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「ヤクザと家族 The Family」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヤクザと家族.jpg
注目の藤井道人監督の新作は、
監督自身のオリジナル脚本によるヤクザ映画という、
少し意表を突くようなものでした。

これは好みは分かれるところのある映画ですが、
力作であることは間違いがありません。
藤井さんは熱のある人物描写に才があり、
その特質は存分に発揮されていますし、
主役の綾野剛さんが、
また凄みのある熱演でした。

これは1999年、2005年、2019年という3部構成で、
第一部は主人公の不良少年がヤクザの盃を交わすまで、
第二部はヤクザの抗争から主人公が鉄砲玉となって刑務所に入るまでを描き、
第三部では全てが変わってしまった現代で、
主人公があがく姿を描きます。

先日の井筒監督の「無頼」が、
戦後の闇市からバブル崩壊までの話でしたから、
丁度それを引き継ぐ感じで、
ヤクザを軸にした戦後史の前後編というような趣もあります。

3部構成ですが、
第一部は15分くらいしかなく、
第一部が終わると共に、タイトルバックになりますから、
基本的には2部構成で、
そこにプロローグが付くというような格好です。
これ、1部は正調ヤクザ映画の感じで、
2部は「アウトレイジ」を意識した新ヤクザ映画の感じ、
そして3部は現代版「極道残酷物語」
という感じの壮絶で虚無的な世界になります。
画角も変わるんですね。
1部と2部は上下の切れたシネスコサイズで、
それが3部になると上下に広がって、
アイマックスと同じ画角になります。

トータルにスタイリッシュで完成度は高いですね。
前半など敢えて古いスタイルを取っていますが、
随所に新しい工夫がありますし、
後半でスタイルを全く切り替えるという、
思い切りの良さも凄いと思います。
「無頼」と比べるのは井筒監督に失礼なのですが、
正直完成度には雲泥の差がありました。
ただ、「無頼」の泥臭いような魅力はこの映画にはなく、
主役級以外のヤクザの面々の存在感では、
「無頼」の方が遙かに上でした。

藤井監督は根っからのシネフィルだと思うのですね。
最初のタイトルバックがバーンと出る時の爽快感、
凄いですよね。
臆面もなくかつての任侠映画のカタルシスを引用して、
それを超える落差を生み出しています。
ワンカットで主人公が路地を逃げて車にはねられるところ、
凄い撮影ですよね。
あれ、「1917」でしょ。
完全なワンカットじゃないものを、
技術でワンカットに見せているんですよね。
館ひろしさんが襲撃されるところも、
車の中から並走するバイクが近づいてきて、
銃撃があって、そのまま車が激突して、
これも凄いよね。
自動車の中の撮り方をね。
最初はレトロな固定カメラで、
それから移動撮影で、と変えているんですね。
この辺の凝り方も半端じゃありません。
途中で画角と雰囲気を一変させるのは、
多分昨年の「ウェイブス」という映画を参考にしていますね。
あれも主人公が犯罪を犯したところで、
視点が反転して画角も変わります。

内容に関しては、
物語が「多視点」を許さない、という感じになっているでしょ。
それがちょっと引っかかる感じはしました。
豊原功補さんの経済ヤクザや岩松了さんの悪徳警察官は、
悪そのものとして描いているでしょ。
「この人なりの言い分があるんじゃないか」
というような視点は許さない作劇ですよね。
後半SNSで主人公が追い詰められるのも、
現実はそこまで一方的じゃないという気がするのに、
ともかく一視点で押し切りますよね。
娯楽映画としてはそれでいいのですが、
この映画は社会派映画的側面もあるじゃないですか。
それで1つの考え方のみの押しつけが強い、
と言う点にはちょっと違和感を感じました。

それから、最初10分の時点で、
もう主人公はこのまま駄目になるな、
という感じがするでしょ。
それが結局その想定通りに進むじゃないですか。
それもちょっとしんどいな、という感じは残ります。
もうちょっと途中でこちらの予測を裏切るような展開があっても、
いいのじゃないかな、というようには感じました。
ちょっと息苦しすぎる映画なんですね。

これは疑似家族を描いた映画で、
館ひろしさんと綾野剛さん、磯村勇斗さんという3世代があって、
血のつながりはないのですが、
それこそが家族だ、と言っているんですね。
死に際の館さんが「家族を大事にしろよ」と言うのですが、
言われる綾野さんには、
文字通りの家族は1人もいないのです。
そう考えるとかなり重いテーマで、
これからの社会は、
良くも悪くも「血の繋がった家族」というもの以外の絆を、
探して行かなければいけないのかも知れません。

そんな訳でそれほど好きな映画ではないのですが、
紛れもない力作で、
現在の日本映画を代表するような仕上がりです。
綾野剛さんは現時点で随一、
という感じの芝居を見せていますし、
館さんの芝居も、
その存在をスクリーンに焼き付ける、
という感じのものでした。

見応えはありますが、
気分は軽くはなりません。
なるべく体調の良い時の鑑賞がお勧めです。
「よし明日頑張ろう」という感じの映画ではなくて、
「まあそうだよね。生きるってしんどいけど、どうにかするしかないか」
というような気分になる映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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唐十郎「少女都市からの呼び声」(2021年唐組第66回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
少女都市からの呼び声.jpg
唐組は昨年は新型コロナ禍のため、
春予定されていた「さすらいのジェニー」を秋に上演しただけでした。
その代りということではないのでしょうが、
通常は本公演は行わない1月に、
下北沢駅前劇場で「少女都市からの呼び声」を上演しました。

本公演ですが、
演出の久保井さんの前説では、
「若手公演」という位置づけでもあるようです。

この「少女都市からの呼び声」は、
僕にとってはかなり特別な作品です。

初演は1985年の秋の、
状況劇場若衆公演で、
珍しくテントを離れて、
新宿のスペース・デンという、
密室性の高い小劇場での公演でした。

これはねえ、本当に素晴らしい珠玉の作品で、
とてもとても感銘を受けました。
唐先生のお芝居で生で観劇したものの中では、
間違いなくベストワンでしたし、
これまでに観た全ての芝居の中でも、
ベストワンと言っても悔いはない、
というくらいの作品でした。

内容的には同年に初演された「ジャガーの眼」の、
姉妹編的な設定の中に、
劇中劇のように唐先生の旧作である、
「少女都市」が入っている、
というような構造のお芝居です。

舞台装置は段ボールと蚊帳だけ、
ライトはブリキのバケツの中に入っていて、
照明は白と赤のみという、
シンプルを極めたお芝居でしたが、
シンプルでありながら、
唐先生のお芝居の特徴である、
猥雑さや過剰さにも満ちていました。
役者は素晴らしく演出も細部まで完成度が高く、
何より唐先生のロマンチズムが、
極めて高純度に迸っている点が魅力でした。

その後この戯曲は状況劇場解散後、
唐先生が1年だけ立ち上げた下町唐座で再演されました。
唐先生自身が婦長として登場し、
フランケ醜態博士役には、
「少女都市」の初演キャストである、
麿赤児さんが復活するという豪華版で、
とても期待して観に行ったのですが、
仮設劇場の大きな舞台に作品が合わず、
麿さんも久しぶりの唐芝居本格復帰の舞台に、
あまり調子が出ないという感じで、
ギクシャクした芝居でした。
(麿さんはその後唐組の「電子城2」で、
本領発揮の見事なお芝居を見せました)

この作品は新宿梁山泊でも度々上演され、
それ以外の企画公演のような舞台も複数ありましたが、
唐先生が直接関わったもの以外は、
僕は基本的に観ないと決めていたので、
そうした舞台には足を運びませんでした。

そして、今回本家の唐組として、
初めて「少女都市からの呼び声」が上演されました。

久保井研さんの唐作品演出は、
もう名人芸の域に達していますから、
今回は非常に期待をして出掛けました。

ただ、今回は正直今ひとつでした。

一番の問題は舞台となった駅前劇場と、
唐組の演出との相性の悪さですね。

あの劇場は小劇場である割に、
舞台の幅がかなり大きいのですね。
横長の劇場なのですが、
その舞台が上手く使えていませんでした。
群衆シーンは人間で舞台が埋まっていないといけないのですが、
とてもスカスカの感じでした。
それからフランケ醜態博士を全原徳和さんが演じていたのですが、
非常に実力のある魅力的な役者さんで、
今回の顔ぶれでは他にないな、
ということは分かっていたのですが、
今回はやや手に余るという感じでした。
もう少し存在自体の凄味のようなものが感じられないと、
この役は持ちません。

良い点を言うと、
ヒロインを演じた大鶴美仁音さんが抜群でした。
硝子化される少女のあの狂気と鮮烈!
彼女のこうした芝居は、
「吸血姫」を超えて、
ほぼ完成に到達した、という感がありました。

そんな訳で今回は不満の残る「少女都市からの呼び声」でしたが、
それでもヒロインの見事な芝居を観るだけで値打ちはあり、
今回は端役の稲荷卓央さんと久保井研さんの芝居も円熟の極みでしたから、
観た価値は充分にあるものでした。

今年は春に「ビニールの城」の再演になるようですから、
これはもう気合いを入れて待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧の左右差と健康(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧の左右差と健康.jpg
Hypertension誌に、
2021年1月ウェブ掲載された、
血圧の左右差と心血管疾患リスクの関連についての論文です。

高血圧が心血管疾患の大きなリスク因子であることは、
多くの疫学データから実証されている事実ですが、
実際には高血圧を含む因子から算出されたリスクと、
実際の疾患の発症とは一致しないことが、
しばしばあることも指摘されています。

つまり、同程度の高血圧があり、
他の脂質異常症などのリスク因子にも差がないのに、
一方は心筋梗塞を発症し、
もう一方は発症しない、ということがある訳です。

こうした事例の1つの説明として、
同じ高血圧であったの、
細かく分類すると他の要素に差があって、
それが疾患のリスクの差に繋がっているのではないか、
という考え方があります。

そして、その1つの因子として注目されているのが、
血圧の左右差です。

右腕の血圧と左腕の血圧では、
完全に一致することはむしろ稀で、
少しの違いはむしろあることは当然です。

ただ、極端に差があるというのも、
通常ではあまりないことで、
一定レベル以上の血圧の左右差には、
病的な意味があるというのが、
一般的な考え方になっています。

これまでの報告によると、
血圧に10㎜Hg以上の左右差があるのは、
高血圧の患者のうち11%、
一般人口の4%に見られるとされています。

また血圧の左右差は、
心血管疾患や糖尿病などで多いという報告もあります。

今回の研究では、
これまでの24の臨床研究に含まれる、
トータル53827名の患者データをまとめて解析したところ、
収縮期血圧の左右差が5㎜Hg広がるごとに、
総死亡のリスクが5%(95%CI: 1.02から1.08)、
心血管疾患による死亡のリスクが6%(95%CI: 1.02から1.11)、
それぞれ有意に増加していました。
この収縮期血圧の左右差による総死亡リスクの上昇は、
血圧差が5mmHgを超えると明確化していました。

このように、
今回のメタ解析によっても、
血圧の左右差が広がるにつれ、
高血圧の患者さんの生命予後が悪化することは、
かなり明確に示されていて、
左右差が5mmHgを越えて持続するときには、
より心血管疾患のリスクは高いと判断して、
慎重に経過を観察し、
特に10mmHgを超えるような時には、
血管の狭窄の可能性も疑って精査をすることが望ましい、
と考えられました。

一般臨床の場で血圧の左右差に気を配ることは、
決してたやすいことではありませんが、
今後はより一層、
外来でも気を配りながら診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SGLT2阻害剤とGLP-1アナログの有効性と安全性(2021年ネットワークメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2GLP1の比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年1月13日ウェブ掲載された、
現在最も評価の高い2型糖尿病治療薬である、
SGLT2阻害剤とGLP-1アナログの両者の有効性とリスクとを比較した、
システマティックレビューとネットワークメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療薬として、
近年その評価が急上昇しているのが、
尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用を持つ、
SGLT2阻害剤と、
従来のSU剤とは別のメカニズムでインスリン分泌を刺激する、
インクレチン関連薬の注射薬、GLP-1アナログの2種類です。

いずれの薬剤も、
血糖を低下させる作用に加えて、
患者さんの生命予後を改善し、
心血管疾患や慢性腎臓病のリスクも低下させる、
という効果が臨床試験で報告されています。

ただ、そのどちらがより優れているのか、
という点や、
どのような違いがあるのか、
というような点については、
あまり明確なことが分かっていません。

今回の研究では、
SGLT2阻害剤とGLP-1アナログに関わる、
精度の高い臨床試験のデータをまとめて解析することで、
両者の比較を行っています。

これまでの764の主だった臨床試験のデータに含まれる、
トータルで421346名の患者データをまとめて解析した結果、
従来の治療にSGLT2阻害剤もしくはGLP-1アナログを追加したところ、
いずれも患者の総死亡リスク、心血管疾患による死亡リスク、
非致死性心筋梗塞と腎不全の発症リスクを、
有意に低下させていました。
これはかなり信頼度の高い結果です。

両者の違いとしては、
SGLT2阻害剤はGLP-1アナログよりも、
心不全による入院と死亡リスクはより低下させる効果があり、
逆にSGLT2阻害剤は脳卒中のリスクは有意に低下させないのに比較して、
GLP-1アナログは非致死性脳卒中のリスクを有意に低下させています。

副作用や有害事象としては、
SGLT2阻害剤が外陰部の感染症のリスクを増加させる一方、
GLP-1アナログは重度の胃腸症状の原因となることが報告されています。

SGLT2阻害剤とGLP-1アナログのいずれも、
下肢切断や失明、眼疾患や神経痛など、
糖尿病の合併症に伴う重度の障害のリスクを、
明確に低下はさせていませんでした

このようにSGLT2阻害剤とGLP-1アナログのいずれの薬剤も、
糖尿病の患者さんの生命予後を改善し、
心血管疾患や腎臓病のリスクを低下させる、
という知見では一致しています。
ただ、神経障害や網膜症などの合併症の進行については、
必ずしもその予後を改善するというデータはなく、
心不全についてはSGLT2アナログが、
脳卒中についてはGLP-1アナログが、
より予後改善に有効な可能性が高い、
という結果になっています。

今後こうしたデータも元にして、
患者さんの心血管疾患のリスクなどの病態に合わせた、
SGLT2阻害剤やGLP-1アナログの、
より科学的で患者さんにとって有益な、
個別治療の実現に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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酸素療法の目標値と予後の違いについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
酸素療法の治療ターゲット.jpg
the New England Journal of Medicineに、
2021年1月20日ウェブ掲載された、
酸素療法の目標値と患者さんの予後についての論文です。

呼吸器の病気などで血液中の酸素が低下すると、
呼吸困難などの症状が起こり最悪は死に至ります。
これが低酸素血症による呼吸不全です。

こうした症状で集中治療室に入室すると、
通常マスクなどで高濃度の酸素を吸入させる、
酸素療法が施行されます。
しかし、高濃度の酸素を吸入させると、
血液の酸素濃度(酸素分圧)は、
正常を超えて上昇することが稀ではありません。
そして高濃度の酸素は身体に有害である、
という考え方があり、
実際に血液中の酸素を上昇させるような治療を行うと、
患者の生命予後が悪化した、
というような報告もあります。

しかし、現時点ではデータも少ないことより、
ガイドラインにおいて、
酸素吸入における明確な酸素分圧の目標値は設定されていません。

今回の研究はヨーロッパ35カ所の集中治療室に入室して、
酸素療法の必要な急性低酸素性呼吸不全を来した、
トータル2928名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は動脈血酸素分圧60mmHgという、
低めの値を目標として治療を行い、
もう一方は90mmHgという、
高めの目標を設定して治療を行って、
90日以上の経過観察を行っています。

その結果、
登録後90日の時点で、
低めの酸素分圧を目標とした側の42.9%、
高めの目標を設定した側の42.4%が死亡していて、
両群に有意な生命予後の差は認められませんでした。

この低めの目標値は、
パルスオキシメーターの酸素飽和度に換算すると、
病状にもよりますが概ね90%くらいとなり、
それを超えるくらいに治療目標を設定すれば、
生命予後には大きな違いはなく、
一部の意見のように高濃度の酸素では予後が悪化する、
という考え方は今回の臨床試験では支持されなかった、
という結果になっていました。

この問題はより詳細な検証が必要ですが、
現時点でガイドラインに目標値が設定されるということは、
現時点ではなさそうと考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症のトイレでの感染リスク(中国の病室でのデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トイレのウイルスリスク.jpg
Science of Total Environment誌に、
2021年1月20日ウェブ掲載された、
病室のトイレにおける新型コロナウイルス感染症の、
感染リスクについての論文です。

そう大した内容ではないのですが、
結果が分かりやすいのでネットなどでは割と話題になっているものです。

新型コロナウイルス感染症の集団感染において、
問題となることが多いのが、
洗面、トイレ、浴室の水廻りの感染です。

今回の研究は中国において、
新型コロナウイルス感染症の患者を隔離して入院させている、
1室3ベッドの隔離病室において、
環境サンプリングを行いその感染リスクを検証したものです。

その結果はこちらをご覧下さい。
トイレのウイルスリスクの図.jpg
環境サンプリングの結果を分かり易く図示したものです。

通常の清掃が行われた病室において、
部屋の表面サンプルでウイルス陽性となったのは、
主にトイレの便器などの表面でした。
ベッド周辺や空気中のサンプルからは、
ウイルス遺伝子は検出されませんでした。

具体的には107カ所の物体表面のサンプルを採取し、
ウイルス遺伝子をRT-PCRにより検出しています。
その結果7カ所で新型コロナウイルス遺伝子陽性を確認。
ウイルス量が多く陽性(Ct≦38)だったのが、
2カ所の廊下側のドアノブ、
トイレカバー1カ所、トイレのドアノブ1カ所でした。
ウイルス量が少なく弱陽性(Ct 37から38)であったのが、
トイレの便座シート、水栓のレバー、排気口のサンプルでした。

病室は換気システムが作動していて、
空気のサンプルは病室の46カ所で採取されましたが、
トイレ前の廊下で弱陽性であった以外は、
ウイルス遺伝子は検出されませんでした。

このように、充分に換気された室内で、
空気感染は通常の場合は問題にはならず、
トイレなどの水廻りの接触感染が、
最も高リスクであると想定されます。

この場合必ず触るドアノブなどを消毒し、
便座も使用する毎に消毒すると共に、
トイレ使用時はマスクを着用し、
トイレを離れてからしっかりと手指消毒することが、
現状は最も有効性の高い予防法であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺癌のリスクに関わる母胎の変化(北欧4カ国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠と甲状腺癌リスク.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2020年12月18日ウェブ掲載された、
母親の妊娠中などの状態が、
子供の甲状腺癌のリスクに与える影響についての論文です。

甲状腺癌の有病率は世界的に上昇していますが、
その主な要因は超音波検査などによる検診の増加によるもので、
実際に癌の頻度自体が増加しているのかどうか、
という点については明確な結論は得られていません。

ただ、たとえば乳癌の発症年齢の中間値が62歳で、
肺癌のそれが71歳であるのに対して、
甲状腺癌の発症年齢の中間値は51歳と明らかに若く、
女性に多いという明確な性差があり、
小児発症も稀ではないという特徴があります。

このことは、
何らかの妊娠中の影響や、
母胎の状態が発症に関与しているという可能性を示唆しています。

ただ、現状で確立されている甲状腺癌の危険因子は、
肥満と小児期の被ばくのみで、
それ以外の危険因子についてのデータは限られたものしかありません。

今回の研究は、
国民総背番号制が導入されている北欧4カ国
(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)において、
母胎の状態や妊娠中の環境要因が、
その後の子供の甲状腺癌の発症に、
どのような影響を与えたいたかを大規模に検証したものです。

トータルで2437件の甲状腺癌が診断され、
その81.4%に当たる1967例は乳頭癌でした。
性差では77.1%に当たる1880名が女性で、
56.7%に当たる1384名が30歳になる前に診断されていました。

その発症のリスクとして、
母親の体重が1キロ多いほど1.14 倍(95%CI: 1.05から1.23)、
母親が先天性甲状腺機能低下症であると4.55倍(95%CI:1.58から13.08)、
母親が産後出血をすると1.28倍(95%CI: 1.06から1.55)、
それぞれ有意に甲状腺癌の発症リスクが増加していました。

またデンマークのデータのみの解析として、
母親に甲状腺機能低下症があると18.12倍(95%CI: 10.52から31.20)、
甲状腺機能亢進症があると11.91倍(95%CI: 6.77から20.94)、
甲状腺腫があると67.36倍(95%CI: 39.89から113.76)、
良性甲状腺腫瘍があると22.50倍(95%CI: 6.93から73.06)、
それぞれ有意に子供の甲状腺癌のリスクは増加していました。

今回明確になったことは、
母親に甲状腺疾患があると、
明確にお子さんの将来的な甲状腺癌リスクは増加するということと、
母胎の肥満や産後出血などの状態も、
影響する可能性が高いということです。

その過剰診断や過剰治療のリスクを考えると、
お子さんの甲状腺癌の検診は必ずしも推奨されるものではありませんが、
今後リスクの高い対象に絞って検査を行うことは、
1つの有効な選択肢ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「聖なる犯罪者」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
聖なる犯罪者.jpg
これは珍しいポーランドとフランスの合作映画です。
基本的にはポーランドが舞台のポーランド映画で、
フランスが資本を含めて協力している、
というような格好であるようです。

実話を元にして、
少年院を出所した若者が、
ひょんなことからカトリックの司祭に間違われ、
そのまま司祭の代役を演じて、
田舎町の住民の中に溶け込んで行く、
という「偽神父」という、
「偽医者」とも似通った性質のお話です。

これはコミカルにもシリアスにも振れるお話ですが、
この映画はコミカルな部分もあるものの、
基本的にはかなりシリアスな雰囲気で、
最初の少年院の描写からして、
暴力的な苛めなどがハードに展開されますし、
住民のネチっこい嫌らしさもなかなかです。

色々あって村に恋人が出来たりもするのですが、
最後は正体がバレて少年院に逆戻り、
というのはまあ誰でも予測出来る通りです。

ただ、村を分断してしまう危険を孕んだ、
不幸な自動車事故の真相を、
主人公が彼を愛する少女と一緒に追及する、
という社会派ミステリーのような趣向があり、
それが1つの軸になっている、という点が特色であるのと、
主人公が少年院で野獣のような姿を見せるラストが、
ちょっと規格外で独特です。

法律や規則、戒律などでがんじがらめになった世界に対する、
抗議の表明がテーマであるように思われますが、
それにしてはラストが身も蓋もないな、
というような感じはします。

この辺りは民族性というのか、
感覚の本質的な違いのようなものがあるのかも知れません。

トータルにはなかなか見応えのある、
良質の映画であることは間違いがありません。

主人公の独特の雰囲気とふるまいが面白いですし、
草の匂いのするような映像は、
これはもうヨーロッパでないと出ないセンスですね。
意味の取り難い場面も一部にありますが、
基本的には理解可能な表現になっていて、
ヨーロッパ映画としては、
それほどハードルが高くはない作品だと思います。

今はあまり新作が公開されない状態が続いていますし、
ちょっと歯応えのある映画を1本、
という向きにはそこそこお勧め出来る作品です。

ご興味があればどうぞ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「無頼」(井筒和幸監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
無頼.jpg
井筒和幸監督の8年ぶりの新作は、
「ゴッドファーザー」と「仁義なき戦い」を、
強く意識した正調の昭和ヤクザ抗争映画で、
今ではあまりない昭和の熱量に満ちた力作です。

内容はまあ、下敷きになっている物語は、
「仁義なき戦い」と同じなんですね。
それを1つの家族の絆の物語に再構成しているところは、
「ゴッドファーザー」と丸かぶりですね。
そんな訳で物語にオリジナリティはまるでないのですが、
オープニングから戦後のドタバタの時期に、
不良少年が下品に大暴れして、
どうしようもない酒浸りの父親をぶん殴って、
という辺りは井筒監督ならではの楽しさです。

キャストもなかなかいいんですよね。
主役の松本利夫さんは、
その癖のある感じがリアルで悪くないですね。
もっと別のキャスティングも勿論ありなのですが、
松本さんを選んだ辺りは1つの見識だと思います。
脇のキャストがね、いいんですよね。
松本さんの子分に松角洋平さんや中村達也さん、
阿部亮平さんと、魅力のある強面が並ぶでしょ。
この辺りのキャストは、
「仁義なき戦い」と比べても遜色ないと思います。

一方でゲスト待遇的なキャストは、
升毅さんにしても木下ほうかさんにしても、
置きに行った感じの芝居で今ひとつでした。

ここまではまあ、いいんですが、
映画として完成度が高いかと言うと、
それはそうではないんですね。

2時間半近い長尺なのですが、
それでも結構1つ1つの場面はダラダラしている一方で、
そのエピソードの解決がつかないまま終わってしまったり、
大事なキャラが途中で消えてしまったり、
というようなことが多く、
「大事な場面が撮り切れていない」
という印象の強い作品です。
監督としても時間を含めて、
思うように撮れなかった作品だったのではないかと推察します。

ラストも主人公が安易に死なないのはいいのですが、
アジアの恵まれない子ども達を助けに旅立つ、
というラストには脱力してしまいました。

井筒監督の新作としては、
ほぼ単館のミニシアターのロードショーで、
きっかり4週間で終了というのは、
ちょっと寂しい感じがします。

そんな訳で完成度は低い作品ですが、
井筒監督らしい力の入った王道ヤクザ映画で、
お好きな方には観て損はないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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身体の痛みに対する抗うつ剤治療の有効性(2020年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サインバルタの痛みへの有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年1月20日ウェブ掲載された、
身体の痛みに対する抗うつ剤の効果についての論文です。

原因不明の腰痛や頸部痛、
膝や股関節などの変形性関節症などによる痛みは、
世界的に非常に多い症状です。
全人口の12%が変形性関節症に罹患している、
という統計さえあるほどです。
しかし、手術など原因の治療が有効となるのは、
その極一部に過ぎず、
多くの患者さんは痛みに耐えながら生活している、
というのが実際です。

通常使用されるのは、
非ステロイド系消炎鎮痛剤と呼ばれる痛み止めで、
ロキソニンなどはその代表的な薬です。
このタイプの薬は痛みを抑えるには即効性がありますが、
腎障害や胃潰瘍、
心臓病など多くの副作用や有害事象が報告されています。
つまり、応急的な使用には問題ありませんが、
長く続けることは望ましくはありません。
それに代わって最近広く使用されているのが、
オピオイドという弱い麻薬系の薬と、
うつ病の治療薬である抗うつ剤の使用です。

オピオイドは鎮痛剤ですから、
その使用の是非はともかくとして、
有効性のあること自体は納得のゆくところです。
しかし抗うつ剤は何故痛みに効くのでしょうか?
中枢性に痛みの伝達を抑制するなど、
一応の理屈はあるのですが、
うつ病自体への治療効果と比較すると、
そのメカニズムや有効性は、
科学的に実証されているとは言い難いところがあります。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データを,
まとめて解析したメタ解析ですが、
33の臨床研究のトータル5318名のデータが含まれています。

データが豊富なのは、
SNRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤で、
特にデュロキセチン(商品名サインバルタなど)が、
臨床試験データが多く、
疼痛ガイドラインにも採用されています。

ただ、メタ解析の結果では、
腰痛や変形性関節症の痛みを、
SNRIが軽減するという傾向はあるものの、
それほど明確な効果、というほどではなく、
座骨神経痛に至っては、
ほぼ無効と言って良いレベルでした。

慢性疼痛に対して世界的に広く使用されているSNRIですが、
その有効性は臨床的に意味があるかどうか、
というくらいのレベルで、
その安易な使用については、
今後再検討がされるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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