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ビタミンB12濃度と生命予後(オランダの住民研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は何もなければちょっとフリーの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス肺炎138例報告.jpg
2010年のJAMA Network Open誌に掲載された、
血液のビタミンB12濃度と死亡リスクとの関連についての論文です。

ビタミンB12は、中にコバルトという金属原子を含む、
巨大で複雑な構造の化合物です。
これを作れるのは、一部の微生物だけです。
微生物が合成したビタミンB12は、
動物の組織に取り込まれます。

従ってビタミンB12は、
原則として動物性食品(肉、魚、貝と乳製品)、
にしか含まれていません。
普通ビタミンというと、
何となく野菜に入っているようなイメージがありますね。
でも、このB12に関しては、
野菜や果物には一切入ってはいないのです。
菜食主義者がビタミンB12の不足で、
貧血や神経障害になることがあるのは、
このためですね。

ビタミンB12は高齢者で不足し易い、
と言われています。
それは、ビタミンB12が腸から吸収される仕組みに、
その原因があります。
ビタミンB12は、主に肉に含まれています。
肉の中にがっちり結び付いたビタミンは、
胃酸の働きによって、分離されます。
そして、胃から出る「内因子」と言われる蛋白質に、
代わりにくっついて、
腸から吸収されるのです。
高齢者では、胃酸の出る量は一般に少なくなっています。
胃の粘膜も萎縮して薄くなっています。
すると、肉がうまく分解されなくて、
B12が出てこなかったり、
出てきても、内因子が少なくてうまく吸収されないことが、
起こり易いのです。
「内因子」が足りなくて、
ビタミンが吸収されないタイプの貧血を、
特別に「悪性貧血」と呼んでいますね。

ここまで、よろしいでしょうか。

さて、1日に必要なビタミンB12の量はどのくらいでしょうか。

おおよそ2~3μgと言われています。

これはね、本当にちょっぴりの量なんです。
かなり食の細い方でも、
肉や魚や乳製品を一切摂らない、というのでない限り、
不足することは、吸収に問題がなければ、
まず考えられません。

人間の身体の中で、
ビタミンB12は何処にどれだけあるのでしょうか。

これはちょっと、資料によって、
記載がかなり違います。
血液の中にあるB12は全体の中では少数で、
大部分は肝臓の中に備蓄されています。
ある日本の文献では、1000μgから5000μgとされていますが、
その出典は明らかでありません。
「ハリソン内科学」の記載は、
2000μgですが、それと同じ量が他の組織に分布している、
とあります。
「メルクマニュアル」には、
3000μgから10000μgが肝臓に備蓄されている、
と書かれています。
これだけ備蓄量に差があるのは、
元々の根拠となるデータが、
あまり正確なものではないことを示している、
と僕は思います。
要するに、あまりよく分かってはいないのです。

このあやふやな備蓄量を改善するために、
ビタミンB12欠乏による貧血の治療では、
8000μgから12000μgものビタミンB12を、
注射し続けるように、
との治療方針が決められているのです。

実際には高度の欠乏症以外は、
注射によるビタミンB12の補充は必要がありません。

殆どの場合経口のビタミン剤(メコバラミンなど)で充分ですし、
それでも使用中の血液のビタミンB12濃度は、
基準値を大きく上回ることが多いのです。

通常ビタミンB12の上限量は設定されていません。

これはビタミンB12が水溶性のビタミンで、
身体で余計な部分は尿から速やかに排泄されるためです。

しかし、腎不全など腎機能が高度に低下した状態であれば、
また話は別です。

実際に透析を受けている腎不全の患者さんを対象とした研究では、
血液のビタミンB12濃度が高いほど、
総死亡のリスクが増加する、
という関係が指摘されています。
ビタミンB12は葉酸と相互に関連していますが、
糖尿病性腎症の患者さんにおいては、
ビタミンB12と葉酸のサプリメントを使用すると、
腎機能の低下がより早く進行し、
心血管疾患のリスクも増加する、
というような報告もあります。

それでは、腎機能がそこまで低下していない、
一般の高齢者に対してビタミンB12を使用することの、
問題はどの程度あるのでしょうか?

現状それに対する明確な回答は存在していません。

今回の研究はオランダにおいて、
腎機能や心血管疾患に関する疫学データを活用して、
血液中のビタミンB12濃度と総死亡リスクとの関連を検証しています。

平均年齢が53.5歳の5571名の一般住民を、
中央値で8.2年の経過観察を行ったところ、
血液のビタミンB12濃度の中央値は394.42pg/mLで、
血液濃度が最も低い338.85pg/mL未満と比較して、
最も多い455.41pg/mLを超える場合には、
総死亡のリスクは1.85倍(95%CI: 1.16から2.97)と、
ビタミンB12濃度が高いほど、
総死亡のリスクは有意に増加していました。

この現象の原因は現時点では不明ですが、
これまでの知見からは腎機能低下と関連している可能性が高く、
腎機能低下の想定される高齢者では、
安易なビタミンB12のサプリメントなどでの使用は、
より慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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