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「ミセス・ノイジィ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミセス・ノイズィ.jpg
注目の天野千尋監督の脚本、演出で、
篠原ゆき子さん主演の映画が今ロードショー公開されています。

これはアイデア賞というか、
企画賞的な作品で、
売れない主婦兼業小説家が、
炎上マーケティングに巻き込まれる悲喜劇を描いたものですが、
内容自体はそれほど目新しくないものの、
メインとなる隣同士の女性2人の造形が、
等身大にじっくりと書き込まれていて、
とても身近な怖さとして感じることが出来ます。
ちょっとあざとい仕掛けや、
非現実的なラストは好みの分かれるところですが、
観て損はない作品だと思います。

老若男女入り交じった客席でしたが、
後半は皆少し前のめりになって、
物語に引き込まれているのが分かります。
こういうのは明らかな成功ですよね。
決して役者のレベルや演出のレベルは、
高い作品ではないので、
それでここまで観客を惹き付けるのは、
これはもう物語自体の力だと思います。

以下、少し内容に踏み込みます。

鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか。

それでは続けます。

物語は篠原ゆき子さん演じる、
子育てをしながら小説を書いている主人公が、
早朝に大声を上げながら布団を叩き続ける、
大高洋子演じる奇行の隣人女性と関わりを持ったところから、
2人の女性の戦いが、
今の社会の異様さを娯楽性豊かにあぶり出して行きます。

端的に言えば2組の家族の物語なのですが、
特に2人の対称的な女性の描写がリアルで深く、
中段で表面的な滑稽さの裏にあるものが露になると、
その振り幅の大きさに感心しつつ、
観客は物語の中に入り込み、
怒ったり同情したり馬鹿にしたり共感したりしながら、
ラストでは結構感動に近い気分にもなります。

これはもう工夫を凝らした物語と、
人物描写の妙だと思います。

ただ、この作品、
映画としての質という意味では、
それほど高いものではありません。

低予算なのは仕方のないことで、
それが武器になる場合もあるのですが、
役者の質や演出の質はかなり稚拙で、
プロの商業映画とは言えない感じです。
役者については唯一主役の篠原ゆき子さんについては、
かなり頑張っていて、
彼女の演技の説得力で、
この作品はどうにか踏ん張れた、
という感じなのですが、
他のキャストについては及第点とは言えません。

ある人物の幻覚の描写があって、
本物の虫を皮膚などに這わせているのですが、
かなり生理的不快感を覚える表現で、
登場するタイミングは、
物語の節目の部分でもあるので、
かなり考えられた上でそうした表現が取られた、
ということは分かるのですが、
本物の虫を使うにしても、
もう少し使い方に工夫が必要ではなかったかな、
というようには思いました。

ラストはかなり甘いもので、
それも小説の社会に対する意義のようなものを、
やや脳天気に主張するような感じになっています。
個人的には少し脱力しましたが、
多分この表現は作り手の意図的なもので、
観客よりも作り手の関係者を意識したもののように感じました。
「小説は素晴らしいよ」と言った方が、
小説や創作の依頼も増えるでしょ。
これはそうした意味なのだと思います。
この物語において、
小説が悲劇の誘因であったことは確かなのですから、
家族が和解するにしても、
小説以外が媒介となった方が、
良かったのではないでしょうか?

そんな訳で不満や物足りない点も多い映画ではあるのですが、
この世界の恐怖に真っ正面から取り組んだ力作で、
多くの観客を前のめりにさせた力は、
本物だと言って良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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