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「ノマドランド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノマドランド.jpg
中国系のクロエ・ジャオ監督がメガホンを撮り、
フランシス・マクドーマンドが主役を演じて製作にも名を連ねた、
詩情溢れる2020年製作のアメリカ映画を観て来ました。

これはとても良かったですよ。

静かで淡々とした映画なので、
体調によっては寝てしまうリスクはあるのですが、
僕に関して言えば全然眠くはならなかったですよ。
画面が美しいし力があるんですね。
言葉もシンプルで深いので、
「ああ、いいなあ」と思いながら名残惜しく観終わった、
という感じでした。
暗い話ではあるのですが、
不思議と鑑賞後の気分は清々しく穏やかです。

こういう映画は今、
意外に少ないですね。

ここで言う「ノマド」というのは、
アメリカの車上生活者のことなんですね。

それも主に経済的理由で家を失ったり、
家族を失うなどとてもつらい出来事があって、
そこから立ち直ることが出来なかったりした高齢者が、
「もう死ぬまで定住はしない」と決めて、
そうして旅をしている、という話です。

1984年に鈴木清順さんと加藤治子さんが夫婦を演じた、
「みちしるべ」というNHKのドラマがあって、
あれは病気の妻と一緒に、
2人でバンで旅をする話でしたが、
感覚的にはあれにとても近い感じですね。
あのドラマを観て、
大分の熊野摩崖仏に行きたくなって、
数年後に行きましたが、
多分そうした人も多かったですよね。
あれもとても心に残るドラマでした。

車上生活なんですが、
ロジックがあるんですね。
主人公が「お前はホームレスか?」と言われるところがあるんですが、
「ホームレスじゃない、ハウスレスなだけだ」と言い返すんです。
全身に好きな歌詞の入れ墨を彫っているノマドがいるのですが、
「故郷(ホーム)は心の中にしかない」と言うんですね。
ノマドの長老みたいな人は、
「自分達はもうさよならと言うのが嫌だから、
それをしないために旅をしているんだ。
旅には終わりはないから」みたいなことを、
うろ覚えなので正確ではないと思いますが、
言うんですね。

シンプルで分かりやすく、
そして深いですよね。

アメリカでは日本より、
「家」というものの重みが大きいのだと思いますし、
かつては日本の家を「ウサギ小屋」と馬鹿にしたでしょ。
そのアメリカ人すら、
「家」に幻滅して、それを捨てている、
ということなんですね。
家族の絆も否定し、伝統も否定し、過去を否定し、
権威も否定し、
遂には家まで否定して、
これが進歩と言えるのかしら。
ただ単に滅んでいるだけなのではないかしら。

そう考えると怖くなりますが、
どうやら人間はゆきつくところまで行ってしまって、
もう滅ぶしか道はないのかも知れません。

主人公は60代の女性で、
夫を病気で失うのですが、
同時に暮らしていた町が、
経済の落ち込みによって消滅してしまうんですね。
昔炭鉱町が消えてしまったように、
自分の拠り所である故郷そのものが消えてしまうんですね。

それで、おそらくは夫の匂いの浸みついたバンで、
ノマドとして旅を始めるのです。

面白いのは主人公はノマドの初心者で、
あまりアウトドアに詳しいという訳でもないんですね。
途中車がパンクすると、
何も出来ずにお手上げ、というレベルなんですね。
そこが個人的には親近感が湧きました。

演出はなかなか面白いんですね。
主人公と男女関係になりかけるノマドの男性だけは、
プロの俳優さんなのですが、
他のノマド役を演じているのは、
その本人なんですね。
だからその撮り方もね、
ちょっと斜め目線のアップで、
これまでの人生について語るという長回しの場面が、
非常に多く使われています。
主人公は結局インタビューアー役を兼ねているのですが、
そう感じさせないように、
巧妙に演出されているんですね。

後から考えると、
「なるほど、これはドキュメンタリーの作りなのだ」
と気づくのですが、
観ている間は結構没入して、
「物語」として観ることが出来るんですね。
さりげなく見えて、
その辺りはかなり技巧的で斬新だな、
というように感じました。

河瀬直美監督の映画に近いかも知れません。
あちらもドキュメンタリーの方法論を持ち込んだ劇映画ですよね、
ただ、あちらはかなり前衛的な構図や演出ですが、
この映画はとてもオーソドックスな劇映画の手法をとっているので、
構図も安定感がありますし、
観やすいのが特徴です。
すんなり観れてしまうのですが、
実際にはかなり技巧的なことをしているのです。

それからこの映画の成功は、
何と言っても主役がフランシス・マクドーマンドさんだ、
ということですよね。
普通実際のノマドがぞろぞろ登場するので、
絵的に負けてしまうでしょ。
負けないですし、
同じようにリアルな存在感がありますよね。
彼女だからこそ成功した企画で、
何処かの昔アイドル、
今ちょっと演技派、みたいな女優さんがやれば、
大失敗になったことは想像が付きます。

そんな訳で奥行のある詩的で美しい堂々たる傑作で、
皆さんに是非にとお勧めしたいと思います。

今1本だけいい映画を観たいという人がいれば、
間違いなくこれをお勧めします。

敢えて不満を言えばラストですかね。
物語的には終わっていないのに、
強引に「終わり的な絵」を連ねて終わりにした、
という感じがありました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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南アフリカ型変異株による交差免疫 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
南アフリカ型の交差免疫.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月7日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルスの変異株の免疫について検証した内容です。

新型コロナウイルスの変異株のうち、
英国型、南アフリカ型、ブラジル型と呼ばれる3種類は、
いずれもN501Yという点変異を有していて、
そのため、
それぞれ「501Y.V1」、「501Y.V2」、「501Y.V3」、
と呼ばれています。

このうち南アフリカ型とブラジル型が持つE484Kという点変異は、
従来型の免疫で産生される中和抗体をすり抜ける、
逃避変異と呼ばれていて、
従来型の感染による免疫の有効性が低く、
再感染のリスクも否定できないと考えられています。

実際に従来型の感染やワクチンにより誘導される、
中和抗体を反応させても、
その有効性が低いことが確認されています。

それでは、
逆に南アフリカ型ウイルスの感染により、
誘導される中和抗体は、
他の感染に対しても有効なのでしょうか?

今回の研究では、
まず初期の変異株でオリジナルに近い、
B.1系統と呼ばれる新型コロナウイルスに感染した患者の血清を、
南アフリカ型変異株に反応させたところ、
南アフリカ型への抗体産生能は弱く、
44件中48%の21件では、
中和抗体の産生が認められませんでした。

つまり、
従来型の新型コロナウイルス感染症に罹患していても、
南アフリカ型変異株にはほぼ半数は感染します。
免疫は成立していないからです。

逆に南アフリカ型変異株に感染した患者の、
回復期の血清を、
従来型のウイルスに反応させると、
その86%では中和抗体が産生されました。

つまり、南アフリカ型変異ウイルスに感染すると、
従来型の感染にもほぼ免疫が成立しています。

更には南ア型変異株の感染者の血清を、
ブラジル型変異ウイルスに感染させると、
全例で中和抗体が産生され、
むしろ強い免疫が誘導されました。

このように、
従来型のウイルスの免疫は、
南ア型変異ウイルス感染への交差免疫をあまり誘導しませんが、
逆に南ア型変異ウイルスの免疫は、
他の変異ウイルスに対しても有効な交差免疫を誘導しています。

ここから言えることは、
今後南ア型変異ウイルスの抗原を元にして、
ワクチンを産生すれば、
それは全ての新型コロナウイルスに対して、
有効である可能性が高い、
ということです。

日本における変異株の解析は、
その多くはN501Yと場合によりE484Kを、
単独で検出しているだけなので、
その数値に一喜一憂してもあまり意味はありませんが、
いずれの変異株ウイルスも、
もう日本で流行していること自体は事実なので、
流行の初期に新型コロナウイルス感染症に感染した人も、
変異株には再感染することは間違いなくあり得ることで、
感染者であっても油断なく感染対策をとることが必要です。

ワクチンにより誘導される免疫は、
ファイザーとモデルナのmRNAワクチンに限定すれば、
自然感染より高いレベルでの免疫を誘導しているので、
一定レベルの有効性は変異株に対しても期待はされます。
ただ、英国型には効いても、
南ア型やブラジル型への有効性は、
かなり低いことは想定されるところです。

政治家の方は、
都合が悪くなると感染拡大を変異ウイルスのせいにするので、
その本当の影響は見えにくい面が、
これはもう国内外を問わずあるように思いますが、
いずれにしてもこのウイルスと人間との闘いは、
まだ一山も二山も越える必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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下肢閉塞性動脈硬化症の運動療法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PADの運動療法.jpg
JAMA誌に2021年4月6日掲載された、
下肢の血管が狭くなる病気に対する、
運動療法の効果を検証した論文です。

心臓を栄養する血管が狭くなった詰まるのが虚血性心疾患で、
脳の血管が詰まるのが脳梗塞ですが、
身体の心臓や脳以外の血管が狭くなったり詰まったりする病気を、
総称して末梢閉塞性動脈疾患(PAD)と呼んでいます。
その大部分は、
足の血管に動脈硬化が起こって、
足の血管が狭くなったり詰まったりする、
下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)です。

ASOの特徴的な症状は、
歩くと足が痛くなって歩けなくなり、
安静にすると痛みが取れてまた歩けるようになるという、
間欠性跛行と呼ばれる症状です。

ASOが進行した場合には、
血管をバイパスして繋いだり、
カテーテルを使って広げたりする、
外科的な治療が行われますが、
そこまで進行していない場合に推奨されているのが、
適度に足の結果に負荷を掛ける運動療法です。

早歩きなどの歩行運動をすると、
足の血管の血流が低下して、
足が痛くなるのですが、
それを繰り返すことにより、
側副血行路と言って、
自分の血管をバイパスするような血流が増え、
症状を改善する効果があるのです。

勿論この方法は進行したASOの患者さんでは、
危険な場合もあります。
ただ、しっかりと事前の検査をして病変を確認した上で、
医師の管理のもとに運動療法を行うことは、
ASOの最も有効な治療なのです。

しかし…

歩いて痛みが出れば、
当然不安になりますから、
多くの患者さんは痛みが出るまで運動することが怖くなり、
運動を止めてしまったり、
痛みが出ない程度で運動を止めてしまうことが多いのが実際です。

それでは、
足の血流を悪くしない程度に、
無理なく歩いたりすることでも、
同様の治療効果が得られるのでしょうか?

この点についての厳密な検証は、
これまであまり行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの4か所の専門医療施設において、
305名の軽症から中等症の下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんを、
くじ引きで3つの群に分けると、
116名は足に強い痛みが出ない程度の軽度の歩行運動を行ない、
124名ははっきり足に痛みが出るレベルまで歩行運動を行ない、
65名は特に運動療法は指示をせずに、
12か月の経過観察を行なっています。
勿論、足に潰瘍があったり、安静でも痛みのあるような重症の患者さんは、
対象から除外されています。

その結果、
6分の歩行で歩くことの出来る距離は、
運動療法を指示しない患者さんでは、
12か月で15.1メートル短くなり、
痛みが出ないような強度の運動を指示した患者さんでも、
6.4メートル短くなったのに対して、
中等度の痛みが出るまで運動を行なった患者さんでは、
34.5メートル歩行距離が長くなっていました。

つまり、
運動療法はしっかり痛みが出る強度までやらないと、
運動をしないのと同じくらいの効果しかない、
という結果です。

勿論どのくらいの運動をするのかは、
検査をした上で決める必要がありますが、
閉塞性動脈硬化症の症状改善のためには、
適切な運動療法が最も重要であることは間違いがなく、
こうした治療がどんな患者さんにおいても適切に行われるように、
体制の整備が望まれると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COVID-19罹患後症候群の疫学データ [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ポストCOVID症候群.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年3月31日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症回復後の、
生命予後について検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症から回復後に、
長期間だるさなどの体調不良の続くことがあることや、
心筋の異常や肺機能の異常などの所見が、
回復後も長期間持続することがあることは、
これまでにも多くの報告があります。

こうした現象をどう呼ぶかはまだ統一されていないようですが、
上記文献の記載では、
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、
12週間以上持続する新型コロナウイルス感染に伴うと思われる、
兆候や症状を、
Long covidや、
post-covid syndrome(新型コロナウイルス罹患後症候群)、
と定義しています。
これは日本語訳は定まったものはないようです。

新型コロナウイルス罹患後症候群には多くの報告がありますが、
その対象者や解析法はまちまちで、
その罹患率も明瞭とは言えません。

今回のデータはイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症に罹患して入院し、
回復して退院した47780名の患者を、
非感染者とマッチングさせて、
退院後の死亡、入院、
心血管疾患や慢性腎臓病、
呼吸器疾患や糖尿病などの発症リスクを、
比較検証しています。

その結果、
47780名の感染者の中で、
観察期間中に24.9%が再入院し、
12.3%が退院後に死亡していました。

つまり、新型コロナウイルス感染症で入院した患者のうち、
回復して退院しても、
そのうちの約8人に1人は、
数か月以内に死亡しているという、
かなりショッキングなデータです。

これを別の形で解析すると、
年間患者1000人当たり、
766人が再入院し、320人が死亡する、
ということになります。
コントロールと比較した再入院のリスクは3.5倍、
死亡のリスクは7.7倍と算出されています。

退院後の臓器疾患新規発症のリスクも、
心血管疾患発症リスクが3.0倍、
慢性肝疾患のリスクが2.8倍、
慢性腎臓病のリスクが1.9倍、
糖尿病の発症リスクが1.5倍と、
新型コロナウイルス感染事例で高くなっていました。

特に呼吸器疾患でみると、
年間患者1000人当たり、
全ての呼吸器疾患のリスクは770.5件、
新規の呼吸器疾患発症リスクは538.9件で、
これは再入院のリスクにかなり近い、
と見ることが出来ます。

重症の事例で予後が悪いのかと言うと、
必ずしもそうではなく、
集中治療室に入室した事例とそうではない事例との比較では、
退院後の呼吸器疾患と糖尿病のリスクは、
確かに集中治療室入室事例の方が高かったのですが、
死亡や再入院はむしろ集中治療室入室事例で低い、
という結果になっていました。

この新型コロナウイルス感染症回復後の死亡リスクの増加は、
70歳以上より70歳未満の年齢層でより高く、
白人種と白人種以外との比較では、
白人種以外で高いという傾向が認められました。

このように、
新型コロナウイルス感染症の入院事例では、
回復後に明確に死亡リスクの増加が認められ、
それは新型コロナウイルス感染症の急性期とは異なり、
70歳以下の年齢層でより多く、
呼吸器疾患の悪化が1つの大きな要因として考えられますが、
それだけでは説明困難な現象です。

ただ、今回の研究では、
過去の医療データから平均化したコントロールと比較していて、
新型コロナウイルス感染流行期においては、
コロナ以外の診療はかなりレベル低下が想定されますから、
その影響が大きいという可能性もあります。

いずれにしても、
今後この現象の解明が急務であり、
日本でもこうした研究が早急に行われることを、
強く希望したいと思います。

確定患者は全員登録して、
その後1年は定期的な健康観察を行うような仕組みが、
あって然るべきではないでしょうか?

これは「新型コロナ後遺症」と称して、
ワイドショーやニュースのネタにするような、
そんな次元の話ではないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの感染とワクチンによる抗体産生の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチンと感染の抗体の差.jpg
JAMA誌に2021年3月19日ウェブ掲載されたレターですが、
モデルナ社のワクチン接種後の中和抗体の上昇を、
実際のウイルスによる感染と比較し、
また通常の感染と変異株による感染とで比較したものです。

変異株のウイルスによる感染が、
日本にも拡大していると報じられています。

ただ、昨日のモーニングショーのニュースを見ていたら、
英国型、南ア型、ブラジル型以外に、
日本独自のE484K変異という新しい変異ウイルスがあって、
その拡大が危惧されている、
というような奇怪な表現がされていました。

そんな訳はないですよね。

E484Kというのは、
484番目のアミノ酸が変わっているという、
点変異の意味で、
別にそれが「変異ウイルス」ということではないのです。

こうした遺伝子変異というのは、
それこそウイルスが増殖する度に、
幾つかは出現しておかしくはないものなのですが、
それが非常にそのウイルスの性質を、
大きく変えるようなものである時に、
そのウイルスが流行の主体になって、
増えてしまう、という現象が問題なのですね。

最初に問題になった英国型とされる変異ウイルスでは、
複数の変異が同時に見られていて、
その中で最も重要と思われるのが、
N501Yという変異なのですね。
この変異があると感染が起こりやすくなるのではないか、
と推測されているからです。

南ア型とブラジル型の変異株は、
このN501Yと同時にE484Kという変異を、
併せて持っているという特徴があります。
このE484K変異というのが、
中和抗体からの逃避変異と呼ばれていて、
この変異のあるウイルスは、
中和抗体の効きが非常に悪くなる、
つまり抗体が出来ても、
それが有効ではなくなる、
と想定される変異です。

たった1つの変異でも、
その変異を持つウイルスが増えていれば、
それは変異株ではある訳ですが、
今問題となっているのは、
従来型とは性質の違うウイルスが、
それ自体で流行しているという状況にある訳で、
そうした流行が見られた時に初めて、
WHOが「注目すべき変異株」や「懸念される変異株」、
という認定をしているのですね。
それを変異ウイルスと呼んでいる訳です。

ただ、このE484K変異というのは、
それ単独で流行しているという証拠は、
今のところはないのですね。
だから、現時点ではそれが変異株、
という認識にはならないのです。

経緯としては多分こうしたことだと思うのですが、
英国型の変異株が日本でも流行する懸念が高まったので、
それを簡便に識別する方法として、
N501Yによるスクリーニングを始めたのですね。
そのプローブを感染研が全国の施設に配布した訳です。
この変異は今のところ分かっている多くの変異ウイルスで、
共通して持っている変異だからです。

それが昭和大学病院で、
独自にE484K変異のスクリーニングを、
入院患者さんでやってみたところ、
N501Yのスクリーニングで引っかからなかったのに、
半数の患者さんでE484Kが陽性になったので、
これは新しい変異株が、
日本で流行しているのではないか、
ということで注目されたのです。

それを頭が雲丹状態になっている報道の方が誤解して、
「E484K」という新たな変異株が発見された、
というニュースにしたのではないでしょうか?

今朝ネットでザッピングしてみると、
かなり説明はまともなものになっていましたが、
昨日の朝くらいのニュースやワイドショーは、
本当にデタラメで酷いものでした。

現時点でこの日本患者さんに見られる、
N501Y変異のないE484K変異が、
特定の意味を持つものであるのかは分からないのですが、
今後その遺伝子配列を詳細に解析し、
その分布や性質を確認することにより、
より明確な知見が得られるのではないかと思います。
現状日本においてはこの変異株を、
日本独自に「注目すべき変異株」として扱う、
という方針であるようです。

さて、前置きが長くなりました。

変異ウイルスで問題となるのは、
従来型のウイルスでの抗体が、
変異ウイルスに対しても有効なのか、
と言う点と、
ワクチンによる抗体が、
変異ウイルスに対しても有効なのか、
という2点にあると思います。

今回の研究では、
従来型の新型コロナウイルスにアメリカで感染した20名と、
モデルナ社のワクチンの臨床試験に参加して、
ワクチンの接種を行なった14名(もちろん既感染はなし)の血清を採取し、
その各種変異ウイルスに対する中和抗体の活性を、
比較しています。

その結果はこちらをご覧下さい。
ワクチンと感染の抗体の差の図.jpg
まず左の図ですが、
A.1系統、B.1系統、B1.1.7系統、N501Y変異株、
と4つのウイルスが示されています。

縦軸はFRNT50という指標で示された、
中和抗体の抗体価で、
より高い方がそのウイルスに対して有効である、
ということを示しています。

A.1系統というのは、武漢で流行したウイルス株に、
非常に近いタイプの変異株です。
モデルナのワクチンに使用さているスパイク蛋白のRNAは、
このA.1系統の遺伝子配列が使用されているようです。
B.1系統というのは、
スパイク部にD614Gという変異が見られるもので、
これは上記研究施行時における主な流行ウイルスです。
B.1.1.7というのは、
言わずと知れた英国型と呼ばれる変異株、
そして一番右のN501Yというのは、
問題のある変異株において共通して認められる変異のみを持つ、
実験的に作られたクローンウイルスです。

左の図は従来型(おそらくB1系統主体)の感染後、
1から3か月後の血清を用いたもので、
4種類全ての変異株で中和抗体活性は認められ、
有意な差は認められていません。

一方で右の図はモデルナ社のワクチンを接種後、
同様に中和抗体活性を見たものです。
全体に通常の感染より、
高い抗体活性が誘導されている、ということが分かります。
単純に力価として見ると、
10倍近い差が認められます。
ただ、ワクチンと同一のA.1系統と比較すると、
変異株は活性が有意に低くなっていることが分かります。

これまでのデータから見て、
ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンに関しては、
少なくとも英国型の変異株に対しての有効性は、
低下はするものの保たれていることが分かります。

ただ、E484K変異を併せ持つウイルスに対する有効性は、
おそらくはかなり落ちることが推測され、
単純に変異株とまとめて考えるのではなく、
個別の対策が必要であることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビタミンDの呼吸器感染症予防効果(2021年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDと呼吸器疾患.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年3月30日ウェブ掲載された、
ビタミンDのサプリメントの呼吸器感染予防効果についての、
メタ解析の論文です。

ビタミンDは骨の代謝に関わるステロイドホルモンの一種ですが、
免疫系の正常な反応にも、
ビタミンDが必要であることが知られていて、
血液のビタミンD(25(OH)D)の血液濃度が低いと、
急性の呼吸器感染症を発症しやすくなることが報告されています。

このことは新型コロナウイルス感染症においても、
同様のデータが報告されています。

それでは、
ビタミンDを補充することにより、
急性呼吸器感染症が予防されるのでしょうか?

2017年のBritish Medical Journal誌に、
これまでの25の無作為介入試験という厳密な方法による臨床試験の、
トータル10933名を解析した論文が発表されています。
これは発表当時にブログ記事にしていますが、トータルでは、
ビタミンDの補充療法により、
急性の呼吸器感染症のリスクは、
12%有意に低下していました。
(95%Ci:0.81から0.96)

今回のメタ解析では、
2017年論文より新しいデータを含む、
トータルで46の介入試験に含まれる75541名のデータを、
まとめて解析しています。
その結果、
ビタミンDのサプリメントの使用により、
急性呼吸器感染症の発症リスクは8%(95%CI:0.86から0.99)、
有意に低下していました。

これは一応有意な抑制効果ですが、
データにはかなりばらつきがあり、
2017年の先行論文よりその効果は小さなものになっています。

今回の検証においては、
血液のビタミンD濃度とサプリメントの有効性との間には、
あまり関連が認められず、
この呼吸器感染症予防効果は、
毎日ビタミンDを400から1000IUの使用、
12ヶ月以内の使用期間、
1から16歳未満の小児への使用で、
より大きいという傾向が認められました。

そんな訳で、
一応予防効果は今回も確認されたものの、
幾つかの特殊なデータに結果が引きずられているという印象はあり、
今後より一般的な研究デザインで、
この問題はもう一度検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「JUNK HEAD」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業などする予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
JUNK HEAD.jpg
その原型をほぼ1人で作り上げたという、
ストップモーションアニメの怪作「JUNK HEAD」が、
今ロードショー公開されています。

大分出身の堀貴秀さんが、
独学でコマ撮りアニメをたった1人で作り、
4年を掛けて30分の短編版「JUNK HEAD」を制作。
2014年に無料でウェブ公開したところ、
ハリウッドで映画監督をしないかというオファーが来たそうです。
それを断って出資を募り、
2015年から長編版の制作を開始。
2017年に完成して海外の映画祭で多くの賞を獲得。
今回日本では初めて、
商業映画としてのロードショー公開が実現しました。

作品自体を観る前に、
その話を聞くだけで感動しますし、
ロマンを感じますね。

内容は人間が創造した知的生命体マリガンが、
地下を支配して人間は地上に残るという、
架空世界の話で、
地上のヴァーチャルダンス教師の主人公が、
たった1人で地下の調査に赴くことになります。

この主人公、出発と同時に撃ち落されて、
バラバラになってしまうんですね。
人間は肉体は殆ど重要ではなくなっていて、
ある意味情報のみの存在なので、
身体はどんどん変化してゆくのも面白いところです。
異様な形態のマリガンが次々と登場し、
そのグロテスクで時々エロチックなビジュアルに、
ストップモーションならではの動きが付くと、
昔「シンドバット7回目の航海」を観た時のような、
ワクワクする感じが戻って来ます。
昔の「宇宙船」や「アニメージュ」、
「奇想天外」の映画ネタとして、
特集ページが目に浮かぶような楽しさです。

まあ、物語自体はそれほど斬新、
という訳ではないのですね。
ハリウッドや中国、インドなら、
実写CGで簡単に映画化は出来そうな感じです。
ただ、その構想は非常に緻密で、
1人の人間の脳内をそのまま設計図化したような感じは、
これはもう集団製作の商業映画とは、
全く異なる質感なんですね。
これは続編の構想ももう作者の脳内にはしっかりあるし、
いつでも動かせるという感じです。
1人の人間そのものが設計図化され形になっている、
というこの感じは、
唯一無二の魅力があります。

それからこの作品、
架空世界の話なので言語も架空のもので、
そこに字幕が付くんですね。
今回上演版は日本語の字幕付きなのですが、
それを英語にすれば世界標準になりますし、
中国語にするのもハングルにするのも自由自在というところも、
クレヴァ―だなと感心しました。

そんな訳で大昔の特撮マニアとしては、
何処かなつかしさを感じる、
それでいて色々な意味で新時代の創作で、
その内容には好き嫌いはあると思いますが、
まずは必見の映画体験ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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赤堀雅秋「白昼夢」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
白昼夢.jpg
赤堀雅秋さんの新作に、
赤堀さんを含む魅力的な5人のキャストが揃い、
濃厚な家族劇が今下北沢の本多劇場で上演中です。

荒川良々さんがいつものとぼけた持ち味を封印して、
高齢の父親と2人で暮らす、
引きこもりの40代中年男を演じ、
その父親に風間杜夫さん、
兄に三宅弘城さんが扮し、
引きこもりのサポートをするNPO法人の訳アリの職員に、
赤堀さんと人気者の吉岡理帆さんが扮します。

以下少しネタバレがあります。
観賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読みください。

これは1時間35分ほどの、
季節に合わせた4場に分かれた短い1幕劇で、
岩松了さんの家庭劇にとても近いスタイルです。
ダラダラした日常会話の中に、
何か不穏な空気のようなものが流れ、
引きこもり男が死刑になるために犯罪を犯すと言ったり、
メンヘラの吉岡さんが手首に包帯を巻いていたり、
急に号泣したり。
突然兄が弟の首を絞めたりと、
チラチラ暴力的な要素が垣間見えながら、
全体は抑制的に終始し、
背後で進行している愛憎劇が、
どのように展開し終結したのかは、
舞台上で明確に示されることはありません。
ラストは春で引きこもり男は家を出るのですが、
誰もが幸福になることはなく、
この世界の生きづらさが嫌が上にもクローズアップされ、
拾って来た王冠のようなトロフィーを持たされて、
父親が死ぬことを暗示して終演となります。

悪くはないのですが、
これなら岩松了さんには適わないな、
という感じがしますよね。

赤堀雅秋さんの芝居は、
僕は最近とても好きなのですが、
岩松スタイルを下敷きにしながら、
もっと下世話で猥雑でドラマチックな部分があるでしょ。
今回はコロナ禍で短い上演時間が確定事項であったと思うので、
あまり遊びの余地がなく、
終始抑制的なタッチで展開されていました。

もう少し時間を使って、
もう1シチュエーションくらいは入れて、
お話を膨らませて欲しかったな、
という気はしました。

これね、父親役の風間さんは、
つかこうへい事務所のかつての大スターでしょ。
兄の三宅さんはナイロン100℃で、
弟の荒川さんは大人計画でしょ。
赤堀さんはそうした人達にあこがれて、
演劇の道に入ったのだと思いますし、
その赤堀さんが連れて来る吉岡さんは、
今のテレビのスターで人気者ですよね。

これは明らかに意図的なキャスティングで、
小劇場の歴史とその行き詰まりみたいなものを、
同時に映している、という感じがあるんですね。
ナイロン100℃はあちこちに手を出して、
サラリーマン的に成功しているのですが、
モヤモヤも抱えているんですね。
一方で大人計画は華々しくデビューしたものの、
最近は確かに「偉大な引きこもり」という感じのポジションでしょ。
テレビのスターがメンヘラで、
ニーチェのありがちな引用とか、
途中で吉岡さんが「夏の夜の夢」を演じてみせたり、
極めつきはラストで王冠を持った風間さんの死ですかね。
これ多分全部裏の意味があるんですね。
それを傍観者的に赤堀さんが見ている、
小劇場演劇の死を見守っている、
というのがこの作品の裏テーマなのかも知れません。

そんな訳で、
人気者の吉岡さんにメンヘラこじらせ少女を演じさせて、
いきなり号泣させたりの無茶ぶりもさせていますし、
風間さんの不死鳥のような元気さや、
荒川さんの新生面も面白く、
個人的には不満もあるのですが、
また赤堀作品には定期的に足を運びたいな、
と思わせるお芝居でした。
ある意味とても豪華です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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北品川藤サテライトクリニック開院のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日は告知です。

こちらをご覧ください。
北品川藤サテライトクリニック.jpg
2021年の4月1日に、
北品川藤クリニックの分院として、
北品川藤サテライトクリニックが開院しました。

ホームページはこちらになります。
https://www.fuji-st.jp

場所は北品川駅の駅前で、
北品川藤クリニックからは徒歩3分くらいのところです。

婦人科の診療と内視鏡検査、
各種健診を核にしたクリニックで、
現状は本院の一部の機能を移管するような形になりますが、
今後は当院は全ての患者さんに対応し、
分院のサテライトクリニックでは、
完全予約制で感染症などの心配なく、
検査やワクチン、健康相談などに、
余裕を持って対応したいと考えています。

2つのクリニックが徒歩3分の圏内にあり、
本院は発熱外来も含めて感染症にも対応し、
分院は感染疾患も飛び込みも不可として、
完全予約制で安心して掛かって頂きたい、
というのが今回の一番のコンセプトで、
コロナ禍の今だからこそ、
こうした診療体制が求められているのではないかと思い、
今回の開院となりました。

感染が心配だが検査は受けたい、
という方には安心な環境を提供し、
たまたま発熱していることが受診時に分かったような時に、
「こちらでは診れません」と門前払いするのではなく、
速やかに徒歩3分の発熱外来に誘導し、
そこで診察を行なうことが可能、
というようなコンセプトです。

万一どちらかのクリニックで院内感染が発生しても、
完全にスタッフも分けているので、
もう一か所のクリニックで診療の継続が可能となる点も、
利点ではないかと考えています。

まだホームページも簡略なもので、
予約も全ては稼働していないので、
ご不明な点も多くご迷惑をお掛けしますが、
徐々に情報を開示してゆきたいと思いますので、
どうか温かい目で見守って頂ければと思います。

よろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の抗体陽性と感染との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナの抗体と感染との関連.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年2月24日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの抗体測定と、
遺伝子検査との関連についての論文です。

ほぼほぼ分かっていることを、
なぞっている内容なのですが、
アメリカの検査機関の大規模データを活用して、
実臨床での関連を調べている点が特徴です。

新型コロナウイルス感染症の確定診断の検査のスタンダードは、
間違いなくRT-PCR検査に代表される遺伝子検査ですが、
症状が改善して治ったと臨床的には考えられても、
長期間検査は陽性となることがあります。
つまり、治ったかどうかの判断には使いにくいということと、
確実に治ったと示せる検査がない、
と言う点が臨床上の問題です。

抗体検査は、
感染に伴って、
身体が防衛のために作り出す抗体を測定するもので、
これが陽性であれば、
感染の最中を含めて、
過去に感染のあったことを示し、
陰性であれば、
感染の初期を除けば、
最近の感染はないということを示しています。

その意味では、
住民に幅広く抗体検査を行ない、
どのくらいの頻度で感染が起こっているのかを推測したり、
まず抗体を測定して、
陽性であった人のみ遺伝子検査を行なうことで、
効率良く感染者を見つけ出せるのでは、
というような試みが行われました。

しかし…

人間の身体は新型コロナウイルスの感染に対して、
多くの異なる抗体を産生しているので、
測定のための検査も、
必ずしも同じ方法で同じ抗体を測定している、
という訳ではありません。
一応スパイクという突起の部分に対応する抗体が、
一番重要ではないかと考えられていて、
その部分の抗体を測定する検査が大多数ですが、
それでも検査による違いがありますし、
場合によってはスパイクの場所に変異のあるウイルスでは、
測定されないケースも考えられます。

特定の抗体が感染後いつから血液中に現れ、
いつまで有効かと言うこともまだ分かっていません。

たとえば麻疹(はしか)のような病気では、
基本的に一度罹ると一生のうちに二度罹ることはなく、
罹ったかどうは、
血液の抗体を測れば判明するので、
大人の場合抗体が陰性の人だけワクチンを接種すれば良い、
ということになり、
至ってシンプルなのですが、
新型コロナウイルスにおいて同じようなことが言えるかどうかは、
まだ分かっていません。
感染すると少なくとも数か月は抗体が陽性になり、
その間は再感染はし難い状態になる、
ということはほぼ分かっていますが、
どのくらいの期間罹らないのか、
と言った具体的なことは、
まだはっきりしていないのが実際なのです。

今回の研究はアメリカの臨床検査機関における抗体検査のデータを、
薬局や医療機関の医療データと結び付けることにより、
抗体の陰性、陽性と、
遺伝子検査で確認される感染との関連を、
比較検証しています。

抗体検査を行なった3257478名の患者データを解析したところ、
88.3%に当たる2876773名が陰性で、
11.6%に当たる378606名が陽性でした。

抗体が陰性の患者は陽性の患者より年齢は高い傾向が見られました。

抗体価が陽性であった患者のうち、
90日間以上の経過観察中に、
18.4%は抗体が陰性化していました。

抗体陽性者において、
測定後0から30日の間で遺伝子検査が陽性となるリスクは、
陰性者の2.85倍(95%CI:2.73から2.97)と、
有意に高くなっていました。
これが31日から60日では、
陽性者は陰性者より33%(95%CI:0.6から0.74)、
61日から90日では71%(95%CI:0.24から0.35)、
90日以上では90%(95%CI:0.05から0.19)、
それぞれ有意に遺伝子検査の陽性リスクは低下していました。

これは要するに、
抗体陽性から30日以内の検査では、
もう治っていても遺伝子検査は陽性となるケースがあり、
そのためにリスクが増加している可能性が高いのですが、
それ以降は感染後で抗体が陽性になった人の、
再感染の予防効果を見ているものと思われます。
つまり、90日以降も抗体は8割以上の患者さんでは保たれていて、
その予防効果も持続していると言うことが出来ます。
ただ、逆に言うと3か月程度の期間でも、
2割近い患者さんは抗体が陰性化していて、
そうした患者さんでは再感染も起こり得るということになります。

このように抗体測定には一定の意義があるのですが、
まだその測定系も統一はされておらず、
今後その検査法を含めて、
より明確な指針が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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