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尿酸降下剤の心血管疾患に対しての安全性(2020年ヨーロッパの臨床研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フェブリクの安全性.jpg
Lancet誌に2020年11月9日ウェブ掲載された、
フェブリクスタットという尿酸降下剤の、
心血管疾患に対する安全性を検証した臨床試験の論文です。

尿酸降下剤としては、
アロプリノール(商品名ザイロリック)という薬が、
世界的には最も広く使用されています。
これは尿酸の合成を抑えて血液の尿酸を下げる効果の薬です。

その有効性は確立していますが、
問題は体質により重症薬疹の発症があることです。
遺伝子多型によりリスクが推測出来る、
というような報告もあるのですが、
現状は一般臨床において、
遺伝子検査により適応を判断する、
というような方法は使われていません。
その発症は欧米よりアジアにおいて多いとされています。

帝人ファーマにより開発されたフェブキソスタットは、
アロプリノールとは構造の異なる尿酸合成阻害剤で、
アロプリノールに変わり得る薬として注目されました。

アメリカでは武田製薬の子会社により販売され、
ヨーロッパでも別個に販売されるなど、
日本発の新薬としては珍しい成功例を言って良いものです。

その有効性は尿酸値の降下作用な痛風発作の予防という面では、
アルプリノールと同等と評価されています。
次に問題になるのは副次的な効果です。
尿酸の高値と心血管疾患とのリスクとの間には関連がある、
という指摘があり、
フェブリクスタットが心血管疾患の予後にも、
トータルに良い影響を与えることが期待されたのです。

ところが…

武田製薬の主導で行われた北アメリカにおける大規模臨床試験が、
2018年に発表されると、
その雲行きはかなり怪しいものになりました。

それがこちらです。
フェブリクスタットの効果NEJM.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載されたこの論文では、
痛風の患者さん6190名をくじ引きで2つの群に分け、
一方はアロプリノールを使用し、
もう一方はフェブキソスタットを使用して、
中央値で32か月の経過観察を行なっています。
これは偽薬も使用して、
患者さんにも担当医にもどちらが選ばれたか分からないという、
厳密な方法で行われた試験です。

結果はトータルな心血管疾患のリスクでは、
アロプリノールとフェブキソスタットの間に、
有意な違いは認められませんでした。

しかし、総死亡のリスクは1.23倍(95%CI: 1.01から1.47)、
心血管疾患による死亡のリスクは1.34倍(95%CI:1.03から1.73)、
アロプリノールと比較してフェブキソスタット群で有意な増加が認められました。

この結果を受けてアメリカのFDAは、
フェブキソスタットの位置づけを、
アロプリノールと同等ではなく、
アロプリノールが副作用などで使えない時などのために、
二次選択薬としての位置づけに降格したのです。

何故このような現象が起こったのでしょうか?
この点は不明ですが、掲載誌での議論では、
尿酸を下げ過ぎることが、
却って心血管疾患リスクの増加に繋がるのでは、
というような意見もあります。
また、フェビリクスタットが悪いのではなく、
アロプリノールに心血管疾患を予防するような作用があるのでは、
というような意見もあります。

その後2019年のEuropean Heart Journal誌に、
日本で行われた同様の臨床試験の結果が発表されています。

2018年論文は痛風の患者さんを対象としていましたが、
こちらは一定の心血管疾患のリスクがあり、
血液の尿酸値が7.0mg/dLを超え、9.0mg/dL以下と対象としています。
ここでくじ引きで対象者を2つに分けると、
一方はフェブリクスタットを使用し、
もう一方は尿酸がより上昇した時のみアロプリノールを使用して、
36か月の経過観察を行なっています。
対象患者数は1070名です。

その結果、
当然のことですが尿酸値はフェブキソスタット群で有意に低下し、
心血管疾患と総死亡を併せたリスクは、
フェブキソスタット群が25%(95%CI: 0.592から0.950)有意に低下していました。

つまり、
2018年のNew England…の論文とは異なり、
フェブキソスタット群で心血管疾患の予後が改善したとする結果です。

ただ、
この試験は患者さんにどちらが選ばれたかは、
最初から分かっているような方法で行われています。
偽薬を使用するようなことはしていないのです。
対象となる心血管疾患についても違いがあり、
腎障害については微小アルブミン尿のようなものまで入れていて、
イベントのうち最も多いのは、
この腎機能障害となっています。
従って、個別の疾患で有意差が付いているのも、
腎障害だけです。
2018年論文では虚血性心疾患と脳卒中とそれによる死亡のみですから、
それだけでもかなりの違いがあるのです。

また、
本来フェブキソスタットの心血管疾患に対する効果を見るのであれば、
尿酸の低下はほぼ同一にして比べるべきですが、
今回の試験では尿酸値はフェブキソスタット群のみで低下しているので、
フェブキソスタットの独自の降下を見ているのか、
尿酸が低下したことによる効果を見ているのか、
それも定かではありません。

そもそもは2018年論文と同じようなデザインの試験をして、
そんなことはないよ、という結論を得られれば良かったのですが、
デザインは厳密ではない上に、
評価の仕方にもかなり無理があって、
とてもこの結果だけを見て、
フェブキソスタットは安全で心血管疾患の予後を改善する、
とは言えないような内容になっています。

今回の臨床試験はイギリス、デンマーク、スウェーデンにおいて、
60歳以上で痛風発作がありアロプリノールを使用している、
トータル6128名の患者さんが対象となっています。
少なくとも1つ以上の心血管疾患リスクを持っている事が条件で、
心筋梗塞や脳卒中を起こして半年以内の患者は除外されています。
尿酸値が6mg/dL未満と安定したコントロールにある時点で、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそのままアロプリノールを継続し、
もう一方はアロプリノールをフェブキソスタットに切り替えて、
中間値で1467日の経過観察を行っています。

その結果、
アロプリノール群とフェブキソスタット群との間で、
新規の心筋梗塞や脳卒中などの発症やそれによる死亡のリスクに、
明確な差は認められませんでした。

つまり、
今回の2018年のNew England…論文に匹敵する規模の臨床試験において、
フェブキソスタットのアロプリノールと比較した、
心血管疾患に関する安全性には、
明確な違いはなかった、という結果です。

この問題はまだ解決したとは言えませんが、
現状フェブキソスタットとアロプリノールは、
同等の有効性と安全性を持つと、
そう考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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