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副腎偶発腫からのコルチゾール分泌と生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コルチゾールの自動産生と予後.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2021年5月25日ウェブ掲載された、
副腎腫瘍から分泌される過剰なステロイドホルモンの、
生命予後への影響を検証した論文です。

クッシング症候群という病気があります。
これは副腎に出来たしこり(多くは腺腫)から、
ステロイドホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌され、
それが身体に影響を与えて、
特徴的な中心性肥満と呼ばれる肥満や、
糖尿病や高血圧などの全身疾患を引き起こす病気のことです。

この病気の診断のための検査として、
デキサメサゾン負荷試験という方法があります。
これは強い合成ステロイドであるデキサメサゾンを、
少量(通常0.5㎎)で寝る前に飲んでもらい、
その翌日朝にコルチゾールを測定して、
その数値が5μg/dL以上であれば、
この病気の可能性があるとして、
次のステップに進む、という方法です。

正常がホルモン分泌調整がされている状態では、
デキサメサゾンを飲めば体はステロイド過剰な状態と判断するので、
ステロイドの分泌を抑えてしまうのですが、
副腎腺腫はそうした調節はされないので、
ホルモン値は下がらないのです。

ただ、実際にはクッシング病の症状はないのに、
副腎にはしこりがあって、
ホルモン値にも軽度の異常が認められる、
というようなケースがしばしば認められます。

こうしたしこりを副腎偶発腫(Adrenal Incidentaloma)と呼び、
それによる軽度のホルモン異常を、
副腎性サブクリニカルクッシング症候群と呼んでいます。

副腎性サブクリニカルクッシング症候群の診断にも、
通常デキサメサゾン抑制試験を行ないます。
この場合は1㎎のデキサメサゾンを夜飲んで、
翌日のコルチゾールが3μg/dL(83nmol/L)以上であると、
異常の可能性がある、という判断をしています。
(これは日本の診断基準で、
上記文献にある副腎ホルモン自発性分泌の基準では、
1.8μg/dL(50nmol/L)未満が正常で、
1.8から3μg/dL(50から138nmol/L)が疑いあり、
3μg/dL(138nmol/L)以上であれば確定、
というガイドラインが示されています)

それでは、こうした軽度のステロイドホルモンの増加が、
それ自体でどのくらいの影響を、
患者さんの生命予後にもたらすのでしょうか?

今回の研究はスウェーデンの2か所の専門施設において、
副腎偶発腫と診断された患者1048名にデキサメサゾン1㎎抑制試験を行ない、
中央値で6.4年の経過観察を行なって、
その生命予後とデキサメサゾン抑制試験でのコルチゾール値との関連を、
比較検証しています。

その結果、
正常反応とされる1.8μg/dL(50nmol/L)未満と比較して、
1.8から3μg/dL(50から82nmol/L)では、
有意な死亡リスクの増加は認められませんでしたが、
3から5μg/dL(83から137nmol/L)では、
死亡リスクは2.30倍(95%CI:1.52から3.49)有意に増加し、
5μg/dL(138nmol/L)以上では、
死亡リスクは3.04倍(95%CI:1.86から4.98)と、
よりリスクは増加していました。

このように、
副腎偶発腫との診断であっても、
デキサメサゾンの1㎎抑制試験において、
3μg/dLを超えるようなコルチゾール値では、
死亡リスクは明確に増加が認められるので、
今後はこうしたデータも元にして、
積極的な手術を含めた治療の議論に、
結び付ける必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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