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ACE阻害剤やARBの中止とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEsogaizai.jpg
2020年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
腎保護作用のある降圧剤の、
腎機能低下時の中止のリスクについての論文です。

ACE阻害剤とアンジオテンシン2受容体拮抗薬(ARB)は、
いずれも体液とナトリウムを身体に保持する作用のある、
レニン・アンジオテンシン系を抑制することにより、
血圧を下げる降圧剤として広く使用されています。

このタイプの薬剤は血圧を下げる作用以外に、
心臓や腎臓などの臓器保護作用があり、
軽度の腎機能低下においては、
その進行予防効果があることが知られています。

ただ、その使用により腎機能の指標である糸球体濾過量は、
低下することがあるため、
推計糸球体濾過量が30mL/min/1.73㎡未満と、
腎機能が高度に低下した状態においては、
その使用は中止されることが通常でした。

海外のデータによると、
ACE阻害剤やARBが開始されても、
その半数は5年以内には中止されている、
という統計もあるようです。

しかし、その根拠はそれほど明確ではなく、
腎機能は低下していても、
その使用継続は患者さんにメリットがある、
という見解もあります。

今回の研究はこの点を検証したもので、
アメリカにおいてACE阻害剤もしくはARBを使用していて、
その経過中に推計糸球体濾過量30mL/min/1.73㎡未満となった、
トータル3909名の経過を観察しています。
後からデータを解析しているもので、
最初に患者さんを登録して経過をみるような臨床試験ではありません。

その結果、
患者さんの平均年齢は73.7歳で、
糸球体濾過量が30mL/min/1.73㎡未満となって6ヶ月以内に、
1235名は投薬が中止されていて、
2674名はそのまま継続されていました。

投薬が中止された患者さんを、
そうでない患者さんとマッチングさせて、
その後中間値で2.9年の経過を解析すると、
ACE阻害剤とARBが中止されることにより、
中止しない場合と比較して、
総死亡のリスクは39%(95%CI:1.20から1.60)、
心血管疾患のリスクが37%(95%CI: 1.20から1.56)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で透析が必要となるような末期腎不全のリスクについては、
両群で有意な差は認められませんでした。

このように今回の検証においては、
糸球体濾過量が30mL/min/1.73㎡未満の状態でも、
ACE阻害剤やARBは中止しない方が、
その後の心血管疾患に関わる患者さんの予後には、
メリットが大きいという結果でした。

ただ、これは後からデータを付き合わせたものなので、
今後より精度の高い臨床研究において、
データが積み重ねられることが、
必要であるように思います。

ACE阻害剤やARBを腎機能の低下を理由に中止する時には、
これまでより慎重な検討が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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