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下肢閉塞性動脈硬化症の運動療法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PADの運動療法.jpg
JAMA誌に2021年4月6日掲載された、
下肢の血管が狭くなる病気に対する、
運動療法の効果を検証した論文です。

心臓を栄養する血管が狭くなった詰まるのが虚血性心疾患で、
脳の血管が詰まるのが脳梗塞ですが、
身体の心臓や脳以外の血管が狭くなったり詰まったりする病気を、
総称して末梢閉塞性動脈疾患(PAD)と呼んでいます。
その大部分は、
足の血管に動脈硬化が起こって、
足の血管が狭くなったり詰まったりする、
下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)です。

ASOの特徴的な症状は、
歩くと足が痛くなって歩けなくなり、
安静にすると痛みが取れてまた歩けるようになるという、
間欠性跛行と呼ばれる症状です。

ASOが進行した場合には、
血管をバイパスして繋いだり、
カテーテルを使って広げたりする、
外科的な治療が行われますが、
そこまで進行していない場合に推奨されているのが、
適度に足の結果に負荷を掛ける運動療法です。

早歩きなどの歩行運動をすると、
足の血管の血流が低下して、
足が痛くなるのですが、
それを繰り返すことにより、
側副血行路と言って、
自分の血管をバイパスするような血流が増え、
症状を改善する効果があるのです。

勿論この方法は進行したASOの患者さんでは、
危険な場合もあります。
ただ、しっかりと事前の検査をして病変を確認した上で、
医師の管理のもとに運動療法を行うことは、
ASOの最も有効な治療なのです。

しかし…

歩いて痛みが出れば、
当然不安になりますから、
多くの患者さんは痛みが出るまで運動することが怖くなり、
運動を止めてしまったり、
痛みが出ない程度で運動を止めてしまうことが多いのが実際です。

それでは、
足の血流を悪くしない程度に、
無理なく歩いたりすることでも、
同様の治療効果が得られるのでしょうか?

この点についての厳密な検証は、
これまであまり行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの4か所の専門医療施設において、
305名の軽症から中等症の下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんを、
くじ引きで3つの群に分けると、
116名は足に強い痛みが出ない程度の軽度の歩行運動を行ない、
124名ははっきり足に痛みが出るレベルまで歩行運動を行ない、
65名は特に運動療法は指示をせずに、
12か月の経過観察を行なっています。
勿論、足に潰瘍があったり、安静でも痛みのあるような重症の患者さんは、
対象から除外されています。

その結果、
6分の歩行で歩くことの出来る距離は、
運動療法を指示しない患者さんでは、
12か月で15.1メートル短くなり、
痛みが出ないような強度の運動を指示した患者さんでも、
6.4メートル短くなったのに対して、
中等度の痛みが出るまで運動を行なった患者さんでは、
34.5メートル歩行距離が長くなっていました。

つまり、
運動療法はしっかり痛みが出る強度までやらないと、
運動をしないのと同じくらいの効果しかない、
という結果です。

勿論どのくらいの運動をするのかは、
検査をした上で決める必要がありますが、
閉塞性動脈硬化症の症状改善のためには、
適切な運動療法が最も重要であることは間違いがなく、
こうした治療がどんな患者さんにおいても適切に行われるように、
体制の整備が望まれると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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