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降圧治療と海馬容積との関連(SPRINT試験サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
降圧治療と海馬の縮小.jpg
JAMA Neurology誌に、
2021年3月8日ウェブ掲載された、
強力な降圧治療が脳に与える影響についての論文です。

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、
収縮期血圧が130mmHg以上で、
年齢は50歳以上。
慢性腎障害や心血管疾患の既往、
年齢が75歳以上など、
今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、
トータル9361名の患者さんを登録し、
くじ引きで2群に分けると、
一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、
もう一方は120未満にすることを目標として、
数年間の経過観察を行ない、
その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、
脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、
両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。
しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、
既に統計的に明確な差が現れ、
かつ血圧を強く低下させることにより、
腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、
それ以上の継続の意義がない、
と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、
強化コントロール群は、
140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、
トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、
25%有意に低下していたのです。
(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、
より厳密な降圧治療の認知症予防効果が検証されました。

SPRINT試験の観察期間のみでは、
認知症の進行を見るには短すぎるので、
試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、
トータルで6年近い経過観察を設定したのです。

その結果、
観察期間中に認知症と診断されるリスクは、
通常降圧群と比較して厳格降圧群では、
17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。
(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、
厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、
軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、
厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、
収縮血圧を120mmHg未満とすることを目標とする、
厳格な血圧コントロールは、
通常のコントロールと比較して、
心血管疾患のリスクを低下させることは間違いなく、
認知症のリスクも軽症の時点では低下させる可能性が高い、
という結論になります。

それでは仮に血圧の低下が認知症の進行を予防するとして、
それはどのようなメカニズムによるものなのでしょうか?

認知症の主体はアルツハイマー型認知症のような、
脳の変性に伴うもので、
脳梗塞などの血管の異常による認知症とは別物です。
ただ、心血管疾患を予防するような治療は、
アルツハイマー型認知症の予防にも有効、
というような知見は多くありますから、
満更両者が無関係、という訳ではありません。

今回の検証ではSRRINT試験の登録者のうち、
複数回のMRI検査を施行された673名を対象として、
降圧治療の違いによるMRI検査における認知症指標の違いを、
比較検証しています。

その結果、
他の認知症関連マーカーには、
通常の降圧治療と厳密な降圧治療との間で、
有意な差は認められませんでしたが、
記憶に関連の深い海馬容積は、
若干ながら厳密な降圧治療群で低下する傾向が認められました。

今回の結果は、
トータルには降圧治療による明確なMRI指標の変化は、
認められなかった、というものですが、
厳密な降圧治療により、
若干ながら海馬が萎縮していたという結果は、
興味深いもので、
今後認知症発症との関連を含めて、
より精密な検証の行われることを期待したいと思います。

海馬の萎縮を強調したような医療ニュースがありましたが、
上記論文の内容は基本的には有意な脳の変化は、
MRI上では見付からなかった、というもので、
臨床的には厳密な降圧治療の方が、
認知症予防にも良いというSPRINT試験の結論が、
変更されるような性質のものではないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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