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「吸血鬼ドラキュラ」(1958年ハマーフィルム) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
吸血鬼ドラキュラ.jpg
かつてのイギリス、ハマーフィルムの最高傑作にして、
映画史上最高の怪奇映画の1つ、
「吸血鬼ドラキュラ」の日本公開時のポスターです。

この頃のポスターは素敵ですね。
これ、昔の見世物小屋や芝居小屋の、
「絵看板」の技術を応用しているんですね。
本国やアメリカのポスターとは全く別物なんですよね。
これは現物は物凄い高価に取引をされていると思いますが、
とてもとても魅力的です。

実は昔「怪奇映画」に嵌っていて、
今はもうそれほどの執着はないのですが、
一時は輸入のレーザーディスク(懐かしいですね)を買い漁ったりして、
相当入れ込んでいました。

今の人はもう、
物に対する執着というのはあまりないでしょ。

映画も別にDVDやブルーレイなどで、
コレクションとして形で残さなくても、
ストリーミングでその時だけ見られれば、
それで満足なんですよね。

そのこと自体が一時は信じられない気持ちがしましたが、
今では大分物への執着が抜けて来て、
「残さなくてもいいかな」と思う気持ちが強くなって来ています。

物への執着というのは、
多分次第に人間の心の中から、
なくなってゆく概念である、
という気がします。

さて、怪奇映画というのは映画の始まりの頃からあって、
サイレントの時代には藝術の1ジャンルでもあったのですね。
フランス映画の「アッシャー家の末裔」とか、
ドイツ表現主義の「カリガリ博士」とか、
ドライヤーの「吸血鬼」とか、
音のない世界ならではの純粋さがあって、
トーキー以降より明らかに藝術性の高い作品なんですね。
端的に言えば、
トーキー以降映画は藝術から娯楽になったのです。
ただ、その一方でロン・チャニイの「オペラ座の怪人」など、
サイレントでも娯楽映画に振れた作品もあって、
それがトーキーになってアメリカで、
ユニヴァーサルのモンスター映画として、
一大ブームを巻き起こします。
吸血鬼ドラキュラ、狼男、ミイラ男、フランケンシュタイン(の怪物)は、
4大モンスターと呼ばれて次々と続編が製作されました。
これが1930年代のことで、
その後1940年代からはSFブームになり、
ユニヴァーサルの怪奇映画は、
モンスター映画としてマンネリ化して下火になったのです。
そこで第二次世界大戦が挟まり、
戦後になってユニヴァーサル映画のかつてのモンスターを、
色彩映画(ユニヴァーサル映画はほぼ全てモノクロでした)として復活させたのが、
イギリスの弱小プロダクションのハマーフィルムだったのです。

ハマーフィルムの黄金時代は、
1957年から1965年くらいまで。
1960年代後半になると、
もうだいぶ活力は落ちた感じになって、
1960年代後半にロメロのゾンビ映画第一作、
「ナイト・オブ・リビング・デッド」が公開されると、
怪奇映画は今のホラー映画に徐々に姿を変えることになるのです。

これがざっくりとした歴史の流れですね。

さて、ハマーフィルムの本格的色彩怪奇映画の第1作が、
「フランケンシュタインの逆襲」で、
第2作がこの「吸血鬼ドラキュラ」です。

ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」はかなり長い小説で、
原作に近い映画化もない訳ではないのですが、
通常はこれを原作にした舞台劇があって、
それを元にして映画化されることが常道です。

ただ、この「吸血鬼ドラキュラ」は、
舞台劇より原作を元にして、
それを大きくリライトした脚本になっています。

監督のテレンス・フィッシャーはハマーを代表する名匠で、
ドラキュラ役はクリストファー・リー、
対決するヴァン・ヘルシングはピーター・カッシングで、
当時のゴールデンコンビです。

この映画は色彩が美しく、
一世一代の当たり役であったリーのドラキュラ以外にも、
吸血鬼に変貌する女優さんの演技が、
非常に素晴らしいんですね。
CGも何もない時代ですから、
本当に表情の演技勝負なのですが、
十字架をヘルシングに突きつけられて醜悪な怒りを見せるところなど、
こちらも一世一代の怪物演技が素敵です。

この映画には1つの逸話があって、
ラストのドラキュラの最後に幾つかの違ったヴァージョンがあり、
そのうち最も長尺のものが日本公開版だったのですね。
ただ、その後テレビで放送された時も、
海外公開の短縮版が放送され、
その後ビデオやDVDになっても、
その元になっていたのは短縮版でした。

この日本(極東)ヴァージョンは、
京橋のフィルムセンターに保存されていて、
極稀に「怪奇幻想映画特集」のような上映会があった時のみ、
フィルムセンター内の映画館で公開されていました。

それが、フィルムセンターの保管庫が火事になり、
ドラキュラのフィルムも焼けてしまったんですね。
これでもう万事休すかと思われたのですが、
実は後半の何巻かのフィルムリールは無傷で残されていて、
イギリスからの依頼により、
本国で日本版のフィルムがブルーレイ化されることになったのです。
これが2013年のことで、
多くの怪奇映画ファンにとって、
何と50年以上夢でしかなかったことが、
本当に最近になって現実になったのです。

その伝説の映像がこちら。
(厳密にはオリジナルの極東版ではない画像です)
https://www.youtube.com/watch?v=ssvgMHCa45s

ただ、日本での極東版のソフト化は、
今のところまだないようです。

僕はこの映画は、
キネマ旬報の怪奇幻想映画特集に、
シナリオ採録があって、
それを何度も読み込んで、
「見たいなあ」と思いながら果たせず、
実際に見ることが出来たのは、
大学時代にNHKBSで放映された時が最初でした。
勿論短縮版です。
今はyoutubeで簡単に見ることが出来るのですが、
それが本当の意味で「見る」と言っていいのか、
疑問に思う部分もあります。
でもそれはもう世の流れなので仕方がなく、
多くの「伝説の名作」も、
こうして動画サイトでさらされて、
ドラキュラの土くれになる最後のように、
消費され摩耗して滅んでゆくのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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