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歌い方と飛沫との関係(第九歌唱での検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
少し休憩しつつレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
第9.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、
2020年10月16日ウェブ掲載された、
歌の歌い方と飛沫感染リスクについての短報です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が、
日本においても止まる兆しがありません。

感染リスクの高い行為さえ避けていれば、
通常の生活をしていても感染は予防出来るのだ、
というのは多くの専門家も指摘するところですが、
それが事実であるという証明が、
必ずしも明確にある訳ではありませんから、
良心的な考えの人ほど、
「これ以上何をすればいいのか」と、
混乱を感じているのが現状ではないかと思います。

一方で確実に感染リスクが高い、
というような行為もあり、
その1つが「大声で歌を歌う」ということです。

これまでにカラオケ喫茶や合唱の練習などでのクラスターが、
国内外で複数報告されています。
これはいずれも集団で歌を歌うこと、により、
感染が拡大したことを示しています。

それでは、
歌を歌っている人から、
どのくらいの距離を取れば安全と言えるのでしょうか?

今回の研究はドイツで行われたものですが、
10人の合唱団のプロ歌手に、
日本でも非常にポピュラーな、
ベートーヴェンの「第九」の「歓喜の歌」の一節を、
歌詞を付けて大声で歌うヴァージョン、
歌詞を付けて声を抑えて歌うヴァージョン、
歌詞のみを大声で語るヴァージョン、
歌詞のみを声を抑えて語るヴァージョン、
歌詞ではなくメロディのみを大声で歌うヴァージョン、
メロディのみを声を抑えて歌うヴァージョン、
の6通りで歌い、
それを高性能のカメラで撮影して、
飛沫の飛散を比較検証しています。

日本でも富岳でシミュレーションしているのと、
基本的には同じ考え方です。

その結果、
興味深いことにメロディのみの場合には、
一番飛沫の拡散は少なく、
大声でも中央値で62センチ、
声を抑えると49センチしか、
飛沫は飛びませんでした。
その一方で歌詞を語るだけでも、
大声では中央値で82センチ、
声を抑えても74センチ飛沫は拡散していました。
歌詞を付けて歌うと最も飛沫は拡散し、
特に声を抑えた時に、
2メートルに近く拡散した事例も認められました。
正面と比べて、左右への拡散は少なくなっていました。

こうした知見から、
概ね前方で2から2.5メートル、側方で1.5メートル以上離れていると、
ほぼ飛沫を浴びることはないと推測されました。

プロの歌手は声を抑えても、
音を遠くに飛ばすという技術を持っているので、
やや特殊な面はありますが、
歌よりも言葉がより飛沫を拡散する、
という知見は興味深く、
今後の演劇や音楽の鑑賞条件と感染予防を考える上でも、
重要な知見であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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