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アルドステロン分泌と仮面高血圧 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
仮面高血圧とアルドステロン.jpg
Hypretension誌に2020年12月7日ウェブ掲載された、
仮面高血圧のメカニズムについての論文です。

仮面高血圧というのは、
クリニックや病院の外来で測定した血圧は正常なのに、
自己測定した家での血圧が高いという状態のことで、
白衣高血圧の反対の現象です。

外来では血圧が上昇して家では正常という、
白衣高血圧と比較して、
あまり注目されることの少なかった仮面高血圧ですが、
正常血圧と比較して、
明確に心血管疾患のリスクも死亡リスクも高まるという知見が、
近年明確になるに従って、
次第に注目されるようになってきています。

現行、アメリカ心臓学会など、
アメリカの複数の循環器系学会のガイドラインでは、
診察室での血圧が130/80mmHg未満でありながら、
24時間血圧計を用いた、
昼間の血圧の平均が130/80mmHg以上となっている場合を、
仮面高血圧と定義しています。
この基準を満たすような高血圧症の患者さんは、
確かに多くいそうであることは、
臨床的な感覚でも納得のゆくところで、
高血圧で治療をしている患者さんの30から50%、
治療をしていない正常血圧とされる人でも、
8から20%はこの仮面高血圧の基準を満たす、
という報告もあります。

それでは、
自宅での血圧が診察室より上昇する原因は、
一体どこにあるのでしょうか?

今回の研究はアメリカの高血圧専門施設(単独)において、
降圧剤の治療を受けていて、
診察室の血圧が130/80mmHg未満にコントロールされている、
トータル222名の患者さんを登録し、
診察室血圧と共に24時間自動血圧計により、
家庭内の血圧を測定すると、
更に血圧に影響するホルモンである、
カテコールアミンやレニン活性、アルドステロンなどを測定して、
そうした数値と仮面高血圧との関連を比較検証しています。

診察時の血圧は5分の座位安静の後、
1分間隔で6回の血圧測定を行なって、
後半5回の測定値の平均を活用しています。

その結果、
64名が仮面高血圧症と診断され、
実際に家庭内でも血圧がコントロールされていたのは、
48名に過ぎませんでした。
この2つの群を比較してみると、
24時間尿のアルドステロン濃度やカテコールアミン濃度、
メタネフリン濃度は仮面高血圧群で、
有意に増加していました。

しかし、外来時に測定した、
レニン活性、血中アルドステロン濃度、アルドステロン/レニン比には、
両群で有意な差は認められませんでした。

仮面高血圧群の32.8%では、
24時間尿のアルドステロン濃度が高値である一方で、
診察室でのレニン活性、血液アルドステロン濃度、アルドステロン/レニン比は、
いずれも正常範囲でした。

更には24時間尿のカテコールアミンとメタネフリン濃度は、
仮面高血圧症の患者さんにおいては、
24時間尿のアルドステロン濃度と血清レニン活性と相関を示していました。

ここから推測されることは以下になります。

仮面高血圧症の患者さんにおいては、
何らかの原因により家庭内での交感神経の緊張が高まっていて、
それがレニン活性の増加を介して、
アルドステロンの増加に繋がり、
家庭内での血圧上昇に結び付いている可能性がある、
という仮説です。

仮にこれが事実であるとすれば、
レニン・アルドステロン系を抑制するような薬剤や、
交感神経を抑制するような薬剤を使用することにより、
仮面高血圧症の患者さんの家庭での血圧上昇を、
抑制することが可能となるのではないでしょうか?

これはまだ仮説に過ぎませんが、
一見コントロール良好と見える高血圧症でも、
かなりの比率で仮面高血圧症が存在しているという知見、
およびそれが診察室での計測や検査では、
診断困難である、という知見は非常に興味深く、
今後の研究の進歩に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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