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極私的新型コロナウイルス感染症情報(2021年5月21日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

今日はクリニック周辺の新型コロナウイルス感染症情報です。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続いています。

クリニックで診療をしている感触としては、
今年の1月くらいの方が、
感染者は多かったという印象がありますが、
おそらく患者の主体が若年者に移っていて、
クリニックで診断されるような患者さんの比率は、
逆に減っているのかも知れません。

症状としては、
突然の寒気と関節痛と共に高熱で発症、
というインフルエンザ様の症状の方が多く、
それでいて高熱が持続するという感じではなく、
熱は上がったり下がったりを繰り返すという感じです。
重症の事例ではそこに強い咳込みなどが加わるので、
ほぼ典型的な印象になります。

印象に残ったケースを幾つかご紹介します。
実際の事例を基にしていますが、
守秘義務及び、患者さんの特定を避ける観点から、
実際とは表現を変えている部分のあることをお断りしておきます。

事例の1つ目は家族内感染で、
まずお仕事をされていた30代の男性が発熱で発症し、
同居していた男性の妻、母親、
そして1歳未満のお子さんの3人が、
検査で全員陽性となったケースです。
母親は風邪症状はありましたが軽度で、
男性の妻とお子さんは無症状でした。
昨年くらいまではこうしたケースでは、
1歳未満のお子さんが感染した、
という事例は遭遇したことがありませんでした。
矢張り変異株主体の感染となって、
家族内感染での感染率は、
小さなお子さんを含めて高くなっていることを、
実感した事例でした。

もう1例はデパートに勤務されていた、
接客業の20代女性のケースですが、
急な寒気を伴う高熱で発症し、
勤務先の指示でその日のうちに、
近くのクリニックを受診して、
新型コロナウイルスの抗原検査と、
インフルエンザの抗原検査を同時に施行されています。
結果はいずれも陰性であったため、
翌日は出勤をされているのですが、
熱は下がっていたもののだるさは持続していて、
その翌日再度発熱があったため、
クリニックを受診。
同日のRT-PCR検査で陽性を確認した方です。

まあ、当たり前のことなのですが、
発熱初日に抗原検査をしても、
あまり役には立たず、
むしろ陰性であることで油断を誘い、
感染を拡大してしまうという典型的なケースです。
個人的には今の時期のこの症状で、
インフルエンザの検査は不要だと思います。
まず新型コロナを疑い、
お子さんであればアデノウイルス感染症も否定は出来ない、
という判断でしょうか。

最近は自宅療養で経過を診ている患者さんが、
発熱や咳などの症状が悪化した際に、
入院の可否の検証のために、
胸部レントゲンや採血の依頼が増えています。

宿泊療養は原則平熱が対象なのですね。
熱があると自宅療養か入院しか選択肢はないのですが、
保健所的には軽症で入院という判断をすると、
病院側からクレームが付くので、
その判断の基準となる所見を求められるのです。

ただ、もう感染していることは分かっていて、
全くの初診で、
ガンガン熱が出ていて咳き込みも酷い、
という患者さんを、
通常診療の合間に診るというのは、
結構しんどい仕事ではあります。

有熱者は完全に導線を分けていて、
その点では問題はないのですが、
胸部レントゲンを撮影するレントゲン室は1つしかないので、
他の患者さんがいない時間に、
レントゲンを撮り、
それから部屋を消毒する作業に入ります。

現状他の時間での対応は困難なので、
診療終了直前くらいに来て頂き、
他の患者さんがいなくなってから、
レントゲンを撮影するような段取りで対応しています。

新型コロナウイルスワクチンについては、
僕自身は6月2日に2回目の接種を予定しています。
おそらく6月中には全ての「医療従事者」への接種が終了する、
というような流れになるようです。

クリニックでは品川区と渋谷区の患者さんが多く、
品川区では6月19日から75歳以上の高齢者の、
集団接種受付が開始という遅さです。
クリニックなどでの個別接種は、
どうやら6月から開始となるようです。

現状問題と感じるのは、
1回目と2回目の接種予約の位置づけがまちまちであることです。

僕自身の接種の場合は、
1回目と2回目を完全に3週間後の同じ時間に、
同時に予約するというシステムで、
勿論同じことが行われているのだろうな、
と思っていたのですが、
渋谷区から来た患者さんは、
1回目の予約しか取れない仕組みになっていた、
と話されていて、
2回目をいつどのくらいの間隔で予約して良いのか、
何処にも書いていない、
とこぼされていました。

これはどうも市町村によって対応が異なっているようで、
たとえば世田谷区では、
1回目と2回目の予約を同時に取って下さい、
というように明記されていますが、
2回目は希望通りには取れないこともあります、
というような記載もあって、
取ろうと思っても希望の時間に取れない、
というような事態もあり得るようです。

以前ブログでご紹介したイギリスの論文にあったように、
海外でも1回目と2回目の接種間隔には混乱もあって、
現状はファイザー社のワクチンでは、
3週間での2回目接種が推奨されていると思いますが、
もっと長い間隔(8週間くらい)で接種した方が、
より強い免疫反応が得られるのでは、
という試行錯誤があって、
そうした接種が行われたこともあり、
1回で充分との判断で、
1回のみの接種が広がった時期もあったようです。

ただ、現状の添付文書では3週間という間隔が明記されているので、
そうした対応が取られるべきだと考えますが、
現状は必ずしもそうなっていないようです。

渋谷区の文書を読むと、
1回の予約では1回のみで、
2回予約をして2回目の接種をしろ、
というような文面に読めます。
間隔も3週間以上、
なるべく6週間以内というような記載で、
はなはだ不明瞭であることは間違いがありません。

品川区の場合、
対象者に送られて来た書類を読むと、
1回目の接種の予約をまずして、
その接種を終えてから、
改めて2回目の接種の予約をしろ、
と言う意味のことが書かれています。

酷いよね。

ただ、品川区のサイトを見ると、
1回目の接種会場で、
その3週間後の2回目の予約が取れる、
と言う意味のことが書かれています。

これが本当に会場で予約が取れるという意味なのか、
それとも「この日に自分で予約して下さい」
と言われるだけのことなのか、
幾ら読んでも明確に分かりません。

こんな状況であると、
3週間で2回目の接種を行う人もいれば、
8週間以上のように間隔をあけてしまう人もいて、
1回目の接種だけで終了してしまう人もいることになりますから、
国も市町村ももう少し情報を整理して、
2回の接種が適切に行われるように、
もっと効率的な方法を考える必要があると思います。

そんなこんなで現状はどう転ぶか分からない、
不安定な状況が続く医療現場ですが、
今出来ることを出来る範囲で無理なくこなしつつ、
少しでも収束が早まることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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BMIと人種差と糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMIと人種差と糖尿病.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年5月11日ウェブ掲載された、
体格の指標であるBMIという数値の人種差についての論文です。

肥満が大きな健康リスクであることは、
世界中で認識されている間違いのない事実です。

ただ、肥満の基準については、
人種による差があるのでは、という議論があり、
世界的に明確な基準が定められている、
という訳ではありません。

WHOは1993年に、
キログラムの体重をメートルの身長で2回割った数値である、
BMIという指標が、
25.0から29.9を過体重、
30.0以上を肥満として定義しています。

ただ、たとえば2型糖尿病の発症リスクで考えると、
確かに白人種ではBMIが30.0以上で、
明確にそのリスクが高まりますが、
日本人を含むアジア人種では、
より低いBMIでも糖尿病リスクが高まる、
という複数のデータがあり、
2004年にWHOの専門会議は、
南アジア人種と中国人種では、
BMIが27.5以上を積極的生活改善の指標とするべきだ、
という声明を発表しています

今回の検証はイギリスで行われたもので、
白人種におけるBMIが30.0以上での糖尿病リスクが、
他の人種ではどのくらいのBMIで同等となるのかを、
一般住民1472819名の対象者で検証しています。
このうち、90.6%に当たる1333816名は白人種で、
5.2%に当たる75956名が南アジア人種、
3.4%に当たる49349名が黒人種、
0.7%に当たる10934名が中国人種、
0.2%に当たる2764名がアラブ人種です。

解析結果はこちらをご覧下さい。
BMIと人種差と糖尿病の図.jpg
糖尿病発症リスクの人種差を図示したものですが、
白人種でBMI30.0に匹敵する糖尿病リスクは、
南アジア人種ではBMI23.9となり、
黒人種では28.1、中国人種では26.9、
アラブ人種では26.6となっていました。

つまり、白人種と比較して、
アジアを含むほかの人種では、
より低いBMIでも糖尿病リスクは増加していて、
それに応じた基準の変更が必要であるようです。

日本においては、
肥満学会の基準でBMI25以上を肥満としており、
その基準は今回の結果からは、
概ね妥当なものとそう考えても良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように

石原がお送りしました。
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アスピリンの用量と心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アスピリンの用量と効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年5月15日ウェブ掲載された、
臨床で非常に多く使用されている低用量アスピリンの、
適正な用量についての論文です。

アスピリンは消炎鎮痛剤であると共に、
抗血小板剤として広く使用されています。
特に心筋梗塞などの動脈硬化に伴う疾患の罹患後に、
その再発予防や予後改善のための有効性は、
精度の高い臨床試験によって確認されていて、
安価な薬であることもあり、
世界的に広く使用されている薬剤です。

ただ、その用量については世界的には明確な基準がありません。
日本では概ね1日81㎎、もしくは100㎎の腸溶剤が使用されていますが、
海外ではより高用量の325㎎が使用されていることも多く、
そのどちらが適切であるのかについては、
未だ正解が得られているとは言い難い状態です。

今回の臨床研究はその点を明らかにしようとしたもので、
アメリカ国内の複数施設において、
心筋梗塞などの心血管疾患の既往のある、
トータル15076名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はアスピリンを1日81㎎で継続し、
もう一方は1日325㎎で継続して、
中間値で26.2か月の経過観察を行い、
その心血管疾患などの予後と、
アスピリンに伴う出血系合併症の頻度などを比較検証しています。

その結果、
観察期間中の死亡、心筋梗塞や脳卒中による入院を併せたリスクは、
両群で有意な差はなく、
出血系合併症による入院のリスクについても、
両群で有意な差は認められませんでした。

このように1日81㎎でも325㎎でも、
明確なその効果や有害事象には差がない、
というのが今回の結果で、
現状日本においては、
1日81から100㎎の使用を続けることで、
大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2種類の新型コロナワクチンの高齢者に対する1回接種での有効性(イギリスの大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファイザーとアストロゼネカワクチンの1回接種効果比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年5月13日ウェブ掲載された、
高齢者における単回の新型コロナウイルスワクチンの予防効果を、
比較検証した論文です。

これは現状可能な部分に限って解析した、
というような不充分な内容で、
少しアストロゼネカ社に忖度しているのかな、
というような感じもする内容なのですが、
一応記録として取り上げておくことにします。

ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンに、
有症状感染を90%以上予防する効果がある、
という点については、
多くの臨床データや疫学データで確認されており、
ほぼ実証された事実と言って良いと思います。

ただ、不明な点もまだ残っています。

まず、臨床試験には高齢者はあまり含まれていないので、
感染した場合に重症化や死亡リスクの高い、
高齢者への有効性が若年者と違いがないのか、
という点がまだ不明瞭です。

それから、
従来株の感染と変異株の感染における有効性に、
どの程度の差があるのかもまだ不明瞭です。

更には、
このワクチンは2回接種が必要とされていますが、
1回でも一定の有効性があるという意見もあり、
既感染者では1回でも良いのではないか、
というような意見もあります。
1回の接種でどの程度の効果があるのかについても、
実地臨床でのデータは充分とは言えません。

イギリスはワクチン接種では世界でも先頭を走っている国の1つですが、
接種開始から今に至る方針には試行錯誤がありました。
まず、ファイザー・ビオンテック社のワクチンが先行接種され、
それから遅れてアストラゼネカ社のワクチンが接種開始されました。
当初は3から4週間隔での2回接種が必要とされていましたが、
途中で集団感染を早く確立する意味から、
1回接種で接種人数を増やした方が良いのでは、
という意見や、
接種間隔はより長くても良いのではないか、
という意見があり、
1回のみの接種が広く行われたり、
接種間隔を最大で12週間と、
長く設定するような試みも行われました。

そのデータを解析することにより、
高齢者の1回接種のみの有効性が解析可能となったのです。

今回70歳以上の156930名の新型コロナウイルス感染症の感染者と、
ワクチン接種履歴との比較により、
その解析が行われています。

その結果、
ファイザー・ビオンテック社のワクチンを、
1回のみ接種した80歳以上の高齢者の、
接種後10から13日以降の有症状感染予防効果は、
70%(95%CI:59 から78)に達し、
2回接種した高齢者では、
接種後14日以降の予防効果は、
89%(95%CI:85 から93)に達していました。

アストラゼネカ社のワクチンを、
同様に1回のみ接種した70歳以上の高齢者の、
有症状感染予防効果は、
接種後14日から20日から有意に認められ、
接種後28から34日では61%(51から69%)に達し、
35日以降は73%(27から90%)に達していました。

それに加えて、
いずれのワクチンも1回の接種で、
新型コロナウイルス感染により入院するリスクを80%、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンは、
単回接種で死亡リスクを、
85%低下させていました。

このデータは英国株(B.1.1.7)による感染流行期のもので、
この結果は英国株優位の感染においても、
ほぼ同等の有効性があると考えられました。

今回のデータは単回接種において、
ファイザー・ビオンテック社、アストラゼネカ社、
いずれのワクチンも同程度の有効性を、
70歳以上の高齢者において示した、
という期待の持てるものですが、
ややアストラゼネカ社のワクチンに都合の良い結果で、
単回接種で実際に感染拡大を抑えられるのかも不明ですから、
かなり不充分なものですが、
高齢者における有用性を示した点では意義があり、
今後より精度の高い検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ファイザー・ビオンテック社新型コロナワクチンの医療従事者への有効性(イスラエルでの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファイザーワクチンの医療従事者への効果.jpg
JAMA誌に2021年5月6日ウェブ掲載された、
ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンの、
イスラエルにおける医療従事者での感染予防効果を、
有症状と無症状の感染に分けて検証した論文です。

ファイザー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチンの有効性は、
有症状の感染を予防する効果は95%程度と、
臨床試験などのデータから算出されていますが、
無症状の感染にどの程度の有効性があるかは、
まだ必ずしも明確ではありません。

今回の臨床データは、
このワクチンの接種が急ピッチで進行しているイスラエルのもので、
単独の医療施設の6710名の医療従事者を対象とした調査です。

平均年齢は44.3歳で66.5%が女性です。
88.7%に当たる5953名は1回以上のワクチン接種を受けていて、
82.2%に当たる5517名は2回のワクチン接種を受けています。
11.3%に当たる757名はワクチン接種を受けていませんでした。
中間値で63日の経過観察を行っています。
この医療機関ではRT-PCRによる感染のスクリーニングが、
その感染リスクに合わせて定期的に施行されていたので、
無症状の感染についてもチェックが可能であったのです。

その結果、
有症状の新型コロナウイルス感染症は、
ワクチン接種群(2回接種)の8名と、
未接種群の38名に認められ、
ワクチンは有症状の新型コロナウイルス感染症を、
97%(95%CI: 0.01から0.06)有意に低下させていました。

無症状の感染については、
ワクチン接種群(2回接種)の19名と、
未接種群の17名が、
無症状の新型コロナウイルス感染症に感染していて、
ワクチンは無症状の新型コロナウイルス感染症を、
86%(95%CI:0.07から0.31)有意に低下させていました。

このように、
現行日本でも接種が行われているファイザー・ビオンテック社のワクチンは、
有症状の感染にはやや劣るものの、
無症状感染でも高い予防効果が確認された、
というデータが出揃いつつあり、
日本でも同様のデータの蓄積に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ビニールの城」(唐組・第67回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ビニールの城.jpg
唐組で2019年に上演された「ビニールの城」が、
今新宿の花園神社で再演されています。

これは1985年に第七病棟で初演された、
傑作の誉の高い作品で、
2019年の唐組での上演も、
非常に充実した唐イズム溢れる見事な舞台でした。

今回はその待望の再演ということになります。

稲荷卓央さん、藤井由紀さん、久保井研さんという、
2019年の主要3キャストはそのままで、
前回は岡田悟一さんが演じた引田が、
マシュマルウェーブの木村健三さんにスライドし、
バーテンの影山翔一さん、
河合の全原徳和さんも再登板です。

これは今思うと唐先生の戯曲の1つの分岐点、
という感じのするお芝居ですね。

主人公の腹話術師が、
安アパートに住む孤独な中年男で、
生身の存在を受け付けないという、
とても特殊な孤独を身にまとっているんですね。
彼に思いを寄せる元ビニ本の女のモモは、
腹話術の人形と同じ名前の男と結婚して、
疑似家族を作るのですが、
その疑似家族を含めて、
結構生々しい生活感が描写されていて、
この生活感のようなものは、
それまでの唐戯曲には、
あまり姿を見せなかった性質のものだと思います。

その後状況劇場が解散して唐組の時代になると、
生活感のある孤独のようなものが、
むしろ題材としてクローズアップされてくるのですが、
その端緒はどうやらこの「ビニールの城」辺りにあるようです。

そのため、
唐組での上演に、
このお芝居は結構フィットしたのだと思います。

今回は特に1幕がとても良かったですね。
これはもう完璧と言ってもいいくらい。
人物の登場のさせ方もワクワクするすばらしさですし、
謎が次第に露わになって幕切れに至る辺りの構造は、
これはもう唐先生の戯曲の中でも、
屈指の精度だと改めて思います。

この芝居は2幕の前半に動きがあって、
主人公の2人が後半になるまで出逢わない、
というのが1つの特徴なのですが、
そのドタバタもテントならではの活力で表現されていましたし、
ラストの美しさも格別でした。
ただ、肝心のビニール越しにモモが空気銃を撃つ場面は、
2019年の方が抒情に溢れていたように感じました。
これは好みの問題かもしれませんが、
もう少し後半はじっくりとやって欲しかった、
というようには感じました。
下手だけの芝居で、
ちょっとダイナミックさにも欠けていましたよね。

いずれにしても、
唐組の芝居はこれまで全て観ていますが、
最高の1本であることは間違いがなく、
実はもう一度行く予定なのですが、
いつまでテントがあるか分かりませんし、
いつまで行けるかも分かりませんので、
これはもう目と心と肉体に全てを焼き付けて、
悔いのないようにしたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「終わりよければすべてよし」(彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
終わりよければすべてよし.jpg
彩の国のシェイクスピア・シリーズの第37弾として、
「終わりよければすべてよし」が、
今彩の国さいたま芸術劇場でj上演されています。

このシリーズはシェイクスピアの戯曲全37作を、
蜷川幸雄さんの演出で連続上演する、
という企画として始まったのですが、
蜷川さんが亡くなった後は、
吉田鋼太郎さんの演出と座長という形で継続され、
今回で一応最終作ということになりました。

このシリーズは多分3作くらい観ています。

本当はもっと観たい気持ちはあったのですが、
彩の国は僕の守備範囲からはかなり遠いんですよね。
一度電車で行くと、
もうこれはきついな、と思ってしまいます。

3作とも悪くはなかったのですが、
シアターコクーンなどでの上演と比べると、
同じ蜷川演出と言っても、
かなり省エネ的な感じはあるんですね。
セットは大抵大きなオブジェを配置したような、
あまり変わり映えのしないもので、
平均して一定の水準には達しているのですが、
飛び抜けた印象はありませんでした。

吉田鋼太郎さんの演出も、
「アジアの女」とか2本ほど観ているのですが、
かなり蜷川演出のオマージュというか、
コピー的な側面を強く感じました。
まあ師匠ですし、
スタッフも多くが以前の蜷川組だと思うので、
それはまあ仕方のないことだと思います。

ただ、今回の作品は、
蜷川演出とは少し違う手触りもあって、
良かった点で言うと、
主人公以外の脇キャラの造形が、
なかなか深く彫り上げられていた、
という気がしました。
蜷川演出は主役のパッション重視という感じがあって、
脇キャラは主役のパッションに奉仕する、
道具として扱われる、というところがあるんですね。
吉田さんの演出は、
もっと群像劇として成立させようとしている、
という感じがありました。

台詞は声を落とさせない蜷川演出と比べると、
意識的に弱音も使っていました。
ただ、がなるのが得意な役者さんの弱音は、
「聞きにくい小さな声」になるだけのことが多くて、
全体に自然で綺麗な弱音を響かせる役者さんがいないので、
声の魅力には乏しい上演であったのは少し残念でした。
弱音、聞き取れなかったですよね。
これじゃ駄目だと思います。

内容はシェイクスピアとしてはかなりレアな芝居で、
主人公が医者の娘で、
身分の違う貴族の男性と結婚するために、
王様まで利用して、
あの手この手でその夢を実現する、
というかなり特殊な筋立てです。
殆どの登場人物はその娘に好意を持ち、
応援するのですが、
肝心の恋愛相手の貴族だけは、
娘を忌み嫌っている、
というかなりひねくれた設定なのです。

構成的には、
主人公が一旦は死んだことになったりするので、
「冬物語」に似ているのですが、
作品としての完成度はかなり劣っていて、
何よりラストがハッピーエンドなのかそうでないのか、
良く分からないまま終わるという難物です。

その作品を、
吉田さんは最後は座長としてのご挨拶を付け、
道化の大暴れを含めて、
如何にも中世の娯楽芝居という雰囲気を、
濃厚に漂わせながらも、
彼岸花が一面に咲き乱れる舞台など、
蜷川演出のエッセンスを取り入れて、
まずは安定感のある舞台にまとめていました。

特にラストの大団円に至る、
裁判劇的なやり取りの盛り上げは、
吉田さんの演出も冴えていて、
群像劇としてなかなかのレベルであったと思います。

キャストは声は皆今一つで、
台詞の精度はあまり高くないのですが、
さすがに役の掴み方が上手く、
まずは楽しめる演技に高めていました。
石原さとみさんは、
個人的にはあまり好きな女優さんではないのですが、
今回は難役をかなり工夫して、
自分のものにしていたと感じました。
いわゆる「悪声」なので、
あの声は舞台じゃなあ、といつも思っていたのですが、
逆にあの声で間違えようがないですから、
それも活かし方1つなのかな、
というようにも感じました。
こんなことを僕が言うのは僭越ですが、
かなり努力をされていたと感じました。

横田栄司さんが達者なところを見せ、
文学座らしからぬ、
「大柄な橋本じゅん」みたいな芝居でした。
フランス国王役の吉田鋼太郎さんは、
死にたくないのに医療不信というキャラを、
現代に引き付けて肉付けして、
ちょっとずるい感じもしますが、
さすが座長という盛り上げでした。
藤原竜也さんは損な役回りなのですが、
やっていることは鬼畜でも、
何故か憎めないという難しいバランスを、
なかなか上手く表現していたと思います。

裏テーマはおそらく、
虚勢を張った男の弱さで、
それに対する大地のような女性の強さが、
ラストに表現されているものだと思いますし、
原作の趣旨はそれとは別だと思いますが、
そうしたテーマで作品を現代に引き寄せている訳です。

そんな訳で原作がそれほど出来の良いものではないので、
とても面白いという感想にはならないのですが、
随所に工夫のある舞台は見どころも多く、
吉田鋼太郎さんの演出は、
蜷川演出とはまた違った冴えを見せ始めていて、
豪華なキャストの競演も楽しく、
シェイクスピア・シリーズ完結としての、
「終わりよければすべてよし」は、
まずは達成されていたように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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体重減少後のリバウンド阻止における運動とリラグルチドの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リラグルチドと運動のダイエットう効果論文.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年5月6日掲載された、
肥満のダイエット後のリバウンドを予防するために、
薬と運動療法を併用するという、
興味深い臨床試験結果についての論文です。

肥満は世界中で最も大きな健康問題の1つです。

その解消のために、
多くのダイエット法(体重減少法)が開発され利用されていますが、
食べる量を減らして運動する、
ということ以外に、
科学的に有効性の確認されているものはあまりありません。

たとえば入院して1000キロカロリーを下回るような、
低カロリーのダイエットを、
栄養バランスに留意しながら継続し、
適度な運動療法と組み合わせれば、
間違いなく短期的には体重は減少します。

しかし、退院すれば高率にリバウンドが起こり、
体重は短期間で増加に転じることが多いのが実際です。

これは民間の多くのダイエット法にも一致する現象で、
商売としてのダイエットは、
1か月で何キロ減らします、というようなことは言っても、
それを1年維持します、
というような言い方は決してしません。
それは本当に難しいのはリバウンドの阻止であって、
それを約束したら商売にはならない、
ということを知っているからです。

それでは、ダイエット(体重減少)後のリバウンド予防に、
何か有効な科学的方法はないのでしょうか?

リラグルチド(商品名ビクトーザ)は、
GLP-1アナログと呼ばれる糖尿病治療の注射薬ですが、
主に食欲を抑えるような効果により、
体重減少をサポートすることが確認されていて、
海外では単独でも肥満症の治療薬として、
承認されている国もあります。

それでは、このリラグルチドには、
ダイエット後のリバウンドを予防するような作用はあるのでしょうか?

今回の臨床研究はデンマークにおいて、
BMIが32から43と肥満があって糖尿病はない、
トータル195名にまず1日800キロカロリーという、
超低カロリーの食事療法を導入し、
8週間の治療を継続します。
治療終了後には平均で13.1キロの体重減少が達成されました。

この時点で対象者をくじ引きで4つの群に分けると、
コントロール群は通常の生活指導と偽の注射とし、
運動群は専門のインストラクターによる運動療法を継続して偽の注射を施行、
リラグルチド群は通常の生活指導に加えて、
リラグルチドを1日3.0㎎皮下注射し、
併用群はリラグルチドの注射とインストラクターによる運動療法を併用して、
1年間の経過観察を施行しています。
このリラグルチドの3.0mgというのは、
日本で認められている糖尿病での使用量より、
遙かに高用量です。

その結果はこちらをご覧下さい。
リラグルチドと運動の図.jpg
一番上のグレイのラインが、
何もしなかったコントロール群ですが、
対受有は平均で6キロくらいリバウンドしています。

それに比べて緑のラインの運動群は、
2キロくらいのリバウンドに留まっています。
コントロールと比較した差は-4.1キロ(95%CI:-7.8から-0.4)です。

次に青のラインのリラグルチド群は、
有意なリバウンドはしておらず、
コントロールと比較した差は-6.8キロ(95%CI:-10.4から-3.1)で、
最後に赤のラインの併用群では、
明確に開始時より体重減少が認められ、
開始時より平均で3.4キロ減少し、
コントロールと比較した差は-9.5キロ(95%CI:-13.1から-5.9)となっていました。

このように、
運動単独やリラグルチド単独でも、
リバウンドの予防効果は認められますが、
両者を併用することによる効果は顕著で、
今後こうした2段階の治療、
すなわちまず低カロリーで体重減少を短期間で達成し、
それからリバウンド予防の治療にシフトする、
という方法は、
肥満症の治療として、
非常に有効な治療の選択肢となりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「くすりの始め方・やめ方」と「薬の上手な出し方&やめ方」 [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

昨日新型コロナのワクチンの1回目接種だったのですが、
結構痛いですね。
それから昨日の夜から具合は悪いです。
熱はないのですが、
だるさがひどくて、
一回横になると、
とても起き上がるのが辛い、という感じ、
まあこんなものなのかも知れません。

今日は身辺雑記なのですが、
最近酷いな、と思ったことをお話します。

2016年に医学関連の本を出したんです。
こちらです。
くすりのはじめ方.jpg
これね、ライフワークの1つと思って、
結構頑張って書いた本なんですね。

当初の僕の企画は、
「くすりの止め方」だったのですが、
出版社の方で「止め方」だけではバランスが悪いということで、
はじめ方とやめ方をセットにして、
それぞれの病気について2つの項目を記述する、
という形式にしたんですね。

この企画の時点で、
「薬の使い方」みたいな本は山のようにありましたが、
「薬の止め方」についてのまとまった本は、
1つもなかったんですね。

それは当時検索もしましたし、
「この薬を飲んだらいけない」というような、
煽るような本はあっても、
「始めた薬をどのように止めるか」
という理論と技術も含めた科学的な本というのは、
殆どなかったことは間違いがありません。

その意味ではパイオニア的著作という自負はあるのです。
結構良い本だとは今でも思うのですが、
あまり売れませんでした。

この本、別に自費出版ではないのですが、
印税は一切もらっていないんですね。
1円も振り込まれたことがありません。
ただでいいですよ、と言ったつもりはないのですが、
どうしてなのかしら。

何かの手違いなのかも知れませんが、
正直全く分かりません。
売れない本になってしまったので、
申し訳ないなあ、という気分が強くて、
まあ、お金を払わなかっただけいいかな、
というくらいに思って、
そのままにしてしまっています。
出版後特に連絡の来ることもありません。

それはともかく…

この本が出た後に、
有名な地域医療の先生が、
「薬の上手な止め方」みたいな本を、
何度か出しているんですね。

酷いな、パクリじゃん、と思ったのと、
こうなるならやっぱり「薬の止め方」単独の方が、
インパクトがあったのではないかしら、
とそんな風にも思いました。

そんなこんなで本のことも忘れていたのですが、
Amazonから5月9日にメールが来ていて、
僕にお勧めの本として、
「薬の上手な出し方&やめ方」というものを紹介されました。

その画像がこちらです。
くすりのパクり本.jpg
これは2020年3月31日発売の本なんですね。
医学書院ですから大手の医学系出版社からの発売です。

どう思われますかね。

これ、間違いなく僕の本を見ていますよね。
パクリですよね。
表題のバランスとか同じでしょ。
パクリという自覚があるので、
「上手な」とかわざわざ語呂の悪い修飾語を入れたり、
漢字とひらがなをオリジナルと変えているでしょ。

これだけだと、
ただ似ているだけと思われるかも知れませんので、
本文を見てみます。

まずオリジナルから…
コレステロールの止め方.jpg
これはコレステロール降下薬のやめ方についてのページです。

それではこちらをご覧ください。
点眼薬の辞め時.jpg
これはパクリ本の点眼のやめ方のぺージです。

医学書というのは、
まあ大体パターンは決まっているのですが、
それにしても、
ここまで構成が同じというのは、
ちょっと酷いのではないでしょうか?

でもこれは訴えても多分駄目ですよね。
構成は明らかにパクっていると思うのですが、
パクリ本の方は共同執筆で、
ケースのカンファランスみたいなものもあるので、
全く同じということではないので、
「お前の本など参考にしたつもりはない」
と言われればそれまでなのですが、
出版というのは嫌な部分があるのね、
ということは、
根っからの本好きではあるのですが、
切なく思う今日この頃です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ノババックス社新型コロナワクチンの南ア変異株への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
新型コロナワクチンも打ちます。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ノババックスワクチンの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年5月5日ウェブ掲載された、
ノババックス社製の新型コロナウイルスワクチンの、
南アフリカでの臨床試験結果をまとめた論文です。

今日本ではファイザー社によるmRNAワクチンが、
唯一正式採用されて接種されていて、
これから国主導の接種で、
モデルナ社によるmRNAワクチンが接種開始予定ですが、
ノババックス社のNVX-CoV2373ワクチンも、
日本では武田薬品と提携する形で、
今後接種開始が進められているワクチンの1つです。

ノババックス社はアメリカのバイオベンチャーで、
こちらは不活化ワクチンに近いタイプのワクチンです。

これは昆虫の蛾の細胞に、
バキュロウイルスというウイルスを感染させ、
そのウイルスの遺伝子に、
新型コロナウイルス由来の突起部位のタンパク質の遺伝子を発現させて、
蛾の細胞の中で、
新型コロナの抗原タンパク質を大量に作らせ、
それに免疫増強剤(アジュバント)を添加して、
ワクチンにするというものです。
ナノパーティクルワクチンという名前が付いていて、
これは抗原そのものよりも、
少し大きな粒子が産生されるので、
より免疫を強く刺激する作用がある、
ということのようです。

抗原を身体に入れるという意味では、
従来の不活化ワクチンに近いものなのです。

ノババックス社のワクチンの特徴は、
ベンチャー企業で大量にワクチンを作るような工場を持っていないので、
他の製薬企業と提携して、
その企業の工場でワクチンを1から生産する、
という方針であることです。

日本では武田の工場を利用して、
「国産」ワクチンとして製造するという方針であるようですし、
報道では韓国でも、
同様の契約がされているようです。

国内でワクチンを生産出来た方が、
量の調整は見込みも立ちやすいですし、
「国産」ワクチンです、というような言い方も可能なので、
自国で充分なワクチン生産が困難な国にとっては、
都合の良い仕組みなのだと思います。

それではこのワクチンの有効性はどの程度のものなのでしょうか?

まず最初に流行した従来株主体の感染に対する有効性としては、
ファイザーやモデルナ社のmRNAワクチンが、
94から95%という高い有症状の感染予防効果を示していて、
ウイルスベクターワクチンは、
概ねそれよりは低い有効性を示しています。
最近評判の悪いアストラゼネカ社のワクチンでは、
同様の有効性は70%程度です。
一方でこのノババックス社製ワクチンの有効率は、
89.3%というイギリスでの臨床試験データがあります。

ここで問題は変異株、
特に南アフリカ型とされる、
B.1.351株に対する有効性です。

この変異株に対するアストラゼネカ社ワクチンの有効性は、
全く確認されなかったからです。

今回の臨床試験は南アフリカで施行されたもので、
遺伝性解析された41例の感染事例のうち、
92.7%に当たる38例はB.1.351変異株ですから、
ほぼ全てが変異株に置き換わった流行における、
ワクチンの有効性を見ている、ということになります。

6324名を登録してくじ引きで2つの群に分けると、
一方はノババックス社製ワクチンを3週間間隔で2回接種し、
もう一方はただの食塩水を接種して、
その後12か月の経過観察を施行しています。
ただ、今回については2回目の接種後7日以降、
概ね1か月程度の期間の観察結果が報告されています。
実際に1回以上の接種が施行されたのは4387名です。

登録の時点でほぼ30%の患者は新型コロナの抗体は陽性で、
登録時点で陰性であった2684名のうち、
94%はHIVは陰性で、6%はHIVは陽性でした。
ワクチン接種群のうちの15名と、
偽ワクチン使用群の29名が、
観察期間中に新型コロナウイルスに感染が確認されていて、
ここからワクチンの有効率は、
49.4%(95%CI:6.1から72.8)と算出されました。

HIV陽性者では、
免疫の低下によりワクチンの有効性は低下が予測されるので、
HIV陰性者でのみ解析すると、
ワクチンの有効率は、
60.1%(95%CI:19.9 から80.1)と算出されました。
事後解析として、
B.1.351変異株のみの有効率を計算すると、
51.0%(95%CI:-0.6から76.2)となりましたが、
ばらつきは大きく、
あまり信頼性の高い結果ではありません。

ワクチンの安全性については、
だるさや痛みなどの症状については、
mRNAワクチンの同種の調査よりは明らかに少なく、
トータルには副作用や有害事象は少ないという結果でした。
ただ、数例ですが重症の有害事象の報告もあり、
今後もっと多数例での検証が、
必要とは考えられます。

このように、
ノババックス社の新型コロナウイルスワクチンは、
南ア変異株の感染に対しても、
一定の有効性は確認されました。

今後変異株に適合したワクチンの開発も進むと思われますが、
現状は個々のワクチンの特性を考慮しつつ、
その検証を積み上げて行くしかなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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