新型コロナウイルス感染症の重症化と甲状腺機能 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年2月19日ウェブ掲載された、
甲状腺の病気と新型コロナウイルス感染症の予後との関連についての、
解説記事です。
新型コロナウイルス感染症は、
有症状の感染者のうち8割は軽症で、
残りの2割が重症化すると報告されていて、
高齢者と男性、慢性疾患などの病気が、
その重症化のリスクを増加させると考えられています。
この重症化に関連する疾患としては、
高血圧、糖尿病、肥満などが、
ほぼ確実なものとして報告されています。
それでは甲状腺機能低下症や機能亢進症などの、
甲状腺の慢性疾患についてはどうでしょうか?
これは明確なことが分かっていません。
甲状腺機能異常は心血管疾患のリスクに、
少なからず影響を与えることが分かっています。
また、新型コロナウイルスは人間の細胞にある、
ACE2という受容体に結合して、
それが感染の最初のステップであることが分かっていますが、
体内のACE2受容体の分布には、
甲状腺ホルモンが影響を与えるという知見があります。
こうした知見からは、
甲状腺機能異常の患者さんでは、
新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいのでは、
という危惧を抱いてもおかしくはありません。
ただ、実際には新型コロナウイルス感染症の患者で、
甲状腺機能と重症化や死亡リスクとの関連が、
調査されたことはあまりありませんでした。
今回の解説記事では、
国民総背番号制が取られているデンマークにおいて、
2種類の方法で解析された疫学データにより、
甲状腺ホルモン剤が使用されている甲状腺機能低下症と、
抗甲状腺剤が使用されている甲状腺機能亢進症の患者での、
新型コロナウイルス感染症における重症化リスクと、
死亡リスクなどが検証されています。
その結果、
少なくとも治療中の甲状腺疾患の患者においては、
新型コロナウイルス感染症の重症度や死亡リスクと、
甲状腺疾患との関連は認められませんでした。
これはただ、
治療中の患者のみの解析なので、
甲状腺機能が高度に異常のある場合には、
また別の結果が得られる可能性があります。
それでも現状の理解として、
少なくとも治療により甲状腺機能が安定している患者では、
新型コロナウイルス感染症の重症化リスクは、
病気のない人と明確な違いはないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2021年2月19日ウェブ掲載された、
甲状腺の病気と新型コロナウイルス感染症の予後との関連についての、
解説記事です。
新型コロナウイルス感染症は、
有症状の感染者のうち8割は軽症で、
残りの2割が重症化すると報告されていて、
高齢者と男性、慢性疾患などの病気が、
その重症化のリスクを増加させると考えられています。
この重症化に関連する疾患としては、
高血圧、糖尿病、肥満などが、
ほぼ確実なものとして報告されています。
それでは甲状腺機能低下症や機能亢進症などの、
甲状腺の慢性疾患についてはどうでしょうか?
これは明確なことが分かっていません。
甲状腺機能異常は心血管疾患のリスクに、
少なからず影響を与えることが分かっています。
また、新型コロナウイルスは人間の細胞にある、
ACE2という受容体に結合して、
それが感染の最初のステップであることが分かっていますが、
体内のACE2受容体の分布には、
甲状腺ホルモンが影響を与えるという知見があります。
こうした知見からは、
甲状腺機能異常の患者さんでは、
新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいのでは、
という危惧を抱いてもおかしくはありません。
ただ、実際には新型コロナウイルス感染症の患者で、
甲状腺機能と重症化や死亡リスクとの関連が、
調査されたことはあまりありませんでした。
今回の解説記事では、
国民総背番号制が取られているデンマークにおいて、
2種類の方法で解析された疫学データにより、
甲状腺ホルモン剤が使用されている甲状腺機能低下症と、
抗甲状腺剤が使用されている甲状腺機能亢進症の患者での、
新型コロナウイルス感染症における重症化リスクと、
死亡リスクなどが検証されています。
その結果、
少なくとも治療中の甲状腺疾患の患者においては、
新型コロナウイルス感染症の重症度や死亡リスクと、
甲状腺疾患との関連は認められませんでした。
これはただ、
治療中の患者のみの解析なので、
甲状腺機能が高度に異常のある場合には、
また別の結果が得られる可能性があります。
それでも現状の理解として、
少なくとも治療により甲状腺機能が安定している患者では、
新型コロナウイルス感染症の重症化リスクは、
病気のない人と明確な違いはないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
認知症に伴う抑うつ症状はどう治療するべきか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月24日ウェブ掲載された、
認知症に伴ううつ症状の治療についての論文です。
認知症ではその16%に、
大うつ病の診断基準を満たすという報告があります。
その一方で認知症の32%には、
大うつ病の診断基準は満たさない、
うつ病の症状が見られる、という報告もあります。
こうした認知症に伴ううつ症状に対して、
しばしば抗うつ剤などによる薬物治療が行われますが、
それが大うつ病の際と同じように有効であるのか、
という点については、
あまり明確なことが分かっていません。
今回の研究は、
これまでの主な臨床データをまとめて解析した、
ネットワークメタ解析ですが、
認知症に伴う抑うつ症状が、
大うつ病の診断を満たす場合と満たさない場合とに分けて、
抗うつ剤などによる薬物治療と、
運動療養や心理療法、ペット療法などの非薬物療法との、
有効性の比較を行っています。
その結果、
大うつ病の診断基準を満たさない場合、
認知症に伴ううつ症状に対して、
非薬物治療は通常治療と比較してうつ症状に対する有効性があり、
その一方で薬物治療は通常治療と比較して、
有意な有効性を示しませんでした。
大うつ病の診断基準を満たすうつ症状が、
認知症に見られるようなケースでは、
臨床データのばらつきが大きく、
ネットワークメタ解析は施行が出来ませんでした。
このように、
認知症に合併するうつ症状については、
それが大うつ病の診断基準を満たさない限り、
うつ病の薬物治療が有効であるとする根拠はなく、
非薬物療法の可能性を、
第一選択として考える必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月24日ウェブ掲載された、
認知症に伴ううつ症状の治療についての論文です。
認知症ではその16%に、
大うつ病の診断基準を満たすという報告があります。
その一方で認知症の32%には、
大うつ病の診断基準は満たさない、
うつ病の症状が見られる、という報告もあります。
こうした認知症に伴ううつ症状に対して、
しばしば抗うつ剤などによる薬物治療が行われますが、
それが大うつ病の際と同じように有効であるのか、
という点については、
あまり明確なことが分かっていません。
今回の研究は、
これまでの主な臨床データをまとめて解析した、
ネットワークメタ解析ですが、
認知症に伴う抑うつ症状が、
大うつ病の診断を満たす場合と満たさない場合とに分けて、
抗うつ剤などによる薬物治療と、
運動療養や心理療法、ペット療法などの非薬物療法との、
有効性の比較を行っています。
その結果、
大うつ病の診断基準を満たさない場合、
認知症に伴ううつ症状に対して、
非薬物治療は通常治療と比較してうつ症状に対する有効性があり、
その一方で薬物治療は通常治療と比較して、
有意な有効性を示しませんでした。
大うつ病の診断基準を満たすうつ症状が、
認知症に見られるようなケースでは、
臨床データのばらつきが大きく、
ネットワークメタ解析は施行が出来ませんでした。
このように、
認知症に合併するうつ症状については、
それが大うつ病の診断基準を満たさない限り、
うつ病の薬物治療が有効であるとする根拠はなく、
非薬物療法の可能性を、
第一選択として考える必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
アメリカの単独医療センターにおける新型コロナウイルスワクチンの有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年3月23日ウェブ掲載されたレターですが、
アメリカの単独施設(と言ってもかなり規模は大きい)での、
職員のワクチン接種の効果を検証したものです。
アメリカでは積極的にワクチン接種が進められていますが、
そのトータルな有効性については、
もう少し時間が経たないと分かりにくい、
という側面があります。
イスラエルでは劇的に感染者が減少しているようですが、
これも発表された論文レベルでの検証では、
統計の取り方などやや釈然としない部分があり、
もう少ししないと実際の効果を確認する、
というところまではいかないように思います。
現在日本では大病院を中心にした先行(?)接種が行われていて、
もう僕のような医療従事者への接種も、
開始されて良い筈ですが、
現状たとえばクリニックのある品川では、
数日前に予診票だけは届いたのですが、
まだ接種の目途は立っていない、という話です。
その一方であまり新型コロナの患者を診ていないようなところでも、
大学病院などでは職員への接種が進んでいるようです。
これは所謂先行接種ではなくて、
その次の医療従事者への接種と、
ワクチンの臨床試験の一環なのだと思います。
保管の問題もあるので、
地域の基幹病院や大学病院に、
ワクチンが入荷されているのですね。
そこから他の接種場所や医療機関に、
適宜ワクチンが分配されるというプランであったと思うのですが、
実際には予定の数分の一という感じのワクチンしか入らないので、
結果としてその病院の職員が打ってそれで終わり、
ということになってしまっているようです。
ある大学病院の看護師さんに話を聞くと、
アストラゼネカのワクチンも接種されているようなので、
これはまあ治験という扱いだと思うのですね。
その病院では3種類のワクチンが、
無作為に選択されて接種されているようです。
どのワクチンがどのくらいの分量、
どういう位置づけのもとに接種が進んでいるのか、
断片的な情報からは全体像は見えにくいのが実際です。
僕は地域の医療機関としては、
コロナの検査も積極的にしていますし、
発熱外来もしていますし、
患者さんの相談にも対応しているつもりですが、
そうした医療従事者への接種は進む気配はありません。
国は早く高齢者の接種を初めて実績を作りたい、
という方針であるようなので、
強引でも4月中に接種を開始するということになると、
僕のような医療従事者への接種は、
結果として後回しで消滅するようなことになりそうです。
まあ、どうでもいいですけどね。(やや投げやり)
話を戻します。
ワクチン接種における疑問の1つは、
たとえば病院で全職員に接種をすると、
その病院でのクラスターは起こらなくなるのか、
ということです。
今回のレターではテキサス大学の医療センターにおいて、
ファイザー社のものか、モデルナ社の、
いずれかのmRNAワクチンを集団接種して、
その後の感染状況を解析しています。
その結果はこちらをご覧下さい。
ワクチン接種が開始されてから31日間の間に、
医療センターの全職員23234名のうち、
59%が1回目の接種を終了していて、
30%は2回目の接種まで終了しています。
これはファイザー社はモデルナ社の、
いずれかのメーカーのワクチンです。
ワクチン接種の開始された2020年12月15日から、
2021年1月28日の間に、
新型コロナウイルス感染症の新たな感染者が、
職員の1.5%に当たる350名で確認されていて、
ワクチン未接種の8969名中では2.61%に当たる234名が感染したのに対して、
ワクチンを1回のみ接種した6144名中では1.82%に当たる112名が感染、
2回のワクチン接種を完了した8121名中では、
感染者は0.05%に当たる4名のみでした。
このようにかなりクリアにワクチン接種の効果が、
こうした感染リスクの高い集団では確認されていて、
少なくとも従来型のウイルス株の感染において、
その短期間の有効性は間違いないものと言って良いようです。
今後より長期的な検証や、
ワクチン接種が変異株の流行に与える影響など、
その安全性を含めて多くの検証が必要ですが、
少なくとも現状の危機を乗り越えるためには、
クラスターを来しやすい集団のワクチン接種は、
早急に進める必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年3月23日ウェブ掲載されたレターですが、
アメリカの単独施設(と言ってもかなり規模は大きい)での、
職員のワクチン接種の効果を検証したものです。
アメリカでは積極的にワクチン接種が進められていますが、
そのトータルな有効性については、
もう少し時間が経たないと分かりにくい、
という側面があります。
イスラエルでは劇的に感染者が減少しているようですが、
これも発表された論文レベルでの検証では、
統計の取り方などやや釈然としない部分があり、
もう少ししないと実際の効果を確認する、
というところまではいかないように思います。
現在日本では大病院を中心にした先行(?)接種が行われていて、
もう僕のような医療従事者への接種も、
開始されて良い筈ですが、
現状たとえばクリニックのある品川では、
数日前に予診票だけは届いたのですが、
まだ接種の目途は立っていない、という話です。
その一方であまり新型コロナの患者を診ていないようなところでも、
大学病院などでは職員への接種が進んでいるようです。
これは所謂先行接種ではなくて、
その次の医療従事者への接種と、
ワクチンの臨床試験の一環なのだと思います。
保管の問題もあるので、
地域の基幹病院や大学病院に、
ワクチンが入荷されているのですね。
そこから他の接種場所や医療機関に、
適宜ワクチンが分配されるというプランであったと思うのですが、
実際には予定の数分の一という感じのワクチンしか入らないので、
結果としてその病院の職員が打ってそれで終わり、
ということになってしまっているようです。
ある大学病院の看護師さんに話を聞くと、
アストラゼネカのワクチンも接種されているようなので、
これはまあ治験という扱いだと思うのですね。
その病院では3種類のワクチンが、
無作為に選択されて接種されているようです。
どのワクチンがどのくらいの分量、
どういう位置づけのもとに接種が進んでいるのか、
断片的な情報からは全体像は見えにくいのが実際です。
僕は地域の医療機関としては、
コロナの検査も積極的にしていますし、
発熱外来もしていますし、
患者さんの相談にも対応しているつもりですが、
そうした医療従事者への接種は進む気配はありません。
国は早く高齢者の接種を初めて実績を作りたい、
という方針であるようなので、
強引でも4月中に接種を開始するということになると、
僕のような医療従事者への接種は、
結果として後回しで消滅するようなことになりそうです。
まあ、どうでもいいですけどね。(やや投げやり)
話を戻します。
ワクチン接種における疑問の1つは、
たとえば病院で全職員に接種をすると、
その病院でのクラスターは起こらなくなるのか、
ということです。
今回のレターではテキサス大学の医療センターにおいて、
ファイザー社のものか、モデルナ社の、
いずれかのmRNAワクチンを集団接種して、
その後の感染状況を解析しています。
その結果はこちらをご覧下さい。
ワクチン接種が開始されてから31日間の間に、
医療センターの全職員23234名のうち、
59%が1回目の接種を終了していて、
30%は2回目の接種まで終了しています。
これはファイザー社はモデルナ社の、
いずれかのメーカーのワクチンです。
ワクチン接種の開始された2020年12月15日から、
2021年1月28日の間に、
新型コロナウイルス感染症の新たな感染者が、
職員の1.5%に当たる350名で確認されていて、
ワクチン未接種の8969名中では2.61%に当たる234名が感染したのに対して、
ワクチンを1回のみ接種した6144名中では1.82%に当たる112名が感染、
2回のワクチン接種を完了した8121名中では、
感染者は0.05%に当たる4名のみでした。
このようにかなりクリアにワクチン接種の効果が、
こうした感染リスクの高い集団では確認されていて、
少なくとも従来型のウイルス株の感染において、
その短期間の有効性は間違いないものと言って良いようです。
今後より長期的な検証や、
ワクチン接種が変異株の流行に与える影響など、
その安全性を含めて多くの検証が必要ですが、
少なくとも現状の危機を乗り越えるためには、
クラスターを来しやすい集団のワクチン接種は、
早急に進める必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ワーグナー「ワルキューレ」(2021年新国立劇場上演版) [オペラ]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今月新国立劇場でワーグナーの「ワルキューレ」が上演されました。
これはフィンランド歌劇場からの借り物のプロダクションなのですが、
2016年に新国立劇場で上演されていて、
実際に聴いていますが、
非常に感動的かつ官能的な素晴らしい上演でした。
ラストの岩山の演出の素晴らしさも脳裏に焼き付いています。
その時は主要な役柄には、
海外の一流歌手がキラ星の如く揃っていて、
圧倒的な迫力で至福の時間でした。
2016年はワーグナー上演の当たり年で、
4月には東京・春・音楽祭が、
ヤノフスキの指揮にNHK交響楽団の演奏、
そして世界的な第一線の歌手が揃う豪華な布陣で、
「ジークフリード」の見事な演奏を聴かせ、
それから新国立劇場の「ワルキューレ」があり、
11月にはウィーン国立歌劇場の同じ「ワルキューレ」、
そしてザルツブルグ・イースター音楽祭の来日公演として、
ティーレマンが「ラインの黄金」を振ったという、
奇跡的な舞台もありました。
凄かったですよね。
その時はそうも思わなかったのですが、
今思うともう夢のようですよね。
もう二度とあんなことはないのだなあ、
と思うと感慨もひとしおです。
さて、今回の上演も、
当初はお馴染みイレーネ・テオリンなど、
世界的なワーグナー歌いを招聘していたのですが、
コロナ禍によって来日は不可能となり、
フリッカの藤村実穂子さんのみがオリジナルキャストで、
それ以外は主だった役柄は全て変更となりました。
ヴォータンには1月から来日していたドイツ出身のバリトン、
ミヒャエル・クプファー=ラデツキーさんが急遽出演となり、
他は全員日本人キャストの中で、
作品全体の核になっていたのは不幸中の幸いでした。
僕が聴いたのは14日の公演ですが、
指揮は大野和士さんで東京交響楽団の演奏でした。
うーん。
矢張り2016年の上演と比べてしまうと、
あちこちに綻びのある上演ではありました。
まあでもそれはこんな状況ですから仕方がないですね。
ジークムントを1幕と2幕で2人の歌手が別々に演じていて、
これはメトロポリタン歌劇場が来日した時の、
ドミンゴもそうでしたね。
相当スタミナがないと、
2幕通して歌うのはきついようです。
1幕の村上敏明さんが、勿論第一人者なのですが、
後半の盛り上がりでちょっと失速していて、
ラストは音楽は怒濤の盛り上がりなのに、
声は付いてこない、という、
ちょっと残念な仕上がりでした。
総じて良いところもあるのですが、
随所にポカッと間があるような感じなんですね。
色々と調整不足もあるのかな、とも感じました。
残念ながら初演の官能的な盛り上がりは、
今回は感じられなかったですね。
ただ、2幕前半の、
ラデツキーさんと藤村さんの神様夫婦喧嘩の部分は、
これぞ本物という感じがありましたし、
ブリュンヒルデの池田香織さんは良かったと思います。
日本を代表するワーグナー歌いですね。
演出もラストは矢張り素晴らしいと思います。
そんな訳でちょっとモヤモヤのワルキューレでしたが、
今後はもう来日公演も望めないですし、
当面は新国立劇場頼りという感じのオペラですが、
ここから日本人のオペラが新たな進化を遂げ、
新たなスターが出現することも期待しつつ、
舞台には足を運びたいと思っています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今月新国立劇場でワーグナーの「ワルキューレ」が上演されました。
これはフィンランド歌劇場からの借り物のプロダクションなのですが、
2016年に新国立劇場で上演されていて、
実際に聴いていますが、
非常に感動的かつ官能的な素晴らしい上演でした。
ラストの岩山の演出の素晴らしさも脳裏に焼き付いています。
その時は主要な役柄には、
海外の一流歌手がキラ星の如く揃っていて、
圧倒的な迫力で至福の時間でした。
2016年はワーグナー上演の当たり年で、
4月には東京・春・音楽祭が、
ヤノフスキの指揮にNHK交響楽団の演奏、
そして世界的な第一線の歌手が揃う豪華な布陣で、
「ジークフリード」の見事な演奏を聴かせ、
それから新国立劇場の「ワルキューレ」があり、
11月にはウィーン国立歌劇場の同じ「ワルキューレ」、
そしてザルツブルグ・イースター音楽祭の来日公演として、
ティーレマンが「ラインの黄金」を振ったという、
奇跡的な舞台もありました。
凄かったですよね。
その時はそうも思わなかったのですが、
今思うともう夢のようですよね。
もう二度とあんなことはないのだなあ、
と思うと感慨もひとしおです。
さて、今回の上演も、
当初はお馴染みイレーネ・テオリンなど、
世界的なワーグナー歌いを招聘していたのですが、
コロナ禍によって来日は不可能となり、
フリッカの藤村実穂子さんのみがオリジナルキャストで、
それ以外は主だった役柄は全て変更となりました。
ヴォータンには1月から来日していたドイツ出身のバリトン、
ミヒャエル・クプファー=ラデツキーさんが急遽出演となり、
他は全員日本人キャストの中で、
作品全体の核になっていたのは不幸中の幸いでした。
僕が聴いたのは14日の公演ですが、
指揮は大野和士さんで東京交響楽団の演奏でした。
うーん。
矢張り2016年の上演と比べてしまうと、
あちこちに綻びのある上演ではありました。
まあでもそれはこんな状況ですから仕方がないですね。
ジークムントを1幕と2幕で2人の歌手が別々に演じていて、
これはメトロポリタン歌劇場が来日した時の、
ドミンゴもそうでしたね。
相当スタミナがないと、
2幕通して歌うのはきついようです。
1幕の村上敏明さんが、勿論第一人者なのですが、
後半の盛り上がりでちょっと失速していて、
ラストは音楽は怒濤の盛り上がりなのに、
声は付いてこない、という、
ちょっと残念な仕上がりでした。
総じて良いところもあるのですが、
随所にポカッと間があるような感じなんですね。
色々と調整不足もあるのかな、とも感じました。
残念ながら初演の官能的な盛り上がりは、
今回は感じられなかったですね。
ただ、2幕前半の、
ラデツキーさんと藤村さんの神様夫婦喧嘩の部分は、
これぞ本物という感じがありましたし、
ブリュンヒルデの池田香織さんは良かったと思います。
日本を代表するワーグナー歌いですね。
演出もラストは矢張り素晴らしいと思います。
そんな訳でちょっとモヤモヤのワルキューレでしたが、
今後はもう来日公演も望めないですし、
当面は新国立劇場頼りという感じのオペラですが、
ここから日本人のオペラが新たな進化を遂げ、
新たなスターが出現することも期待しつつ、
舞台には足を運びたいと思っています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「ほんとうのハウンド警部」(2021年小川絵梨子演出版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
トム・ストッパードの初期のメタフィクション的お芝居が、
今渋谷のシアターコクーンで上演されています。
以下少しネタバレがあります。
まだ上演中ですので、
感激予定の方は観劇後にお読み下さい。
これは1時間15分ほどの短いお芝居で、
最初に劇評家2人が劇場の客席で出会い、
2人が観ているミステリー芝居が、
実際に再現して演じられます。
舞台に出演している女優と劇評家の1人に関係があったことから、
劇評家の1人が舞台上に上がると舞台の一部になってしまい、
最終的には劇評家は2人とも舞台に取り込まれ、
そして死んでしまいます。
非常に才気迸るという感じの技巧的なお芝居で、
上演したくなる気持ちは分かります。
短いところも魅力ですね。
端役まで必要以上に豪華な顔ぶれなので、
おそらくはもう少し大作を上演するつもりであったのが、
コロナ禍のため上演時間の短い作品に、
変更されたのではないか、と推察されます。
ただ、難しいのは客席と舞台という関係性を、
どのようにして演出するかという点です。
普通に考えると、
本物の客席の一部で、
評論家2人が議論するような演出を、
したくなります。
しかし、客席の一部で演技をするのは、
声も通りにくいですし、
何より見づらいですよね。
小劇場ならまた別ですが、
通常の中劇場以上での演出としては、
あまり効果的ではないという気がします。
これが蜷川幸雄さんであれば、
無理矢理でも客席でのお芝居を実現されたのではないか、
という気がします。
コクーンであれば客席の一部と取り払うようなことが出来ますから、
舞台前方の中央部の客席を廃して、
それを別舞台にして上演したのではないでしょうか?
ただ、今回の演出の小川絵梨子さんは、
そうした方法はとらず、
客入れの時には舞台に鏡を設置して、
本当の客席が舞台の鏡に映り込むようにして、
舞台が始まると、
その後方に客席が現れる、
という趣向で演出しています。
これはこれでちょっと詰まらなくはあるのですね。
舞台上で全てが完結してしまうので、
せっかくのメタフィクション的な趣向が、
あまり意味のないものになってしまうからです。
その点の不満はあるのですが、
端役まで非常に豪華な顔ぶれで、
まずは演劇の愉楽を楽しむことが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
トム・ストッパードの初期のメタフィクション的お芝居が、
今渋谷のシアターコクーンで上演されています。
以下少しネタバレがあります。
まだ上演中ですので、
感激予定の方は観劇後にお読み下さい。
これは1時間15分ほどの短いお芝居で、
最初に劇評家2人が劇場の客席で出会い、
2人が観ているミステリー芝居が、
実際に再現して演じられます。
舞台に出演している女優と劇評家の1人に関係があったことから、
劇評家の1人が舞台上に上がると舞台の一部になってしまい、
最終的には劇評家は2人とも舞台に取り込まれ、
そして死んでしまいます。
非常に才気迸るという感じの技巧的なお芝居で、
上演したくなる気持ちは分かります。
短いところも魅力ですね。
端役まで必要以上に豪華な顔ぶれなので、
おそらくはもう少し大作を上演するつもりであったのが、
コロナ禍のため上演時間の短い作品に、
変更されたのではないか、と推察されます。
ただ、難しいのは客席と舞台という関係性を、
どのようにして演出するかという点です。
普通に考えると、
本物の客席の一部で、
評論家2人が議論するような演出を、
したくなります。
しかし、客席の一部で演技をするのは、
声も通りにくいですし、
何より見づらいですよね。
小劇場ならまた別ですが、
通常の中劇場以上での演出としては、
あまり効果的ではないという気がします。
これが蜷川幸雄さんであれば、
無理矢理でも客席でのお芝居を実現されたのではないか、
という気がします。
コクーンであれば客席の一部と取り払うようなことが出来ますから、
舞台前方の中央部の客席を廃して、
それを別舞台にして上演したのではないでしょうか?
ただ、今回の演出の小川絵梨子さんは、
そうした方法はとらず、
客入れの時には舞台に鏡を設置して、
本当の客席が舞台の鏡に映り込むようにして、
舞台が始まると、
その後方に客席が現れる、
という趣向で演出しています。
これはこれでちょっと詰まらなくはあるのですね。
舞台上で全てが完結してしまうので、
せっかくのメタフィクション的な趣向が、
あまり意味のないものになってしまうからです。
その点の不満はあるのですが、
端役まで非常に豪華な顔ぶれで、
まずは演劇の愉楽を楽しむことが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナウイルス感染症は学校のクラスでどのくらい広がるのか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月17日ウェブ掲載された、
スイスの学校における新型コロナウイルス感染の広がりを、
抗体検査を繰り返して検証した論文です。
新型コロナウイルス感染の広がりにおける、
学校の役割というのは、
まだ明らかではない事項の1つです。
特に小学校の高学年くらいの年齢以降においては、
新型コロナウイルス感染症の罹患率は、
ほぼ成人と同等だと考えられています。
つまり、子供も大人と同じようにこの病気に移ります。
しかし、有症状の感染自体は子供では少なく、
重症化は極めて稀だと報告されています。
従って、
子供にとってこの病気は、
その通り「ただの風邪」だ、
と言って良いのかも知れません。
しかし、
問題はこの新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、
子供が感染拡大にどのくらいの影響を与えているのか、
ということです。
この点については多くの意見があり、
まだ結論に至っていません。
今回の研究は2020年夏に第2波の、
新型コロナウイルス感染症の大流行に見舞われたスイスにおいて、
開校されていた子供が通う学校の、
無作為に選ばれた55の学校の275のクラスにおいて、
2603名の児童生徒に、
2020年の6月から7月と10月から11月に、
新型コロナウイルスの抗体検査を施行し、
クラス内での感染の広がりと、
症状の有無などを比較検証しています。
その結果、
6月から7月に抗体検査を施行した2496名のうち、
74名が抗体陽性で、
10月から11月に抗体検査を施行した2503名のうち、
173名が抗体陽性でした。
初夏と秋に2回抗体測定を行った生徒は2223名で、
最初の検査で陽性であった70名のうち、
40%に当たる28名は2回目の検査では陰性となり、
最初の検査で陰性であった2153名のうち、
5%に当たる109名が陽性となっていて、
これがその間に感染した比率ということになります。
対象となった子ども達を、
6から9歳、9から13歳、12から16歳の、
3つのグループで比較した検討では、
その罹患率には年齢による差は見られませんでした。
55の対象校のうち47校、
その275のクラスのうち90クラスでは、
1名以上の感染者がその間に出現していました。
感染拡大地域にあった130のクラスのうち、
56%に当たる73のクラスでは患者の発生はなく、
38%に当たる50のクラスではクラスの1、2名が感染し、
クラスで3名以上が感染したクラスは、
全体の5%に当たる7クラスのみでした。
つまり、学校のクラスが感染拡大の温床であるなら、
もっと大勢の感染者のいるクラスがあっても良い筈ですが、
殆どそうした事例はなく、
むしろ他の場所での感染が、
反映されているだけのように思われます。
このデータは今後より検証が必要だと思われますが、
少なくとも学校が感染拡大の温床である。
という考え方はあまり根拠のあるものではないと、
現時点ではそう考えておいた方が良いようです。
勿論これは従来型のウイルスについての話で、
変異株についてはまた別の性質を持つのではないか、
という考え方もあることは補足しておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月17日ウェブ掲載された、
スイスの学校における新型コロナウイルス感染の広がりを、
抗体検査を繰り返して検証した論文です。
新型コロナウイルス感染の広がりにおける、
学校の役割というのは、
まだ明らかではない事項の1つです。
特に小学校の高学年くらいの年齢以降においては、
新型コロナウイルス感染症の罹患率は、
ほぼ成人と同等だと考えられています。
つまり、子供も大人と同じようにこの病気に移ります。
しかし、有症状の感染自体は子供では少なく、
重症化は極めて稀だと報告されています。
従って、
子供にとってこの病気は、
その通り「ただの風邪」だ、
と言って良いのかも知れません。
しかし、
問題はこの新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、
子供が感染拡大にどのくらいの影響を与えているのか、
ということです。
この点については多くの意見があり、
まだ結論に至っていません。
今回の研究は2020年夏に第2波の、
新型コロナウイルス感染症の大流行に見舞われたスイスにおいて、
開校されていた子供が通う学校の、
無作為に選ばれた55の学校の275のクラスにおいて、
2603名の児童生徒に、
2020年の6月から7月と10月から11月に、
新型コロナウイルスの抗体検査を施行し、
クラス内での感染の広がりと、
症状の有無などを比較検証しています。
その結果、
6月から7月に抗体検査を施行した2496名のうち、
74名が抗体陽性で、
10月から11月に抗体検査を施行した2503名のうち、
173名が抗体陽性でした。
初夏と秋に2回抗体測定を行った生徒は2223名で、
最初の検査で陽性であった70名のうち、
40%に当たる28名は2回目の検査では陰性となり、
最初の検査で陰性であった2153名のうち、
5%に当たる109名が陽性となっていて、
これがその間に感染した比率ということになります。
対象となった子ども達を、
6から9歳、9から13歳、12から16歳の、
3つのグループで比較した検討では、
その罹患率には年齢による差は見られませんでした。
55の対象校のうち47校、
その275のクラスのうち90クラスでは、
1名以上の感染者がその間に出現していました。
感染拡大地域にあった130のクラスのうち、
56%に当たる73のクラスでは患者の発生はなく、
38%に当たる50のクラスではクラスの1、2名が感染し、
クラスで3名以上が感染したクラスは、
全体の5%に当たる7クラスのみでした。
つまり、学校のクラスが感染拡大の温床であるなら、
もっと大勢の感染者のいるクラスがあっても良い筈ですが、
殆どそうした事例はなく、
むしろ他の場所での感染が、
反映されているだけのように思われます。
このデータは今後より検証が必要だと思われますが、
少なくとも学校が感染拡大の温床である。
という考え方はあまり根拠のあるものではないと、
現時点ではそう考えておいた方が良いようです。
勿論これは従来型のウイルスについての話で、
変異株についてはまた別の性質を持つのではないか、
という考え方もあることは補足しておきたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナウイルス感染症に対する抗凝固剤の効果(低分子ヘパリンの用量による比較) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2021年3月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する抗凝固療法についての論文です。
新型コロナウイルス感染症では、
血管の内膜障害や凝固系の亢進が起こり、
重症の事例では高頻度に静脈血栓塞栓症が生じることが、
報告されています。
その予防のために、
集中治療室に入室するような事例においては、
予防のために抗凝固療法を施行することが、
しばしば実地臨床においては行われています。
ただ、その有効性や安全性についての、
実証的なデータはまだ少なく、
先日British Medical Journal誌の論文をご紹介しましたが、
一定の有効性が認められているものの、
コホート研究でそれほど精度の高いものではありませんでした。
今回の研究はイランの10カ所の専門施設において、
集中治療室に入室した新型コロナウイルス感染症の患者、
トータル562名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗凝固剤の低分子ヘパリン、
エノキサパリンを通常量の1日40mg(4000IU)使用し、
もう一方はより高用量の、
1日体重1キロ当たり1mgを使用して、
30日間のフォローアップを行っています。
この研究はスタチンの有効性も同時に比較していて、
今回はそのうちの低分子ヘパリンの用量比較のみの結果です。
その結果、
低分子ヘパリンを通常量で使用しても、
高用量で使用しても、
30日以内の動静脈の血栓症の発症と人工肺(ECMO)の使用、
そして死亡を併せたリスクには、
有意な差は認められませんでした。
有害事象としては重度の血小板減少は、
高用量群のみに認められました。
新型コロナウイルス感染症の重症事例において、
抗凝固療法には一定の有効性が期待されますが、
通常用量より高用量を使用しても、
それだけ有効性が増す、という性質のものではないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2021年3月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する抗凝固療法についての論文です。
新型コロナウイルス感染症では、
血管の内膜障害や凝固系の亢進が起こり、
重症の事例では高頻度に静脈血栓塞栓症が生じることが、
報告されています。
その予防のために、
集中治療室に入室するような事例においては、
予防のために抗凝固療法を施行することが、
しばしば実地臨床においては行われています。
ただ、その有効性や安全性についての、
実証的なデータはまだ少なく、
先日British Medical Journal誌の論文をご紹介しましたが、
一定の有効性が認められているものの、
コホート研究でそれほど精度の高いものではありませんでした。
今回の研究はイランの10カ所の専門施設において、
集中治療室に入室した新型コロナウイルス感染症の患者、
トータル562名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗凝固剤の低分子ヘパリン、
エノキサパリンを通常量の1日40mg(4000IU)使用し、
もう一方はより高用量の、
1日体重1キロ当たり1mgを使用して、
30日間のフォローアップを行っています。
この研究はスタチンの有効性も同時に比較していて、
今回はそのうちの低分子ヘパリンの用量比較のみの結果です。
その結果、
低分子ヘパリンを通常量で使用しても、
高用量で使用しても、
30日以内の動静脈の血栓症の発症と人工肺(ECMO)の使用、
そして死亡を併せたリスクには、
有意な差は認められませんでした。
有害事象としては重度の血小板減少は、
高用量群のみに認められました。
新型コロナウイルス感染症の重症事例において、
抗凝固療法には一定の有効性が期待されますが、
通常用量より高用量を使用しても、
それだけ有効性が増す、という性質のものではないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナウイルス感染症変異株(英国型:VOC-202012/1)の生命予後 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の英国型変異株の、
死亡リスクの違いを検証した論文です。
2020年にイギリスで報告された変異ウイルスは、
「B.1.1.7」変異と名付けられ、
英国公衆衛生庁(Public Health England)は、
このウイルスを「VOC-202012/01」と命名しています。
この変異ウイルスは17カ所の複数の変異が、
同時に認められているという点が特徴で、
その多くがウイルスが人間の細胞に結合する、
スパイク(突起)の部分の遺伝子に存在しています。
この変異ウイルスは日本でも全国で検出され、
変異ウイルスの9割以上を占めていて、
今後新型コロナウイルス感染の主体となるのでは、
という推測もあるほどです。
従って、このウイルスの性質を、
私達はしっかりと知っておく必要があるのです。
これまでのイギリスでの解析により、
このウイルスは従来型と比較して、
感染力が40から70%高まるのではないか、
というように報告されています。
それでは、その生命予後は、
従来型とどの程度の違いがあるのでしょうか?
今回の検証はイギリスにおいて、
2020年10月1日から2021年1月29日の間に検査センターで同定された、
54906例の変異株の感染者を、
同数の従来型ウイルスの感染者とマッチングさせて、
検査陽性となってから28日以内の死亡率を比較しているものです。
その結果、
英国型変異株感染者の死亡リスクは、
従来型の感染者と比較して、
64%(95%CI;1.32から2.04)有意に高い、
という結果が得られました。
これはこの比較的低リスクの感染集団において、
1000件検出事例当たり、
2.5件の死亡を4.1件に増加させる頻度と推計されました。
このようにリスクの幅はかなり広く、
また軽症の事例が多い集団であることは留意する必要がありますが、
英国での大規模な検証で、
この変異株の死亡リスクが、
明確に従来株より高いとされた点は重要視する必要があり、
日本においてもこうした検証を積み重ねて、
「正しく理解して正しく怖れる」必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の英国型変異株の、
死亡リスクの違いを検証した論文です。
2020年にイギリスで報告された変異ウイルスは、
「B.1.1.7」変異と名付けられ、
英国公衆衛生庁(Public Health England)は、
このウイルスを「VOC-202012/01」と命名しています。
この変異ウイルスは17カ所の複数の変異が、
同時に認められているという点が特徴で、
その多くがウイルスが人間の細胞に結合する、
スパイク(突起)の部分の遺伝子に存在しています。
この変異ウイルスは日本でも全国で検出され、
変異ウイルスの9割以上を占めていて、
今後新型コロナウイルス感染の主体となるのでは、
という推測もあるほどです。
従って、このウイルスの性質を、
私達はしっかりと知っておく必要があるのです。
これまでのイギリスでの解析により、
このウイルスは従来型と比較して、
感染力が40から70%高まるのではないか、
というように報告されています。
それでは、その生命予後は、
従来型とどの程度の違いがあるのでしょうか?
今回の検証はイギリスにおいて、
2020年10月1日から2021年1月29日の間に検査センターで同定された、
54906例の変異株の感染者を、
同数の従来型ウイルスの感染者とマッチングさせて、
検査陽性となってから28日以内の死亡率を比較しているものです。
その結果、
英国型変異株感染者の死亡リスクは、
従来型の感染者と比較して、
64%(95%CI;1.32から2.04)有意に高い、
という結果が得られました。
これはこの比較的低リスクの感染集団において、
1000件検出事例当たり、
2.5件の死亡を4.1件に増加させる頻度と推計されました。
このようにリスクの幅はかなり広く、
また軽症の事例が多い集団であることは留意する必要がありますが、
英国での大規模な検証で、
この変異株の死亡リスクが、
明確に従来株より高いとされた点は重要視する必要があり、
日本においてもこうした検証を積み重ねて、
「正しく理解して正しく怖れる」必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う小児の関与について(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の拡大に与える、
子供との同居の影響についての論文です。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大における、
小児の影響については、
まだ明確なことが分かっていません。
これまでの疫学データにおいて、
小児は新型コロナウイルス感染症には罹り難く、
罹っても重症化はし難いということは確認されています。
インフルエンザのような、
他の「風邪ウイルス」の感染拡大においては、
小児の集団においてまず感染が拡大し、
それが大人に波及することが多いことが知られています。
ただ、新型コロナウイルス感染症は、
大人より小児では感染感受性が低いので、
そうしたことは起こり難いという考え方が一般的でした。
今回の検証はイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症の第1波(2020年2月1日から8月31日)と、
第2波(2020年9月1日から12月18日)の2つの時期において、
小児との同居が感染に与える影響を比較検証しています。
プライマリケアの医療データ9334392名を対象とした、
非常に大規模なものです。
その結果、
第1波の時期に子供と同居をしているかどうかは、
18歳以上65歳以下の年齢の新型コロナウイルス感染症の、
感染や重症化、生命予後に有意な関連を認めませんでした。
その一方で第2波の時期においては、
0から11歳の小児との同居は、
同居者の感染リスクを6%(95%CI:1.05から1.08)、
入院のリスクを18%(95%CI:1.06から1.31)、
それぞれ有意に増加させていました。
これが12から18歳の小児との同居では、
同居者の感染リスクを22%(95%CI:1.20から1.24)、
入院のリスクを26%(95%: 1.12から1.40)、
こちらも有意に増加させていました。
しかし、
0から11歳の小児と同居している人は、
第1波と第2波のどちらにおいても、
新型コロナウイルス感染症で死亡するリスクも、
それ以外の原因で死亡するリスクも、
いずれも有意に低くなっていました。
このように、
第1波では明確ではなかった、
小児の同居者の感染リスクが、
第2波では明確となっているのは、
1つには第1波の時には行われた学校の休校などの措置が、
第2波では行われなかった点が、
その要因としては考えられます。
ただ、その差はかなり小さなものなので、
矢張りよほど徹底したロックダウンを行う時以外は、
学校を休校させる必要性は高いものではないようです。
それから小児との同居で感染は増加しても、
死亡者は減っているという現象は、
小児から多くの風邪ウイルスに感染することにより、
免疫力がトータルに賦活化して、
他のウイルスのよる感染や、
新型コロナウイルスの感染に対して、
重症化を抑制するような影響があった、
という可能性が推察されます。
要するに、
小児を媒介として、
新型コロナウイルスの感染が広がる、
という側面はあるのですが、
それはインフルエンザに見られるような強い影響ではなく、
小児との同居は、
同居者の生命予後に良い影響を与える可能性もあるので、
単純に良いとも悪いとも言い切れない、
というところなのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2021年3月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の拡大に与える、
子供との同居の影響についての論文です。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大における、
小児の影響については、
まだ明確なことが分かっていません。
これまでの疫学データにおいて、
小児は新型コロナウイルス感染症には罹り難く、
罹っても重症化はし難いということは確認されています。
インフルエンザのような、
他の「風邪ウイルス」の感染拡大においては、
小児の集団においてまず感染が拡大し、
それが大人に波及することが多いことが知られています。
ただ、新型コロナウイルス感染症は、
大人より小児では感染感受性が低いので、
そうしたことは起こり難いという考え方が一般的でした。
今回の検証はイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症の第1波(2020年2月1日から8月31日)と、
第2波(2020年9月1日から12月18日)の2つの時期において、
小児との同居が感染に与える影響を比較検証しています。
プライマリケアの医療データ9334392名を対象とした、
非常に大規模なものです。
その結果、
第1波の時期に子供と同居をしているかどうかは、
18歳以上65歳以下の年齢の新型コロナウイルス感染症の、
感染や重症化、生命予後に有意な関連を認めませんでした。
その一方で第2波の時期においては、
0から11歳の小児との同居は、
同居者の感染リスクを6%(95%CI:1.05から1.08)、
入院のリスクを18%(95%CI:1.06から1.31)、
それぞれ有意に増加させていました。
これが12から18歳の小児との同居では、
同居者の感染リスクを22%(95%CI:1.20から1.24)、
入院のリスクを26%(95%: 1.12から1.40)、
こちらも有意に増加させていました。
しかし、
0から11歳の小児と同居している人は、
第1波と第2波のどちらにおいても、
新型コロナウイルス感染症で死亡するリスクも、
それ以外の原因で死亡するリスクも、
いずれも有意に低くなっていました。
このように、
第1波では明確ではなかった、
小児の同居者の感染リスクが、
第2波では明確となっているのは、
1つには第1波の時には行われた学校の休校などの措置が、
第2波では行われなかった点が、
その要因としては考えられます。
ただ、その差はかなり小さなものなので、
矢張りよほど徹底したロックダウンを行う時以外は、
学校を休校させる必要性は高いものではないようです。
それから小児との同居で感染は増加しても、
死亡者は減っているという現象は、
小児から多くの風邪ウイルスに感染することにより、
免疫力がトータルに賦活化して、
他のウイルスのよる感染や、
新型コロナウイルスの感染に対して、
重症化を抑制するような影響があった、
という可能性が推察されます。
要するに、
小児を媒介として、
新型コロナウイルスの感染が広がる、
という側面はあるのですが、
それはインフルエンザに見られるような強い影響ではなく、
小児との同居は、
同居者の生命予後に良い影響を与える可能性もあるので、
単純に良いとも悪いとも言い切れない、
というところなのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
糖尿病治療薬セマグルチドの肥満治療における有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年2月10日ウェブ掲載された、
週1回皮下注射する糖尿病治療薬を、
肥満治療に活用した臨床試験結果についての論文です。
肥満は糖尿病や血栓症など多くの病気の原因となり、
高度の肥満はそれだけで体動を困難として、
骨折や寝たきりの大きなリスクとなります。
その深刻は影響はアメリカでは顕著ですが、
日本においても肥満の増加は明確な影響として認められます。
肥満の基準は国際的には、
概ねBMI(キログラムの体重をメートルの身長で2回割ったもの)が、
30以上で定義されていますが、
日本の場合は25以上とされています。
BMIが25から30は国際的には過体重という扱いです。
肥満の治療は適切なダイエットや運動などの、
生活習慣の改善が基本ですが、
実際にはその有効性が臨床試験で示されている訳ではありません。
肥満者が自主的に生活改善して体重を落とし、
かつリバウンドを生じないというのは、
現実には非常に困難なことであるからです。
そのために食欲の抑制剤や脂肪吸収の阻害剤、
胃の容積を縮める手術療法などが試みられ、
一定の有効性も認められていますが、
その一方で看過出来ない副作用や有害事象、
合併症などもあって、
安全で長期的に有効性の確認された治療というのは、
存在していないのが実際です。
また体重自体は減少しても、
糖尿病のリスクを明確に低下させた、
というような結果も得られていません。
そこで注目されている治療の1つが、
糖尿病治療薬であるGLP-1アナログという、
インクレチン関連の注射薬の使用です。
もともと糖尿病の治療薬ですからその予防効果は期待され、
これまでの臨床試験においても、
体重減少効果が確認されているからです。
今回の臨床試験はアメリカにおいて、
BMIが30を超えているか、
27以上で1つ以上の肥満の合併症を持っている、
トータル1961名の一般住民を、
くじ引きで2対1に分けると、
本人にも担当医にも分からないように、
一方はGLP-1アナログのセマグルチドを、
週に1回2.4ミリグラム皮下注射し、
もう一方には偽薬を同じように注射して、
こうした臨床試験としてはかなり長い、
68週間の経過観察を行っています。
食事や運動などの生活改善の治療は、
両群で同じように施行されています。
使用されているセマグルチドは、
日本ではオゼンピックという商品名で、
糖尿病には週1回の治療薬として使用されています。
ただ、使用量は通常0.5ミリグラムで、
最大用量でも1.0ミリグラムですから、
この肥満臨床試験の使用量は、
かなり高用量である、ということは言えます。
更に今年の2月からはリベルサスという商品名で、
1日1回の内服薬としても発売され、
注目されているところです。
68週の治療終了時において、
セマグルチド使用群では平均で14.9%の体重減少が認められたのに対して、
生活改善のみの群では2.4%の減少に留まっていました。
目標である5%を超える体重減少は、
生活改善のみの群では31.5%に認められたのに対して、
セマグルチド群では86.4%に認められ、
リバウンドの気回向も認められませんでした。
有害事象はセマグルチド群で、
吐き気や下痢などの消化器症状が多く認められ、
他に気になる知見としては、
セマグルチド群で胆石症の発症が増加していました。
このように、
かなり明確な肥満改善効果の認められたセマグルチドですが、
今回の臨床試験は主に白人種を対象としていて、
アジア人種でも同じような有効性が、
保証されるものではありません。
また、臨床試験としては長期観察された本試験ですが、
肥満は慢性病であり、
より長期の使用により、
有効性の減弱や予期せぬ有害事象の増加、
リバウンドなどの問題が生じる可能性もあります。
それでも、糖尿病ではその有効性の確認されている薬剤で、
明確な肥満改善効果の確認された意義は大きく、
今後の臨床利用について、
より実際的な指針が作成されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年2月10日ウェブ掲載された、
週1回皮下注射する糖尿病治療薬を、
肥満治療に活用した臨床試験結果についての論文です。
肥満は糖尿病や血栓症など多くの病気の原因となり、
高度の肥満はそれだけで体動を困難として、
骨折や寝たきりの大きなリスクとなります。
その深刻は影響はアメリカでは顕著ですが、
日本においても肥満の増加は明確な影響として認められます。
肥満の基準は国際的には、
概ねBMI(キログラムの体重をメートルの身長で2回割ったもの)が、
30以上で定義されていますが、
日本の場合は25以上とされています。
BMIが25から30は国際的には過体重という扱いです。
肥満の治療は適切なダイエットや運動などの、
生活習慣の改善が基本ですが、
実際にはその有効性が臨床試験で示されている訳ではありません。
肥満者が自主的に生活改善して体重を落とし、
かつリバウンドを生じないというのは、
現実には非常に困難なことであるからです。
そのために食欲の抑制剤や脂肪吸収の阻害剤、
胃の容積を縮める手術療法などが試みられ、
一定の有効性も認められていますが、
その一方で看過出来ない副作用や有害事象、
合併症などもあって、
安全で長期的に有効性の確認された治療というのは、
存在していないのが実際です。
また体重自体は減少しても、
糖尿病のリスクを明確に低下させた、
というような結果も得られていません。
そこで注目されている治療の1つが、
糖尿病治療薬であるGLP-1アナログという、
インクレチン関連の注射薬の使用です。
もともと糖尿病の治療薬ですからその予防効果は期待され、
これまでの臨床試験においても、
体重減少効果が確認されているからです。
今回の臨床試験はアメリカにおいて、
BMIが30を超えているか、
27以上で1つ以上の肥満の合併症を持っている、
トータル1961名の一般住民を、
くじ引きで2対1に分けると、
本人にも担当医にも分からないように、
一方はGLP-1アナログのセマグルチドを、
週に1回2.4ミリグラム皮下注射し、
もう一方には偽薬を同じように注射して、
こうした臨床試験としてはかなり長い、
68週間の経過観察を行っています。
食事や運動などの生活改善の治療は、
両群で同じように施行されています。
使用されているセマグルチドは、
日本ではオゼンピックという商品名で、
糖尿病には週1回の治療薬として使用されています。
ただ、使用量は通常0.5ミリグラムで、
最大用量でも1.0ミリグラムですから、
この肥満臨床試験の使用量は、
かなり高用量である、ということは言えます。
更に今年の2月からはリベルサスという商品名で、
1日1回の内服薬としても発売され、
注目されているところです。
68週の治療終了時において、
セマグルチド使用群では平均で14.9%の体重減少が認められたのに対して、
生活改善のみの群では2.4%の減少に留まっていました。
目標である5%を超える体重減少は、
生活改善のみの群では31.5%に認められたのに対して、
セマグルチド群では86.4%に認められ、
リバウンドの気回向も認められませんでした。
有害事象はセマグルチド群で、
吐き気や下痢などの消化器症状が多く認められ、
他に気になる知見としては、
セマグルチド群で胆石症の発症が増加していました。
このように、
かなり明確な肥満改善効果の認められたセマグルチドですが、
今回の臨床試験は主に白人種を対象としていて、
アジア人種でも同じような有効性が、
保証されるものではありません。
また、臨床試験としては長期観察された本試験ですが、
肥満は慢性病であり、
より長期の使用により、
有効性の減弱や予期せぬ有害事象の増加、
リバウンドなどの問題が生じる可能性もあります。
それでも、糖尿病ではその有効性の確認されている薬剤で、
明確な肥満改善効果の確認された意義は大きく、
今後の臨床利用について、
より実際的な指針が作成されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。