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M&Oplaysプロデュース「DOORS」(倉持裕作・演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
DOORS_B2.jpg
倉持裕さんの新作が、
今三軒茶屋のパブリックシアターで上演されています。

今回の作品は奈緒さんと早霧せいなさんがメインの6人芝居で、
2つの多重世界が納戸のドアで繋がるという、
ファンタジーに振ったお話です。

倉持さんと言うと、
何と言っても2003年初演の「ワンマン・ショー」が、
シュールで奇怪で奇妙な雰囲気が横溢する傑作で、
何度観てもあまり構造が理解出来ないのですが、
「分からないけれど面白い」を体現した唯一無二の作品です。

その後倉持さんの世界は非常に多彩なものとなり、
アニメなどの原作ものも結構ありますし、
最近はあまりシュールな傾向のものはなく、
少人数のちょっとファンタジー色のある、
ウェルメイドな家族劇のようなスタイルが、
主流となっている感じがあります。

ただ、以前の別役実と岩松了をミックスして、
そこにダークでブラックな世界を積み増したような異様な世界も、
また観てみたいような思いもあります。

今回の作品は少人数の家庭劇という点では、
今の倉持さんの定番の路線ですし、
そこにファンタジーを絡めている点も既定路線ですが、
2役でのちょっとダークな人物造形や、
ところどころにシュールな展開もあって、
特に人物が入れ替わって、
向こうの世界のドアが炎上する辺りなどは、
かつての「ワンマン・ショー」の世界を、
彷彿とさせるような雰囲気がありました。
ダークマターに関わる無意味なカフカ的機械なども、
何処か懐かしい感じがします。

ただ、そうは言ってもかつてのように暴走する感じはなく、
最後にこちらの世界で再生する親子の姿は、
かつてのダークな世界とは全くの別物でした。

方向性に不満はあるのですが、
知的に組み上げられた世界はなかなか刺激的で、
6人のキャストしか登場しないのに、
場面に人物が不足している、
という感じがないのがさすがです。
ブローチに「あれっ」と思ったり、
全ての伏線を補足は出来なかったのですが、
完成度はなかなか高いと思います。

キャストは演技派の奈緒さんの芝居が独特で面白く、
身体は基本的に固定して、
顔と声の「圧」だけで2役を演じ分けるのが新鮮でした。
向こう側の彼女が2回だけ登場して、
どちらもこちら側を装っているという複雑な設定なのですが、
本当に声の圧だけで別人と分かります。
現代演劇というより、
能などの古典演劇に近い技術ですよね。
彼女は面白い逸材だと思います。

一方で同じように2人を演じ分けないといけない、
母親役の早霧さんは、
ファンの方には申し訳ないのですが今回のブレーキで、
コミュ障の女優と順応性の高い主婦の違いがまるで分からず、
オープニングは血塗れのドレスでの衝撃的登場の筈なのに、
観客の混乱を招くだけの結果でした。

倉持さんの演出は、
台詞の間合いが岩松さんに近い独特のもので、
個人的にはあまり生理に合わないのですが、
今回はまずまずスムースに観ることが出来ました。
途中でミュージカル風の歌が1曲入るサービスがあり、
これも最近は定番の趣向ですが、
文句なく楽しめました。

そんな訳で不満もあるのですが、
今の倉持さんらしい、
シュールな部分を挟み込みながら、
「人生をやりなおしたい」という、
多くの人の願望をテーマにした真面目なお芝居で、
完成度の高い世界が楽しめる2時間でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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