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新型コロナウイルス感染症の妊娠出産事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID19と妊娠中の感染.jpg
2020年2月12日のLancet誌にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症(COVIT-19)に妊娠中に感染し、
その後出産した事例の解析です。

新型コロナウイルス感染症の、
まとまった事例報告は中国のものが複数存在していますが、
特別な対応が必要とされる妊娠中の感染については、
これまでに報告がありませんでした。

今回の検証はその初めてのもので、
以前ご紹介したJAMA誌の論文で、
138名の感染時事例が解析されていた、
武漢大学中南病院(Zhongnan Hospital of Wuhan Univercity)で、
2020年1月に入院した妊娠中の新型コロナウイルス感染症の事例を、
9例まとめて解析しています。

今回解析された9例の妊娠中の感染事例は、
発熱や咳などの症状においては、
他の患者と違いはなく、
重症肺炎や死亡事例は含まれていません。
いずれも妊娠の後期に帝王切開で出産に成功しています。
胎児仮死などの合併症も認められていません。
羊水や臍帯血で行った遺伝子検査の結果では、
赤ちゃんへの垂直感染は認められていません。

今回解析された事例の範囲では、
妊娠中の女性でもその症状には大きな差はなく、
胎児への垂直感染も認められていません。

妊娠されている女性にとっては、
まずは安心材料となる結果ではありますが、
まだ例数は少なく、
単独施設での短期のデータに過ぎないので、
この点については今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーと癌発症リスク(2020年のアンブレラレビュー) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと癌リスクアンブレラレビュー.jpg
2020年のBMC Cancer誌に掲載された、
コーヒーと癌リスクについての論文です。

コーヒーを1日3から4杯くらい飲むことが、
心血管疾患や糖尿病、脂質異常症などのリスクを下げ、
生命予後にも良い影響を与えることは、
これまでの多くの精度の高い疫学データにより、
ほぼ確立された事実です。

ただ、それではどんな病気にも、
コーヒーは予防的に働くのかと言うと、
勿論そうしたことが証明されているという訳ではありません。

癌の発症リスクについては、
まだコーヒーの健康効果が認められる前に、
コーヒーを多く飲む人では膀胱癌が多い、
という複数のデータが報告されています。
その一方でトータルな癌のリスクはコーヒーを飲む人の方が低い、
という報告も複数あり、
また肝臓癌については、
コーヒーの予防効果を期待させるような結果が、
これも複数報告されています。

コーヒーと癌リスクについての関連は、
まだクリアになっているとは言えないのです。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床データや疫学データを、
まとめて解析したメタ解析の複数の論文を、
更にまとめて解析する、
アンブレラレビューと呼ばれる手法により、
これまでの「集合知」としてこの問題を検証しています。

これまでの28のメタ解析のデータをまとめて解析した結果として、
肝臓癌と子宮体癌(子宮内膜癌)については、
コーヒーの摂取量が多いほどその発症リスクが低下する、
という関連が認められました。
その一方で小児の急性リンパ性白血病と膀胱癌については、
コーヒーの摂取量の多い群でそのリスクが増加する結果が得られました。
ただ、最終的なメタ解析の結果としては、
有意であったのは肝臓癌と子宮体癌のリスク低下のみでした。

このように今回のアンブレラレビューの結果では、
肝臓癌と子宮体癌に限ると、
コーヒーはそのリスクの低下に関連しているようです。
ただ、他の癌については明確なことは言えず、
特に膀胱癌と急性リンパ性白血病のリスク増加については、
今後の検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染乳児事例9例の解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID19と乳児感染.jpg
2020年2月14日のJAMA誌にウェブ掲載された、
これまで殆ど報告のなかった、
乳児の感染事例9例をまとめた中国発の報告です。

今回の新型コロナウイルス感染症COVID-19では、
その特徴の1つとして15歳未満の小児の事例が、
殆ど報告されていないという現象があります。

風邪症候群の原因ウイルスとして、
SARS以前から知られていた4種類のコロナウイルスは、
いずれも小さなお子さんには感染しやすく、
乳幼児期の肺炎や喘息様気管支炎などの、
原因ウイルスとして知られています。

つまり、SARS以前のコロナウイルス感染症は、
むしろ子供の病気であったのです。
それが、今回の新型コロナウイルス感染症では、
大人や高齢者での発症事例の報告ばかりで、
小児の事例が報告をされていない、
という奇異な現象がありました。

しかし、実際には少ないながらも、
家族内感染などで小さなお子さんでの感染が、
確認された事例が存在しています。

中国において2019年12月8日から2020年2月6日までの間に、
中国国内で診断された新型コロナウイルス感染症は31211名で、
そのうち1歳未満の乳児は9名のみ報告されています。

9名はいずれも遺伝子検査で、
新型コロナウイルス感染症と診断されていますが、
いずれもが軽症で、
集中治療室に入室したり、人工呼吸器を装着したり、
重篤な合併症を併発したようなケースは1例もありませんでした。

症状としては4例で発熱が、
2例で軽度の呼吸器症状が、
1例は無症状ですが感染家族と濃厚接触のため検査が施行されています。
残りの2例の情報は欠落しています。

要するに乳児は新型コロナウイルス感染症にならない、
ということではなく、
風邪症候群の原因となる従来のコロナウイルス感染症と同程度か、
むしろそれより軽い症状で推移しているようです。

今回の事例は7例が女児で、
その意味では明確な性差があるのですが、
9例のみの報告ですから、
あまりそのことに意味づけはしない方が、
現時点では良さそうです。

これは1歳未満の小児のみの解析で、
おそらく小児の事例をまとめた報告が、
また別個に発表されるのではないかと思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「37セカンズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
37セカンズ.jpg
アメリカを拠点に活躍するHIKARIさんが、
脳性麻痺の若い女性の自立の物語を、
実際に脳性麻痺を持つ演技は素人の女性を主役に、
映画の魅力たっぷりに描いた力作です。

これは全体としては、
昔の羽仁進さんのドキュメンタリーや、
今村昌平さんの「人間蒸発」みたいなものに近いですね。
本物のバックボーンを持つ素人に演技をさせて、
虚構と現実のスレスレを狙う、
という感じのスタイルです。

ただ、昔はこういうキワドイ創作は男性監督が殆どでしたが、
今では女性監督の独壇場という違いがあります。

作品の内容としては、
過保護な母親に守られて生きていた脳性麻痺の女性の自立、
という極めてオーソドックスなものです。
途中で自分探しの旅に海外に行ったり、
ラストを母親の涙と、
前を向いた主人公の姿で締めくくるのも、
教科書通りという感じ。

ただ、そうした座りの良い、
八方美人的な設定でありながら、
障がい者の性の問題を生々しく過激に描いたり、
アニメやコスプレのポップカルチャーの中で、
ゴーストライターとして消費される様を描くなど、
かなり扇情的であざとい表現も途中に含まれています。

たとえば、最初に母親と2人で、
全裸になって入浴をする様子であるとか、
男を買って行為の途中で失禁してしまうとか、
これまであまり映画では取り上げられることのなかったような場面が、
驚くほど真正面から描かれています。

正直途中では少し暴走気味ではないかしら、
素人の役者さんに、
ここまでさせて大丈夫なのかしらと、
少し引いてしまうような気分になるのですが、
後半の自分探しの旅や母親からの自立という、
とても口当たりの良い感動的な結末が、
それまでの過剰さを全て掬い取ってしまうような感じがあり、
ラストまで観ると、
全て綿密に計算がされている、
ということが分かります。

ただ、今の映画はある種のあざとさや過剰さがないと、
評価されないし注目もされないというのは分かるのですが、
あまりに受ける要素や際どい表現を、
盛り込みすぎではないかしら、
という違和感はあります。
あまり物語上の必然性なく、
盛り込まれている部分も多いように思うからです。

そのために素直に好きな映画かと言われると、
そうも言いにくいのですが、
昔の日本映画の雰囲気を強く残しつつ、
新しい風をそこに注ぎ入れた力作であることは確かで、
内容にご興味のある方であれば、
是非一見をお勧めしたいと思います。
こういう映画を大スクリーンで観るという機会は、
あまりないように思うからです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ロッシーニ「セビリアの理髪師」(2020年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
セビリアの理髪師.jpg
これはもう何度も聴いているプロダクションですが、
新国立劇場のレパートリーとして上演されている、
ロッシーニの「セビリアの理髪師」を聴いて来ました。

これはロッシーニの代表作の1つで、
かつてはロッシーニと言えば、
殆ど「セビリアの理髪師」しか上演されない、
というような時代がありました。
それがロッシーニを得意とする歌手の登場や、
指揮者や学者などによるロッシーニ研究の高まりなどがあり、
多くのロッシーニの作品が復活され、
日本でも上演されるようになりました。

それでも、
矢張り上演頻度がダントツに多いのは、
「セビリアの理髪師」です。

多くのロッシーニ作品が復活上演された時には、
「セビリアの理髪師」は面白みに乏しいな、
というような印象を持ちました。
ロッシーニのアリアの特徴である、
アジリタなどの超絶技巧や装飾歌唱が、
人工的で不自然と考えられた時代には、
一番の聴き所でもあるラストのテノールの大アリアが、
カットされて上演されていたので、
尚更その印象がありました。

それが主に名テノール、ファン・ディエゴ・フローレスの功績により、
大アリアが実演でも復活し、
その抜群の高揚感とカタルシスが再認識されると、
この作品の魅力もまた、
再認識されることになったのです。

実際新国立劇場での「セビリアの理髪師」の上演も、
最近までは大アリアをカットしたもので、
確か前回の公演から、
漸く新国立版でも大アリアが歌われるようになりました。
今回も勿論歌われています。

ただし…

こうして大アリアが歌われることが通常になると、
かつては待望していたこの難曲が、
作品の中では少し余計者で蛇足のように、
感じられることがあるのも正直な感想です。

僕は実演で大アリアを含むヴァージョンを、
7回くらいは別キャストで聴いていると思いますが、
素晴らしいと感じたのは、
前述のフローレスと、
調子の良かった時のシラグーザの2回だけで、
後は「歌えてないなあ…高揚感…ないなあ(溜息)」
とガッカリするのが通例です。

そうしてみると、
そのすぐ後のフィナーレが、
抜群に優れて心が躍る名アンサンブルなので、
へっぽこ大アリアが、
フィナーレの印象を薄めてしまう、
というようにも思えます。

そこで、
「なるほど、これで大アリアをカットしたのね」
と先人の考えに一定の理解が出来たのです。

要するに大アリアが成立するのは、
この難曲を抜群の技巧と構成力を持って、
聴衆を文句なしの陶酔に招いてこそなのです。
それが無理ならやらない方が、
作品自体としては余程まし、
ということになる訳です。

そこで今回の舞台を見ると、
テノールのルネ・バルベラは、
美声ですしアジリタもなかなか上手いんですね。
ただ、高揚感のあるような、
盛り上げのある歌い方は出来ない感じで、
長いフレーズだと、
だんだん置いているという感じになって、
尻すぼみになるという欠点があります。
今回は大アリア以外は満点に近い出来で、
アンサンブルや二重唱は素晴らしかったんですが、
大アリアは駄目でしたね。

これならカットした方が、
全体のバランス的には良かったな、
というように思いました。

ただ、今回は美声の歌手が揃って、
アンサンブルは抜群に良かったですよ。
1幕の二重唱なんて本当にウキウキしました。
ロッシーニの快楽がありました。

そして、特筆するべきは、
ロジーナを歌った脇園彩さんですね。

凄かったですよ。
バルトリのロッシーニは、
リサイタルの時に聴いたことがありますが、
今回の脇園さんのロジーナは、
大袈裟でなく若い頃のバルトリみたいでしたよ。
自然に声がするすると出て、
それほど張っているのではないのですが、
声の1つ1つが粒立っていて、
しっかり客席に届きます。
演技も悪くないし、それなりにスター性もあって、
これは相当じゃないかしら。

絶対にこれからは追いかけようと思いました。

久しぶりに凄いコロラトゥーラを聴きました。

そんな訳で大アリアは脱力でしたが、
それ以外はなかなか聴き応えのある公演で堪能しました。

明日までですが、
お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マスクは感染予防にどの程度有効なのか? [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療に廻り、
その後産業医の訪問に廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マスクの有効性.jpg
2011年のInfluenza and Other Respiratory Viruses 誌に掲載された、
マスクの感染予防効果についてのレビューです。

新型コロナウイルス肺炎の流行で、
医療機関でも医療用のマスクが手に入りにくい状態となっていることは、
先日のブログ記事でもご紹介しました。

マスクの有効性は、
実際に飛沫感染するような病気に感染していて、
咳などの症状が有る場合に、
その患者さんが着けることにおいては、
明確に実証されています。

無防備にしていれば、
周辺のかなりの範囲に、
咳の度にウイルスを含む飛沫が飛び散ることになりますが、
その患者さんがマスクをしていれば、
その飛沫の多くは飛び散らないで済むからです。

ただ、病気に感染していない人が、
マスクをすることによって、
感染している人と接近しても、
その感染を予防出来るかどうかについては、
そこまで明確な有効性が実証されている訳ではありません。

欧米では病気になっていない人が、
感染症の患者さんに対応する医療やケアのスタッフでもないのに、
予防のためにマスクを着ける、
というような習慣はあまりなく、
むしろ病気のサインのように思われて忌避される傾向がある、
とされています。

従って、
マスクの感染予防効果を検証したような研究は、
欧米ではあまりなく、
上記のレビューには、
これまでの8つの介入試験が紹介されていますが、
そのうちの3つは中国のもので、
1つは日本のもの、
アメリカが2つで、
オーストラリアとカナダのものが1つずつです。

そのうち5つの臨床試験においては、
マスクのインフルエンザ感染に対する予防効果は、
明確には確認をされていません。
残りの3つの臨床試験においては、
一定のマスクの有効性が認められていますが、
例数が少なかったり、グループ分けが適切でないなど、
その結果の信頼性はあまり高いものではありません。
以上は全てインフルエンザ感染についての検証です。

SARSの感染に対しては介入試験はなく、
観察研究が殆どですが、
マスク装着に一定の感染予防効果が認められています。
ただ、研究デザインにおける信頼性は、
それほど高いものではなく、
サージカルマスクとより感染防御効果の高いN95マスクとの比較では、
あまり明確な差は見られていません。

このように、
マスク装着により一定の感染予防効果が、
想定はされるのですが、
その有効性は臨床研究のレベルでは、
それほど明確に証明はされておらず、
こうした場合のマスクの機能による効果の差も、
明確ではありません。

従って、
マスクの必要性は個別に判断することが大切で、
マスクをしているから安心、
という考えにも、
マスクは無駄だ、
という考えにも、
あまり科学的根拠はない、
と言う点は確認しておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス肺炎99入院事例まとめ(単一施設Lancet) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス肺炎99例の検証.jpg
Lancet誌に2020年1月29日にウェブ掲載された、
武漢市発新型コロナウイルス肺炎(2019-nCoV)の、
最初のまとまった単一施設の報告です。

その後先日ご紹介した、
JAMA誌の138例の報告が続くという格好になります。
ご紹介は前後する形になることをご了承下さい。

こちらは武漢市金銀潭病院(Wuhan Jinyintan Hospital)での、
2020年1月1日から1月20日に新型コロナウイルス肺炎と診断された、
99例の入院事例がまとめて解析されています。
1月25日までの経過が確認されています。

JAMA誌の論文の対象病院よりも、
初期治療に当たっていた施設のようで、
入院の時点で3分の1の患者に呼吸困難があり、
17名は急性呼吸窮迫症候群を、
8名は急性肺障害を、3名は急性腎障害を、
4名は敗血症の状態になっています。

全体の49名(49%)が武漢市の海産物市場の関係者で、
平均年齢は53.5歳、男性が67名、女性32名と、
明確な性差が認められています。
50名には慢性病の基礎疾患が認められています。

血液検査の特徴はリンパ球の減少で、
リンパ球数は平均で900、
35%の35名は基準値下限の1100を下回っていました。

1月25日の時点で、
患者の31%に当たる31名は退院しており、
11名は死亡しています。

この論文では、
基礎疾患のある高齢者で男性に、
新型コロナウイルス肺炎は感染して重症化しやすい、
という臨床像が強調されています。
確かにこの99名の解析では、
そうした傾向が認められていますが、
前回ご紹介したJAMA誌のデータでは、
男性は54.3%で、
基礎疾患のあるのは46.4%でそれも軽症が多かったので、
少しニュアンスは異なっています。
ただ、JAMA誌の事例には院内感染が多く含まれているので、
単純に比較は出来ないようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビタミンB12濃度と生命予後(オランダの住民研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は何もなければちょっとフリーの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス肺炎138例報告.jpg
2010年のJAMA Network Open誌に掲載された、
血液のビタミンB12濃度と死亡リスクとの関連についての論文です。

ビタミンB12は、中にコバルトという金属原子を含む、
巨大で複雑な構造の化合物です。
これを作れるのは、一部の微生物だけです。
微生物が合成したビタミンB12は、
動物の組織に取り込まれます。

従ってビタミンB12は、
原則として動物性食品(肉、魚、貝と乳製品)、
にしか含まれていません。
普通ビタミンというと、
何となく野菜に入っているようなイメージがありますね。
でも、このB12に関しては、
野菜や果物には一切入ってはいないのです。
菜食主義者がビタミンB12の不足で、
貧血や神経障害になることがあるのは、
このためですね。

ビタミンB12は高齢者で不足し易い、
と言われています。
それは、ビタミンB12が腸から吸収される仕組みに、
その原因があります。
ビタミンB12は、主に肉に含まれています。
肉の中にがっちり結び付いたビタミンは、
胃酸の働きによって、分離されます。
そして、胃から出る「内因子」と言われる蛋白質に、
代わりにくっついて、
腸から吸収されるのです。
高齢者では、胃酸の出る量は一般に少なくなっています。
胃の粘膜も萎縮して薄くなっています。
すると、肉がうまく分解されなくて、
B12が出てこなかったり、
出てきても、内因子が少なくてうまく吸収されないことが、
起こり易いのです。
「内因子」が足りなくて、
ビタミンが吸収されないタイプの貧血を、
特別に「悪性貧血」と呼んでいますね。

ここまで、よろしいでしょうか。

さて、1日に必要なビタミンB12の量はどのくらいでしょうか。

おおよそ2~3μgと言われています。

これはね、本当にちょっぴりの量なんです。
かなり食の細い方でも、
肉や魚や乳製品を一切摂らない、というのでない限り、
不足することは、吸収に問題がなければ、
まず考えられません。

人間の身体の中で、
ビタミンB12は何処にどれだけあるのでしょうか。

これはちょっと、資料によって、
記載がかなり違います。
血液の中にあるB12は全体の中では少数で、
大部分は肝臓の中に備蓄されています。
ある日本の文献では、1000μgから5000μgとされていますが、
その出典は明らかでありません。
「ハリソン内科学」の記載は、
2000μgですが、それと同じ量が他の組織に分布している、
とあります。
「メルクマニュアル」には、
3000μgから10000μgが肝臓に備蓄されている、
と書かれています。
これだけ備蓄量に差があるのは、
元々の根拠となるデータが、
あまり正確なものではないことを示している、
と僕は思います。
要するに、あまりよく分かってはいないのです。

このあやふやな備蓄量を改善するために、
ビタミンB12欠乏による貧血の治療では、
8000μgから12000μgものビタミンB12を、
注射し続けるように、
との治療方針が決められているのです。

実際には高度の欠乏症以外は、
注射によるビタミンB12の補充は必要がありません。

殆どの場合経口のビタミン剤(メコバラミンなど)で充分ですし、
それでも使用中の血液のビタミンB12濃度は、
基準値を大きく上回ることが多いのです。

通常ビタミンB12の上限量は設定されていません。

これはビタミンB12が水溶性のビタミンで、
身体で余計な部分は尿から速やかに排泄されるためです。

しかし、腎不全など腎機能が高度に低下した状態であれば、
また話は別です。

実際に透析を受けている腎不全の患者さんを対象とした研究では、
血液のビタミンB12濃度が高いほど、
総死亡のリスクが増加する、
という関係が指摘されています。
ビタミンB12は葉酸と相互に関連していますが、
糖尿病性腎症の患者さんにおいては、
ビタミンB12と葉酸のサプリメントを使用すると、
腎機能の低下がより早く進行し、
心血管疾患のリスクも増加する、
というような報告もあります。

それでは、腎機能がそこまで低下していない、
一般の高齢者に対してビタミンB12を使用することの、
問題はどの程度あるのでしょうか?

現状それに対する明確な回答は存在していません。

今回の研究はオランダにおいて、
腎機能や心血管疾患に関する疫学データを活用して、
血液中のビタミンB12濃度と総死亡リスクとの関連を検証しています。

平均年齢が53.5歳の5571名の一般住民を、
中央値で8.2年の経過観察を行ったところ、
血液のビタミンB12濃度の中央値は394.42pg/mLで、
血液濃度が最も低い338.85pg/mL未満と比較して、
最も多い455.41pg/mLを超える場合には、
総死亡のリスクは1.85倍(95%CI: 1.16から2.97)と、
ビタミンB12濃度が高いほど、
総死亡のリスクは有意に増加していました。

この現象の原因は現時点では不明ですが、
これまでの知見からは腎機能低下と関連している可能性が高く、
腎機能低下の想定される高齢者では、
安易なビタミンB12のサプリメントなどでの使用は、
より慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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川村毅「クリシェ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
ただ、老人ホームの診療と訪問診療には出掛ける予定です。

ふーっ…

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
クリシェ.jpg
第三エロチカ時代から、
映画的でスケールの大きなアングラ芝居を、
その都度形は変えながらも一貫して作り続けて来た川村毅さんが、
その劇作40周年と還暦を記念した公演の一環として、
旧作のアングラ芝居「クリシェ」を、
装いも新たに再演しました。

川村毅さんのお芝居は、
正直それほど熱心なファンという訳ではありません。

深浦加奈子さんや有園芳記さんが在籍していた頃の舞台は、
多分「ボディ・ウォーズ」1本しか観ていません。
その後「ジョーの物語」など何本か観ましたが、
映画の台本のようなお話が、
活字として読んでいる分には面白いのですが、
実際の舞台になると、
映画のような舞台面にはならないので、
どうも物足りなく感じてしまうのです。

ただ、最近の劇作は少し力が抜けた感じで、
特に唐組と乾電池のコラボ公演に書き下ろした、
「嗤うカナブン」という舞台は抜群に面白くて、
川村さんを見直した気分になりました。
(失礼な表現をお許し下さい。)

今回の作品は、
徹底して悪趣味と様式美に振った、
今時珍しい残酷見世物的アングラ芝居で、
「何がジェーンに起こったか」と「サンセット大通り」という、
ハリウッドカルトの名作を下敷きに、
老いたかつての名女優の姉妹を、
川村毅さん自身と花組芝居の加納幸和さんが外連味たっぷりに、
アングラ女形として演じ、
他にも奇怪な人形など、
ギミック満載の楽しい舞台に仕上がっています。

内容はオリジナルのストーリーを超えるものはないので、
最後の殺人人形の登場が少し盛り上がる程度で、
正直もう一押し欲しかったな、
という印象はあります。

会場となったあうるすぽっとは、
こうした濃密なお芝居を上演するにはいささか大きく、
装飾もかなり無機的な感じで、
これももう少し小空間で、
雰囲気のある小屋で観たかったな、
という思いはありました。

今回は何と言っても、
主役の1人を演じた川村さん自身の演技が素晴らしくて、
不気味な女装でダミ声を張り上げ大暴れする姿は、
これはもう生ける「日本のアングラ」そのものの姿として、
それは強く心に焼き付くことになったのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス肺炎138入院事例まとめ(単一施設JAMA) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス肺炎138例報告.jpg
2020年2月7日のJAMA誌にウェブ掲載された、
日本でも大きな問題となっている、
中国武漢市発症の新型コロナウイルス肺炎(2019-nCoV)の、
中国武漢市の病院単独施設の138例をまとめた報告です。

前回は症例の潜伏期や感染力に的を絞った論文を、
ご紹介しましたが、
今回は単独施設の入院事例の、
より具体的な臨床像がまとめられています。

対象となっているのは、
武漢大学中南病院(Zhongnan Hospital of Wuhan Univercity)に、
2020年1月1日から28日の間に入院した、
新型コロナウイルス肺炎の肺炎の患者138名で、
最終データは2月3日までアップデートされ、
その3日後の6日にはこうして論文化されているという、
物凄いスピード感です。

138名の患者の年齢の中央値は56歳で、
22歳から92歳に分布しています。
全体の54.3%に当たる75名が男性です。
年齢はこれまでの報告とほぼ同等。
性差は極端に男性に偏っているような報告もあったのですが、
今回のものなど見ると、
あまり性差はなく、
海産物市場に関わっている人達の性差に、
影響されている現象の可能性が高いように思います。

138名の中には、
病院の医療従事者40名(29%)と入院患者17名(12.3%)が含まれていて、
この57名に関しては院内感染による発症が疑われています。
結果として病院内でも感染が拡大してしまった訳です。

典型的な症状としては、
発熱が136例(98.6%)とほぼ全例で見られ、
次に多いのが全身倦怠感で96例(69.6%)、
空咳82例(59.4%)、筋肉痛48例(34.8%)、
呼吸困難43例(31.2%)などとなっています。
頭痛、眩暈、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐などの発症は稀ですが、
全体の10.1%に当たる14名の患者では、
下痢と吐き気が生じてから1、2日後に発熱と呼吸困難が発症していました。

発熱などの症状が出現してから、
中央値では5日で呼吸困難が発症し、
7日で入院となり、
8日で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症していました。

慢性の基礎疾患を持っていたのは、
全体の46.4%に当たる64名で、
その内訳は高血圧が31.2%、
糖尿病が10.1%、心血管疾患が14.5%、癌が7.2%となっています。

入院の時点で重症のため集中治療室に入ったのが36例で、
残りの102例は通常の病室に入院しています。
集中治療室に入った事例は年齢がより高く、
基礎疾患がある人が多いという傾向は見られています。
ただ、報道などで肺炎を起こす事例は大多数が基礎疾患のある高齢者だ、
というような論調がありますが、
それは事実ではないと言って良さそうです。
基礎疾患のある事例は実際にはそれほど多くはありません。

一足先にLancet誌に発表された、
武漢市の別の病院の99例の事例報告では、
51%が基礎疾患を持ち、全体の3分の2が男性でした。
今回の報告とは、若干そのニュアンスは違います。

2月3日までの追跡において、
85名(61.6%)の患者がまだ入院していて、
47名(34.1%)は退院、
6名(4.3%)が死亡されています。

治療については、
インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(タミフル)が、
89.9%の124名で使用され、
抗菌剤はモキシフロキサシン(アベロックス)が、
64.4%の89名で使用されています。
ステロイドも44.9%の62名で使用されていました。
インフルエンザ治療薬が有効とは思えず、
治療は手探りであったことが分かります。

今回の報告で注目すべき点の1つは院内感染です。
全体の41.3%に当たる57名が院内感染の疑われる事例で、
そのうちの17名は既に病院に入院していた患者からの感染、
残りの40名は医療従事者で、
そのうちの7割以上は普通病棟勤務です。
腹部症状を主訴に外科病棟に入院した患者さんから、
同じ病棟の少なくとも4名に同様の腹部症状が広がり、
そのうちの1例が経過中に発熱したため、
そこで初めて新型コロナウイルス感染症であると診断され、
その時点ではかなり感染が院内で拡大してしまった、
という経過であるようです。
集中治療室での院内感染は2名のみで、
大多数は「ここは大丈夫」という油断があったように思われます。

大変教訓的な事例であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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