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応長地蔵と二十五菩薩(元箱根石仏群) [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日は元箱根の素晴らしい石仏をご紹介します。

前回の記事で「六道地蔵」をご紹介しましたが、
今回は応長地蔵と、
元箱根石仏群の白眉である、
「二十五菩薩」の刻まれた仏像岩をご紹介します。

元箱根石仏群は戦前の遺跡を分断する道路整備や、
観光スポットとしての認知度の低さから、
半ば風化し消滅の危機にあったのですが、
1988年より10年を掛けて大規模な修復が行われて、
かつての輝きと荘厳さが復活しました。
しかし、それから更に20年が経過し、
整備された遊歩道は雑草や雑木に埋もれ、
石仏群は再び埋もれ始めているように思われます。

個人的にはその感じがとても心地良くて、
誰にも邪魔されることなく、
静かに仏様に向き合うことが出来るのです。

まずこちらをご覧下さい。
応長地蔵.jpg
死者を送る儀式の、
道しるべとして安置されたと推定される、
応長地蔵と呼ばれている仏様です。
1311年の銘文があり、
鎌倉時代後期の古仏であることが確認されています。

小さいのですが美しい造形で、
古仏の魅力に満ちています。
風化も進んでおらず、
造仏当時の姿を想像することが出来ます。

手を合わせてから先に進みます。

この応長地蔵から、
今は踏み分け道のようになった遊歩道を、
そこから更にずんずんと進んで行きます。

しばらくして、
前方に複雑に折りたたまれた、
巨大な岩が現れます。

こちらをご覧下さい。
二十五菩薩1.jpg
多くの石仏が巨大な岩のあちこちに刻まれています。
いずれも鎌倉時代の後期から刻まれて、
ある程度の長い期間を経て成立したものと思われます。

全部で26体の石仏が刻まれていることが分かっています。
その多くは地蔵菩薩ですが、
違うものも幾つか含まれています。

次にこちらをご覧下さい。
二五菩薩2.jpg
遊歩道正面右側にある、
最も造形的に優れた地蔵菩薩のお姿です。
保存も良く古仏の素晴らしさに溢れています。
地蔵菩薩の石仏としては、
全国的にも屈指のものだと思います。

次にこちらをご覧下さい、
二五菩薩3.jpg
多くの地蔵菩薩が彫り込まれています。

次に岩の裏側に回ります。
こちらをご覧下さい。
二五菩薩4.jpg
ここから更に裏に回ると、
この仏像岩で最も素晴らしい仏様に出逢います。
こちらです。
二五菩薩6.jpg
足場が少し悪いのですが、もう少し近づきます。

こちらをご覧下さい。
二五菩薩5.jpg
阿弥陀如来と思われる石仏で、
最も完成度の高いものです。
素晴らしいですよね。
鎌倉時代後期よりは、
時代はもう少し下る可能性がありますが、
いずれにしても石仏屈指の名作の1つだと思います。

石仏というのは、
あまり顧みられることもなく、
風化し消滅することが宿命の儚い藝術ですが、
それがまた魅力でもあるのです。

これからも良い石仏に出逢えることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ブリテン「夏の夜の夢」(2020新国立劇場) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夢夏の夜の.jpg
新国立劇場がしばらくぶりにオペラ公演を再開しました。

前シーズンの後半はコロナ禍で全滅となり、
今回がシーズンオープニングということになります。

ただ、チケットの売り出しの際には、
外国人キャストの名前があったのですが、
渡航制限のため結果としてはオール日本人キャストとなっています。

勿論そんなことだろうな、
と思ってはいたのですが、
チケットを売っておいてから変更するというのは、
ほぼほぼ来日はない話なのですから、
ちょっと詐欺的だな、という気はします。

次回は「アルマゲドンの夢」と「こうもり」が11月に予定されていて、
今月変則的に「こうもり」から発売となり、
一応来日キャストも記載はされていますが、
多分無理ですよね。
色々契約の問題などでややこしいことになっているのかな、
と推察はされますが、
聴きに行く方としては、
何やらモヤモヤとしてしまいます。

今回は客席を半分にしてのスタートです。
ただ、同じグループは隣合わせもOKのようです。
最前列の3列はお客さんは入れていません。
ロビーの売店はプログラム販売のみで、
コーヒーも飲めません。

最初に連絡先や氏名を書かされる長い列が出来ていて、
それをしないと会場に入れないという感じです。
その後はまた熱を測定するために長蛇の列になっています。
あまりスマートな感じではなく、
結果として密になっているので、
もう少し考えた方が良いのではないでしょうか?
チケットは客が自分でもぎって半券を箱に入れるよう指示されるのですが、
日時の確認などは時間が掛かり、
結構執拗な感じで行われるので、
これも結果としては時間が掛かって列が長くなりますし、
何かもっと効率的な方法があっても良さそうです。

演目はブリテンの「夏の夜の夢」で、
生で聴くのは初めてです。
シェイクスピアの原作を適度に圧縮した上で、
ほぼ原作通りにオペラ化しています。

「夏の夜の夢」の原作の方は、
シェイクスピアの中でも日本での上演頻度は高い作品で、
原作通りの上演もありますし、
大幅に設定を入れ替えたり、
時代を入れ替えたような舞台も多く上演されています。

僕はこの作品はあまり好きではありません。
何が良いんですかね?
雰囲気かしら?
人間世界と妖精の世界を対比させて、
妖精の世界から人間がイマジネーションを得るみたいな、
藝術の本質を描いたところが良いのかも知れませんね。

ただ、妖精の悪戯による恋愛喜劇という部分が、
大したドタバタにならないで、
格別面白くないですよね。
それで劇中劇がダラダラと長いでしょ。
その部分はいつも退屈で、
途中で帰りたい誘惑にさらされます。

結構色々な上演を観ているのですが、
本家のイギリスの舞台もゲンナリの感じでしたし、
翻訳劇を分かりやすく上演することでは天才的な蜷川演出も、
この作品に関しては声と肉体を分離したり小細工をして、
あまり面白い仕上がりにはならなかった、
という印象があります。
歌舞伎もあったしミュージカルもありましたね。
小劇場版みたいなものも幾つか観ましたが、
変えている割に原作の核の部分の詰まらなさはそのままなので、
面白いと感じたことはありません。
唯一野田秀樹さんがリライトしたヴァージョンは、
パック以外にメフィストフェレスという悪の妖精を付け足して、
ラストは少女の内面世界にまで切り込んだ、
野田さんらしい才気に溢れた傑作でした。
ただ、原作を大きく変えているので、
野田さんのオリジナルとして、
評価した方が良いようにも思います。

今回の演出は名手マクヴィカーのものが元になっているので、
屋根裏部屋から妄想が広がるという、
趣味の良いものになっています。
ただ、こうした引っ越し演出の常で、
せっかく舞台機構の優れた新国立劇場での上演なのに、
動きのない地味なセットでその点は物足りなく感じます。

妖精の王オーべロンを、
カウンターテナーに歌わせるという構想が面白く、
パックは歌手が演じていますが、
歌はなく動きと台詞のみです。
キャストとしてもオーべロンの藤木大地さんが、
スケールの大きなカウンターテナーで魅力的でした。

全体に小粒な舞台でしたが、
アンサンブルが良く安定感のある点は長所で、
これからしばらくは、
新国立劇場はこうした舞台が続くことになるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヒドロキシクロロキンの新型コロナウイルス感染症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンの予防効果.jpg
JAMA Internal Medicine誌に2020年9月30日ウェブ掲載された、
ヒドロキシクロロキンの、
新型コロナウイルス感染症予防投与の有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
現状軽症の事例が多く、
家族内感染や施設内感染が、
感染拡大の大きな要因となっています。

従って、重症の事例における治療薬以外に、
濃厚接触者や施設職員や医療従事者など、
感染リスクの高い人が、
その時点で予防のために使用するような薬剤が、
強く求められています。

ヒドロキシクロロキンはマラリア治療薬ですが、
新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用があるとされ、
治療薬として使用されている薬剤の1つです。
ただ、現状厳密な臨床試験では明らかな有効性が示されておらず、
その使用には懐疑的な見解もあります。
日本では正式な承認薬とはなっていません。
しかし、その予防的投与の有効性はまだ検証されています。
6月20日のNew England…誌に掲載された、
濃厚接触者に対する感染予防の臨床試験結果では、
その予防効果は確認されませんでした。

今回の研究は今度は患者の接触する機会の多い、
病院の医療従事者への投与で、
その感染予防効果を検証したものです。

アメリカ、ペンシルバニア州の、
新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れている、
2つの病院の常勤の職員で、
新型コロナウイルス感染症の既往はなく、
感染を疑わせる症状も直近2週間見られない医療従事者を対象とし、
本人にも実施者にも分からないように、
対象を2つの群に分けると、
一方はヒドロキシクロロキンを1日600㎎、
8週間継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
観察期間中の新型コロナウイルス感染症の発症を、
定期的検査や症状の聞き取りによって比較検証しています。

当初は200名以上を登録する予定でしたが、
有効性が確認出来ないことが中途で確定したため、
132名が登録されてクジ引きされています。

結果としては観察期間中に、
ヒドロキシクロロキン使用群の6.3%が感染したのに対して、
偽薬群の6.6%が感染していて、
その差は統計的に有意ではありませんでした。
このまま登録者を増やしても、
結果が変わることはないという判断から、
途中で試験は中止されたのです。

副作用や有害事象については、
それまでの臨床試験で危惧された、
心電図のQT間隔の異常については両群で差はなく、
吐気や下痢が主な副作用として、
ヒドロキシクロロキン群で多く認められました。

このように今回の検証においては、
ヒドロキシクロロキンは健康成人で、
比較的安全に継続使用が可能であることは確認出来ましたが、
その感染予防としての有効性は、
少なくとも1日600㎎という用量では、
あまり明確ではないという結果に終わりました。

新型コロナウイルス感染症は予防薬についても、
なかなか一筋縄ではいかないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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リンゴの抗癌作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リンゴと癌リスク.jpg
Journal of Food and Drug Analysis誌に掲載されたレビューですが、
リンゴとその含有するフラボノイドが、
癌のリスクに与える影響についての内容です。

昨日のブログでもご紹介したように、
リンゴを1日50グラム程度摂ることで、
肺癌のリスクが有意に低下した、
という大規模疫学データが存在しています。
また、別個の報告で1日1個以上リンゴを食べることで、
大腸癌のリスクが50%近く低下した、
とするデータも発表されています。

仮にこれが事実であるとすると、
一体どのようなメカニズムが、
発癌を抑制しているのでしょうか?

上記文献の著者らが最近注目しているのは、
リンゴに含まれるフロレチンというフラボノイドです。

こちらをご覧下さい。
図リンゴと癌リスクの.jpg
フロレチンはリンゴの葉や皮に多く含まれるフラボノイドで、
実験的なデータにおいて、
細胞の中にブドウ糖を運ぶという働きを持つ、
グルコーストランスポーターの1つ、
GLUT2を阻害するという働きを持っています。

このタンパク質は勿論正常の細胞にも存在していますが、
癌細胞でより多く発現しているので、
その阻害作用が癌細胞の細胞死や転移の抑制に、
有効である可能性が示唆されているのです。
実験的なデータでは大腸癌の培養細胞において、
その増殖が抑制される効果が確認されています。

これまでフラボノイドの癌予防効果というと、
抗酸化作用や抗炎症作用が主に論じられていましたが、
今回の知見はそうしたやや漠然としたものではなく、
より具体的なもので、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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リンゴと慢性疾患リスク(2002年の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リンゴと慢性疾患.jpg
2002年のAmerican Journal of Clinical Nutrition誌に掲載された、
フラボノイドの健康効果についての論文です。

この古い文献をご紹介するのは、
ちょっと理由あって今リンゴの健康効果を調べていて、
そこで臨床データとして必ず取り上げられている、
有名な文献であったので、
改めて読んでみたのです。

フラボノイドというのはポリフェノールの一種で、
植物由来の色素です。
リンゴやイチゴ、ブドウなどの赤い色の元であるアントシアニンや、
大豆のイソフラボン、お茶のカテキン、
紅茶もテアフラビンなどは全てフラボノイドの仲間です。

フラボノイドは植物が環境から身を守るために、
産生している物質なので、
強い抗酸化作用や抗菌作用、抗炎症作用などを持っています。
個別のフラボノイドには、
たとえば紅茶のテアフラビンなど、
抗菌作用がより強いなどの特徴があります。
元のフラボノイドの性質以外に、
それが腸内細菌などで代謝されたり、
それを加熱するなどして、
変化した物質にまた別の生理活性がある、
というようなこともあります。

リンゴの特徴はそのフラボノイドの含有量と、
食物繊維が豊富であることで、
その両者とも抗酸化作用を持っているので、
トータルに動脈硬化性の疾患や糖尿病、慢性炎症などの、
予防効果が期待されるところです。

ただ、リンゴには多くの成分が含まれていますし、
所謂嗜好品ではなく、
食品の中にも様々な形で含まれる果物なので、
リンゴ自体の健康効果を人間で証明することは、
そうたやすいことではありません。

各種成分の有効性については、
基礎実験や動物実験においては確認されていますが、
人間でのデータは多くはなく、
精度の高いデータは極めて少ないのが実際です。

その数少ない有効性についてのデータの1つが、
今日ご紹介している論文の中にあります。

上記文献はフィンランドにおいて、
62440名の住民を28年観察したという、
長期の大規模な疫学データを二次利用して、
フラボノイドの接種量と病気のリスクや生命予後との関連を、
比較検証しているものです。
この研究については10054名が解析対象となっています。

メインのデータはフラボノイドの種類と、
疾患リスクとの関連をみたものですが、
それに付随してリンゴの接種量と疾患リスクとの関連が数値化されています。
それがこちらです。
リンゴと疾患リスクの図.jpg
リンゴを全く食べない場合と比較して、
1日47グラムを超えるリンゴを食べている人は、
肺癌、気管支喘息、糖尿病、脳塞栓症、
総死亡、虚血性心疾患による死亡の、
それぞれのリスクが有意に低下していました。
その一方で関節リウマチに関しては、
そのリスクは増加の傾向を示していました。

海外のリンゴは日本より小さく、
100から150グラムくらいがスタンダードなので、
このデータは1日3分の1から2分の1の小さなリンゴを食べる、
というくらいに一致しています。

他にも同種のデータはありますが、
僕の確認した範囲ではこのデータが最も明確に、
有効性を示しているもので、
色々なバイアスがありそうなので、
単純にリンゴの効果とはとても言えませんが、
矢張り1日1個のリンゴ(ただし小さなもの)を食べるという習慣は、
色々な意味で健康に良いと、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プロトンポンプ阻害剤と2型糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
プロトンポンプ阻害剤と糖尿病リスク.jpg
Gut誌に2020年9月28日ウェブ掲載された、
プロトンポンプ阻害剤の継続使用と2型糖尿病のリスクとの、
関連を検証した論文です。

プロトンポンプ阻害剤というのは、
強力に胃酸を抑制する作用を持つ胃薬で、
オメプラゾール、ランソプラゾール、
ラベプラゾールなどがその代表です。

プロトンポンプ阻害剤は世界中で、
最も多く使用されている薬の1つで、
胃潰瘍や胃食道逆流症などの治療薬として、
その有効性は確立しています。

プロトンポンプ阻害剤を短期的に使用することは、
健康上に大きな問題はないと考えられています。

ただ、問題なのは胃食道逆流症や慢性の機能性胃腸症などにおいては、
数年を超えるような長期使用が稀ではないということです。

胃酸は食物の消化を助け、
胃を滅菌して感染を予防するような役割があります。
胃の酸性が保たれていることは、
腸内細菌叢の健康な生育にも必要です。

強力に胃酸を抑制する状態が持続することが、
食物の消化や吸収、感染症の予防、
腸内細菌叢のバランスの維持などにおいて、
悪影響を及ぼす可能性が高いことは、
容易に想像の付くところです。

実際にこれまでの臨床データや疫学データにおいて、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用と、
骨折リスクや感染症リスクの増加、
慢性腎臓病や一部の癌の増加などが報告されています。

プロトンポンプ阻害剤の健康影響として、
最近議論となっているのが糖尿病(2型糖尿病)との関連です。

2型糖尿病は遺伝素因と環境要因が合わさって発症すると考えられ、
その環境要因の1つとして考えられているのが、
腸内細菌叢のバランスの変化です。
腸内細菌叢の変化により脂質や糖質の吸収が増加し、
それが肥満の原因になることが近年注目されているのです。

前述のように、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用は腸内細菌叢を変化させ、
それが糖尿病リスクの増加に繋がる可能性が想定されるのです。

ただ、これまでの疫学データや臨床データは、
プロトンポンプ阻害剤の使用者で、
糖尿病が多く発症した、というものがある一方で、
明確な関連がない、というものもあって一定していません。

今回の研究はアメリカで、
有名な医療従事者を対象とした、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
プロトンポンプ阻害剤の継続使用と、
経過観察中の2型糖尿病の発症との関連を比較検証しています。

204689名を長期間観察したところ、
10105名の2型糖尿病が新規発症し、
未使用と比較したプロトンポンプ阻害剤の継続使用は、
2型糖尿病の新規発症リスクを、
24%(95%CI: 1.17から1.31)有意に増加させていました。
この糖尿病リスクの増加は、
プロトンポンプ阻害剤の使用期間と関連があり、
2年未満の使用年数では有意な増加がない一方で、
2年を超える場合には、
糖尿病発症リスクは26%(95%CI: 1.18から1.35)と、
リスク増加はより明確になっていました。

このように、特に2年を超えるプロトンポンプ阻害剤の使用は、
2型糖尿病の発症リスクに結び付く可能性があり、
今後そのメカニズムの検証を含めて、
更なる検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスとスタチンのメタ解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナとスタチンのメタ解析.jpg
American Journal of Cardiology誌に2020年7月28日掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対するスタチンの影響を解析した、
メタ解析の論文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、
その治療薬は世界中で研究が進められていますが、
未だ特効薬と言えるような薬剤の開発には至っていません。

完全な新薬ということではなく、
従来から使用されている薬剤が、
新型コロナウイルスに有効なのではないかという推測の元に、
多くの従来からある薬剤の検証も行われています。

その注目されている薬剤の1つがスタチンです。

スタチンというのは、
コレステロール合成酵素の阻害剤で、
最もポピュラーはコレステロール降下剤です。
ロスバスタチン、アトルバスタチンなど多くの種類があり、
コレステロールが高くで薬を飲んでいる人の多くが、
このスタチンを使用しています。

このスタチンにはコレステロールを下げる働きだけではなく、
過剰な炎症を抑えて、
動脈硬化の進行を抑制するような、
抗炎症作用があることも知られています。

たとえば自然免疫の重要な経路を伝達する。
MYD88というシグナル伝達系をスタチンは調整し、
過剰な炎症を抑制するという知見があります。
このMYD88経路は、
新型コロナウイルス感染症の重症化においても、
重要な働きをしているという報告があり、
このことからはスタチンの使用が、
新型コロナウイルス感染症の重症化を、
抑制する効果があることを期待させます。

また新型コロナウイルス感染症の肺病変の重症化には、
肺内のACE2受容体が減少することが、
関連していると想定されていますが、
実験的にはスタチンには、
ACE2受容体を増加させるような効果が確認されています。

これもスタチンが新型コロナウイルス感染症の重症化を、
抑止する可能性を期待させる知見です。

一方でスタチンは組織のLDL受容体を増加させるので、
それが新型コロナウイルスの細胞への感染を、
促進するのでは、という危惧もあります。
前述とは別個の炎症シグナルを活性化させることにより、
むしろサイトカインの過剰な産生を招き、
感染の重症化に繋がるのでは、
という怖れを指摘する研究者もいます。

このように、
スタチンが新型コロナウイルス感染症にどのような影響を与えるのか、
という点について、
理論的な考察は必ずしも一致しているとは言えないのです。

それでは臨床データはどうなのでしょうか?

今回のメタ解析ではこれまでの臨床テータから、
新型コロナウイルス感染症の重症化や死亡リスクと、
スタチンの使用の有無との関連を検証した論文を、
まとめて解析してその結果を検証しています。

4つの臨床研究に含まれる、
8990名の新型コロナウイルス感染症の患者のデータを、
まとめて解析した結果として、
スタチンの使用は、
新型コロナウイルス感染症の死亡を含む重症化のリスクを、
30%(95%CI: 0.53から0.94)有意に低下させていました。

これは患者を登録して経過をみたような試験ではないので、
その治療効果が確認された訳ではありませんが、
スタチンの使用が新型コロナウイルス感染症の予後を、
改善する可能性があるという知見は興味深く、
今後のより厳密な知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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元箱根石仏 六道地蔵 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

最近最も感動したのは元箱根の石仏群に出逢ったことです。

石仏マニアというような方が、
全国にどれだけいらっしゃるのか分かりませんが、
そうした方には「何を今更言っているんだ!」
と言われるかも知れません。

僕はこれまでスルーしていましたが、
石仏の古仏としては名所中の名所の1つであるからです。

箱根の国道1号沿いにひっそりと佇んでいるのが、
国内屈指の石仏群である元箱根石仏群です。

まずこちらをご覧ください。
元箱根石仏4.jpg
元箱根石仏群は1988年から1998年に掛けて、
大規模な修復と整備が行われました。
それ以前は、風化し、
ほぼ土に埋もれかけていたのです。
その時に同時に整備されたのがこの「石仏群と歴史館」の建物です。

それから20年余が経過し、
歴史館は不気味な納屋のようになり、
館内にはお化け屋敷めいた気配が漂っています。
整備された遊歩道も、
次第に草木に埋もれ始めています。

その風化の具合が、
実に実にいいのです。
石仏というものはこうでなくてはいけません。

この歴史館から国道から精進池という池のほとりに降りると、
今では踏み分け道のようにしか見えない、
遊歩道が叢の中を伸びています。
そこを少し歩くと、
トンネルが現れ、
そこを潜って国道の反対側に出ると、
元箱根石仏群の最初のクライマックスが待っています。

こちらをご覧ください。
元箱根石仏1.jpg
本当に六道の辻みたいなんですよね。
不気味な石塔があって、
石が積まれていて、
その向こうに巨大な転石を覆う、
覆い屋が建っています。

修復前には石仏が摩崖仏として剥き出しになっていたのですが、
そこに立派な覆い屋が造られたのです。

その開かれた扉の向こうに、
俗称六道地蔵がおられます。
こちらです。
元箱根石仏2.jpg
座像ですが高さは3.5メートルに及びます。
銘文があって、
1300年鎌倉時代の後期に造られてことが分かっています。

この堂々たるお姿、この幽玄な雰囲気、
素晴らしいですよね。
拝観した瞬間に鳥肌が立ちました。

石仏はね、
鎌倉時代以前のものはとても希少で、
貴重な存在であるのです。
戦国時代以降には石仏が大量生産されたのですが、
それ以降のものとそれ以前のものとは、
その魂のグレードが違います。

そして、これだけ大きなものは、
それも古仏では非常に希少です。

もう少し近づきましょう。
元箱根石仏3.jpg
お顔の感じが他と雰囲気が違いますね。
おそらく何処かで補修が加わったように思われます。
残念ではあるのですが、
実際に拝観すると、
それほどの違和感はありません。
古仏の素晴らしさに満ちているのです。

この侘び寂びの雰囲気、
打ち捨てられた感じ、
そして風化直前の美の極致。
これぞ石仏という素晴らしさです。

元箱根の石仏はまだまだありますが、
今日はこのくらいで失礼します。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「浅田家!」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
浅田家.jpg
実在の写真家をモデルにした、
大好きな中野量太監督の新作がロードショー公開されました。
あまりの豪華キャストに、
ちょっと心配しながら初日の映画館に足を運びました。

これは結構お勧めです。

素材にこの豪華キャストはちょっと合わないなあ、
この内容ならもっと地味なキャストの方が、
作品の真価は伝わるのではないかしら、
というようには思うのですが、
それは色々大人の事情があるのでしょうし、
これはこれで悪くないと思います。

中野監督と言うと、
処女長編の「湯を沸かすほどの熱い愛」が、
大傑作でカルトという稀有な映画で、
これはもう一目ぼれをしたという感じでした。
第二作の「長いお別れ」は期待したのですが、
認知症というあまり成功例のない、
難しい素材を扱い、
原作もので、
その原作というのがかなり癖のある作品だったので、
はっきり言えば失敗作に終わりました。
ラストがヘンテコで話題になりましたが、
あれは原作通りなんですよね。
お気の毒という感じもしました。

そして三作目の今回は、
「実話」にチャレンジしています。

それも、まだ本人も家族も生きていて、
色々と配慮しないといけないという、
今回もかなり難しい素材です。

ただ、映画を観るとなるほど、という感じがします。

この映画はね、
震災のような災害に対して、
市井の藝術家に何が出来るのか、
という難しいテーマを扱っています。
それを「家族写真」を媒介とした家族の復活、
というユニークな視点でやり遂げようとしているのですね。
この発想を劇映画として成立させるには、
純粋なフィクションでは、
ただの「美談」に終わってしまうので、
成功は難しいのです。
それで、1人の写真家の経験を軸にすることで、
実話とフィクションとのスレスレの部分を狙っているのですね。

まあ、基本的にはフィクションの作りなんですね。
「事実を元にしたお話し(フィクション)」なのです。
ただ、震災という大きな事実と向かい合うために、
そこに「実在の写真家の物語」を介在させることによって、
観客の拒否感を軽減して、
作者の意図を受け入れやすくしているんですね。

この辺り、相当真剣に考えたのだろなあ、
と感じます。

主人公の写真家は、
まず自分の家族の写真をコスプレで撮って、
ある意味自分の家族を出汁にして成功するんですね。
そこにはある意味利己的な感情しかないのですが、
そこから他の家族の写真を撮るようになり、
家族の幅が広がってゆくのですね。
そこに震災が起こって、
今度は崩壊した家族を、
写真で再生するという方向に進むのです。

ある意味とても単純な人物として主人公を描いていて、
最初は自分の家族しか考えていなかったのに、
それが次第に普遍的な家族を考える、
という人物に深化してゆくのです。
主人公が単純である分、
観客は自然にその心理に入り込み、
追体験するようにして共に成長してゆくことになるのです。

なかなか考え抜かれていると感心しました。

これ、主人公の描き方に、
ちょっと失礼な部分があると思うのですね。
それに対するお詫びが、
多分この豪華キャストで、
二宮和也さんに演じてもらえば、
文句はないでしょ、ということにしているのです。

これが多分、
この無意味に豪華なキャストの意味なのだと、
個人的には思います。

監督自身による台本は今回も素晴らしいと思います。
特に前半の父親の年賀状の写真が、
後半の海辺の家族再生につながるあたり、
とてもとてもクレヴァ―だと思います。

絵作りはちょっと黒澤明監督みたいでしたね。
それも「赤ひげ」以降のやや説明過多の黒澤映画、
「どですかでん」みたいな感じです。
後半の少女と主人公の交流とか、
もろ「赤ひげ」でしょ。
ヒューマニズムの表現の仕方が似ているんですね。
それと凝りに凝った構図。
シネスコの画面を縦横無尽に、
幾何学的に使っているでしょ。
防波堤を黒木華さんが決然と歩くところとか、
素敵ですよね。ゾクゾクします。

前半の白眉が白血病の少年の虹の家族写真で、
とても素敵で感銘を受けますよね。
その後震災になるのですが、
富山で自分の展覧会の会場の下見に来ていて、
白い背景の中で微かにだけ揺れを感じるとか、
そのセンスに痺れます。
後半が説明過多になるのは、
ちょっと評価の分かれる部分で、
多分監督としては100人いれば100人に分かる、
という映画を目指したのだと思うのですね。
ただ、海辺の写真での死んだ父親のカットは、
さすがに余計だとは感じました。
ナレーションもくどいですね。

いずれにしても堂々たる力作であることは確かで、
素直に感動できる素敵な映画なので、
誰にでも素直にお勧め出来ます。

是非映画館に足をお運びください。

最後に1つだけ…
週刊新潮の映画評を見たら、
「S」という方が、
「後半が、美談の押し売りで残念」と書かれていて、
勿論個々の人によって感想はそれぞれと思いますが、
とても酷いな、と感じました。

これを読んだら、中野監督、
切ないのじゃないかな。

勿論何故こうした書き方をしたのかは、
何となくは分かるのです。
前述の海辺のカットなど、
説明がちょっと過剰なので、
醒めてしまうようなところが少しあるのですね。
でもね、ここまで震災と藝術との関係に、
真摯にかつ真剣に取り組んだ力作に対して、
そんな小馬鹿にしたような書き方はないのじゃないかな。
この「S」という人の心の中の非人間性のようなものに、
慄然とするような気分になったのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の罹りやすさと年齢(メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの子供と大人の感染しやすさ.jpg
JAMA Pediatrics誌に2020年9月25日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染しやすさと、
年齢との関連を検証したメタ解析の論文です。

この問題は以前から何度も議論されながら、
未だ解決が見られていないものです。

新型コロナウイルス感染症が小児の感染事例が少なく、
あっても殆どが軽症であるというのは、
この病気の感染拡大の初期から、
広く知られている知見です。

ただ、その後家族内感染の事例などでは、
軽症ではあっても子供の感染は意外に多く、
遺伝子検査からの推定では、
小児のウイルス量は大人よりむしろ多い、
という報告などもあって、
小児の感染事例で軽症の多いこと自体は事実としても、
小児がこの病気に罹りにくいのかどうか、
という点と、
周辺に感染する力が大人と比べて弱いのかどうか、
という点については、
明確な結論が得られていません。

今回の研究は、
これまでの臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析です。

これまでの32の臨床研究の、
20歳未満の41640名と、
20歳以上の268945名の感染者を比較検証したところ、
20歳以上と比較して20歳未満の感染リスクは、
44%(95%CI:0.37から0.85)有意に低下していました。
これを10から14歳未満の小児期と、
10から12歳以上の思春期に分けて解析すると、
小児の感染リスクは大人と比較して、
その感染リスクは48%(95%CI: 0.33から0.82)、
より低い一方で、
思春期のみの解析では有意な低下は認められませんでした。

そして、
小児の感染者から大人への感染力が、
どの程度であるのか、という点については、
データはばらつきが大きく、
現時点では明確な傾向が認められませんでした。

このように、
現状10から14歳未満の小児は、
新型コロナウイルス感染症に、
大人より罹り難いことは間違いがなさそうですが、
決して罹らないということではありません。
そして、小児の感染者から周辺への感染リスクについては、
現状は明確なことが言えるようなデータの蓄積はないようです。

この問題はまだまだ検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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