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BCGワクチンの自然免疫賦活のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BCGが免疫を高める.jpg
2018年のCell Host & Microbe誌に掲載された、
BCGワクチンが結核以外の多くの感染症に有効なメカニズムを、
少人数ながら厳密な介入試験で検証した論文です。

後ほど説明しますが、
この試験結果などをもとにして、
現在新型コロナウイルス感染症が流行しているオランダなどで、
医療従事者を対象とした臨床試験が実施されています。
論文の内容と新型コロナウイルス感染症には何ら関連はありませんが、
BCGワクチンがその感染予防や重症化予防に、
一定の有効性があるのでは、という期待から、
話題になっているものです。

BCGワクチンというのは、
牛の結核菌由来の生ワクチンで、
結核の予防ワクチンとして開発されました。

そのまま他のワクチンのように接種すると、
皮膚が腫れあがったり水疱が出来るような副反応が強いので、
日本では独特の剣山のような器具を用いて、
複数の針を皮膚に押し当て、
判子を押すようにして注射する方法が開発され使用されています。
ただ、これは日本とその器具を輸入して使用している、
一部の国のみの接種法です。

日本では定期接種として、
1歳未満のお子さんの時期に接種が行われていますが、
こうした接種スケジュールも、
一部の結核の流行国以外では行われていません。

それはBCGを一旦打ってしまうと、
結核菌に対する身体の免疫が活性化されるので、
結核に実際に感染した際の診断が難しくなってしまうことと、
このワクチンの成人の結核の予防効果は、
充分に確認されていない、
という点がその主な理由です。

BCGワクチンは牛の結核菌を使用するという、
古い製法によるワクチンで副反応が強く、
その効果も現代の目で見るとそれほど高いものではないのです。
しかし、その後BCGを超える結核予防ワクチンが、
登場していないこともまた事実で、
そのためにやや消極的に使用されている、
というのが実際である訳です。

ところが…

BCGワクチンには、
結核予防以外に有効性があるのでは、
という見解が、
最近相次いで報告されるようになりました。

その幾つかは以前ブログでもご紹介しています。

複数の疫学研究において、
出生時にBCGワクチンを接種することにより、
子供の死亡リスクが減少する、
という報告が存在しています。
その後の解析によりこれは結核の予防効果のためではなく、
お子さんの時期の敗血症や呼吸器の感染症が、
トータルに減少したためと考えられています。

動物実験においても、
BCG接種がその後の死亡リスクを低下させ、
結核以外の細菌感染を予防するという結果が報告されています。

BCGはまた、
癌に対して非特異的免疫療法としても、
その効果が確認されています。
膀胱癌への補助的治療としてのBCGの効果は、
世界的に評価されている知見です。
更に疫学データにおいては、
出生時のBCGワクチンの接種が、
肺癌のリスクを低下させたという知見もあります。

それでは、
何故結核ワクチンのBCGが、
他の多くの感染症や癌に対して効果があるのでしょうか?

免疫には、
対象を選ばず相手を攻撃する自然免疫と、
相手に合わせて抗体を産生し、
次に同じ病原体の攻撃を受けた際には、
速やかに対応する獲得免疫という2種類があります。

これまでの研究により、
BCGは自然免疫の賦活による効果と、
獲得免疫の賦活による効果の、
両方があると想定されています。

しかし、特に自然免疫の賦活作用の詳細については、
今回ご紹介する論文の以前には、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究はオランダにおいて、
19から37歳の健康なボランティア30名を、
くじ引きで2つに分けると、
本人にも担当者にも分からないように、
一方はBCGワクチンの接種を行い、
他方は偽ワクチンの接種を行って、
その1ヶ月後に黄熱ワクチンの接種を施行、
その前後の免疫系の賦活作用を、
BCGワクチン接種のあるなしで比較検証しています。

日本では認められないと思われる、
かなり人体実験に近い研究ですが、
厳密な方法で人間で検証されているという点がポイントです。
黄熱ワクチンは生ワクチンで、
要するに弱いものの黄熱ウイルスに感染させ、
その反応を見ているのです。

その結果、
BCGワクチンを接種することにより、
自然免疫で重要な役割を果たしている単球(Monocyte)において、
塩基配列の変化を伴わない性質変化(reprogramming)が起こり、
接種されたワクチン株の黄熱ウイルスは、
より速やかに排除され、
BCG接種者の単球からは、
自然免疫で重要な役割を担うサイトカインIL-1βの産生が、
高まっていることが確認されました。

つまり、
BCG接種に伴って、
単球の免疫機能が強化されることにより、
自然免疫が強化されて免疫力が高まることが確認されたのです。

この結果を受け、
オランダではより多くの被験者にBCGの接種を行い、
その後の感染症の予防効果を確認するための、
臨床試験の実施が予定されていたのですが、
新型コロナコロナウイルス感染の拡大を受け、
4カ国共同での臨床試験が開始されています。

オランダでは3月の4週目より、
先陣を切って1000名の医療従事者に、
BCGもしくは偽ワクチンを接種するという試験が始まり、
オーストラリアでも同様のプロトコールの試験が、
ギリシャでは高齢者を対象とした臨床試験が開始されるなど、
ターゲットはそれ以前の通常の感染症に対するものから、
明らかに新型コロナウイルスにターゲットを絞ったものに、
計画は変更されて実施されているのです。

免疫を高めて感染に打ち勝つというのは、
お題目としては誰でも言っていることですが、
具体的にそのために有効な方法は何か、
ということではあまり具体策はありませんでした。
今回のBCG接種はその意味で、
明確に自然免疫を賦活するという有効性があり、
新型コロナウイルスに特化したものではありませんが、
その有効性には期待が持てるというようには思います。

ただ、これはあくまで補助的なものなので、
現状の日本のBCG定期接種の意義が、
確認されたという部分はあるものの、
追加のBCG接種に意義があるという根拠は現時点ではなく、
現状は慎重に今後の研究の進捗を見守る必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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