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アストラゼネカ社新型コロナワクチン接種後の血栓性血小板減少症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アストラゼネカ社ワクチンによる誘発される血栓症の特徴.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
アストラゼネカ社などによる、
新型コロナウイルスワクチンによる、
稀な血栓症のメカニズムを検証した論文です。

アストラゼネカ社とオックスフォード大などによる、
共同開発の新型コロナウイルスワクチン(ChAdOx1)は、
今日本で正式採用されているファイザー社のワクチンとは異なる製法の、
ウイルスベクターワクチンです。

このワクチンは主にヨーロッパで広く接種が行われていますが、
そこで最近問題となっているのが、
接種後に血栓症を伴う血小板減少症の発症が、
報告されていることです。

これは頻度としては低いものなのですが、
他のワクチンでこれまであまり見られていない副反応であり、
そのメカニズムを含めて注目をされています。

偶発性のものではなく、
ほぼ間違いなくワクチンの成分か、
その作用が誘発したものと、
現時点で理解されています。

まず、上記文献にある典型的な事例をお示しします。

患者は持病のない49歳の医療従事者の女性で、
2021年2月中旬にドイツでアストラゼネカ社ワクチンの接種を受けています。
接種日を0日とした時、
1日以降で数日だるさや頭痛などの症状があるも改善。
しかし、5日より寒気と発熱、吐き気と腹部不快感が出現、
10日に病院を受診しました。
受診時に血小板が18000と著明に低下を認め、
血液の血栓症の指標であるDダイマーは、
35mg/L(正常0.5未満)とこちらは著明に上昇していました。

新型コロナウイルスのRT-PCR検査は陰性でした。

CT検査により肺血栓塞栓症と門脈塞栓症の所見を認め、
血栓性血小板減少症と診断されました。

臨床症状はこの時点では、
胃のむかつき意外には特にありませんでした。

血栓症改善目的で、
抗凝固剤のヘパリンが投与されたところ、
その後数日で急激に病状が悪化。
広範な消化管出血に腹水も伴い、
11日に脳静脈洞血栓症(剖検にて判明)で死亡となりました。

このケースは当初、
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と思われました。

この病気はヘパリンという抗凝固剤使用時に起こる、
稀な合併症とされているものです。

ヘパリンは抗凝固剤で、
通常は血栓症などの時にその改善のために使用される薬ですが、
稀にその使用により、
逆に血小板が活性化されて、
血小板が減少するとともに全身の血栓塞栓症が起こる、
という病態があることが報告されています。

これがヘパリン起因性血小板減少症です。

治療をしたら、逆効果で、
却って病状が悪化するというのですから、
臨床医にとっては非常に怖い病態です。

何故こうした現象が起こるのかと言うと、
投与されたヘパリンが血小板第4因子という、
血小板機能の活性に関わる物質に結合し、
それに対する抗体(HIT抗体)が産生されることによって、
血小板の高度の活性化が起こり、
血小板の減少と血栓塞栓症が生じると考えられています。

一種の自己抗体が作られる訳ですが、
何故そうしたことが稀に起こるのか、
と言う点については明確には分かっていません。

上記の事例の患者さんは、
経過としてはヘパリンで悪化して血栓症を来しているので、
その後半の部分だけを見ると、
間違いなくヘパリン起因性血小板減少症と思われます。

しかし、この患者さんはそれまでにヘパリンの使用歴はなく、
血小板減少や血栓症自体は、
ヘパリンの投与前から起こっている、
という点が根本的に違います。

ヘパリンがこの病状を悪化させていることは確かですが、
ヘパリン以外にこの病態を生じさせたものがある筈です。

そこで容疑者として浮かび上がるのが、
新型コロナワクチンの接種です。
接種後5日目から病状が悪化しているという経過は、
ヘパリン使用による悪化と、
ほぼ同じ期間をおいて発症しているという点では、
同様の自己抗体を介したメカニズムが関与しているように思われます。

たとえば、
ワクチンに含まれる何らかの成分が、
ヘパリンと同じように血小板第4因子と結合して、
血小板を活性化させたのでは、
という可能性です。

ドイツ国内の検証では、
トータルで11名の同様の患者がリストアップされました。
いずれも同じアストラゼネカのワクチン接種後に、
血栓性血小板減少症を来しています。

そのうちの9人は女性で年齢の中央値は36歳です。
症状はワクチン接種後5から16日の間に発症していて、
1例の脳内出血で死亡した事例を除いては、
複数の血栓塞栓症を併発しています。
脳静脈洞血栓症が9件、腹部静脈血栓症が3件、
肺血栓塞栓症が3件、その他の血栓症が4件となっていました。
11名中6名は死亡しています。

11名全てがヘパリン使用の既往はありませんでした。

11名のうち検査が可能であった9名において、
HIT抗体は陽性で、
血小板第4因子の投与により、
血小板機能が亢進し、
血小板が凝集することも確認されました。
これはいずれもヘパリン起因性血小板減少症に、
一致する所見です。
その一方でこの血小板の活性化は、
高用量のヘパリン投与により阻害されていて、
充分量のヘパリンは決して病態に対して、
悪い影響は及ぼさないという点が異なっています。

以上のように、
この稀な新型コロナワクチンの副反応は、
ヘパリン起因性血小板減少症に、
非常に似通った経過を取り、
血小板第4因子がその病態に関わっていることは、
間違いがありません。

それがワクチンのどのような成分や、
どのような機能と関連しているのかは、
まだ今の時点では推測の域を出ませんが、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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