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牛乳の健康影響について(2020年の総説) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
牛乳と健康影響.jpg
2020年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
牛乳と乳製品と健康との関連についての総説です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

これも以前ご紹介したことのある、
2019年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの医療従事者を対象とした、
3つの大規模な疫学データを、
まとめて解析することにより、
登録時に心血管疾患や癌のない168153名の女性と、
49602名の男性を、
30年余という長期間観察しています。

その結果、
最も乳製品の量が少ない(平均して牛乳1日80ml程度)群と比較して、
1日平均280mlまでのグループでは、
乳製品の摂取量と総死亡のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
ただ、最も乳製品の摂取量が多い(平均して牛乳1日420ml)群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.04から1.10)
有意に増加していました。
ただ、個別のリスクでみると、
心血管疾患による死亡リスクも、
癌による死亡リスクも、
有意な差はありませんでした。

ここで乳製品の種類を分けて検討すると、
生乳は最も死亡リスクが高く、
その摂取が50ml増えるにつれ、
総死亡のリスクが11%(95%CI: 1.09から1.14)、
心血管疾患による死亡リスクが9%(95%CI:1.03から1.15)、
癌による死亡リスクが11%(95%CI: 1.06から1.17)、
それぞれ有意に増加していました。

ここで乳製品をナッツや豆類、
全粒穀物に同カロリーで置き換えると、
死亡リスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉に置き換えると、
死亡リスクはより増加する結果になりました。

要するに、
乳製品を多く摂ることは、
僅かながら生命予後に悪影響を与えていて、
その影響は牛乳で1日500mlくらいで明確になります。
特に乳製品の中でもリスクが高いのは生乳で、
チーズやヨーグルトでは明確なリスクの増加は確認されません。
そして、脂質と蛋白源として、
生乳をナッツや豆類に置き換えるとリスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉は、
より悪影響を与える食品であることも確認されています。

今回の総説の内容は、
こうしたこれまでの研究の積み重ねを整理したものです。

①成長発達に牛乳は必要か?
母乳での栄養が困難な場合には、
牛乳を主体とするミルクを使用することは、
お子さんが1歳未満であれば有効な方法です。
ただ、それ以降の年齢において、
牛乳が健康な成長や発達に必要である、
という科学的な根拠はありません。

通常の食事に加えて、
成長期に牛乳を多く摂取することで、
成長が促進され高身長になることが認められています。
これはその一部はバリン、ロイシン、イソロイシンといった、
牛乳に含まれる分枝鎖アミノ酸と、
関連するIGF1などの成長因子の働きにあると思われますが、
詳細は必ずしも明らかではありません。
また、牛乳による成長促進が、
健康においてメリットのあることであるのかどうかも、
まだ明らかではありません。
高身長は心血管疾患のリスクを低下させる一方で、
一部の癌や大腿骨頸部骨折、肺塞栓症などのリスクは増加させる、
という知見があるからです。

②骨折予防に牛乳は効果的か?
牛乳を飲み続けると健康に良いという考え方は、
骨の健康に必要なカルシウムを摂取するため、
という意味合いが大きいと思われます。
しかし、牛乳やカルシウムの摂取量が多い国々は、
最も大腿骨頚部骨折のリスクが高い、
という矛盾した現象が報告されています。
2007年のAm J Clin Nutr誌に掲載されたメタ解析の論文では、
カルシウムの摂取量と大腿骨頸部骨折のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
2011年のJ Bone Miner Res誌や、
2018年のBMC Public Health誌に掲載されたメタ解析でも、
牛乳や乳製品の摂取と大腿骨頸部骨折のリスクとの間には、
明確な関連は認められていません。
つまり、牛乳や乳製品を多く摂ることが、
骨折の予防に有効であるという根拠は、
実際にはあまり明確はものはないのです。

③牛乳と体重との関係
牛乳はダイエットに有効という考えがある一方、
牛乳に含まれる動物性脂肪には、
体重増加に結び付くリスクも指摘されています。
多くの研究において牛乳や乳製品の摂取と、
体重との間には明確な関連が認められていません。
ヨーグルトに関しては、
むしろダイエットに有効とする報告が、
複数認められていて、
これは腸内細菌叢などの調整作用によると考えられています。
理屈で言えば低脂肪乳の方が、
通常の生乳より体重増加のリスクは低そうですが、
臨床データにおいては明確な差は認められていません。

④牛乳と癌との関係
一部の国際的な比較データにおいて、
乳製品の摂取量が多いほど、
前立腺癌や乳癌のリスクが増加する、
という報告があります。
その理由として推測されているのは、
乳製品の摂取による血液中のIGF1濃度の増加です。
しかし、コホート研究においては、
前立腺癌、特に進行性で悪性度の高い前立腺癌と、
牛乳の摂取量との関連は認められていますが、
乳癌との関連は明確には認められていません。
乳製品全体の摂取量との関連では、
特に閉経後の女性において、
子宮体癌(子宮内膜癌)のリスクが増加した、
という結果も報告されています。
一方でメタ解析の結果で牛乳の摂取が多いと、
大腸癌のリスクが低下するというデータも報告されています。
ただ、実際には癌のリスクはそれ以前長期の生活習慣と、
関連しているものですが、
こうした研究の多くは、
ある時点での乳製品の摂取量と癌のリスクを比較しただけのものなので、
それほど信頼性の高いデータではない、
という点は注意する必要があります。

⑤牛乳とアレルギー
牛乳タンパクに対するアレルギーは、
新生児の4%に認められるという報告があります。
牛乳の摂取がアトピー性皮膚炎を悪化させ、
喘息や食物アレルギーなどの原因になる可能性がある、
という報告もあります。
アトピー性皮膚炎の家族歴のある新生児を、
牛のミルクとタンパク加水分解物の人工ミルクに分けて、
10年以上観察したところ、
人工ミルク群の方がアレルギーの病気が少なかった、
という報告があります。
アレルギー素因があると、
牛乳の摂取によりアレルギー性疾患が、
誘発されるという可能性はあるようです。

⑥牛乳と糖尿病との関係
牛乳を小児期に飲むことで、
牛乳タンパクが膵臓の炎症を惹起して、
1型糖尿病のリスクになる、
という考え方があります。
しかし、牛乳の代わりに人工ミルクを使用した臨床試験では、
膵臓に対する自己抗体の産生に明確な差はなく、
そのリスクについては結論が出ていません。
2型糖尿病については乳製品の摂取はそのリスクを低下させる、
という報告が幾つかあります。
ただ、こちらも差はないとする報告があって一定していません。

以上のようなこれまでの文献的検討より、
牛乳や乳製品には多くの栄養上の利点がある一方、
それほど明確はものではないものの、
複数の病気のリスクを増加させる、
というような報告もあり、
乳製品を特別視して毎日の摂取を推奨するような栄養指導は、
必ずしも適切ではないと思われます。

大人になったら乳製品は、
なるべくヨーグルトやチーズを利用して、
牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めることが、
健康面では妥当な考え方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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