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イブプロフェンのACE2活性化作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や保育園の健診には廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イブプロフェンとACE2.jpg
2015年のCardiology誌に掲載された、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンとACE2との関連についての、
糖尿病のネズミを使用した動物実験の論文です。

イブプロフェンとACE2との関連については、
Lancetの呼吸器専門誌の寄稿記事にその記載があり、
イブプロフェンがACE2を増加させて、
それが感染にACE2との結合を必要とする、
新型コロナウイルスの感染を起こりやすくする可能性がある、
という趣旨の記載になっています。

ただ、その根拠となる知見は引用されておらず、
その詳細はその記事には一切書かれていません。

それでPubMedで検索してみたところ、
唯一引っかかった文献がこれでした。

掲載されたCardiology誌は、
僕も以前一度論文を投稿し掲載されたことがありますが、
一応査読はあるものの、
それほどレベルの高い医学誌ではありません。

従って、最初に結論だけ言えば、
イブプロフェンがACE2を増加させるというのは、
それほど科学的に実証された事実とは言えないのです。

レニン・アンジオテンシン系は、
身体に水とナトリウムを保持するためのシステムですが、
その働きがバランスを崩れて過剰となることが、
高血圧や糖尿病ではしばしば認められています。
その仕組みの中で重要な役割を果たしている酵素がACEで、
ACEはアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換することにより、
レニン・アンジオテンシン系を活性化します。
それに拮抗するような働きをしているのがACE2で、
こちらは逆にアンジオテンシンⅡを不活化します。
アンジオテンシンⅡは血管を収縮させて血圧を上げ、
臓器の繊維化を促進して、
心肥大や肝硬変などの誘因となりますから、
その意味ではACEは生活習慣病の臓器障害の悪玉で、
ACE2は善玉という言い方も出来るのです。

今回の論文では、
1型糖尿病のモデル動物のネズミを利用して、
イブプロフェンの8週間の使用が、
心臓の繊維化の進行を予防するかどうかを検証しています。

その結果、
イブプロフェンの使用により、
糖尿病のネズミの心臓の筋肉の繊維化は抑制され、
同時にACE2の発現が促進されていました。

このことは、
イブプロフェンが何等かのメカニズムにより、
ACE2の発現を増加させ、
それがアンジオテンシンⅡによる繊維化を抑制して、
臓器障害の進行を食い止めるという可能性を示唆しているのです。

これはイブプロフェンの身体に良い働きを示したものですが、
それが皮肉なことに今回、
新型コロナウイルス感染のなりやすさとして、
問題になっている訳です。

ただ、この研究ではイブプロフェンは、
非ステロイド系消炎鎮痛剤の代表として選ばれているだけで、
イブプロフェンのみにそうした作用があるとは言えませんし、
ACE2には肺障害を予防するような働きもあるので、
その発現促進が、
感染の悪化に繋がるという根拠も現時点ではないのです。

高血圧や糖尿病の患者さんでは、
新型コロナウイルス感染症の重症化率が高く、
その理由の仮説として、
薬剤によるACE2増加が取り上げられたのですが、
そもそも糖尿病や高血圧では、
バランス的にACE2活性は低下していて、
それが新型コロナウイルス感染の重症化に繋がっている、
という正反対の説明も、
また成り立つのです。

もともと臨床的なデータはないのですから、
この問題をこれ以上現時点で捻りまわすのは、
あまり建設的ではないという気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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