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血液の抗体測定による新型コロナウイルス診断法について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナウイルスの抗体測定.jpg
これは2020年3月18日にmedRxivに掲載された査読前の論文です。
medRxivというのはまだ査読前の論文を保存しているサイトで、
今回のものはその重要性から、
その時点で公開されているものです。

内容は患者さんの血液で、
今回の新型コロナウイルス感染症の診断を行う、
というもので、
その測定法の詳細と、
そのデータが説明されています。

現状の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の確定診断には、
咽頭や鼻腔からの検体採取による、
PCR検査が使用されています。

ただ、この検査は陽性であれば、
新型コロナウイルスの感染自体は証明されますが、
それが病気であるとは言えません。
不顕性感染や持続感染と思われるような、
長期の陽性事例が存在しているからです。

また、陰性であっても、
それは新型コロナウイルス感染症でないとは言えません。
この検査は喀痰や気管支肺胞洗浄液などの下気道の検体を用いないと、
陽性率が低いことが分かっていますし、
下気道の検体で検査をしたとしても、
100%検出されるというものではないからです。

通常こうしたPCRによる感染症の診断検査は、
感染症の症状(たとえば肺炎など)が診断された患者さんに対して、
その原因を追究するために行なってこそ、
意味のあるものですが、
現状の新型コロナウイルス感染症に対しては、
症状に関わらず、病気であるかないかの診断に、
用いているという点に大きな錯誤がある訳です。

検体を採取するに際して、
周辺への感染のリスクが高いと言う点も、
この検査の大きな問題点です。

それでは、
新型コロナウイルス感染症の感染の有無の確認のために、
もっと有用な検査はないのでしょうか?

その1つの候補として研究されているのが、
血液での抗体価の測定です。

多くの感染症における病原体の侵入に際して、
人間は免疫と言う仕組みで対抗します。
まず自然免疫という仕組みが働いて、
侵入した病原体を直ちに攻撃し、
次にその病原体に合わせた攻撃をする、
獲得免疫と言う仕組みが働きます。
この時に産生されるのが、
その病原体に結合するようにデザインされた、
抗体というタンパク質です。

抗体にもその時期や役割により種類がありますが、
概ね病原体の侵入から14日程度で、
中和抗体と言って、病原体の増殖を阻止するような、
抗体が産生されると、
それにより感染は収束に向かい、
もう一度同じ病原体が身体を襲った際には、
その病原体に特化した抗体が速やかに増加して、
身体を感染から守ってくれるのです。

これが獲得免疫の仕組みです。

さて、SARSコロナウイルスの場合、
ウイルスの表面の突起(スパイク)に対する抗体が、
一定の中和抗体としての働きをしていて、
症状出現後14日程度で上昇し、
その後少なくとも1年は抗体価が維持される、
ということが分かっています。

それでは、今回の新型コロナウイルスでも、
同様の抗体が認められるのでしょうか?

今回の研究では、
新型コロナウイルスの突起の部分の、
人間の細胞に結合する部位の抗原タンパク質と、
突起の部位全体を合成し、
それに対して身体が産生する抗体の測定系(ELISA法)を確立しています。
検出されている抗体は単独ではなく、
IgG、IgM、IgAのサブクラスの抗体が、
いずれも反応はしているようです。

そして、風邪症候群の原因となる別個のコロナウイルスに感染した検体と、
新型コロナウイル流行前に採取された多くの血液サンプル、
デング熱など他のウイルス感染後の検体、
今回の新型コロナウイルスに感染した、
3名の患者の時期の違う4検体に対してこの検査を施行、
その結果を比較検証しています。
その結果、
風邪症候群のコロナウイルスを含む多くの検体において、
今回の抗体測定は陰性となった一方で、
新型コロナウイルス感染症の患者の検体では、
発症の3日後という早期から、
抗体は陽性として検出されています。

SARSやMERSの原因ウイルスでは検査されていませんが、
2004年に同定され、
新型コロナウイルスと同じACE2に結合して感染する、
NL63というコロナウイルスの感染者の検体でも、
今回の検査は陰性と判定されていることから、
一部の新型コロナウイルスのみで検査が陽性となることは、
ほぼ間違いないと考えられました。

この抗体測定系は一部の研究機関などでは、
既に活用されていて、
患者の血液の採取により迅速に測定が可能です。

今後この測定系、もしくは同種の測定系の、迅速キットが、
現行の採取のリスクが高く、偽陰性率も高いPCRに代わって、
新型コロナウイルス感染症のスクリーニングの、
第一選択の検査となることはほぼ間違いがなさそうです。

その意味合いはPCRとは異なり、
陽性はそのウイルスに感染しているか、
その既往がある場合に陽性となります。
治ってからしか陽性にならないのであれば診断には使えませんが、
今回のデータを見る限り、
発症から3から5日程度のうちには陽性となるので、
症状のない時点で陽性であれば、
以前の感染で既に免疫があるか不顕性感染である、
ということを示し、
症状出現から5日以降で陽性であれば、
新型コロナウイルス感染であるとほぼ診断出来るので、
その有用性は現行のPCRより高いと思います。

また、微量の血液採取でその場で確認が可能なので、
その安全性は格段に高く、
頻回の検査で経過を追うことも出来るので、
施行者にもストレスがありません。
上手く使用すれば経過観察や隔離期間を、
格段に短縮することが出来ます。

新型コロナウイルス感染症については暗い話題が多いのですが、
ワクチン開発はともかくとして、
治療や予防法と抗体測定による診断の効率化など、
ここ数ヶ月のうちには、
格段に医療環境が整備されることはほぼ間違いがなく、
感染自体の収束はまだ先の話であるとしても、
現在の混迷はかなり解消することが予想されると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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BCGワクチンの自然免疫賦活のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BCGが免疫を高める.jpg
2018年のCell Host & Microbe誌に掲載された、
BCGワクチンが結核以外の多くの感染症に有効なメカニズムを、
少人数ながら厳密な介入試験で検証した論文です。

後ほど説明しますが、
この試験結果などをもとにして、
現在新型コロナウイルス感染症が流行しているオランダなどで、
医療従事者を対象とした臨床試験が実施されています。
論文の内容と新型コロナウイルス感染症には何ら関連はありませんが、
BCGワクチンがその感染予防や重症化予防に、
一定の有効性があるのでは、という期待から、
話題になっているものです。

BCGワクチンというのは、
牛の結核菌由来の生ワクチンで、
結核の予防ワクチンとして開発されました。

そのまま他のワクチンのように接種すると、
皮膚が腫れあがったり水疱が出来るような副反応が強いので、
日本では独特の剣山のような器具を用いて、
複数の針を皮膚に押し当て、
判子を押すようにして注射する方法が開発され使用されています。
ただ、これは日本とその器具を輸入して使用している、
一部の国のみの接種法です。

日本では定期接種として、
1歳未満のお子さんの時期に接種が行われていますが、
こうした接種スケジュールも、
一部の結核の流行国以外では行われていません。

それはBCGを一旦打ってしまうと、
結核菌に対する身体の免疫が活性化されるので、
結核に実際に感染した際の診断が難しくなってしまうことと、
このワクチンの成人の結核の予防効果は、
充分に確認されていない、
という点がその主な理由です。

BCGワクチンは牛の結核菌を使用するという、
古い製法によるワクチンで副反応が強く、
その効果も現代の目で見るとそれほど高いものではないのです。
しかし、その後BCGを超える結核予防ワクチンが、
登場していないこともまた事実で、
そのためにやや消極的に使用されている、
というのが実際である訳です。

ところが…

BCGワクチンには、
結核予防以外に有効性があるのでは、
という見解が、
最近相次いで報告されるようになりました。

その幾つかは以前ブログでもご紹介しています。

複数の疫学研究において、
出生時にBCGワクチンを接種することにより、
子供の死亡リスクが減少する、
という報告が存在しています。
その後の解析によりこれは結核の予防効果のためではなく、
お子さんの時期の敗血症や呼吸器の感染症が、
トータルに減少したためと考えられています。

動物実験においても、
BCG接種がその後の死亡リスクを低下させ、
結核以外の細菌感染を予防するという結果が報告されています。

BCGはまた、
癌に対して非特異的免疫療法としても、
その効果が確認されています。
膀胱癌への補助的治療としてのBCGの効果は、
世界的に評価されている知見です。
更に疫学データにおいては、
出生時のBCGワクチンの接種が、
肺癌のリスクを低下させたという知見もあります。

それでは、
何故結核ワクチンのBCGが、
他の多くの感染症や癌に対して効果があるのでしょうか?

免疫には、
対象を選ばず相手を攻撃する自然免疫と、
相手に合わせて抗体を産生し、
次に同じ病原体の攻撃を受けた際には、
速やかに対応する獲得免疫という2種類があります。

これまでの研究により、
BCGは自然免疫の賦活による効果と、
獲得免疫の賦活による効果の、
両方があると想定されています。

しかし、特に自然免疫の賦活作用の詳細については、
今回ご紹介する論文の以前には、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究はオランダにおいて、
19から37歳の健康なボランティア30名を、
くじ引きで2つに分けると、
本人にも担当者にも分からないように、
一方はBCGワクチンの接種を行い、
他方は偽ワクチンの接種を行って、
その1ヶ月後に黄熱ワクチンの接種を施行、
その前後の免疫系の賦活作用を、
BCGワクチン接種のあるなしで比較検証しています。

日本では認められないと思われる、
かなり人体実験に近い研究ですが、
厳密な方法で人間で検証されているという点がポイントです。
黄熱ワクチンは生ワクチンで、
要するに弱いものの黄熱ウイルスに感染させ、
その反応を見ているのです。

その結果、
BCGワクチンを接種することにより、
自然免疫で重要な役割を果たしている単球(Monocyte)において、
塩基配列の変化を伴わない性質変化(reprogramming)が起こり、
接種されたワクチン株の黄熱ウイルスは、
より速やかに排除され、
BCG接種者の単球からは、
自然免疫で重要な役割を担うサイトカインIL-1βの産生が、
高まっていることが確認されました。

つまり、
BCG接種に伴って、
単球の免疫機能が強化されることにより、
自然免疫が強化されて免疫力が高まることが確認されたのです。

この結果を受け、
オランダではより多くの被験者にBCGの接種を行い、
その後の感染症の予防効果を確認するための、
臨床試験の実施が予定されていたのですが、
新型コロナコロナウイルス感染の拡大を受け、
4カ国共同での臨床試験が開始されています。

オランダでは3月の4週目より、
先陣を切って1000名の医療従事者に、
BCGもしくは偽ワクチンを接種するという試験が始まり、
オーストラリアでも同様のプロトコールの試験が、
ギリシャでは高齢者を対象とした臨床試験が開始されるなど、
ターゲットはそれ以前の通常の感染症に対するものから、
明らかに新型コロナウイルスにターゲットを絞ったものに、
計画は変更されて実施されているのです。

免疫を高めて感染に打ち勝つというのは、
お題目としては誰でも言っていることですが、
具体的にそのために有効な方法は何か、
ということではあまり具体策はありませんでした。
今回のBCG接種はその意味で、
明確に自然免疫を賦活するという有効性があり、
新型コロナウイルスに特化したものではありませんが、
その有効性には期待が持てるというようには思います。

ただ、これはあくまで補助的なものなので、
現状の日本のBCG定期接種の意義が、
確認されたという部分はあるものの、
追加のBCG接種に意義があるという根拠は現時点ではなく、
現状は慎重に今後の研究の進捗を見守る必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「一度死んでみた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
1日家に籠もっている予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
一度死んでみた.jpg
これはフジテレビと松竹の映画で、
監督はCMディレクターで「三太郎」シリーズの人ですから、
本格的な映画ではないのね、
というようには予め思って出掛けました。

朝の時間帯に、
チョイスは「ハーレクイン」と「弥生、三月」と、
この作品しかなく、
どれも積極的に見たいとは思えないので、
色々と迷って、
最終的にはネットでの評価が、
結構高かったのでこちらにしました。

ただ、観終わってみると、
ほぼほぼステマだったということが分かりました。

これね、
昔ハリウッドが得意にした、
ハートウォーミングコメディなんですね。
「天国からのチャンピオン」みたいな感じ。
オリジナルの台本で、
結構伏線の回収に智恵を絞って、
手を掛けて作られていると思います。
上映時間が93分と短いのも、
昔の映画が90分くらいだったのを、
お手本にしているのだと思います。

ただ、細部に拘っている割に、
肝心の物語の骨格自体は弱いかな。
主人公に意地悪をする悪人側が、
ボスが嶋田久作さんじゃ、如何にも弱いでしょ。
これじゃハラハラ出来ないよね。
これが古田新太さんなら、
もうちょっと盛り上がったのではないかしら。

多分、親子の情愛がポイントなので、
それほど展開をスリリングにしていないのだと思うのですが、
肝心の広瀬すずさんが、
今回は単調で今ひとつでしたね。
デスメタルも迫力はなかったし。
あの首振りのやる気のなさはどうなのかな、
落差がきちんと出せていないので、
ラストも盛り上がらなかったのだと思うのです。

フジテレビ印の映画は最近悪くないので、
それなりに期待はしたのですが、
今回は今ひとつであったように思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「デッド・ドント・ダイ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
デッドドントダイ.jpg
ジム・ジャームッシュ監督の新作は、
70年代テイストのゾンビ映画で、
いつも通り真面目なのかふざけているのか分からない、
オフ・ビートなタッチは健在です。

ジャームッシュ監督というと、
2017年日本公開の「パターソン」が大傑作で、
その年のぶっちぎりのマイベストでした。

ただ、ジャームッシュ監督の本領は、
矢張りあの感動というよりは「すかし」だと思うので、
今回の作品は監督の通常運転の水準作、
という感じで鑑賞しました。

アメリカの田舎町にある日ゾンビが発生し、
町を飲み込んで破滅させてゆきます。

映像は粒子の粗い暗い画面で、
70年代に粗製乱造された低予算ホラー映画を意識しています。
内容自体もエネルギー開発で地軸がずれ、
死者が復活するというデタラメ科学や、
墓地からゾロゾロゾンビが現れるビジュアル、
町中に災厄が広がる段取りなども、
かつての低予算ホラー映画そのものです。
あまりネタバレは避けたいので細かくは触れませんが、
SF的設定がクロスするのも、
当時比較的良くあった趣向です。

前半はじっくり時間を掛けて、
ゾンビ出現前の町の住民達の描写を、
ジャームッシュ得意の人物スケッチとして描いています。
そして後半になるとゾンビがじゃんじゃん出現し、
見せ場満載の描写が続きます。
ただ、それほど目新しい感じの描写はありません。
CGなども使ってはいますが、
基本は70年代から80年代のゾンビ映画の描写を、
なぞっているという感じです。

それではこの映画はどういう意図で作られたのかしら?

単純に70年代のゾンビ映画を再現したかったのか、
と言うと、
多分半分くらいはその思いがあったのではないかと思うのですね。
ただ、現代の目からそれを茶化しているような部分もあり、
監督の名前をキャストが口にするような、
メタフィクション的な展開もあります。
ゾンビは結局、生きている時の物に対する執着が、
そのまま死後も続いているので、
物質文明批判なのかしら、
というように最後まで観ると思えなくもありません。

ただ、全ては結局はモヤっとしていて、
正体不明のような部分が残ります。

この映画を楽しめるかどうかは、
その宙ぶらりんな感じ、
真面目なのか不真面目なのか分からないという感じを、
楽しめるかどうかに掛かっている、
という気がします。

キャストはやや過剰なほど豪華です。
特異なキャラがゾロゾロと登場しますが、
僕の好みは何と言ってもイギリスの怪優ティルダ・スウィントンで、
男女を問わず演じ分けるばかりか、
魔女からエスパー、ヒーローから怪物まで、
涼しい顔で演じるカリスマですが、
今回は柔道着みたいな衣装に身を包んで、
日本刀でバッサバッサとゾンビの首を刎ねる艶姿には、
唖然として見惚れるしかありませんでした。

そんな訳で個人的には結構楽しめましたが、
万人向きではないことは確かで、
ゾンビ映画やホラーのファン、
ジャームッシュのまったり感が好きな方にはお勧めですが、
たまに映画でも観ようか、という向きには、
とてもお勧めは出来ない1本です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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イブプロフェンのACE2活性化作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や保育園の健診には廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イブプロフェンとACE2.jpg
2015年のCardiology誌に掲載された、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンとACE2との関連についての、
糖尿病のネズミを使用した動物実験の論文です。

イブプロフェンとACE2との関連については、
Lancetの呼吸器専門誌の寄稿記事にその記載があり、
イブプロフェンがACE2を増加させて、
それが感染にACE2との結合を必要とする、
新型コロナウイルスの感染を起こりやすくする可能性がある、
という趣旨の記載になっています。

ただ、その根拠となる知見は引用されておらず、
その詳細はその記事には一切書かれていません。

それでPubMedで検索してみたところ、
唯一引っかかった文献がこれでした。

掲載されたCardiology誌は、
僕も以前一度論文を投稿し掲載されたことがありますが、
一応査読はあるものの、
それほどレベルの高い医学誌ではありません。

従って、最初に結論だけ言えば、
イブプロフェンがACE2を増加させるというのは、
それほど科学的に実証された事実とは言えないのです。

レニン・アンジオテンシン系は、
身体に水とナトリウムを保持するためのシステムですが、
その働きがバランスを崩れて過剰となることが、
高血圧や糖尿病ではしばしば認められています。
その仕組みの中で重要な役割を果たしている酵素がACEで、
ACEはアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換することにより、
レニン・アンジオテンシン系を活性化します。
それに拮抗するような働きをしているのがACE2で、
こちらは逆にアンジオテンシンⅡを不活化します。
アンジオテンシンⅡは血管を収縮させて血圧を上げ、
臓器の繊維化を促進して、
心肥大や肝硬変などの誘因となりますから、
その意味ではACEは生活習慣病の臓器障害の悪玉で、
ACE2は善玉という言い方も出来るのです。

今回の論文では、
1型糖尿病のモデル動物のネズミを利用して、
イブプロフェンの8週間の使用が、
心臓の繊維化の進行を予防するかどうかを検証しています。

その結果、
イブプロフェンの使用により、
糖尿病のネズミの心臓の筋肉の繊維化は抑制され、
同時にACE2の発現が促進されていました。

このことは、
イブプロフェンが何等かのメカニズムにより、
ACE2の発現を増加させ、
それがアンジオテンシンⅡによる繊維化を抑制して、
臓器障害の進行を食い止めるという可能性を示唆しているのです。

これはイブプロフェンの身体に良い働きを示したものですが、
それが皮肉なことに今回、
新型コロナウイルス感染のなりやすさとして、
問題になっている訳です。

ただ、この研究ではイブプロフェンは、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の代表として選ばれているだけで、
イブプロフェンのみにそうした作用があるとは言えませんし、
ACE2には肺障害を予防するような働きもあるので、
その発現促進が、
感染の悪化に繋がるという根拠も現時点ではないのです。

高血圧や糖尿病の患者さんでは、
新型コロナウイルス感染症の重症化率が高く、
その理由の仮説として、
薬剤によるACE2増加が取り上げられたのですが、
そもそも糖尿病や高血圧では、
バランス的にACE2活性は低下していて、
それが新型コロナウイルス感染の重症化に繋がっている、
という正反対の説明も、
また成り立つのです。

もともと臨床的なデータはないのですから、
この問題をこれ以上現時点で捻りまわすのは、
あまり建設的ではないという気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス肺炎のARDSへの進展とその特徴 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ARDSとコロナウイルス.jpg
JAMA Internal Medicine誌に2020年3月13日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス肺炎の中国の単独施設における、
201名の患者の解析です。

その進展はともかく目まぐるしいので、
やや周回遅れの感じもするデータですが、
記録のためにまとめておきます。

これは武漢市金銀潭病院(Wuhan Jinyintan Hospital)での、
2019年12月25日から2020年1月20日に新型コロナウイルス肺炎と診断された、
201例の入院事例をまとめて解析したものです。

ここは武漢市での初期治療に当たった病院で、
1月29日のLancet誌には、
2020年1月1日から20日の入院事例99例をまとめた論文が、
既に掲載されています。

今回の論文は独立したものと言うより、
そのLancet論文のアップデート版とでも言うべきもので、
事例はより増え、観察期間も2月13日までと延長されています。

201例の肺炎事例の年齢の中央値は51歳で、
全体の63.7%に当たる128名が男性です。

イタリアのデータでも6割が男性となっていますから、
この病気がやや男性に多く発症している、
ということはほぼ間違いがなさそうです。

ただ、当初言われていたほどの性差はなく、
その意味合いも現時点では不明です。

このうちの41.8%に当たる84名が、
高度の呼吸不全である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、
発症した84名のうち52.4%に当たる44名が死亡しています。
以前のLancetの論文では死亡は11名でしたから、
3週間弱の間に死亡者は急増していることが分かります。

ここでARDSやそれによる死亡のリスクと関連のある因子をみると、
65歳以上の高齢であることは、
ARDSに移行するリスクを3.26倍(95%CI: 2.08から5.11)、
死亡するリスクを6.17倍(95%CI: 3.26から11.67)、
それぞれ有意に増加させていました。
白血球減少、血液のLDHやDダイマーも高値も、
ARDSや死亡のリスクを増加させる因子となっていました。
一方で39度以上の高熱が出た患者さんはそうでない場合と比較して、
ARDSに移行するリスクは1.77倍(95%CI:1.11から2.84)と増加していましたが、
死亡のリスクは59%(95%CI: 0.21から0.82)と有意に低下していました。
ARDSの患者さんのうち、
ステロイドのメチルプレドニゾロンを使用したケースでは、
死亡のリスクは62%(95%CI: 0.20から0.72)有意に低下していました。

この論文ではステロイド治療に有効性が認められているのですが、
その後の臨床データではこの見解を否定するものが多く、
新型コロナウイルス肺炎に起因するARDSに対して、
ステロイド治療が有効であるかどうかは、
まだ結論が出ていない事項と考えた方が良いようです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
8割が軽症で回復する一方、
重症肺炎は高率にARDSを来して死亡リスクが高く、
現時点で確実な治療は存在していません。
臨床事例を積み重ねることにより、
その対応策は明確となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの実際の死亡率はどのくらいか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの死亡率.jpg
Lancet Infectious Disease誌の2020年3月12日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の死亡率についての解説記事です。

少し古いデータですが、
2020年3月1日の時点で、
中国では新型コロナウイルスのPCR陽性者が79968名で、
中国国外では7169名でした。

中国国内では2873名が死亡しているので、
その死亡率は3.6%となり、
中国国外では104名が死亡しているので、
その死亡率は1.5%となります。

しかし、これは単純にその時点での死者数を、
その時点での感染者数で割り算したものなので、
その病気に罹った患者さんのうち、
どれだけが死亡したのかを正確に示している数値ではありません。

ある時点で新型コロナウイルス感染症のために死亡した人は、
概ねその1週間以上前にその病気を発症した人で、
更に言えばその数日から2週間以上前に感染した人であるからです。

そこで今公表されているデータを、
死亡者はその2週間前に感染したと仮定して、
2週間前の感染確認者と割り算するように計算し直します。

そうして得られたグラフがこちらになります。
コロナウイルスの死亡率の図.jpg
下にほぼ変わらない赤いラインで示されているのは、
WHOが公表している世界の死亡率です。
概ね5%以下の同じレベルで推移しているように見えます。

一方で上の青いラインは、
それを2週間前の患者数で割り算したものです。
アウトブレイク当時の武漢市では、
20%を超えるような高い死亡率を示していて、
それがその後は急激に減少し、
現状では5.7%という、
WHOの発表と同じ水準まで低下していることが分かります。

今のイタリアの状況は、
単純計算でも死亡率が20%を超えていますから、
比較的狭い地域で爆発的な感染拡大が起こると、
その時点では死亡率は2割を超え、
感染がある程度コントロールされると数パーセントに落ち着く、
というのは現状の判断としては妥当であるようです。

こうした単純な数字1つを取っても、
集計の仕方によって印象は大きく変わります。

そこにはそれなりの意図がある場合もあり、
無自覚である場合もありますが、
私達もこうした数値の解釈には、
より慎重になべきではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスは物体上でどのくらい感染力を持つのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスのエアロゾル感染.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年3月17日ウェブ掲載された寄稿記事で、
今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
空気中や物体上での感染力保持期間を、
実験的に検証したデータの概略です。

前回3月10日のブログ記事で、
同様の内容をご紹介しましたが、
それは今回のウイルスの実験結果ではなく、
これまでの他のコロナウイルスの実験結果のまとめでした。

ようやく今回の新型コロナウイルスの動態が、
実験で検証されたのです。

今回の検証ではSARSの原因ウイルスであるSARS-CoV-1と、
今回の新型コロナウイルスで同じ検証を行って、
両者の動態を比較しています。

その結果、
エアロゾルとして高濃度のウイルスを空気中に散布すると、
実験で規定された3時間後にも、
ウイルスは検出が可能でした。
(3時間を超える測定はしていない、ということのようです)
その半減期は1.1から1.2時間と計算されました。
つまり、ウイルス粒子は空気中では不安定で、
かなり短時間で減衰するけれど数時間は残存する、
という結果です。

物体上では銅や段ボールの上より、
プラスチックやステンレスの上でより安定していて、
プラスチックやステンレス上では、
72時間後にもウイルスは検出可能でした。
ただ、プラスチック上では72時間後に、
ステンレス上では48時間後には、
ほぼ感染力はないレベルまで減少していました。

銅ではSARS原因ウイルスは8時間後に、
今回の新型コロナウイルスでは4時間後に、
ウイルスは感染力を失っていました。

段ボール上ではSARS原因ウイルスは8時間後に、
今回の新型コロナウイルスは24時間後に、
ウイルスは感染力を失っていました。

総じて今回の新型コロナウイルスの動態は、
ほぼSARS原因ウイルスと一致していて、
その接触感染や飛沫核感染のリスクも、
SARS原因ウイルスと同等であると考えられました。

エアロゾルとして3時間ということが、
ネット記事などでは「空気感染の可能性」として、
喧伝されていますし、
確かに上記論考の文面においても、
「エアロゾル感染の可能性」が強調されていることは確かです。
ただ、基本的にこのデータの読み方としては、
このウイルスは空気中ではそれほど長時間は生存出来ず、
数時間以内には感染力はなくなるので、
密閉した小空間に長時間滞在する、
というような状況では飛沫核感染も可能性はあるものの、
かなり限定的にしか起こらない、
というように想定するのが妥当であるように思います。
現行の感染事例としては、
ライブハウスやバーなどでは、
飛沫核感染が起こっている可能性はあるのです。

そしてこれは実際には、
たとえばインフルエンザウイルスでも、
同様にありうる現象なのです。

新型コロナウイルスの感染は、
その多くは飛沫感染と接触感染によって起こる、
と言って大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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膵炎治療薬による新型コロナウイルス感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスとフォイパンの関係論文.jpg
Cll誌に2020年3月5日にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染メカニズムと、
SARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)との関係、
そしてセリンプロテアーゼ阻害剤の治療や予防への可能性についての論文です。

正式な雑誌への掲載は4月になるようですが、
内容の重要性もあって早期にウェブ掲載されたものだと思います。

SARSウイルスにおいて検証されたことを、
新型コロナウイルスでも成り立つかどうか検証した部分が多く、
画期的な知見ということではないのですが、
最近読んだ論文の中では最も興奮しましたし、
今回の新型コロナウイルスの治療薬の候補の中でも、
個人的には最も有望なものではないかと思っています。

新型コロナウイルスはSARSの原因ウイルスと、
その振る舞いが非常に似通っており、
遺伝子レベルでも高い相同性のあることは、
皆さんよくご存じの通りです。

ただ、異なっている部分もあります。

両者のウイルスは共に人間の身体の細胞にある、
ACE2という受容体に結合することにより感染します。
その後にもう1つのステップがあり、
コロナウイルスに特徴的な表面の突起(スパイク)が、
感染細胞にあるセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素により、
変化(プライミング)を受け、
それにより細胞内に侵入することが出来るのです。

この2つのステップは、
SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスとの間で、
同一であると考えられています。

一方でSARSコロナウイルスは主に下気道で感染し、
不顕性の感染はあまり起こさないのに対して、
新型コロナウイルスは上気道への感染が比較的初期から多く、
それにより周囲に感染を広げやすいと考えられています。
その違いが何処から来ているのかは不明ですが、
上気道にも少ないながらACE2は発現しており、
そこに結合する能力において、
SARSコロナウイルスより新型コロナウイルスが勝っているのではないか、
という仮説もあります。

いずれにしても、
新型コロナウイルスの感染を阻止するには、
ACE2受容体をブロックするか、
セリンプロテアーゼをブロックすれば良い、
ということになる訳です。

ACE2については、
このタンパク質は気道の細胞ばかりでなく、
血管など別の臓器にも広く分布していて、
抗炎症作用や血管拡張作用など、
身体にとって良い働きを多く持っているので、
それをブロックすることは、
あまり得策とは言えません。
実際ACE2には肺障害を予防するような働きもあり、
SARSコロナウイルスの感染は、
ACE2の発現を減少させる方向に働くという知見もあります。

一方でセリンプロテアーゼについては、
膵炎の治療薬として、
その酵素の阻害剤が実際に薬として使用されていて、
勿論副作用や有害事象はあるものの、
短期間であれば比較的安全に使用可能であるという利点があります。

SARSコロナウイルスについては動物実験において、
セリンプロテアーゼ阻害剤により、
その感染が予防されたという結果が報告されています。

そして、今回新型コロナウイルスを使用した同様の動物実験において、
新型コロナウイルスについても、
セリンプロテアーゼ阻害剤であるメシル酸カモスタット
(商品名フォイパンなど)の使用により、
ウイルスの細胞への侵入がブロックされることが確認されました。

もう1つこの論文の興味深い知見として、
SARSに感染した患者さんの血清から採取された中和抗体が、
今回の新型コロナウイルスに対しても、
一定の感染阻止作用を持つことが確認されています。

これは主にウイルスの突起に結合して、
その細胞内への侵入を阻止する抗体ですが、
SARSに一度感染すると、
少なくとも1年間はその感染阻止効果が維持されることも、
確認されています。

つまり、SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスには、
一定の交差免疫が成立しているのです。

以上をまとめたのがこちらです。
コロナウイルスとフォイパンの関係の図.jpg

SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスは、
共にACE2とセリンプロテアーゼという、
人間の細胞にある仕組みを利用して、
感染を起こします。
その突起に対する中和抗体は、
両者の感染予防に一定の有効性があります。

現状薬としてのセリンプロテアーゼ阻害剤は、
内服薬のメシル酸カモスタットと、
注射薬のメシル酸ナファモスタット(商品名フサンなど)があり、
本論文で使用されているのはカモスタットですが、
理屈の上ではナファモスタットにも、
同様の効果は期待されます。
実際3月16日には東大が、
ナファモスタットを使用した治験の開始を発表しています。

私見としては、
この酵素阻害剤はインフルエンザのオセルタミビル(タミフル)に近いもので、
細胞への侵入を阻止するというメカニズムからは、
感染が進行した時期より、
感染早期や無症状の時期からの使用、
また濃厚接触者の感染予防のために、
その有効性が期待されると思います。

データは動物実験レベルなので、
その臨床上の有効性は勿論まだ不明ですが、
タミフルが酵素阻害剤として一定の有効性を示している以上、
期待は出来るのではないでしょうか。

他の現行の治療候補薬は、
人体に与える影響が大きく、
初期治療や予防としての使用は出来ませんから、
その意味でもセリンプロテアーゼ阻害剤の有効性には、
大きな期待が持てるのではないかと、
現時点では考えています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「地獄の黙示録」(ファイナル・カット) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
地獄の黙示録.jpg
「地獄の黙示録」の再編集版が、
今アイマックスで限定公開されています。

この映画は最初の公開が1979年です。
僕は高校生で、
「スクリーン」を愛読していて、
小出しに製作状況の情報が載るでしょ。
ワクワクしましたね。

少し前に「ディアハンター」の公開があって、
初めてベトナム戦争を本格的にアメリカが映画にした、
みたいな評価をされたんですよね。
それからコッポラがこれまでにない、
映画史を塗り替えるようなベトナム戦争映画を作る、
というような話題が沸騰したのです。

ロードショーの時は何処で最初に観たのかな、
渋谷パンテオンだったかしら。
あまり覚えていません。

かなりワクワクしながら、
とても緊張して観ましたね。
まだビデオも出始めくらいの時期だし、
VHSよりβの方が主流だったよね。
ビデオソフトなんて、
当時の値段で1本1万5千円くらいしたんだよ。
つまり後から録画やソフトで観るというような気持ちはないので、
もう一期一会の気分で画面に向かっていたのです。

オープニングから「ワルキューレ」の辺りは、
矢張り結構興奮しましたね。
今でもリアルに覚えていて、
今回見直しましたが、
殆ど印象は変わらなかったですね。

つまり、それだけ記憶の改変がないというのか、
印象が強烈であったのです。

ただ、その後は…当時も無理やり面白いのだ、
と思い込もうとはしていましたが、
正直良く分からないし退屈も感じました。

あの、現地の船を臨検して、
殺しちゃうところがあるでしょ。
アメリカの偽善を象徴するような場面。
当時はそれが結構印象的で、
それを中心にして「ぴあ」に、
映画批評の文章を書いて送ったんですよね。
それが採用されて紙面に載って、
多分初めて自分の文章が活字になったので、
とても嬉しかったことを覚えています。

今観ると何か、
単純すぎるような気もしますね。

ベトナム戦争の映画とは言いながら、
戦闘シーンらしきものは最初だけでしょ。
後は最後まであまり戦闘らしきものはないので、
その点がやはりこの映画は盛り上がらないですね。
白い虎が出て来るところなど、
最初の公開版にもあるのですが、
何の必要があるのかしら。
はなはだ疑問です。

今回はフランス人入植者の場面が、
付け加わっていました。
これは最初のロードショー公開版では、
全てカットされていたんですよね。

必要な場面であったとは思うのですが、
矢張り長いな、とは感じました。

申し訳ありません。
少しウトウトしてしまいました。

そして、ラストのマーロン・ブランドとの対決ですね。
良く分からないよね。
ここは最初の公開版と多分全く同じですね。
要するに、それ以外、
見せられるようなカットが撮れていない、
ということですよね。
本当はもう少しどうにかしたかったのだと思うのですが、
結果として無理だったので、
たどたどしくなってしまった、
というのが実際ではないかと推察します。

最後に神殿を爆破するカットがあって、
部分的に採用されたヴァージョンもあったように聞いているのですが、
それは今回のヴァージョンでは採用されず、
ラストは初回公開版と同じになっていました。

そんな訳で完成度は高くはない映画なのですが、
伝説的大作ではあり、
「ワルキューレ」の場面を、
大画面で再び観られたことは幸せでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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