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変異株検査の不透明さを憤る [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

今日は最近驚いて憤ったことを話します。

クリニックでは発熱外来を行なっていて、
RT-PCR検査については大手の検査会社に検査を依頼しています。

以前も話題にしたように、
最初は結果が出るのに2日以上掛かり、
もっと早く結果を出して欲しいと言うと、
PCRの検査機器を変えることにより、
より迅速に結果を出すことが可能だと言われました。

精度に問題はないのかと聞くと、
それについては問題はない、という話だったので、
それなら早く結果の出る機器で検査をして欲しい、
という話をして、
そうした対応が取られることになりました。

ただ、実際にはそれほど結果が早く出るようになった訳ではありません。
翌日には結果のファックスが届くようになりましたが、
それは検査機器にはよらなかったようです。
2021年の3月以降は、
検査翌日の午後2時くらいに結果が届くようになったのですが、
それはどうやら検体数が少なかったからのようで、
検体数が多かったり検査でトラブルがあると、
翌日の夜になってしまうようなこともありました。

最近問題になっているのは勿論変異株です。

当初は一部の研究施設や大学病院、
感染症研究所でしか検査が出来なかったので、
検査会社から検体提出の指示があり、
それを感染症研究所に持ち込んで、
遺伝子解析が行われる、
というような段取りであったようです。

それが最近になって、
多くの検査会社でも、
おそらく多くはN501Yのみの検出だと思うのですが、
検査が可能になり、
陽性の事例においては、
全例で変異株の検査も同時に行われるようになりました。

その話を聞いたので、
数日前にクリニックで契約している大手の検査会社の、
営業担当の方に質問をしました。

変異株の検査はしているのですか、と聞くと、
疫学調査として感染症研究所から依頼があり、
自社で検査を行なっている、という答えでした。
陽性者は最近も複数出ているのですが、
変異株かどうかという点については、
一度も検査会社から連絡が来たことはありませんし、
それが結果報告書に記載されていた、
ということもありません。
それで、
「うちの出した検査でも変異株が検出されたことはあるのですか?」
と聞くと、
クリニックの検査を行なっている機器は、
変異株の検査に対応していないので、
今のところ検査はしていません、
という驚くような答えが返って来ました。

つまり、
その検査会社では2つの機器を用いてRT-PCR検査をしていて、
その一方は簡単に対応出来るので、
もう全例で変異株の検査をしているけれど、
クリニックが早く結果が出て精度は変わらない、
という触れ込みで選択した機器については、
対応が難しいので一切検査はしていない、
ということなのです。

仮にそうであるとしたら、
同じように検査をしているにも関わらず、
ある患者さんでは変異株の検査がされ、
別の患者さんでは、
他の条件は全く同じであるにも関わらず、
変異株の検査はされない、ということになります。

そんな不公平があって良いのでしょうか?

そもそも採用している機器の1つでは、
変異株の検査が出来ないのであれば、
それが分かった時点で、
こちらに説明するべきではないでしょうか?
「今使っている機器では変異株の検査が出来ないので、
どうしますか?」
という説明が当然あってしかるべきではないでしょうか?

しかし、実際にはそんな説明は何もなく、
何1つ事前には知らされてはいないのです。

理不尽なことはこれだけではありません。

今後は変異株の検査をして、
その結果を教えてくれますか、と検査会社に聞くと、
「直接医療機関に通知することは認められていません」
という返事です。

クリニックが依頼して行った検査です。
RT-PCR検査をして陽性であったので、
それで付随して行う検査が変異株の検査である筈です。

にもかかわらず、
その結果は依頼した医療機関に直接伝えてはいけない、
と言うのです。

一体誰が何の権限があってそんな決まりを作っているのでしょうか?

それは国立感染症研究所の指示だ、
という答えでした。

これは伝聞ですので正確ではないかも知れませんが、
少なくとも検査会社の担当者と、
別の検査会社の担当者も同じ答えでした。

感染症研究所の指示により、
検査会社は陽性の検体に対して、
変異株の検査を追加で行なっているのですが、
その結果は直接医療機関に伝えることはせず、
感染症研究所にのみ連絡せよ、
という指示なのです。
感染症研究所はその結果を取りまとめて、
今度は市町村や保健所に結果を流しているのです。
保健所で変異株として処理された後、
今度は保健所から医療機関に通知される、
という段取りであるようです。

これはね、
まだ疫学研究の段階であったり、
抽出して調査をしている、
という段階であれば理解は出来るのですね。

ただ、理解はしても納得は出来ないですね。

あまりに医療機関を馬鹿にしているでしょ。

患者さんの検査に関わる情報というのは、
第一に主治医に報告されるべき事項でしょ。
それを「するな」と言っているんですね。

それはあまりにひどいのじゃないかしら。

しかもね、今は疫学調査の段階ではないでしょ。
もう変異株がまん延していて、
その対策が行われている状況ですよね。
変異株かそうでないかで、
臨床上の対応も変わる事態ですよね。

クリニックがお願いしている検査会社は、
大手の行政検査受託機関であるにもかかわらず、
一部の検査機器でしか変異株の検査はせず、
そのことも聞かれないと教えてもくれない、
という論外の対応ですが、
多くのまっとうな検査会社は、
陽性検体の多くで、
変異株の検査もしているのが実際なんですね。

その今日に至ってなお、
検査結果はすぐには主治医に教えるな、
という対応はこれはあまりにひどいのではないでしょうか?
人外の仕業とでも言うべき蛮行ではないかしら。

まとめるとこういうことです。

皆さんは変異株の検査というものが、
系統的に行われていると思われるかも知れませんが、
実際にはそんなことはなくて、
検査機関によって、
かなり恣意的に検査がされたり、
されなかったりしているのです。
実際に検査がされているのは一部の検体に過ぎないのですが、
検査がされないと「通常株」と同じ対応がされ、
それを誰も疑いません。
そんな状態ですから、
変異株の患者を隔離するとかしないとか、
真面目に議論をする先生がいますが、
それはもうナンセンスの極みなのです。

行政検査をしている検査会社に限れば、
もう全例で変異株の検査は出来る体制なんですよ。
だからそれを義務づければいいのに、
現状はそうしていないんですね。
だから、利潤追求の民間の会社は、
全例での検査はしていないのです。
恣意的な対応を許している現状では、
変異株の広がりの実態など分からないのです。

また、医療機関で検査をすれば、
変異の情報は医療機関に伝えられるのかと言うと、
そうではなくて、
感染症研究所がその情報は一手に握っていて、
医療機関にすぐに情報を流すことを禁じているのです。

末端の医療機関もね、
非力なことは承知の上で、
精一杯頑張っているのですよ。
それでこの仕打ちはないのじゃないかなあ。

今日は少し落ち着いていますが、
昨日はかなり自暴自棄になってしまいました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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吸入ステロイドの新型コロナウイルス感染症初期治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ブデソニドの新型コロナに対する効果.jpg
Lancet Respiratory Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入ステロイドによる初期治療の有効性についての論文です。

吸入ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
有効なのではないかという知見は、
日本では第1波の流行初期の時点からあり、
臨床的には実際に試みられて、
一般向けのニュースにさえなっていました。

それはシクレソニド(商品名オルベスコ)という、
ややマイナーな吸入ステロイドについての知見でした。

オルベスコを使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の予後が劇的に改善し、
それはオルベスコに特異的な、
抗ウイルス作用によるらしい、という情報でした。

ただ、他の吸入ステロイドでは効果がなく、
オルベスコのみが有効というのは、
あまり説得力のない見解で、
その抗ウイルス作用は国立感染症研究所で行われた、
基礎研究のデータによるという説明でしたが、
その時点でそうしたデータは公開されていなかったので
(その後確かにデータは論文化されましたが、
あまり話題にする人はいませんでした)、
その話を信用した方が良いのか悪いのか、
迷うような思いもありました。

吸入ステロイドは気道の炎症を抑え、
喘息発作などの急性増悪を予防する効果があるので、
新型コロナウイルス感染症に伴う、
急激な呼吸器症状の悪化を、
予防するのではないか、という期待があります。

その一方でステロイドは免疫を抑制しますから、
感染症や肺炎はむしろ増悪するというリスクも否定は出来ません。

その後オルベスコの有効性は、
あまり声高に言う人がいなくなり、
国立国際医療センターで少数例での臨床試験が行われて、
オルベスコを使用した方が肺炎の発症が多かった、
という結果であったので、
「オルベスコは無効」と報道され、
日本でのオルベスコによる新型コロナ治療は、
一気にしぼんでしまいました。

この顛末はどうも不可解なところが多いのです。

それほどの根拠がないのに、
まるで特効薬のように扱われ、
臨床でも積極的に使用されたのも強引で不思議ですし、
その一方でオルベスコが無効とされた臨床試験も、
とても精度の高いものとは思えず、
オルベスコを完全否定する根拠としては脆弱なのに、
それで使用が打ち切りになったのも不思議です。

それはともかく、
吸入ステロイドによる新型コロナウイルス感染症治療は、
日本では消えうせた一方で、
海外ではそれなりに注目を集めるようになってきています。

上記文献のロジックでは、
まず喘息やCOPDの患者さんで、
意外に新型コロナウイルス感染症の重症事例が少ない、
という知見が紹介され、
その原因として吸入ステロイドの存在がクローズアップされた、
という流れになっています。
そこでは国立感染症研究所の、
オルベスコが新型コロナウイルスの増殖を抑制した、
という基礎実験の論文も引用されています。

日本での当時の主張は、
オルベスコのみが有効だ、
というやや奇怪にも感じるものでしたが、
海外での論調は、
特定の薬剤ということではなく、
吸入ステロイド自体に有効性があるのでは、
という主張で、
こちらの方が理に適っているという気がします。

今回の臨床試験はイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症と診断された軽症の患者さんのみを、
くじ引きで2つの群に分け、
症状出現から7日以内に、
一方は通常の治療のみを行ない、
もう一方は吸入ステロイドで、
世界的には最も評価の高いブデソニド(商品名パルミコート)を、
1日3200μg(日本の上限用量の倍)という高用量吸入して、
症状改善まで持続します。
偽薬は使用しない試験です。
146名の患者が登録され、
73名ずつがブデソニド群とコントロール群に振り分けられています。

その結果、
病状の重症化はブデソニド群の3%と、
コントロール群の15%に認められ(intension to treat解析)、
ブデソニドの吸入により、
患者8人の使用で新型コロナウイルス感染症の重症化を1人予防可能、
という有効性が認められました。
またブデソニドの使用は症状回復までの期間を1日短縮し、
有熱期間も短縮することが示されました。

このように、
今回の検証ではかなり明確に、
高用量の吸入ステロイドを病初期に使用することにより、
重症化の予防と早期治癒の促進が認められていて、
病初期に使用するような薬剤で、
これまでに明確な効果の示されたものはなかったですから、
かなり画期的な知見であると言って良いと思います。

ただ、こうした研究としては例数は少なく、
偽薬が使用されていないなど、
試験のデザインにも甘い部分があります。

今後のより厳密な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2021年4月14日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は新型コロナウイルス感染症の、
クリニック周辺での状況です。

2021年の2月と3月は、
クリニックの発熱外来のRT-PCR検査でも、
殆ど陽性者はいない、という状態が続きましたが、
4月に入ってからは明らかに増加傾向が認められ、
毎日数名の陽性者がコンスタントに認められる、
という状況が続いています。

最近の傾向としては、
症状は咳込みが多く、
会食はおろか、仕事もリモートで、
買い物以外は殆ど家から出ない、
というような人でも、
感染が確認される、
というようなケースが、
しばしば認められるようになっています。

市中感染が広がるようになると、
こうした状況になるのだなあと、
そんな思いもあるのですが、
もう症状からは全く普通の風邪と新型コロナの見分けは付かない、
というのが臨床医としての実感です。

感染者はまた増えていますが、
保健所の体制や対応は、
第1波から3波の時のような、
力の入ったものではなくなっています。

以前は本当に朝早くから夜遅くまで、
連絡をすれば発生届は受け取ってくれて、
相談にも乗ってくれたのですね。

それが数日前にショックを受けたのですが、
午前8時前に患者さんに陽性の連絡をして、
それから午前8時10分にいつも連絡している電話に、
発生の連絡を入れたのですが、
電話に出たのが担当の課長さんで、
開口一番、
「まだ就業時間前です」と一方的に宣言されると、
こちらの事情も聴かずに、
向こうから電話を切ってしまわれました。

こんな対応は初めてであったので、
医療現場と保健所の温度差というのか、
トップがそのような事務的な対応で、
他人の話に聞く耳を持たないという態度に、
とてもショックを受けて力が抜けました。

勿論就業時間以降でもう一度連絡を入れて、
詳細を説明しました。
その時は部下の方が電話に出たので、
とても真摯な対応でした。

なんだかなあ、という感じです。

それからこんなこともありました。

先日濃厚接触者に認定された、
という男性が受診をされて、
お話しを聞くと特に症状はなく、
感染者に接触したのは2日前というお話しであったので、
RT-PCR検査をするのであれば、
接触から5から7日目くらいが最も適切で、
今慌てて検査をするよりも、
数日待って検査をした方がいい、
という話を結構念を入れてしました。

その時は分かって頂いたと思ったのです。
それで、3日後に検査の予約をしてお帰り頂いたのですが、
それから1時間もしないうちに電話があって、
「ともかく今日検査をさせろ」
と矢の催促です。
「それでは感染しているかどうか、本当の意味では分かりませんよ」
ともう一度そう説明しましたが、
聞き入れることもなく、
その日結局検査をすることになりました。
結果は陰性で、
本人は「そうか、そうか」と大喜びです。
「まだ分かりませんよ」というお話しはしましたが、
内心はもう、
検査が陰性だから感染していない、
と思い込んでいることは明らかで、
無力感を覚えつつその日の仕事を終えました。

こうしたことを沢山経験すると、
人間は結局信じたいことしか信じず、
自分が結論を決めている時には、
何を言っても無駄な生き物なのだ、
という考えに至るので、
勿論仕事ですから説明はするのですが、
無益な説得はしないようにしています。

ワクチンはようやく5月中旬から、
僕達のような末端の医療者の接種が開始されることが決まりました。
同時期から高齢者の集団接種も始まり、
その手伝いにも行く予定です。

全てが遅々として進みませんが、
まあこんな社会で物事が早く進む筈もありませんよね。

あせらず、出来ることを積み重ねるしかないのだと、
半ば達観しつつ日々を送っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アストラゼネカ社新型コロナワクチン接種後の血栓性血小板減少症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アストラゼネカ社ワクチンによる誘発される血栓症の特徴.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
アストラゼネカ社などによる、
新型コロナウイルスワクチンによる、
稀な血栓症のメカニズムを検証した論文です。

アストラゼネカ社とオックスフォード大などによる、
共同開発の新型コロナウイルスワクチン(ChAdOx1)は、
今日本で正式採用されているファイザー社のワクチンとは異なる製法の、
ウイルスベクターワクチンです。

このワクチンは主にヨーロッパで広く接種が行われていますが、
そこで最近問題となっているのが、
接種後に血栓症を伴う血小板減少症の発症が、
報告されていることです。

これは頻度としては低いものなのですが、
他のワクチンでこれまであまり見られていない副反応であり、
そのメカニズムを含めて注目をされています。

偶発性のものではなく、
ほぼ間違いなくワクチンの成分か、
その作用が誘発したものと、
現時点で理解されています。

まず、上記文献にある典型的な事例をお示しします。

患者は持病のない49歳の医療従事者の女性で、
2021年2月中旬にドイツでアストラゼネカ社ワクチンの接種を受けています。
接種日を0日とした時、
1日以降で数日だるさや頭痛などの症状があるも改善。
しかし、5日より寒気と発熱、吐き気と腹部不快感が出現、
10日に病院を受診しました。
受診時に血小板が18000と著明に低下を認め、
血液の血栓症の指標であるDダイマーは、
35mg/L(正常0.5未満)とこちらは著明に上昇していました。

新型コロナウイルスのRT-PCR検査は陰性でした。

CT検査により肺血栓塞栓症と門脈塞栓症の所見を認め、
血栓性血小板減少症と診断されました。

臨床症状はこの時点では、
胃のむかつき意外には特にありませんでした。

血栓症改善目的で、
抗凝固剤のヘパリンが投与されたところ、
その後数日で急激に病状が悪化。
広範な消化管出血に腹水も伴い、
11日に脳静脈洞血栓症(剖検にて判明)で死亡となりました。

このケースは当初、
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と思われました。

この病気はヘパリンという抗凝固剤使用時に起こる、
稀な合併症とされているものです。

ヘパリンは抗凝固剤で、
通常は血栓症などの時にその改善のために使用される薬ですが、
稀にその使用により、
逆に血小板が活性化されて、
血小板が減少するとともに全身の血栓塞栓症が起こる、
という病態があることが報告されています。

これがヘパリン起因性血小板減少症です。

治療をしたら、逆効果で、
却って病状が悪化するというのですから、
臨床医にとっては非常に怖い病態です。

何故こうした現象が起こるのかと言うと、
投与されたヘパリンが血小板第4因子という、
血小板機能の活性に関わる物質に結合し、
それに対する抗体(HIT抗体)が産生されることによって、
血小板の高度の活性化が起こり、
血小板の減少と血栓塞栓症が生じると考えられています。

一種の自己抗体が作られる訳ですが、
何故そうしたことが稀に起こるのか、
と言う点については明確には分かっていません。

上記の事例の患者さんは、
経過としてはヘパリンで悪化して血栓症を来しているので、
その後半の部分だけを見ると、
間違いなくヘパリン起因性血小板減少症と思われます。

しかし、この患者さんはそれまでにヘパリンの使用歴はなく、
血小板減少や血栓症自体は、
ヘパリンの投与前から起こっている、
という点が根本的に違います。

ヘパリンがこの病状を悪化させていることは確かですが、
ヘパリン以外にこの病態を生じさせたものがある筈です。

そこで容疑者として浮かび上がるのが、
新型コロナワクチンの接種です。
接種後5日目から病状が悪化しているという経過は、
ヘパリン使用による悪化と、
ほぼ同じ期間をおいて発症しているという点では、
同様の自己抗体を介したメカニズムが関与しているように思われます。

たとえば、
ワクチンに含まれる何らかの成分が、
ヘパリンと同じように血小板第4因子と結合して、
血小板を活性化させたのでは、
という可能性です。

ドイツ国内の検証では、
トータルで11名の同様の患者がリストアップされました。
いずれも同じアストラゼネカのワクチン接種後に、
血栓性血小板減少症を来しています。

そのうちの9人は女性で年齢の中央値は36歳です。
症状はワクチン接種後5から16日の間に発症していて、
1例の脳内出血で死亡した事例を除いては、
複数の血栓塞栓症を併発しています。
脳静脈洞血栓症が9件、腹部静脈血栓症が3件、
肺血栓塞栓症が3件、その他の血栓症が4件となっていました。
11名中6名は死亡しています。

11名全てがヘパリン使用の既往はありませんでした。

11名のうち検査が可能であった9名において、
HIT抗体は陽性で、
血小板第4因子の投与により、
血小板機能が亢進し、
血小板が凝集することも確認されました。
これはいずれもヘパリン起因性血小板減少症に、
一致する所見です。
その一方でこの血小板の活性化は、
高用量のヘパリン投与により阻害されていて、
充分量のヘパリンは決して病態に対して、
悪い影響は及ぼさないという点が異なっています。

以上のように、
この稀な新型コロナワクチンの副反応は、
ヘパリン起因性血小板減少症に、
非常に似通った経過を取り、
血小板第4因子がその病態に関わっていることは、
間違いがありません。

それがワクチンのどのような成分や、
どのような機能と関連しているのかは、
まだ今の時点では推測の域を出ませんが、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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降圧治療と海馬容積との関連(SPRINT試験サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
降圧治療と海馬の縮小.jpg
JAMA Neurology誌に、
2021年3月8日ウェブ掲載された、
強力な降圧治療が脳に与える影響についての論文です。

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果が検証されました。

SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を設定したのです。

その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
収縮血圧を120mmHg未満とすることを目標とする、
厳格な血圧コントロールは、
通常のコントロールと比較して、
心血管疾患のリスクを低下させることは間違いなく、
認知症のリスクも軽症の時点では低下させる可能性が高い、
という結論になります。

それでは仮に血圧の低下が認知症の進行を予防するとして、
それはどのようなメカニズムによるものなのでしょうか?

認知症の主体はアルツハイマー型認知症のような、
脳の変性に伴うもので、
脳梗塞などの血管の異常による認知症とは別物です。
ただ、心血管疾患を予防するような治療は、
アルツハイマー型認知症の予防にも有効、
というような知見は多くありますから、
満更両者が無関係、という訳ではありません。

今回の検証ではSRRINT試験の登録者のうち、
複数回のMRI検査を施行された673名を対象として、
降圧治療の違いによるMRI検査における認知症指標の違いを、
比較検証しています。

その結果、
他の認知症関連マーカーには、
通常の降圧治療と厳密な降圧治療との間で、
有意な差は認められませんでしたが、
記憶に関連の深い海馬容積は、
若干ながら厳密な降圧治療群で低下する傾向が認められました。

今回の結果は、
トータルには降圧治療による明確なMRI指標の変化は、
認められなかった、というものですが、
厳密な降圧治療により、
若干ながら海馬が萎縮していたという結果は、
興味深いもので、
今後認知症発症との関連を含めて、
より精密な検証の行われることを期待したいと思います。

海馬の萎縮を強調したような医療ニュースがありましたが、
上記論文の内容は基本的には有意な脳の変化は、
MRI上では見付からなかった、というもので、
臨床的には厳密な降圧治療の方が、
認知症予防にも良いというSPRINT試験の結論が、
変更されるような性質のものではないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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チャイコフスキー「イオランタ」(2021年新国立劇場上演版) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イオランタ.jpg
新国立劇場で、
2本の短いオペラを同時上演する、
ダブルビルの試みが行われています。

今回上演されたのは、
ストラヴィンスキーの「夜鳴きうぐいす」と、
チャイコフスキーの「イオランタ」で、
どちらも有名な作品ではありますが、
実際に国内で上演される頻度は、
決して多くはありません。

元々は海外から招聘された歌手が、
メインの役柄にキャスティングされていましたが、
コロナ禍で来日は適わず、
ほぼ国内キャストの布陣での上演です。

これね、それほど期待せずに足を運んだのですが、
チャイコフスキーの「イオランタ」が絶妙に面白くて、
ちょっと感動的でオペラには珍しく少し泣いてしまいましたし、
もっと上演して欲しいなと思いました。

これはチャイコフスキーの晩年のオペラで、
全1幕95分ほどの短い作品なのですが、
物語もとてもユニークで面白いですし、
曲も得意のドラマチックな盛り上げまくりで充実しています。

途中の長大な二重唱はワーグナーみたいですし、
最後にはロッシーニみたいなフィナーレが付いているでしょ。
オペラの色々な魅力がぎゅっと詰まっていて、
途中は感動しますしラストは盛り上がって、
それでいて短いのですから言うことがありません。

お話はね、フランスのプロヴァンスのお姫様が、
絶世の美女だけれど盲目、という設定なんですね。
生まれついて目が見えないのですが、
それを周囲の臣下の人達がサポートして、
不自由なく暮らせるような「秘密の国」を作っているんですね。

面白いのはお姫様に、
見るという行為などはなくて、
人間は触れて感じるのが当然、
と信じ込ませているのです。

だから、そこでは「見る」とか「見える」とか、
「色」というのは禁句なんですね。

そこに青年貴族がやって来て、
何も知らずに「君目が見えないの?」とかと言ってしまうので、
さあ大変、という展開になります。

丁度世界的名医という人がやって来て、
王様に「お姫様の治療をしたい」と言うのですが、
そのためには本人が自分が目が見えていない、
ということを認めて治療を強く希望しないといけない、
と言うので、
王様は「今更そんなことを告げて、ショックを与える訳にはいかない」
と拒否するのです。
そんなときに娘が真実を知ってしまうので、
結果的にお姫様は治療を受け入れ、
目が見えるようになったお姫様は貴族と結婚して、
祝祭的なエンディングになります。

これね、
「光が見えないことは神に近づけないことだ」
みたいな台詞もあるので、
昔の話だし、
ちょっと差別的ではあるのですね。
ただ、テーマ的にはそうしたことではなくて、
貴族は王様に、
「娘さんの目が見えても見えなくても、私は彼女を愛する」
と言うんですね。
それで最終的には王様も治療を決断するのです。

要するに、
困難から目を背けて、
それがないことにして良しとしていても、
それでは絶対に解決はしない、
ということを言っているんですね。
それを認めた上でリスクを取ることにより、
未来は開けるのだ、と言っているんですね。

今の感覚から言うと、
その困難の例として視覚障害を取り上げるのは、
不適切ではあるのですが、
それは昔の話なので仕方がないのです。
本質はそれに意味を強く置いているということではないのですね。

その意味でとても今日的なテーマでもあると感じました。

キャストは王様のベテラン妻屋秀和さんと、
主人公のイオランタ役の大隅智佳子さんが良かったですね。
特に大隅さんは抜群の歌唱で引込まれました。

先日の「ワルキューレ」でも、
ジークリンデとブリュンヒルデは良かったですし、
日本のドラマチックソプラノは、
とてもレベルが高いなあ、と感心しました。

今回の大隅さんの歌唱は、
海外のスター歌手と比較しても、
全然遜色はないと思いました。

一方でテノールは弱いですよね。
「ワルキューレ」の時もこれじゃなあ、と感じましたし、
今回もあ「あれれっ」という感じでしたね。

それでもこうした事態を逆手にとって、
「日本のオペラ」が成熟することを期待したいと思いますし、
今回はとても感銘を受けた公演でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ノマドランド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノマドランド.jpg
中国系のクロエ・ジャオ監督がメガホンを撮り、
フランシス・マクドーマンドが主役を演じて製作にも名を連ねた、
詩情溢れる2020年製作のアメリカ映画を観て来ました。

これはとても良かったですよ。

静かで淡々とした映画なので、
体調によっては寝てしまうリスクはあるのですが、
僕に関して言えば全然眠くはならなかったですよ。
画面が美しいし力があるんですね。
言葉もシンプルで深いので、
「ああ、いいなあ」と思いながら名残惜しく観終わった、
という感じでした。
暗い話ではあるのですが、
不思議と鑑賞後の気分は清々しく穏やかです。

こういう映画は今、
意外に少ないですね。

ここで言う「ノマド」というのは、
アメリカの車上生活者のことなんですね。

それも主に経済的理由で家を失ったり、
家族を失うなどとてもつらい出来事があって、
そこから立ち直ることが出来なかったりした高齢者が、
「もう死ぬまで定住はしない」と決めて、
そうして旅をしている、という話です。

1984年に鈴木清順さんと加藤治子さんが夫婦を演じた、
「みちしるべ」というNHKのドラマがあって、
あれは病気の妻と一緒に、
2人でバンで旅をする話でしたが、
感覚的にはあれにとても近い感じですね。
あのドラマを観て、
大分の熊野摩崖仏に行きたくなって、
数年後に行きましたが、
多分そうした人も多かったですよね。
あれもとても心に残るドラマでした。

車上生活なんですが、
ロジックがあるんですね。
主人公が「お前はホームレスか?」と言われるところがあるんですが、
「ホームレスじゃない、ハウスレスなだけだ」と言い返すんです。
全身に好きな歌詞の入れ墨を彫っているノマドがいるのですが、
「故郷(ホーム)は心の中にしかない」と言うんですね。
ノマドの長老みたいな人は、
「自分達はもうさよならと言うのが嫌だから、
それをしないために旅をしているんだ。
旅には終わりはないから」みたいなことを、
うろ覚えなので正確ではないと思いますが、
言うんですね。

シンプルで分かりやすく、
そして深いですよね。

アメリカでは日本より、
「家」というものの重みが大きいのだと思いますし、
かつては日本の家を「ウサギ小屋」と馬鹿にしたでしょ。
そのアメリカ人すら、
「家」に幻滅して、それを捨てている、
ということなんですね。
家族の絆も否定し、伝統も否定し、過去を否定し、
権威も否定し、
遂には家まで否定して、
これが進歩と言えるのかしら。
ただ単に滅んでいるだけなのではないかしら。

そう考えると怖くなりますが、
どうやら人間はゆきつくところまで行ってしまって、
もう滅ぶしか道はないのかも知れません。

主人公は60代の女性で、
夫を病気で失うのですが、
同時に暮らしていた町が、
経済の落ち込みによって消滅してしまうんですね。
昔炭鉱町が消えてしまったように、
自分の拠り所である故郷そのものが消えてしまうんですね。

それで、おそらくは夫の匂いの浸みついたバンで、
ノマドとして旅を始めるのです。

面白いのは主人公はノマドの初心者で、
あまりアウトドアに詳しいという訳でもないんですね。
途中車がパンクすると、
何も出来ずにお手上げ、というレベルなんですね。
そこが個人的には親近感が湧きました。

演出はなかなか面白いんですね。
主人公と男女関係になりかけるノマドの男性だけは、
プロの俳優さんなのですが、
他のノマド役を演じているのは、
その本人なんですね。
だからその撮り方もね、
ちょっと斜め目線のアップで、
これまでの人生について語るという長回しの場面が、
非常に多く使われています。
主人公は結局インタビューアー役を兼ねているのですが、
そう感じさせないように、
巧妙に演出されているんですね。

後から考えると、
「なるほど、これはドキュメンタリーの作りなのだ」
と気づくのですが、
観ている間は結構没入して、
「物語」として観ることが出来るんですね。
さりげなく見えて、
その辺りはかなり技巧的で斬新だな、
というように感じました。

河瀬直美監督の映画に近いかも知れません。
あちらもドキュメンタリーの方法論を持ち込んだ劇映画ですよね、
ただ、あちらはかなり前衛的な構図や演出ですが、
この映画はとてもオーソドックスな劇映画の手法をとっているので、
構図も安定感がありますし、
観やすいのが特徴です。
すんなり観れてしまうのですが、
実際にはかなり技巧的なことをしているのです。

それからこの映画の成功は、
何と言っても主役がフランシス・マクドーマンドさんだ、
ということですよね。
普通実際のノマドがぞろぞろ登場するので、
絵的に負けてしまうでしょ。
負けないですし、
同じようにリアルな存在感がありますよね。
彼女だからこそ成功した企画で、
何処かの昔アイドル、
今ちょっと演技派、みたいな女優さんがやれば、
大失敗になったことは想像が付きます。

そんな訳で奥行のある詩的で美しい堂々たる傑作で、
皆さんに是非にとお勧めしたいと思います。

今1本だけいい映画を観たいという人がいれば、
間違いなくこれをお勧めします。

敢えて不満を言えばラストですかね。
物語的には終わっていないのに、
強引に「終わり的な絵」を連ねて終わりにした、
という感じがありました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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南アフリカ型変異株による交差免疫 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
南アフリカ型の交差免疫.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月7日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルスの変異株の免疫について検証した内容です。

新型コロナウイルスの変異株のうち、
英国型、南アフリカ型、ブラジル型と呼ばれる3種類は、
いずれもN501Yという点変異を有していて、
そのため、
それぞれ「501Y.V1」、「501Y.V2」、「501Y.V3」、
と呼ばれています。

このうち南アフリカ型とブラジル型が持つE484Kという点変異は、
従来型の免疫で産生される中和抗体をすり抜ける、
逃避変異と呼ばれていて、
従来型の感染による免疫の有効性が低く、
再感染のリスクも否定できないと考えられています。

実際に従来型の感染やワクチンにより誘導される、
中和抗体を反応させても、
その有効性が低いことが確認されています。

それでは、
逆に南アフリカ型ウイルスの感染により、
誘導される中和抗体は、
他の感染に対しても有効なのでしょうか?

今回の研究では、
まず初期の変異株でオリジナルに近い、
B.1系統と呼ばれる新型コロナウイルスに感染した患者の血清を、
南アフリカ型変異株に反応させたところ、
南アフリカ型への抗体産生能は弱く、
44件中48%の21件では、
中和抗体の産生が認められませんでした。

つまり、
従来型の新型コロナウイルス感染症に罹患していても、
南アフリカ型変異株にはほぼ半数は感染します。
免疫は成立していないからです。

逆に南アフリカ型変異株に感染した患者の、
回復期の血清を、
従来型のウイルスに反応させると、
その86%では中和抗体が産生されました。

つまり、南アフリカ型変異ウイルスに感染すると、
従来型の感染にもほぼ免疫が成立しています。

更には南ア型変異株の感染者の血清を、
ブラジル型変異ウイルスに感染させると、
全例で中和抗体が産生され、
むしろ強い免疫が誘導されました。

このように、
従来型のウイルスの免疫は、
南ア型変異ウイルス感染への交差免疫をあまり誘導しませんが、
逆に南ア型変異ウイルスの免疫は、
他の変異ウイルスに対しても有効な交差免疫を誘導しています。

ここから言えることは、
今後南ア型変異ウイルスの抗原を元にして、
ワクチンを産生すれば、
それは全ての新型コロナウイルスに対して、
有効である可能性が高い、
ということです。

日本における変異株の解析は、
その多くはN501Yと場合によりE484Kを、
単独で検出しているだけなので、
その数値に一喜一憂してもあまり意味はありませんが、
いずれの変異株ウイルスも、
もう日本で流行していること自体は事実なので、
流行の初期に新型コロナウイルス感染症に感染した人も、
変異株には再感染することは間違いなくあり得ることで、
感染者であっても油断なく感染対策をとることが必要です。

ワクチンにより誘導される免疫は、
ファイザーとモデルナのmRNAワクチンに限定すれば、
自然感染より高いレベルでの免疫を誘導しているので、
一定レベルの有効性は変異株に対しても期待はされます。
ただ、英国型には効いても、
南ア型やブラジル型への有効性は、
かなり低いことは想定されるところです。

政治家の方は、
都合が悪くなると感染拡大を変異ウイルスのせいにするので、
その本当の影響は見えにくい面が、
これはもう国内外を問わずあるように思いますが、
いずれにしてもこのウイルスと人間との闘いは、
まだ一山も二山も越える必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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下肢閉塞性動脈硬化症の運動療法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PADの運動療法.jpg
JAMA誌に2021年4月6日掲載された、
下肢の血管が狭くなる病気に対する、
運動療法の効果を検証した論文です。

心臓を栄養する血管が狭くなった詰まるのが虚血性心疾患で、
脳の血管が詰まるのが脳梗塞ですが、
身体の心臓や脳以外の血管が狭くなったり詰まったりする病気を、
総称して末梢閉塞性動脈疾患(PAD)と呼んでいます。
その大部分は、
足の血管に動脈硬化が起こって、
足の血管が狭くなったり詰まったりする、
下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)です。

ASOの特徴的な症状は、
歩くと足が痛くなって歩けなくなり、
安静にすると痛みが取れてまた歩けるようになるという、
間欠性跛行と呼ばれる症状です。

ASOが進行した場合には、
血管をバイパスして繋いだり、
カテーテルを使って広げたりする、
外科的な治療が行われますが、
そこまで進行していない場合に推奨されているのが、
適度に足の結果に負荷を掛ける運動療法です。

早歩きなどの歩行運動をすると、
足の血管の血流が低下して、
足が痛くなるのですが、
それを繰り返すことにより、
側副血行路と言って、
自分の血管をバイパスするような血流が増え、
症状を改善する効果があるのです。

勿論この方法は進行したASOの患者さんでは、
危険な場合もあります。
ただ、しっかりと事前の検査をして病変を確認した上で、
医師の管理のもとに運動療法を行うことは、
ASOの最も有効な治療なのです。

しかし…

歩いて痛みが出れば、
当然不安になりますから、
多くの患者さんは痛みが出るまで運動することが怖くなり、
運動を止めてしまったり、
痛みが出ない程度で運動を止めてしまうことが多いのが実際です。

それでは、
足の血流を悪くしない程度に、
無理なく歩いたりすることでも、
同様の治療効果が得られるのでしょうか?

この点についての厳密な検証は、
これまであまり行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの4か所の専門医療施設において、
305名の軽症から中等症の下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんを、
くじ引きで3つの群に分けると、
116名は足に強い痛みが出ない程度の軽度の歩行運動を行ない、
124名ははっきり足に痛みが出るレベルまで歩行運動を行ない、
65名は特に運動療法は指示をせずに、
12か月の経過観察を行なっています。
勿論、足に潰瘍があったり、安静でも痛みのあるような重症の患者さんは、
対象から除外されています。

その結果、
6分の歩行で歩くことの出来る距離は、
運動療法を指示しない患者さんでは、
12か月で15.1メートル短くなり、
痛みが出ないような強度の運動を指示した患者さんでも、
6.4メートル短くなったのに対して、
中等度の痛みが出るまで運動を行なった患者さんでは、
34.5メートル歩行距離が長くなっていました。

つまり、
運動療法はしっかり痛みが出る強度までやらないと、
運動をしないのと同じくらいの効果しかない、
という結果です。

勿論どのくらいの運動をするのかは、
検査をした上で決める必要がありますが、
閉塞性動脈硬化症の症状改善のためには、
適切な運動療法が最も重要であることは間違いがなく、
こうした治療がどんな患者さんにおいても適切に行われるように、
体制の整備が望まれると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19罹患後症候群の疫学データ [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ポストCOVID症候群.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年3月31日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症回復後の、
生命予後について検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症から回復後に、
長期間だるさなどの体調不良の続くことがあることや、
心筋の異常や肺機能の異常などの所見が、
回復後も長期間持続することがあることは、
これまでにも多くの報告があります。

こうした現象をどう呼ぶかはまだ統一されていないようですが、
上記文献の記載では、
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、
12週間以上持続する新型コロナウイルス感染に伴うと思われる、
兆候や症状を、
Long covidや、
post-covid syndrome(新型コロナウイルス罹患後症候群)、
と定義しています。
これは日本語訳は定まったものはないようです。

新型コロナウイルス罹患後症候群には多くの報告がありますが、
その対象者や解析法はまちまちで、
その罹患率も明瞭とは言えません。

今回のデータはイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症に罹患して入院し、
回復して退院した47780名の患者を、
非感染者とマッチングさせて、
退院後の死亡、入院、
心血管疾患や慢性腎臓病、
呼吸器疾患や糖尿病などの発症リスクを、
比較検証しています。

その結果、
47780名の感染者の中で、
観察期間中に24.9%が再入院し、
12.3%が退院後に死亡していました。

つまり、新型コロナウイルス感染症で入院した患者のうち、
回復して退院しても、
そのうちの約8人に1人は、
数か月以内に死亡しているという、
かなりショッキングなデータです。

これを別の形で解析すると、
年間患者1000人当たり、
766人が再入院し、320人が死亡する、
ということになります。
コントロールと比較した再入院のリスクは3.5倍、
死亡のリスクは7.7倍と算出されています。

退院後の臓器疾患新規発症のリスクも、
心血管疾患発症リスクが3.0倍、
慢性肝疾患のリスクが2.8倍、
慢性腎臓病のリスクが1.9倍、
糖尿病の発症リスクが1.5倍と、
新型コロナウイルス感染事例で高くなっていました。

特に呼吸器疾患でみると、
年間患者1000人当たり、
全ての呼吸器疾患のリスクは770.5件、
新規の呼吸器疾患発症リスクは538.9件で、
これは再入院のリスクにかなり近い、
と見ることが出来ます。

重症の事例で予後が悪いのかと言うと、
必ずしもそうではなく、
集中治療室に入室した事例とそうではない事例との比較では、
退院後の呼吸器疾患と糖尿病のリスクは、
確かに集中治療室入室事例の方が高かったのですが、
死亡や再入院はむしろ集中治療室入室事例で低い、
という結果になっていました。

この新型コロナウイルス感染症回復後の死亡リスクの増加は、
70歳以上より70歳未満の年齢層でより高く、
白人種と白人種以外との比較では、
白人種以外で高いという傾向が認められました。

このように、
新型コロナウイルス感染症の入院事例では、
回復後に明確に死亡リスクの増加が認められ、
それは新型コロナウイルス感染症の急性期とは異なり、
70歳以下の年齢層でより多く、
呼吸器疾患の悪化が1つの大きな要因として考えられますが、
それだけでは説明困難な現象です。

ただ、今回の研究では、
過去の医療データから平均化したコントロールと比較していて、
新型コロナウイルス感染流行期においては、
コロナ以外の診療はかなりレベル低下が想定されますから、
その影響が大きいという可能性もあります。

いずれにしても、
今後この現象の解明が急務であり、
日本でもこうした研究が早急に行われることを、
強く希望したいと思います。

確定患者は全員登録して、
その後1年は定期的な健康観察を行うような仕組みが、
あって然るべきではないでしょうか?

これは「新型コロナ後遺症」と称して、
ワイドショーやニュースのネタにするような、
そんな次元の話ではないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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