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新型コロナウイルスに対する中国製不活化ワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス不活化ワクチンの有効性.jpg
JAMA誌に2021年5月21日ウェブ掲載された、
中国で開発された新型コロナウイルス不活化ワクチンの、
臨床試験結果をまとめた論文です。

新型コロナウイルスワクチンには、
現在日本で接種が行われている、
2種類のmRNAワクチン以外に、
アストラゼネカ社などで開発された、
複数のウイルスベクターワクチン、
ノババックス社のナノパーティクルワクチン、
不活化ワクチンに区分される、
中国製などの複数のワクチンなどがあり、
現在実際に使用されています。

今回のデータは、
中国で開発された2種類の不活化ワクチンの、
第3相臨床試験の中間報告的なものです。

この2種類のワクチンは、
WIV04とHB02と命名されていて、
その由来するウイルスの系統が少し異なるだけで、
その製法自体は同じワクチンです。
培養細胞にウイルスを感染させて増殖させ、
それをβプロピオラクチンという薬品処理で不活化して、
感染力を持たないようにしたものです。

現行の季節性インフルエンザワクチンは、
スプリットワクチンと言って、
ウイルスの一部の抗原のみを使用するものですが、
論文の記載を読む限り、
今回の不活化ワクチンは、
不活化したウイルスをそのまま使用する、
全粒子ワクチンというタイプに近いもののようです。

利点としては安定性が高いので、
2度から8度程度の低温で長期間保存が可能で、
今のインフルエンザワクチンと同じような管理が可能であることです。

ただ、インフルエンザワクチンでも、
全粒子ワクチンはかなり発熱などの副反応は多く、
アナフィラキシーなどの発症も、
現行のスプリットワクチンよりは多かったので、
この新型コロナウイルス不活化ワクチンが、
他のmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンと比較して、
安全性に優れているとは言い切れません。

今回の臨床試験は、
中東のアラブ首長国連邦とバーレーンにおいて2020年に行われたもので、
2種類の不活化ワクチンのいずれかを、
1回以上接種した40382人を対象とし、
2回の接種を終えて14日後以降の、
有症状の新型コロナウイルス感染症の発症リスクを、
添加物のアルミニウムのみの偽ワクチンと比較検証しています。

その結果、
偽ワクチンと比較した不活化ワクチンの有効率は、
WIV04ワクチンで72.8%、HB02ワクチンで78.1%と算出されました。
有害事象は主に接種部位の痛みなどで、
重篤なものの報告は偽ワクチン群と差はありませんでした。

つまり、mRNAワクチンの、
95%という有効率には及びませんが、
他のウイルスベクターワクチンなどと比較すれば、
遜色のない有症状感染の予防効果と言って良い結果です。

ただ、
この臨床試験の実施時期には、
当該地域で変異株の感染は主体ではなく、
これは従来株への効果で、
変異株への有効性は未知数です。
観察期間の中間値も77日ですから、
それほど長いとは言えません。

いずれにしても、
これだけ多彩なメカニズムのワクチンが、
1つの感染症に対して用いられたことは、
歴史上にも例のない事態で、
今後その安全性の比較を含め、
科学的な検証の結果を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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M&Oplaysプロデュース「DOORS」(倉持裕作・演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
DOORS_B2.jpg
倉持裕さんの新作が、
今三軒茶屋のパブリックシアターで上演されています。

今回の作品は奈緒さんと早霧せいなさんがメインの6人芝居で、
2つの多重世界が納戸のドアで繋がるという、
ファンタジーに振ったお話です。

倉持さんと言うと、
何と言っても2003年初演の「ワンマン・ショー」が、
シュールで奇怪で奇妙な雰囲気が横溢する傑作で、
何度観てもあまり構造が理解出来ないのですが、
「分からないけれど面白い」を体現した唯一無二の作品です。

その後倉持さんの世界は非常に多彩なものとなり、
アニメなどの原作ものも結構ありますし、
最近はあまりシュールな傾向のものはなく、
少人数のちょっとファンタジー色のある、
ウェルメイドな家族劇のようなスタイルが、
主流となっている感じがあります。

ただ、以前の別役実と岩松了をミックスして、
そこにダークでブラックな世界を積み増したような異様な世界も、
また観てみたいような思いもあります。

今回の作品は少人数の家庭劇という点では、
今の倉持さんの定番の路線ですし、
そこにファンタジーを絡めている点も既定路線ですが、
2役でのちょっとダークな人物造形や、
ところどころにシュールな展開もあって、
特に人物が入れ替わって、
向こうの世界のドアが炎上する辺りなどは、
かつての「ワンマン・ショー」の世界を、
彷彿とさせるような雰囲気がありました。
ダークマターに関わる無意味なカフカ的機械なども、
何処か懐かしい感じがします。

ただ、そうは言ってもかつてのように暴走する感じはなく、
最後にこちらの世界で再生する親子の姿は、
かつてのダークな世界とは全くの別物でした。

方向性に不満はあるのですが、
知的に組み上げられた世界はなかなか刺激的で、
6人のキャストしか登場しないのに、
場面に人物が不足している、
という感じがないのがさすがです。
ブローチに「あれっ」と思ったり、
全ての伏線を補足は出来なかったのですが、
完成度はなかなか高いと思います。

キャストは演技派の奈緒さんの芝居が独特で面白く、
身体は基本的に固定して、
顔と声の「圧」だけで2役を演じ分けるのが新鮮でした。
向こう側の彼女が2回だけ登場して、
どちらもこちら側を装っているという複雑な設定なのですが、
本当に声の圧だけで別人と分かります。
現代演劇というより、
能などの古典演劇に近い技術ですよね。
彼女は面白い逸材だと思います。

一方で同じように2人を演じ分けないといけない、
母親役の早霧さんは、
ファンの方には申し訳ないのですが今回のブレーキで、
コミュ障の女優と順応性の高い主婦の違いがまるで分からず、
オープニングは血塗れのドレスでの衝撃的登場の筈なのに、
観客の混乱を招くだけの結果でした。

倉持さんの演出は、
台詞の間合いが岩松さんに近い独特のもので、
個人的にはあまり生理に合わないのですが、
今回はまずまずスムースに観ることが出来ました。
途中でミュージカル風の歌が1曲入るサービスがあり、
これも最近は定番の趣向ですが、
文句なく楽しめました。

そんな訳で不満もあるのですが、
今の倉持さんらしい、
シュールな部分を挟み込みながら、
「人生をやりなおしたい」という、
多くの人の願望をテーマにした真面目なお芝居で、
完成度の高い世界が楽しめる2時間でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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北條秀司「王将」(2021年長塚圭史演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
王将.jpg
KAATの芸術監督に就任した長塚圭史さんが、
2017年に新ロイヤル大衆舎として上演した、
北條秀司さんの「王将」3部作を、
装いも新たに上演しています。

前回の初演の時には第3部のみ鑑賞しました。

今回は第1部のみ鑑賞しました。

この作品は映画の「王将」の原作で、
坂田三吉はこのお芝居によって有名になり、
好評のため続編も書かれて三部作として後世に伝わっているものです。

言わば、実話を元にして創作された、
娯楽演劇の古典です。

それを自由自在に再構成し、
それぞれ2時間弱の3本の作品にまとめて、
一挙上演しているのが今回の企画です。

この作品を何故長塚圭史さんが取り上げたのかは、
ちょっと不思議な感じもするのですが、
おそらく福田転球さんの坂田三吉が見たい、
というのが一番の理由で、
過去の娯楽芝居を現代に蘇生したい、
という思いもあったのではないかと推察します。

この長塚版の2017年の初演は、
下北沢の「楽園」での小劇場密室芝居で、
濃密な反面窮屈さも否めませんでした。

今回はKAATのビルの吹き抜けのロビースペースを、
そのまま即席芝居小屋風に改造し、
かなり解放感のある舞台を作り上げています。

野外劇風ですが、
ビルの中ですから雨風の心配はありませんし、
なかなか上手く考えたな、と感心しました。

これ、最初に大堀こういちさんが登場して、
いつもの「すべりっぱなしのギャグ満載」で、
明治から大正、昭和の情景描写をするんですね。
これがなかなかいいですね。
ただ、隣で見ていた妻は、
「何、あのすべりっぱなしの詰まらない人は!」
と怒っていましたから、
それはもう大堀さんを許せるかどうかによるのだと思います。
これは落語や講談に近いセンスですよね。

今回は第一部を観たのですが、
前半はどうかな、という感じもあったのですが、
重層的に色々な要素が重なり合って、
涙を振り絞るラストに至る辺りは、
さすが娯楽芝居の王道という感じで、
とても感銘を受けました。

ただ、正直なところ、
福田転球さんが主役というのは、
ちょっときつい面がありますね。
僕も福田さんのお芝居は大好きなのですが、
主役の芝居ではないんですね。
癖のあるスーパーサブなんですよね。
これは矢張り、色気のある昔のスターがやらないと、
成立しないお芝居ではあるように感じました。

そんな訳で舞台をトータルに評価するとなると、
今一つという部分があるのですが、
楽しく意欲的な試みであることは間違いがなく、
今回は再演ですが、
今後KAATの舞台で、
長塚さんらしい意欲的な楽しくワクワクする企画が、
多く実現することを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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副腎偶発腫からのコルチゾール分泌と生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コルチゾールの自動産生と予後.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2021年5月25日ウェブ掲載された、
副腎腫瘍から分泌される過剰なステロイドホルモンの、
生命予後への影響を検証した論文です。

クッシング症候群という病気があります。
これは副腎に出来たしこり(多くは腺腫)から、
ステロイドホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌され、
それが身体に影響を与えて、
特徴的な中心性肥満と呼ばれる肥満や、
糖尿病や高血圧などの全身疾患を引き起こす病気のことです。

この病気の診断のための検査として、
デキサメサゾン負荷試験という方法があります。
これは強い合成ステロイドであるデキサメサゾンを、
少量(通常0.5㎎)で寝る前に飲んでもらい、
その翌日朝にコルチゾールを測定して、
その数値が5μg/dL以上であれば、
この病気の可能性があるとして、
次のステップに進む、という方法です。

正常がホルモン分泌調整がされている状態では、
デキサメサゾンを飲めば体はステロイド過剰な状態と判断するので、
ステロイドの分泌を抑えてしまうのですが、
副腎腺腫はそうした調節はされないので、
ホルモン値は下がらないのです。

ただ、実際にはクッシング病の症状はないのに、
副腎にはしこりがあって、
ホルモン値にも軽度の異常が認められる、
というようなケースがしばしば認められます。

こうしたしこりを副腎偶発腫(Adrenal Incidentaloma)と呼び、
それによる軽度のホルモン異常を、
副腎性サブクリニカルクッシング症候群と呼んでいます。

副腎性サブクリニカルクッシング症候群の診断にも、
通常デキサメサゾン抑制試験を行ないます。
この場合は1㎎のデキサメサゾンを夜飲んで、
翌日のコルチゾールが3μg/dL(83nmol/L)以上であると、
異常の可能性がある、という判断をしています。
(これは日本の診断基準で、
上記文献にある副腎ホルモン自発性分泌の基準では、
1.8μg/dL(50nmol/L)未満が正常で、
1.8から3μg/dL(50から138nmol/L)が疑いあり、
3μg/dL(138nmol/L)以上であれば確定、
というガイドラインが示されています)

それでは、こうした軽度のステロイドホルモンの増加が、
それ自体でどのくらいの影響を、
患者さんの生命予後にもたらすのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンの2か所の専門施設において、
副腎偶発腫と診断された患者1048名にデキサメサゾン1㎎抑制試験を行ない、
中央値で6.4年の経過観察を行なって、
その生命予後とデキサメサゾン抑制試験でのコルチゾール値との関連を、
比較検証しています。

その結果、
正常反応とされる1.8μg/dL(50nmol/L)未満と比較して、
1.8から3μg/dL(50から82nmol/L)では、
有意な死亡リスクの増加は認められませんでしたが、
3から5μg/dL(83から137nmol/L)では、
死亡リスクは2.30倍(95%CI:1.52から3.49)有意に増加し、
5μg/dL(138nmol/L)以上では、
死亡リスクは3.04倍(95%CI:1.86から4.98)と、
よりリスクは増加していました。

このように、
副腎偶発腫との診断であっても、
デキサメサゾンの1㎎抑制試験において、
3μg/dLを超えるようなコルチゾール値では、
死亡リスクは明確に増加が認められるので、
今後はこうしたデータも元にして、
積極的な手術を含めた治療の議論に、
結び付ける必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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肥満や過体重と新型コロナウイルス感染症重症化との関連について(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMIと新型コロナウイルス感染症.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年4月28日ウェブ掲載された、
体格の指標であるBMIと、
新型コロナウイルス感染症の予後との関連についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクとして、
高血圧などと共に指摘されることが多いのが肥満です。

肥満では新型コロナウイルス感染症による、
重症化のリスクが増加したとする報告が複数見られます。

ただ、その殆どは、
BMIが30以上を肥満と定義して、
そのあるなしで重症化のリスクを比較しているだけのデータです。

心血管疾患とBMIや死亡リスクとの関連は、
概ね22から25くらいが最も低リスクで、
それより低くても高くても、
共にリスクの増加が認められる、
というような報告が多いのですが、
新型コロナウイルスの重症化や生命予後についても、
同様の傾向が認められるのでしょうか?

その点はまだ明確ではありません。

今回のデータはイギリスのプライマリケアのデータを活用して、
20歳以上で新型コロナウイルス感染症に罹患した、
6910695名という膨大なデータを解析して、
体格の指標であるBMIと、
新型コロナウイルス感染症の重症化や死亡リスクとの関連を、
比較検証しています。

その結果、
BMIと新型コロナウイルス感染症による入院リスクと死亡リスクとの間には、
BMIが23が最も低リスクで、
それより低くても高くてもリスクは増加する、
という関連が認められました。
その一方で新型コロナウイルス感染症により集中治療室に入室するリスクは、
BMIが1増加するにつれ10%増加する、
という直線的な関係が認められました。

このBMI上昇に伴う重症化と死亡リスクの増加は、
年齢は40歳未満の若年層でより顕著で、
人種では黒人種でより顕著という特徴が認められました。

このように、
今回の大規模な疫学データの解析から、
BMIが23を超える過体重と肥満は、
新型コロナウイルス感染症の、
独立した重症化リスクであることはほぼ間違いがなく、
それが何故重症化の条件により傾向が異なるのか、
その重症化のメカニズムは何なのかなど、
不明な点は多いのですが、
今後のより突っ込んだ検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ロタウイルスワクチンの有効性比較(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事や事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ロタワクチンの有効性のメタ解析.jpg
JAMA Pedatrics誌に、
2021年5月10日ウェブ掲載された、
ロタウイルスワクチンの有効性についてのメタ解析の論文です。

ロタウイルスによる急性胃腸炎は、
5歳未満のお子さんにおいては、
激しい嘔吐下痢のため脱水症などを来し、
特に発展途上国では乳幼児の死亡の原因としても、
大きな比率を占めています。

そのため予防のためのワクチンが開発され、
日本においても漸く昨年から、
定期接種の扱いとなっています。
日本で承認されているワクチンは2種類で、
1価のロタリックスと、5価のロタテックです。
この2種類のワクチンは、
その製法は大きく異なっていますが、
その有効性については、
明確な差はないという理解が一般的です。

この2種のワクチン以外にも、
複数のロタウイルスワクチンが世界で流通していて、
そのうちの2つはインドでもっぱら使用されていて、
中国のみで流通しているワクチンや、
ベトナムのみで流通しているワクチンがあるようです。

今回の検証はこれまでの介入研究や観察研究を、
まとめて解析したメタ解析ですが、
主にロタリックスとロタテックの有効性を比較検証しています。

これまでの20の介入研究と、
38のケースコントロール研究をまとめて解析した結果として、
ロタリックスはロタウイルスによる感染性腸炎の発症リスクを、
68.4%(95%CI:0.224 から0.345)、
ロタウイルス腸炎による入院のリスクを、
65.3%(95%CI:0.279から0.42)、
それぞれ有意に低下させていました。

一方でロタテックはロタウイルスによる感染性腸炎の発症リスクを、
65.0%(95%CI:0.275から0.445)、
ロタウイルス腸炎による入院のリスクを、
72.8%(95%CI:0.197 から0.376)、
こちらもそれぞれ有意に低下させていました。

他の4種類のロタウイルスワクチンについては、
臨床データ自体充分ではありませんが、
現状解析可能なデータの範囲で、
その有効性はロタテックやロタリックスより低いものに留まっていました。

このように、
現状ロタリックスとロタテックは、
臨床的にい同様の有効性があり、
共に重篤な有害事象のリスクは少なく、
どちらを選んでも大きな差はないと、
そう考えて大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の後遺症(アメリカの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の後遺症2021.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年5 月19日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の後遺症についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
だるさや微熱などの症状が長期間持続することや、
肺疾患や生活習慣病などの全身疾患が、
新たに生じることも多いことは、
これまでにも多くの報告があります。

先日イギリスでの疫学データをご紹介しましたが、
そこではCOVID-19罹患後症候群という概念で、
初発から12週間以上持続する症状を定義していましたが、
今回のアメリカの論文では、
より広く発症から21日以上持続する体調不良を、
シンプルに後遺症と表現しています。

アメリカで新型コロナウイルス感染症に罹患した、
65歳以下の193113名のうち、
14%に当たる27074名に、
何等かの臨床的後遺症が認められていて、
コントロールと比較したその頻度は、
4.95%高いものとなっていました。

その中には、
慢性呼吸不全、重症不整脈、凝固血栓系の異常、
脳炎、抹消神経炎、健忘症、糖尿病、肝機能障害、
心筋炎、不安障害、全身倦怠感など、
多彩な病状が報告され、
そのリスクはコントトールと比較して、
有意に高いものとなっていました。
コントロールと比較したその個別のリスクは、
1.24倍から25.65倍とかなりの幅があります。

このように、
新型コロナウイルス感染症罹患後に、
多くの後遺症が認められることは事実で、
今後はそのフォローや対応をどう考え、
何処までを原疾患と関連するものとして考えるべきか、
議論を深める時期に来ているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SPRINT試験最終解析結果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SPRINT試験最終解析.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年5月20日掲載された、
高血圧治療の目標値についての、
有名な臨床試験の最終解析結果についての論文です。

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験は、
その後観察期間に入り、
治療期間終了が2015年8月20日で、
その後は血圧コントロール目標を明確には定めない、
観察期間が2016年7月29日まで継続されています。

今回の論文では、
その観察期間も含めた解析が行われています。

その結果、
中間値で3.33年の観察期間において、
強化コントロール群は通常コントロール群と比較して、
心筋梗塞などの急性冠症候群、脳卒中、急性心不全を併せたリスクは、
27%(95%CI: 0.63から0.86)、
総死亡のリスクも25%(95%CI: 0.61から0.92)、
それぞれ有意に低下していました。

ただ、低血圧や電解質異常、急性腎障害や腎不全、
失神などの重篤な有害事象は、
強化コントロール群で有意に増加していました。

治療後の観察期間を併せた中間値で3.88年の解析でも、
同様の疾患リスクや総死亡リスクの低下は認められましたが、
急性心不全のリスクについては両群で有意な差はなくなっていました、

このように、
降圧目標を120mmHg未満とするような、
血圧の強化コントロールは、
心疾患疾患のリスクや死亡リスクを、
有意に低下させる効果があり、
その影響は治療終了後も1年は継続されていましたが、
その一方で低血圧や電解質異常、腎障害などのリスクを伴うこともまた事実で、
その低血圧に伴うリスクと、
心血管疾患のリスクを慎重に天秤に掛けながら、
個別のベストの降圧目標を決定する必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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井上ひさし「父と暮せば」(2021年こまつ座上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
父と暮らせば.jpg
井上ひさしさんが1994年に、
すまけいさんと梅沢昌代さんの2人芝居として書き下ろした、
井上さんの後期代表作の1つ「父と暮せば」が、
初演と同じ鵜山仁さんの演出、
山崎一さんと伊勢佳代さんの出演で、
新宿サザンシアターで上演中です。

これは4場構成1時間半弱くらいの短いお芝居で、
井上さんは「化粧」など、
こうした小品の傑作を幾つか残しています。

生者と死者との対話と言うと、
井上さんには「頭痛肩こり樋口一葉」という名作がありますが、
この「父と暮せば」はそのテーマをシンプルに煮詰めたような作品で、
普通こうした構成だと、
最初は生きていると思った父親が、
途中で実は死んでいた、ということが分かる、
というような構成にしがちですが、
この作品では最初から父親は死者であることが、
かなり明確に示されていて、
無念に死んだ父親が、
無為に生きている娘に、生きる希望を与える、
死者から生者への命のリレー、
という1点で物語が構成されています。

これはハッピーエンド、というのがいいんですね。
非常に悲惨な背景がある訳ですし、
安易にハッピーエンドにすると、
そんな簡単に解決していいのか、
と言われそうでしょ。
それをね、「悲しくて沢山泣いた後は、何故か少し爽やかな気分になる」
という人間の心理で解決しているんですね。
3場以降で悲惨な独白で観客の涙を絞るでしょ、
これ以上はもういいよ、というところで、
巧みにそれを反転させて、
「死者の後押しを受けて前向きに生きるという幸福」
というラストに繋げてゆくのですね。
この一歩間違えると、
説教臭くて耐えられなくなりそうなところを、
スレスレで回避するような匙加減が、
井上ひさしさんの円熟した時期の境地なのだと思います。

凄いですよね。

この作品では生者と死者とが、
何の区別も境界もなく、
同じ空間で対話をするのですが、
これは2人芝居だからこそ可能なのですね。
1人だと、ただの妄想や独り言になってしまうでしょ。
3人いると、
今度はその3人目にとっての「現実」というのが、
問題となってしまうのです。
こうした設定は、2人芝居だからこそなんですね。

実際には舞台に登場しない人物として、
娘に恋をする学者の青年がいますよね。
これはまあ、井上さん自身が投影されている人物ですね。
でも、多分変わり者で嫌な奴ですよね。
行動は自分勝手ですし、
被ばく者の心情を無視して、
原爆関連の資料の収集をしているんですよね。

この人物を舞台に登場させない、
というのがこの作品の一番の肝なんですね。
これは簡単に3人芝居に出来る素材でしょ。
実際に映画版では青年を登場させている訳ですよね。
でも、演劇としてはそれじゃ駄目なんですね。
見えないからこそ観客は、
その人物を都合の良いように作り変えて、
主人公の娘の幸せを想像することが出来るんですね。
実際に登場したらね、
多分その幸福を信じることが出来なくなってしまうんです。
現実は所詮無残で冷徹なものだからです。
幸福は結局人間の頭の中にしかないんですね。

井上さんはそう思っているからこそ、
このお話を2人芝居に構成して、
主人公の幸せに不可欠なもう1人を登場させていないのです。

だから、厳密に言うとこの作品は、
映像で青年を登場させると台無しですし、
朗読劇や1人芝居に構成するのも不可なんですね。
2人の肉体が生者と死者を演じて同じ舞台で向かい合う、
という地点で、
ギリギリ成立するように書かれているからです。

この芝居は初演から演出は鵜山仁さんです。

井上ひさしさんの作品の演出は、
初期は新劇やプロデュース公演への書き下ろしですから、
色々な人が担当して、
こまつ座が井上さんの芝居のホームグランドになってからは、
もっぱら木村光一さんが演出を担当。
井上演出の1つの定型とでも言うべきものを作り上げました。
ただ、井上さんが亡くなられた後、
木村演出を見直す動きがあり、
現状は多くの井上作品が、
鵜山仁さんもしくは栗山民也さんの演出で、
上演されるようになっています。

僕は個人的には鵜山さんと栗山さんの演出が苦手です。

色彩感に乏しくて地味でしょ。
あのモノトーンの暗い感じが、
僕はどうも好きになれません。
ただ、木村演出も経年劣化みたいな状態で、
「藪原検校」などはとても上演に堪えないような酷さでしたから、
演出をリニューアルすること自体は反対ではないのですが、
これじゃねえ、というのが正直なところです。

この「父と暮せば」は、
もともと初演から鵜山演出ですから、
今回の上演でも、
いい意味で古めかしさがあり、
1つの定番として悪くないものでした。

ただ、スケルトンみたいなセットにしているでしょ。
あれが良くないと思うんですよね。
中途半端に抽象的にする必要ないでしょ。
普通の家のセットを写実で組めば、
この作品はそれで充分ではないかしら。
そんなように思いました。

キャストは僕は初演版はビデオでしか観ていないのですが、
再演の辻萬長さんは駄目でしたね。
申し訳ないのですが寝落ちしました。
この役は軽妙さがないと成立しないので、
辻さんは勿論良い役者さんですが、
この芝居向きではないと感じました。
その点今回の山崎一さんは、
キャリア的にも円熟味が増して、
すまけいさんとはまた違った父親像を、
見事に描出していたように思いました。
伊勢佳代さんも、
「あれ、誰ですか?」というくらい、
以前とはお顔の印象は変わっていましたが、
なかなか良い芝居だと思いました。
2人の相性も良さそうで、
この芝居の今後のスタンダードとして、
上演を重ねて欲しいと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ピーター・シェーファー「ピサロ」(2021年ウィル・タケット演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ピサロ.jpg
ピーター・シェーファーが1964年に執筆した戯曲を、
イギリスの演出家ウィル・タケットが演出し、
主人公ピサロを渡辺謙さんが、
インカ帝国の若き王を宮沢氷魚さんが演じた舞台が、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。

2020年に初演され、コロナ禍のために多くの日程が中止、
僕も一度予約して払い戻しを受けました。
今回急遽再演が決まったのですが、
無事上演には至ったものの、
緊急事態宣言で今回もかなり危ういタイミングになりました。

これは極めつきの傑作戯曲ですね。

主役の演技も映画的な演出も、
あまり好みではなかったので、
前半は「ふむふむ」という感じで見ていたのですが、
後半になって徐々に戯曲の構造とその凄みが露わになると、
「これは相当凄いのじゃないかしら」と思えて来て、
クライマックスの怜悧で衝撃的な展開には、
掛け値なしに心が震えました。

シェーファーは、
勿論「エクウス」も「アマデウス」もありますが、
もっと先鋭で壮絶で素晴らしい作品です。
ちょっと人間離れした悪魔的な作品だと思います。
この作品の毒を少し抜いて、
口当たり良く一般向けにしたのが「アマデウス」なのね、
というようにも感じました。

これね、スペインの冒険家で兵士のピサロが、
インカ帝国に乗り込んで、
3000人の民衆を虐殺し、
インカの若き王を捕らえるのですが、
太陽王を名乗り、自分が神で不死であると言う、
美青年の王に、
次第に心を寄せていくんですね。

王は純粋に自分が神で、
殺されても太陽神の力で復活すると信じているので、
殺されることを怖がることがないのですが、
彼を息子のように思うようになったピサロは、
その危うさを怖れ、それを止めようとするのです。

最後は勿論無残な悲劇が訪れ、
人間が本当の意味で守るべき美的な何物かを、
永遠に失った瞬間が描かれます。

これね、
キリスト教徒が「野蛮なインカの民」に、
布教のためと称して侵略するのですが、
やっていることはキリストを、
磔にした迫害者と同じという皮肉があるんですね。
インカの王を絶世の美男子と設定することによって、
かなり倒錯的な愛情のようなもの、
神話の時代の終わりのようなものまで描いているんです。

インカの王の死という1点に、
キリストの死と復活や、神話の時代の終わり、
信じていた世界の崩壊や父と子の愛憎など、
多くの異なったテーマが収斂するという辺りに、
この戯曲の悪魔的な素晴らしさがあります。
インカ王は自分の復活を信じているのですが、
それは父である前王の力による、という設定によって、
若い王を息子のように思うピサロが、
支配被支配の立場にありながら愛憎も共にしているという、
重層的な設定が見事に成立しているのです。

このように戯曲は最高なのですが、
今回の上演がその魅力を十全に表現していたのかと言うと、
そこはあまりそうは思えません。

まず気に入らないのは演出で、
欧米の演出家にありがちですが、
映像や音効に頼りすぎなんですね。
別に映像を使ってもいいのですが、
何でもかんでも映像で表現という感じなので、
これじゃ演劇の魅力に乏しいですよね。

それから、渡辺謙さんのお芝居が、
正直今ひとつなんですよね。
後ろを向いてまくしたてるようなところが多くて、
台詞が聞き取れないところが多いのです。
正面を向いて見得を切るようなところはいいのですが、
バランスが悪いと感じました。
これは海外の演出家の弊害ですよね。
台詞のニュアンスが分からないので、
きちんと台詞が届いていると、
誤解してしまうのだと思います。

渡辺さんは風格がありますし、
所謂座長芝居なんですね。
勿論得難い存在感なのですが、
舞台演技がそれほど上手い人ではないので、
もっとカッチリとした演出がないと、
こうした芝居になってしまうのだと推測します。

そんな訳で舞台成果としては今ひとつでしたが、
とてもとても素晴らしい悪魔的戯曲で、
この芝居の実際の上演に立ち会えたということだけで、
今回は至福の時間でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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