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自然気胸の保存的治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
自然気胸の保存的治療の予後.jpg
2020年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
自然気胸の保存的治療の効果についての論文です。

痩せ型で胸幅の狭い若い男性で、
急に胸の痛みを感じ、
息がし難い症状が続くとしたら、
どんな病気が疑われるでしょうか?

そう、自然気胸ですね。

自然気胸は肺の表面にある嚢胞という袋が破けて、
肺が部分的に縮んでしまう病気です。
「自然」という表現はあまり適切なものとは思えませんが、
これはたとえば交通事故で肺が傷付いたことによる気胸のように、
肺の傷付くはっきりした原因がないのに起こる、
という意味合いです。

通常一定レベル以上の大きさの気胸では、
肋骨のすぐ上に穴を開けて、
そこに管を入れ、陰圧を掛けて、
肺を膨らませる治療を行ないます。
これを胸腔ドレナージと言います。
通常数日で肺は膨らみ、肺の穴は塞がるので、
それを確認して管を抜きます。
再度縮まないことを確認して、
治療は終了となる訳です。
仮にドレナージで充分に肺が膨らまない場合には、
手術治療が考慮されることになります。

この治療を要する気胸の大きさの目安は、
実はあまり明確な国際基準のようなものはなく、
国や地域によっても差があります。
日本の場合はレントゲンで見た場合のつぶれた肺が、
鎖骨より下に位置している場合を治療の適応としています。
ただ、これは2センチという規定の国もあれば、
3センチという規定もあるようです。

ドレナージによる気胸の治療は入院を要しますし、
出血などの合併症が生じることもあります。
その一方で自然気胸を治療しないで観察すると、
大きな気胸でも合併症や進行性などがない場合には、
一定期間で自然に肺が膨らんで、
自然に元に戻るケースが多い、
という研究結果もあります。

ただ、これは観察研究であって、
実際に患者さんを保存的治療とドレナージ治療とに分けて、
経過をみるような臨床試験は、
これまで行われたことがありませんでした。

そこで今回の研究では、
オーストラリアとニュージーランドの複数施設において、
中等度から高度の基礎疾患のない、
片側性の自然気胸の事例を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は入院の上胸腔ドレナージの治療を行い、
もう一方は説明の上痛み止めなどを渡して、
外来で経過観察の方針として、
8週間以内の肺再膨張の有無を比較検証しています。
患者さんはトータルで316例で、
経過観察は12ヶ月後まで継続されています。
気胸は6センチ以上肺が縮んだ状態が対象ですから、
比較的重い気胸の患者さんです。

その結果、
37例は充分なデータが得られませんでしたが、
8週間以内の治癒(再膨張)率は、
ドレナージ治療群が98.5%に対して、
保存的治療群が94.4%で、
当初の設定では両群には明確な差はなく、
保存的治療はドレナージ治療と比較して、
劣ってはいない(非劣性)と判定されました。

ただ、今回のデータはかなり多くの欠損のある不充分なもので、
ドレナージしなくても多くの自然気胸の事例は、
2ヶ月以内には元に戻る可能性が高い、
ということは言えても、
ドレナージをしなくても良い、
とまでは言えない結果であるように思います。

従って、この問題はまだ解決されたとは言えず、
今後の更なる検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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