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乳児期の肺機能と喘息発症との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
喘息と胎児肺機能.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、
2020年12月15日掲載された、
乳児期の肺機能とその後の喘息発症との関連を解析した、
非常に長期間に渡る臨床研究結果についての論文です。

気管支喘息は気管支にアレルギー性の炎症が起こる、
慢性の呼吸器疾患の代表ですが、
その原因は他の多くの慢性疾患と同じように、
生まれつきの体質的要因と、
生まれてからの環境要因の、
両者が相俟って生じると考えられています。

しかし、実際に体質的な因子の何が、
将来的な喘息発症と結び付いているのか、
というような点については、
明確なことは分かっていません。
遺伝子変異を解析したような研究は多くありますが、
複数の遺伝子の関与を示すデータはあっても、
その結果はあまり一致していないからです。

今回の研究は生後6ヶ月以内に行われた肺機能検査の結果と、
その後6歳から36歳までにおける気管支喘息の発症との関連を検証したもので、
これまでにない長期間の観察データです。

アメリカ、アリゾナ州のトゥーソンという町で、
出生した180名の新生児に、
生後6ヶ月以内に呼吸機能を測定し、
それから36歳時まで継続的にアンケートを行い、
26歳時には呼吸機能検査と胸部CT検査で喘息の診断を行っています。

その結果、
乳児期に施行した呼吸機能検査の数値のうち、
総呼気時間に対する最大呼気流速到達時間の比率(TPTEF/tE)と、
安静呼気位における最大呼気流量(VmaxFRC)という、
2つの呼吸機能の指標が低いほど、
将来的な気管支喘息の発症リスクが高くなる、
という関係性が認められました。

具体的には数値が1SD(標準偏差)低下するごとに、
TPTEF/tEでは70%、VmaxFRCでは55%、
将来的な気管支喘息の発症リスクが増加していました。
数値を3等分した時に、
2つの指標が共に最も低い群にあると、
その3分の2は将来喘息になると推計されました。

出生後6ヶ月以内の呼吸機能は、
ほぼ生まれつきの肺の状態を反映していると思われます。
それが低下していることがその後数十年を経て、
喘息の発症と結び付いているとすると、
これまでの想定以上に、
喘息の発症には生まれつきの肺の状態が、
関連している可能性が高いということになる訳です。

この問題は今後より詳細な解析が必要ですが、
喘息になりやすい肺の状態がより明確になれば、
それを予防するための方法の開発に、
結び付く可能性も秘めています。

こうした知見が積み重ねられることにより、
喘息の新しい予防法の確立に、
繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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