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吸入ステロイドの新型コロナウイルス感染症初期治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ブデソニドの新型コロナに対する効果.jpg
Lancet Respiratory Medicine誌に、
2021年4月9日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
吸入ステロイドによる初期治療の有効性についての論文です。

吸入ステロイドが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
有効なのではないかという知見は、
日本では第1波の流行初期の時点からあり、
臨床的には実際に試みられて、
一般向けのニュースにさえなっていました。

それはシクレソニド(商品名オルベスコ)という、
ややマイナーな吸入ステロイドについての知見でした。

オルベスコを使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の予後が劇的に改善し、
それはオルベスコに特異的な、
抗ウイルス作用によるらしい、という情報でした。

ただ、他の吸入ステロイドでは効果がなく、
オルベスコのみが有効というのは、
あまり説得力のない見解で、
その抗ウイルス作用は国立感染症研究所で行われた、
基礎研究のデータによるという説明でしたが、
その時点でそうしたデータは公開されていなかったので
(その後確かにデータは論文化されましたが、
あまり話題にする人はいませんでした)、
その話を信用した方が良いのか悪いのか、
迷うような思いもありました。

吸入ステロイドは気道の炎症を抑え、
喘息発作などの急性増悪を予防する効果があるので、
新型コロナウイルス感染症に伴う、
急激な呼吸器症状の悪化を、
予防するのではないか、という期待があります。

その一方でステロイドは免疫を抑制しますから、
感染症や肺炎はむしろ増悪するというリスクも否定は出来ません。

その後オルベスコの有効性は、
あまり声高に言う人がいなくなり、
国立国際医療センターで少数例での臨床試験が行われて、
オルベスコを使用した方が肺炎の発症が多かった、
という結果であったので、
「オルベスコは無効」と報道され、
日本でのオルベスコによる新型コロナ治療は、
一気にしぼんでしまいました。

この顛末はどうも不可解なところが多いのです。

それほどの根拠がないのに、
まるで特効薬のように扱われ、
臨床でも積極的に使用されたのも強引で不思議ですし、
その一方でオルベスコが無効とされた臨床試験も、
とても精度の高いものとは思えず、
オルベスコを完全否定する根拠としては脆弱なのに、
それで使用が打ち切りになったのも不思議です。

それはともかく、
吸入ステロイドによる新型コロナウイルス感染症治療は、
日本では消えうせた一方で、
海外ではそれなりに注目を集めるようになってきています。

上記文献のロジックでは、
まず喘息やCOPDの患者さんで、
意外に新型コロナウイルス感染症の重症事例が少ない、
という知見が紹介され、
その原因として吸入ステロイドの存在がクローズアップされた、
という流れになっています。
そこでは国立感染症研究所の、
オルベスコが新型コロナウイルスの増殖を抑制した、
という基礎実験の論文も引用されています。

日本での当時の主張は、
オルベスコのみが有効だ、
というやや奇怪にも感じるものでしたが、
海外での論調は、
特定の薬剤ということではなく、
吸入ステロイド自体に有効性があるのでは、
という主張で、
こちらの方が理に適っているという気がします。

今回の臨床試験はイギリスにおいて、
新型コロナウイルス感染症と診断された軽症の患者さんのみを、
くじ引きで2つの群に分け、
症状出現から7日以内に、
一方は通常の治療のみを行ない、
もう一方は吸入ステロイドで、
世界的には最も評価の高いブデソニド(商品名パルミコート)を、
1日3200μg(日本の上限用量の倍)という高用量吸入して、
症状改善まで持続します。
偽薬は使用しない試験です。
146名の患者が登録され、
73名ずつがブデソニド群とコントロール群に振り分けられています。

その結果、
病状の重症化はブデソニド群の3%と、
コントロール群の15%に認められ(intension to treat解析)、
ブデソニドの吸入により、
患者8人の使用で新型コロナウイルス感染症の重症化を1人予防可能、
という有効性が認められました。
またブデソニドの使用は症状回復までの期間を1日短縮し、
有熱期間も短縮することが示されました。

このように、
今回の検証ではかなり明確に、
高用量の吸入ステロイドを病初期に使用することにより、
重症化の予防と早期治癒の促進が認められていて、
病初期に使用するような薬剤で、
これまでに明確な効果の示されたものはなかったですから、
かなり画期的な知見であると言って良いと思います。

ただ、こうした研究としては例数は少なく、
偽薬が使用されていないなど、
試験のデザインにも甘い部分があります。

今後のより厳密な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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