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ストレス潰瘍へのプロトンポンプ阻害剤とH2ブロッカーの差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIとH2ブロッカーの差.jpg
2020年のJAMA誌に掲載された、
2種類の胃薬のストレス潰瘍予防効果と生命予後を、
比較検証した論文です。

ストレスで胃が痛くなるという経験は、
多くの方がされていると思います。
実際にストレスは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となります。

そのため、
強いストレスが掛かるような状況においては、
予防的に胃酸を抑えるような胃薬が処方されます。

その代表は重病で集中治療室に入院している、
患者さんのようなケースです。

上記論文の記載によれば、
海外データで集中治療室で治療を受けている人の、
2.5%は胃潰瘍などの消化管出血を起こし、
その予防のためにそうした患者の7割では、
胃酸を抑えるような胃薬が処方されています。

現行使用頻度が最も多いのは、
プロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬です。

プロトンポンプ阻害剤は強力に胃酸を抑えるような作用があり、
そのために抗血小板剤の使用時など、
通常より消化管出血を起こしやすいような状態において、
使用することにより消化管出血の予防効果のあることが、
信頼のおける臨床試験において確認されています。

一方でプロトンポンプ阻害剤は、
多くの有害事象や副作用のある薬でもあり、
その中には肺炎リスクの増加や、
デフィシル菌による難治性の大腸炎の増加、
など、集中治療室においても、
看過できない疾患のリスク増加が報告されています。

このため、
潰瘍予防効果においては、
プロトンポンプ阻害剤よりやや劣っていても、
トータルな患者さんへのリスクを勘案して、
H2ブロッカーという胃酸抑制剤を、
代わりに使用するという考えもあります。

そもそもプロトンポンプ阻害剤の潰瘍予防の有効性も、
集中治療室に入院するような重症の患者さんにおいて、
介入試験のような厳密な方法で、
これまでに検証されたことはありませんでした。

そこで今回の研究では、
世界5か国の50カ所の集中治療室において、
入院から24時間以内に人工呼吸器を装着した患者、
トータル26982名を登録し、
施設毎に消化管出血の予防として、
プロトンポンプ阻害剤かH2ブロッカーのいずれかを推奨し、
一定期間後に施設の推奨薬剤を入れ替えるという手法で、
両者の薬剤の開始後90日の時点での生命予後と、
消化管出血の発症率を比較検証しています。

その結果、
観察期間中に死亡したのは、
プロトンポンプ阻害剤推奨群では18.3%に対して、
H2ブロッカー推奨群では17.0%で、
この結果はプロトンポンプ阻害剤推奨施設でやや多かったものの、
有意な差はないと判断されました。
臨床的に意味のある上部消化管出血は、
プロトンポンプ推奨群では1.3%に対して、
H2ブロッカー推奨群では1.8%で、
プロトンポンプ阻害剤はH2ブロッカーと比較して、
上部消化管出血のリスクを27%(95%CI:0.57から0.92)、
有意に低下させていました。
デフィシル菌の感染症や入院期間の長さには、
両群で明確な差は認められませんでした。

この研究ではプロトンポンプ推奨施設でも、
主治医の判断でH2ブロッカーが使用可能なため、
プロトンポンプ推奨群の4.1%はH2ブロッカーを使用し、
H2ブロッカー推奨群の20.1%は、
実際にはプロトンポンプ阻害剤を使用していました。

従って、そのバイアスが、
少なからず結果に影響していることは否定出来ませんが、
プロトンポンプ阻害剤の方が潰瘍予防効果には優れていても、
生命予後については若干劣っている可能性もある、
という今回の結果はとても興味深く、
今後また試験のデザインを変えて、
同種の研究が行われることが望ましいと思いますし、
消化管出血予防にどの薬剤が適切かという問題は、
今後再検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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