術で加工し、
そこに当時の従軍兵士のインタビューの音声を重ねる、
という手法で臨場感豊かに映像化しています。

ピーター・ジャクソン監督は、
メジャーになる前には、
「ブレインデッド」などのホラーの怪作を監督している、
生粋のオタク監督なので、
今回も何かやってくれるのだろう、
とあまり根拠のない期待を持って映画館に足を運びました。

結果は…

真面目な記録映画という感じで、
それほど斬新というようには思えませんでした。

これね、
全ての場面がカラー化された映像という訳ではなくて、
前半と後半は普通のモノクロの記録映像に、
当時のポスターなどの静止画をコラージュしたものなんですよね。
カラーでリアルに修復されているのは、
中段の塹壕の場面のみです。
それも兵士が塹壕で戦闘の合間に話をしたり、
というような映像が殆どで、
実際の突撃場面は、
静止画とイラストなどでの処理になっています。
これは正直ちょっとガッカリしました。

まあ、よく考えれば、
戦闘中に大きなキャメラを廻せる訳もないので、
記録映像は戦闘の合間しかないのは、
当たり前のこととも言えますよね。

そこにもっとトリッキーな何かを、
期待してしまったのが良くなかったのかも知れません。

今回の映像を見ると、
この間観た「1917」が、
とてもリアルに当時を再現していた、
ということが分かります。
ほぼほぼ昔の記録映像と同じです。
これは改めて凄いな、と思いました。

これはまあ、
ドキュメンタリーとしてご興味のある方のみお薦めで、
ピーター・ジャクソン監督という名前に期待すると、
ちょっとガッカリという結果になりかねないので、
それはあまり気にしないで頂いた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ストレス潰瘍へのプロトンポンプ阻害剤とH2ブロッカーの差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIとH2ブロッカーの差.jpg
2020年のJAMA誌に掲載された、
2種類の胃薬のストレス潰瘍予防効果と生命予後を、
比較検証した論文です。

ストレスで胃が痛くなるという経験は、
多くの方がされていると思います。
実際にストレスは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となります。

そのため、
強いストレスが掛かるような状況においては、
予防的に胃酸を抑えるような胃薬が処方されます。

その代表は重病で集中治療室に入院している、
患者さんのようなケースです。

上記論文の記載によれば、
海外データで集中治療室で治療を受けている人の、
2.5%は胃潰瘍などの消化管出血を起こし、
その予防のためにそうした患者の7割では、
胃酸を抑えるような胃薬が処方されています。

現行使用頻度が最も多いのは、
プロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬です。

プロトンポンプ阻害剤は強力に胃酸を抑えるような作用があり、
そのために抗血小板剤の使用時など、
通常より消化管出血を起こしやすいような状態において、
使用することにより消化管出血の予防効果のあることが、
信頼のおける臨床試験において確認されています。

一方でプロトンポンプ阻害剤は、
多くの有害事象や副作用のある薬でもあり、
その中には肺炎リスクの増加や、
デフィシル菌による難治性の大腸炎の増加、
など、集中治療室においても、
看過できない疾患のリスク増加が報告されています。

このため、
潰瘍予防効果においては、
プロトンポンプ阻害剤よりやや劣っていても、
トータルな患者さんへのリスクを勘案して、
H2ブロッカーという胃酸抑制剤を、
代わりに使用するという考えもあります。

そもそもプロトンポンプ阻害剤の潰瘍予防の有効性も、
集中治療室に入院するような重症の患者さんにおいて、
介入試験のような厳密な方法で、
これまでに検証されたことはありませんでした。

そこで今回の研究では、
世界5か国の50カ所の集中治療室において、
入院から24時間以内に人工呼吸器を装着した患者、
トータル26982名を登録し、
施設毎に消化管出血の予防として、
プロトンポンプ阻害剤かH2ブロッカーのいずれかを推奨し、
一定期間後に施設の推奨薬剤を入れ替えるという手法で、
両者の薬剤の開始後90日の時点での生命予後と、
消化管出血の発症率を比較検証しています。

その結果、
観察期間中に死亡したのは、
プロトンポンプ阻害剤推奨群では18.3%に対して、
H2ブロッカー推奨群では17.0%で、
この結果はプロトンポンプ阻害剤推奨施設でやや多かったものの、
有意な差はないと判断されました。
臨床的に意味のある上部消化管出血は、
プロトンポンプ推奨群では1.3%に対して、
H2ブロッカー推奨群では1.8%で、
プロトンポンプ阻害剤はH2ブロッカーと比較して、
上部消化管出血のリスクを27%(95%CI:0.57から0.92)、
有意に低下させていました。
デフィシル菌の感染症や入院期間の長さには、
両群で明確な差は認められませんでした。

この研究ではプロトンポンプ推奨施設でも、
主治医の判断でH2ブロッカーが使用可能なため、
プロトンポンプ推奨群の4.1%はH2ブロッカーを使用し、
H2ブロッカー推奨群の20.1%は、
実際にはプロトンポンプ阻害剤を使用していました。

従って、そのバイアスが、
少なからず結果に影響していることは否定出来ませんが、
プロトンポンプ阻害剤の方が潰瘍予防効果には優れていても、
生命予後については若干劣っている可能性もある、
という今回の結果はとても興味深く、
今後また試験のデザインを変えて、
同種の研究が行われることが望ましいと思いますし、
消化管出血予防にどの薬剤が適切かという問題は、
今後再検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マクロライドを妊娠中に使用することのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マクロライドの妊娠中の使用リスク.jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中の抗菌剤使用のリスクについての論文です。

妊娠中の抗菌剤の使用にはリスクがありますが、
それでも感染症の時には、
使用が必要となるケースがあります。

そうした時に安全性が比較的確認されている抗菌剤は、
ペニシリン系の抗生物質であることは、
世界的にほぼ一致している事実です。

ただ、ペニシリンには特有の薬疹やアレルギーがあり、
その使用が困難なケースで、
現状多く使用されているのがマクロライド系の抗菌剤です。
エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンが、
その代表になります。

それでは、マクロライド系抗菌剤の、
妊娠中の安全性については、
どのくらいのことが分かっているのでしょうか?

これまでの複数の介入試験やシステマティックレビューの結果として、
マクロライド系抗菌剤の使用が、
妊娠の有無に関わらず、
不整脈のリスクを増加させ、
心疾患に伴う死亡のリスクを増加させる、
という知見が得られています。
このため、アメリカとイギリスにおいて、
心血管疾患のリスクが高い患者さんに、
マクロライドを使用することは警告の扱いとなっています。

妊娠中のマクロライドの使用についての、
最近のシステマティックレビューによると、
その使用により流産のリスクが増加することは、
ほぼ間違いのない事項とされていますが、
それ以外の先天奇形などについては、
明確な結論が得られていません。

そこで今回の研究では、
イギリスの医療データベースを活用して、
マクロライドもしくはペニシリンの処方を、
妊娠4週から出産までの間に受けた104605名の、
妊娠中の女性とその子供と、
母親が妊娠前にマクロライドもしくはペニシリンを処方された、
82314名の子供、
そしてその兄弟を比較して、
この問題の検証を行っています。

その結果、
お子さんの主な身体奇形のリスクは、
母親が妊娠初期にペニシリンを使用した場合、
新生児1000人当たり17.65件に対して、
母親が妊娠初期にマクロライドを使用した場合には、
新生児1000人当たり27.65件で、
妊娠中のマクロライド使用の、
ペニシリンと比較した新生児の身体奇形発症リスクは、
1.55倍(95%CI:1.19から2.03)有意に増加していました。

マクロライドの妊娠中の使用は、
その全期間において、
新生児の性器奇形のリスクを、
1.58倍(95%CI:1.14から2.19)有意に増加させ、
その多くは尿道下裂の増加でした。

エリスロマイシンの妊娠初期における使用は、
赤ちゃんの主要な身体奇形のリスクを、
ペニシリンと比較して1.50倍(95%CI: 1.13から1.99)、
こちらも有意に増加させていました。

このようにマクロライド系の抗菌剤の妊娠中の使用は、
その時期にかかわらず胎児の発達に一定の影響を与え、
複数の身体奇形のリスクを上昇させることは、
今回の結果ではほぼ間違いがなく、
妊娠中のマクロライド系抗菌剤の使用は、
今後より慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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麻疹由来ワクチンで新型コロナウイルスを予防する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスと麻疹ワクチン.jpg
2018年のMicrobe and Infection誌に掲載された、
新型コロナウイルスワクチンの開発に繋がる可能性のある、
技術についての総説です。

現状SARSやMERSを始めとするコロナウイルスに対して有効なワクチンは、
その開発に成功していません。

その原因は単一ではありませんが、
風邪症候群の原因であるコロナウイルスは、
同一の人間に何度も感染するという性質があり、
麻疹や水痘のように、
一度感染して中和抗体が作られれば、
それで一生罹ることはない、
というような病気とは違うという点が、
大きいと考えられます。
先日一度新型コロナウイルスに感染して回復してから、
またほどなく新型コロナウイルスに再感染した、
という事例が報道されていました。
その真偽はまだ分かりませんが、
コロナウイルスに感染して誘導される免疫の予防効果は、
インフルエンザほども長持ちはしない可能性が高いのです。

つまり、単純にインフルエンザワクチンのような手法で、
コロナウイルスに対するワクチンを作ることは出来ないのです。

それでは、どうすればいいのでしょうか?

1つのヒントはSARSと同じように、
今回の新型コロナウイルス(COVID-19)も、
小児には感染しにくいか、
感染しても軽症で改善する可能性が高い、
という現象にあります。

その理由は現時点では不明ですが、
1つの仮説として、
赤ちゃんが1歳半くらいまでの時期に、
風疹や麻疹のワクチン、ポリオワクチン、日本脳炎ワクチン、
インフルエンザワクチンなどの、
多くのコロナウイルスと同じRNAワクチンの接種を、
受けていることと関連があるのではないか、
という考え方があります。

こうしたワクチンで誘導される免疫が、
他のRNAウイルスの予防にも、
一定の役割を果たしているという可能性があるのです。

中でも麻疹の生ワクチンは、
2回の接種を行うだけで、
非常に強く中和抗体を誘導し、
長期に渡り感染予防効果を示すことが知られています。

この麻疹ワクチンの有効性を利用して、
麻疹ワクチンを土台としたワクチンに、
別のRNAワクチンの抗原を発現させることで、
有効性の高いワクチンを作るという試みが、
これまでに複数行われています。

SARSについても、
これまでに複数の麻疹ワクチン由来のワクチンが開発され、
動物実験などでは高い有効性が確認されています。

ただ、現状人間への臨床試験においては、
まだ明確な有効性と安全性とが確認されたものはないようです。

現状WHOは18ヶ月以内に、
新型コロナウイルスのワクチンの実用化を、
目標として掲げていますが、
SARSやMERSのワクチンも、
結局は実用化されていない現状を考えると、
その実現性は、
それほど楽観出来るようなものではなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの目を介した感染リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの目からの感染リスク.jpg
Br J Ophthalmol 誌に2020年2月21日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの、
目からの感染リスクについての解説記事です。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染は、
中国本土のみならず、
日本、韓国、イタリアでも広がりを見せ、
その世界的な深刻度も増していることは、
皆さんも良くご存じの通りです。

欧米の医学の一流誌も、
連日のようにこの問題の記事や論文を載せていますが、
正直この2月に入って以降、
それほど特筆に値するような情報はありません。
実際世界の一般的な認識よりも、
日本の状況は遙かに先を行っているので、
今既に発表されてる情報は、
もう周回遅れのように思えてしまうのかも知れません。

今回の解説記事は短いものですが、
時々指摘されることがある、
新型コロナウイルスの目の粘膜(結膜)
からの感染の可能性についてまとめたものです。

新型コロナウイルスの人から人への感染は、
物を介した接触感染と飛沫感染が主体であると、
考えられています。

これはいずれも、
鼻や咽を介してウイルスが身体に侵入する、
ということを意味しています。

しかし、SARSやMERSの感染の検証でも、
それでは説明が困難な感染事例があり、
皮膚や粘膜を介した感染の可能性が、
推測されることがありました。

粘膜面を介しての感染として、
最も可能性があるのは目の結膜からの感染です。
SARSとMERSのいずれも、
明確に目の粘膜からの感染は証明されていません。
しかし、SARSの感染者の涙から、
PCRでウイルス遺伝子が検出された、
という報告はあり、
これは目からの感染の可能性を示唆するものです。

また、風邪症候群の原因であるコロナウイルスNL63では、
その小児感染事例の17%でウイルス性結膜炎が認められた、
という報告もあります。

新型コロナウイルスの患者と濃厚な接触をした医療者では、
防護服やN95マスクなどを使用した感染対策を取っていても、
感染を防げなかった事例が報告されています。

現時点でその感染経路は不明ですが、
今後は粘膜や体液を介した感染の可能性についても、
その予防に充分な配慮をする必要があるのではないか、
というのが上記論考の結論となっています。

要するに、
現時点で証明はされていませんが、
新型コロナウイルスが目の結膜を介して感染する可能性は、
決して否定は出来ないものなのです。

だからどうするのか、
日常診療もゴーグルを付けてしないといけないのかしら、
と診療の前に考えても埒が明かないのですが、
手指消毒や換気や接触感染予防などに留意しつつ、
結膜も感染のリスクがあることを念頭に置きながら、
可能な限りの慎重さを持って、
今日も診療には当たりたいと思っています。

でもね、怖いのは風邪ですね。
少しでも風邪症状があったら、
診療は止めてクリニックも閉めるのが正解なのかしら。
今の指針は要するにそういうことですよね?
違うのかな?
幸い今は風邪症状はないのですが、
明日はもう分からないですよね。

まあ明日のことは明日考えるしかないですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドン・キホーテ.jpg
テリー・ギリアム監督が30年前から撮影に取り掛かるも、
数々の困難があって完成されなかった作品が、
当初の構想そのままではないのだと思いますが、
2017年に何とか完成して、
今回日本でも地味に劇場公開の運びとなりました。

テリー・ギリアム監督の作品は、
「バンデットQ」、「未来世紀ブラジル」、
「バロン」、「12モンキーズ」辺りは観ています。
どれも結構トラブル続きで撮影され、
予算がなかったり、短縮版で公開されたりと、
曰くつきのものが殆どです。

そのせいか作品自体も、
いつも何かモヤモヤとした仕上がりで、
「ええっ。こんなだったのに、こんなになって、このまま終わっちゃうの?」
というような感じの作品が多いですよね。
一部で絶賛される批評家の方がいらっしゃるのですが、
どうなのかな、
正直そこまで好きではありません。

今回の作品は「ドン・キホーテ」が下敷きですが、
舞台は現代で、
アダム・ドライバー演じるCM監督の主人公が、
10年前に大学の卒業制作として、
現地の靴職人の老人を主人公として、
「ドン・キホーテを殺した男」という映画を撮り、
それがきっかけとなって、
その老人は自分が遍歴の騎士と思い込むようになり、
10年後に行き詰まったCM撮影現場で、
その老人と再会して、
疑似的な「ドン・キホーテ」が再開される、
という捻った趣向になっています。

基本的にはフェリーニの「81/2」なんですよね。
行き詰まった映画監督がウロウロして、
過去の自分の幻想の産物や、
エロチックな妄想に囚われるという話。
ただ、テリー・ギリアムは、
そこにドタバタ・コメディの要素を、
隙あらばという感じで盛り込むので、
それが内容とあまりかみ合っていなくてイライラするのと、
幻想世界のビジュアルも、
それほど魅力的には仕上がっていません。
ちょっと劣化版のフェリーニという感じ。

最後に巨人が出て来るのですが、
かなり安っぽいんですよね。
テリー・ギリアム監督は他の作品にも巨人が出て来ますが、
いずれも安っぽいのは意図的なのかしら。
でも、せっかく大作感があるのに、
ラストにこれじゃな、という気分には、
どうしてもなってしまいます。

そんな訳で面白い部分はありながらも、
いつものギリアム作品と同じように、
「もうちょっと何とかならなかったのかしら」
という印象を強く感じさせる映画でした。

マニアの方のみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
9人の翻訳家.jpg
これは日本公開は珍しい、
フランス・ベルギー合作のフランス語のスリラーで、
フランス発の世界的大ベストセラーを、
世界同時発売するために、
9か国語の翻訳家がフランスの洋館の地下シェルターに集められ、
そこで極秘裏に翻訳作業が行われていると、
秘密の筈の原稿が流出して、
出版社の社長に脅迫状が届き…
というかなり興味深く斬新なつかみの作品です。

ダン・ブラウンの「インフェルノ」が、
同様に極秘裏に多国語に翻訳されて、
世界同時発売されたという実話がヒントになっているようですが、
発想はとても面白いと思います。

ただ、映画として面白いかと言うと、
そこは微妙なところで、
色々と工夫はされているのですが、
ハリウッド製や韓国製と比べると、
つかみの割にその後の展開は、
何かモタモタしていて盛り上がりませんし、
ラストも何となく読めてしまって驚きはありません。

前半の心理劇の部分を、
もう少しじっくりと描いて、
「誰が犯人なのかしら」
と観客が推理出来るような雰囲気になると、
ミステリーとしての深みが出たと思うのですが、
2年後と交錯させたり、
真相を小出しに明らかにしたりと、
小細工をし過ぎて却って失敗している、
という印象があります。

原稿がどうやって流出したのか、
という謎が1つの核になるのですが、
最初から「そんなの幾らでも機会があったでしょ」
という気分になるので、
それでサスペンスが盛り上がるという感じにならないのです。
ここは「絶対に地下シェルターから流出した」ということを、
観客に納得させるような説明が、
必要であったように思います。

これね、
9か国語というのが、
英語、中国語、デンマーク語、ドイツ語、イタリア語、
ギリシャ語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語
なんですよね。
中国以外は全てヨーロッパでしょ。
「インフェルノ」の時はどうだったのかしら。
何かヨーロッパ人の思考が垣間見えるようで、
ちょっと腹が立ちますよね。

そもそもフランス発の世界的ベストセラーなんて、
勿論ないわけではありませんが、
それほど聞かないでしょ。
それから後半で、
「オリエント急行殺人事件」の犯人は?
という台詞があって、
「〇〇です」とネタバレしているんですよね。
これもひどいな。

総じて「老害批判」みたいなテーマなんですよね。
それも底が浅くて釈然としません。

そんな訳でとても面白い設定の作品ではあったのですが、
色々と綻びがあって、
思ったほど盛り上がる映画にはなっていなかったように思います。

DVDか配信で充分かな。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「1917 命をかけた伝令」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1917.jpg
サム・メンデス監督による米英合作映画で、
1917年第一次大戦時の実話を元に、
前線に攻撃中止の命令を届けるために、
2人の若い兵隊がひたすら歩き走り続ける姿を、
全編ワンカットに見える高度な映像技巧で描いた作品です。

これはともかく映像が圧倒的です。
昔のワンカット撮影というのは、
そのままカットを本当に割らずに、
全てを準備してそのまま回した訳で、
フィルムが15分くらいで1巻となっていて、
その間はそのまま演じ続けるという、
オースン・ウェルズの「黒い罠」のオープニングとか、
ヒッチコックの「ロープ」などが有名で、
内容より技巧を楽しむという趣向です。
今でも三谷幸喜さんは、
時々そうした試みをしています。

ただ、今回の作品はそれとは全く違っていて、
見た目としては全編2時間近く、
全くカットを割らずに、
たった1台のカメラで、
物語を捉え続けているように見えます。
戦場を走る2人の兵隊に、
常に1人のカメラマンが寄り添っている、
というイメージです。
しかし、実際にそんなことが出来る訳はないので、
CGなどの特殊効果を駆使して、
つぎはぎで撮った画像を、
それらしく見せている訳です。

これは凄いところは確かに凄いのですね。
予告編にもある、
戦場を横走りで駆け抜ける長い移動ショットや、
オープニングの狭い塹壕の移動から、
荒野に空間が広がってゆく辺り、
また遠くの空での飛行機の空中戦から、
みるみるこちらに墜落する機体が接近するところなど、
これまでの映画では、
あまり実現することのなかった奇観です。

ただ、その一方で物語自体はかなり単調で、
画面のリズムを超えて、
観客の心が躍動するような感じがありません。
また、途中で主人公の意識が飛ぶところで、
画面もブラックアウトしてしまうでしょ。
これをしてしまうと、
明らかにワンカットの流れが途切れてしまうので、
その点もかなりまずいな、
というようには感じました。

これね、全ての場面が圧倒的に凄ければ、
物語など単調でもいいと思うのです。
ただ、一部の場面は素晴らしくても、
段取り的な場面も多くて、
映像自体にも結構単調さがありますよね。
それがまずいのではないかと思うのです。
たとえば、タルコフスキーの「ノスタルジア」とか、
話は意味不明で共感不能でも、
映像の美しさと完成度の高さは最初から最後まで圧倒的なので、
それだけで成立しているような映画ですよね。
でもこの作品はそこまで圧倒的ではなく、
物語的には単調なので、
その点がこの作品の満足度を、
それほど高くないものにしている理由であるように感じました。
この単調さはだた、
イギリス映画的な雰囲気でもあって、
日本人にはハードルの高い世界なのかな、
というようにも思います。

そんな訳で、
やや中途半端な映画に終わっているのが残念ですが、
映像成果としては画期的なものがあり、
控え目に言って、一見の価値はあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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動物性タンパク質の摂取と健康影響(2020年アメリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
動物性タンパク質と生命予後.jpg
2020年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
肉や魚といった動物性タンパク質の摂取量と、
心血管疾患リスクと生命予後との関連を検証した論文です。

ソーセージやベーコンのような加工肉を多く摂ることが、
心血管疾患のリスクを増やし、
死亡リスクも増加させるということは、
これまでの多くの疫学データにおいて、
ほぼ実証されている事項です。

ただ、加工肉以外の動物性蛋白源、
牛肉や豚肉などの赤身肉、鳥肉、貝を含む魚などに、
同じようなリスクがあるのかどうか、
というような点については、
未だ明らかではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカで施行された6つのコホート研究に含まれる、
トータル29682名の住民データを活用することで、
動物性タンパク質の摂取と健康との関係を検証しています。

加工肉はベーコンが13グラム(2枚)、
ホットドッグが45グラム(1本)、
サラミやソーセージは28グラム(1本)が、
1サービング(1人前)として計算されています。
赤身肉と鳥肉は1サービングが102グラム、
魚は1サービングが74グラムとなっています。

中央値で19.0年の観察期間において、
週に2サービングの加工肉を増やすことにより、
心血管疾患のリスクは7%(95%CI:1.04から1.11)、
同じように週に2サービングの赤身肉を増やすことにより、
心血管疾患のリスクは3%(95%CI:1.01から1.06)、
鳥肉を増やすことにより4%(95%CI:1.01から1.06)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で貝を含む魚を多く摂っても、
心血管疾患のリスクの増加は有意には認められませんでした。

総死亡のリスクについては、
週に2サービングの加工肉を増やすことにより、
総死亡のリスクは3%(95%CI:1.02から1.05)、
週に2サービングの赤身肉を増やすことにより、
総死亡のリスクは3%(95%CI:1.01から1.05)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で鳥肉や魚を多く摂っても、
総死亡のリスクの増加は有意には認められませんでした。

このように、今回の検証においては、
加工肉以外に赤身肉や鳥肉の摂取量増加も、
若干ながら心血管疾患のリスクの増加に繋がり、
加工肉と赤身肉の摂取量増加は、
総死亡リスクの増加にも結び付いていました。

しかし、そのリスク増加はそれほど大きなものではなく、
こうした食品は「食べ過ぎない」ということに力点を置いて、
上手に付き合うことが肝要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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牛乳の健康影響について(2020年の総説) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
牛乳と健康影響.jpg
2020年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
牛乳と乳製品と健康との関連についての総説です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

これも以前ご紹介したことのある、
2019年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの医療従事者を対象とした、
3つの大規模な疫学データを、
まとめて解析することにより、
登録時に心血管疾患や癌のない168153名の女性と、
49602名の男性を、
30年余という長期間観察しています。

その結果、
最も乳製品の量が少ない(平均して牛乳1日80ml程度)群と比較して、
1日平均280mlまでのグループでは、
乳製品の摂取量と総死亡のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
ただ、最も乳製品の摂取量が多い(平均して牛乳1日420ml)群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.04から1.10)
有意に増加していました。
ただ、個別のリスクでみると、
心血管疾患による死亡リスクも、
癌による死亡リスクも、
有意な差はありませんでした。

ここで乳製品の種類を分けて検討すると、
生乳は最も死亡リスクが高く、
その摂取が50ml増えるにつれ、
総死亡のリスクが11%(95%CI: 1.09から1.14)、
心血管疾患による死亡リスクが9%(95%CI:1.03から1.15)、
癌による死亡リスクが11%(95%CI: 1.06から1.17)、
それぞれ有意に増加していました。

ここで乳製品をナッツや豆類、
全粒穀物に同カロリーで置き換えると、
死亡リスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉に置き換えると、
死亡リスクはより増加する結果になりました。

要するに、
乳製品を多く摂ることは、
僅かながら生命予後に悪影響を与えていて、
その影響は牛乳で1日500mlくらいで明確になります。
特に乳製品の中でもリスクが高いのは生乳で、
チーズやヨーグルトでは明確なリスクの増加は確認されません。
そして、脂質と蛋白源として、
生乳をナッツや豆類に置き換えるとリスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉は、
より悪影響を与える食品であることも確認されています。

今回の総説の内容は、
こうしたこれまでの研究の積み重ねを整理したものです。

①成長発達に牛乳は必要か?
母乳での栄養が困難な場合には、
牛乳を主体とするミルクを使用することは、
お子さんが1歳未満であれば有効な方法です。
ただ、それ以降の年齢において、
牛乳が健康な成長や発達に必要である、
という科学的な根拠はありません。

通常の食事に加えて、
成長期に牛乳を多く摂取することで、
成長が促進され高身長になることが認められています。
これはその一部はバリン、ロイシン、イソロイシンといった、
牛乳に含まれる分枝鎖アミノ酸と、
関連するIGF1などの成長因子の働きにあると思われますが、
詳細は必ずしも明らかではありません。
また、牛乳による成長促進が、
健康においてメリットのあることであるのかどうかも、
まだ明らかではありません。
高身長は心血管疾患のリスクを低下させる一方で、
一部の癌や大腿骨頸部骨折、肺塞栓症などのリスクは増加させる、
という知見があるからです。

②骨折予防に牛乳は効果的か?
牛乳を飲み続けると健康に良いという考え方は、
骨の健康に必要なカルシウムを摂取するため、
という意味合いが大きいと思われます。
しかし、牛乳やカルシウムの摂取量が多い国々は、
最も大腿骨頚部骨折のリスクが高い、
という矛盾した現象が報告されています。
2007年のAm J Clin Nutr誌に掲載されたメタ解析の論文では、
カルシウムの摂取量と大腿骨頸部骨折のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
2011年のJ Bone Miner Res誌や、
2018年のBMC Public Health誌に掲載されたメタ解析でも、
牛乳や乳製品の摂取と大腿骨頸部骨折のリスクとの間には、
明確な関連は認められていません。
つまり、牛乳や乳製品を多く摂ることが、
骨折の予防に有効であるという根拠は、
実際にはあまり明確はものはないのです。

③牛乳と体重との関係
牛乳はダイエットに有効という考えがある一方、
牛乳に含まれる動物性脂肪には、
体重増加に結び付くリスクも指摘されています。
多くの研究において牛乳や乳製品の摂取と、
体重との間には明確な関連が認められていません。
ヨーグルトに関しては、
むしろダイエットに有効とする報告が、
複数認められていて、
これは腸内細菌叢などの調整作用によると考えられています。
理屈で言えば低脂肪乳の方が、
通常の生乳より体重増加のリスクは低そうですが、
臨床データにおいては明確な差は認められていません。

④牛乳と癌との関係
一部の国際的な比較データにおいて、
乳製品の摂取量が多いほど、
前立腺癌や乳癌のリスクが増加する、
という報告があります。
その理由として推測されているのは、
乳製品の摂取による血液中のIGF1濃度の増加です。
しかし、コホート研究においては、
前立腺癌、特に進行性で悪性度の高い前立腺癌と、
牛乳の摂取量との関連は認められていますが、
乳癌との関連は明確には認められていません。
乳製品全体の摂取量との関連では、
特に閉経後の女性において、
子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクが増加した、
という結果も報告されています。
一方でメタ解析の結果で牛乳の摂取が多いと、
大腸癌のリスクが低下するというデータも報告されています。
ただ、実際には癌のリスクはそれ以前長期の生活習慣と、
関連しているものですが、
こうした研究の多くは、
ある時点での乳製品の摂取量と癌のリスクを比較しただけのものなので、
それほど信頼性の高いデータではない、
という点は注意する必要があります。

⑤牛乳とアレルギー
牛乳タンパクに対するアレルギーは、
新生児の4%に認められるという報告があります。
牛乳の摂取がアトピー性皮膚炎を悪化させ、
喘息や食物アレルギーなどの原因になる可能性がある、
という報告もあります。
アトピー性皮膚炎の家族歴のある新生児を、
牛のミルクとタンパク加水分解物の人工ミルクに分けて、
10年以上観察したところ、
人工ミルク群の方がアレルギーの病気が少なかった、
という報告があります。
アレルギー素因があると、
牛乳の摂取によりアレルギー性疾患が、
誘発されるという可能性はあるようです。

⑥牛乳と糖尿病との関係
牛乳を小児期に飲むことで、
牛乳タンパクが膵臓の炎症を惹起して、
1型糖尿病のリスクになる、
という考え方があります。
しかし、牛乳の代わりに人工ミルクを使用した臨床試験では、
膵臓に対する自己抗体の産生に明確な差はなく、
そのリスクについては結論が出ていません。
2型糖尿病については乳製品の摂取はそのリスクを低下させる、
という報告が幾つかあります。
ただ、こちらも差はないとする報告があって一定していません。

以上のようなこれまでの文献的検討より、
牛乳や乳製品には多くの栄養上の利点がある一方、
それほど明確はものではないものの、
複数の病気のリスクを増加させる、
というような報告もあり、
乳製品を特別視して毎日の摂取を推奨するような栄養指導は、
必ずしも適切ではないと思われます。

大人になったら乳製品は、
なるべくヨーグルトやチーズを利用して、
牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めることが、
健康面では妥当な考え方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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