「星の子」(2020年映画版) [映画]
こんにちは。
北品川クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2017年に刊行された今村夏子さんの同題の小説が、
大森立嗣監督の脚本、演出、
芦田愛菜さんの主演で映画化されました。
本年10月9日の公開ですが、
「鬼滅の刃」と重なるという不運もあり、
多くの映画館では10月29日には終了となるようです。
僕の行った時も客席は閑散としていました。
ただ、打ち切りは「鬼滅」のせいではないですね。
「ミッドナイトスワン」は頑張ってますもんね。
正直僕も観て、これは大失敗、と感じました。
原作は評判になっただけあって、
なかなかいいんですよね。
西加奈子さんにも似たスタイル。
新興宗教にのめり込んでどんどん貧しくなってゆく家族を、
その娘の視点から描くという発想が冴えていますね。
周囲の世界はその娘を被害者と考えていて、
家族から娘を引き離そうとするのですが、
本人は自分のことを不幸とは感じていないし、
両親のことも好きなんですね。
新興宗教が登場して、
それを善悪どちらとして位置づけてもいないので、
読者によって読み取り方が異なるのですが、
作者の言葉などを読むと、
明確に「虐待」の話だと話しているので、
「何故明らかに虐待されている子供が、
自分の意思で家族にとどまっているのか」
という問題に切り込んだ作品なのです。
映画は原作を比較的忠実に映像化しています。
ただ、意図的なのかどうか、
原作にはあって映画で曖昧にされている部分が幾つかあって、
それが結構大事な設定なので、
お話が分かりにくくなっています。
主人公の少女は、
小学生の時に「ターミネーター2」を見て、
ジョン・コナー役の俳優が好きになるんですね。
でも、映画ではエドワード・ファーロングという名前は出て来るのに、
映画の名前は出てこないので、
分かりにくくなってしまっています。
多分権利の関係で名前が出せなかったのだと思いますが、
それじゃ、意図が伝わらないですよね。
それから、主人公家族の一番の知り合いが、
教団幹部の落合さんで、
その息子がひきこもりのひろみち君なのですが、
映画では落合さんもひろみち君も、
設定自体はあって、ちらりと出て来るのですが、
原作のようには物語に絡みません。
これね、落合さんは裕福なままなのに、
主人公家族は信仰のためにどんどん貧乏になってゆくでしょ。
物語の根幹の部分なのに、
それをおざなりにしたらまずいですよね。
何らか理由があって省略したのだと思いますが、
それなら設定を変えるべきだったのじゃないかしら。
とても疑問です。
主人公の友達の信者の子がいて、
集会にボーイフレンドを連れて来るんですよね。
そのボーイフレンドが選ばれて発言をするところがあって、
小説にはそれが書かれているのですが、
映画ではカットされているんですね。
これも撮影はされている感じなので、
何故なのか分かりません。
大事な場面だと思うのですけどね。
ラストの処理も微妙ですね。
雪山で主人公は両親に囲まれて横になって、
それでいつまでも空を見ているでしょ。
主人公の少女は「もう帰りたい」と言うのですが、
両親は離さないのですね。
客観的に見て「心中」にしか見えないのですね。
そこまでは言い過ぎでも、
「死ぬまで少女はこの家族から離れることが出来ない」
という意味なんですね。
怖いでしょ。
でもその怖さが、映画では全くなかったですよね。
これはもう、明らかな失敗だと思います。
補足するとその前に、
両親と主人公がしばらく離ればなれになるんですね。
これは明らかに意図的なもので、
その間に教団から両親は何かを言われて、
ある決断をして娘を迎えに来たんですね。
それが何なのかは明かされないまま終わるのですが、
この家族はおそらく、
翌日も同じ状態では存在していないのです。
この映画の一番の失敗は、
申し訳ないのですが主役を芦田愛菜さんにやってもらったことですよね。
不幸な少女が不幸に見えないでしょ。
これはもう演技の上手い下手でカヴァー出来る問題ではなく、
芦田愛菜さんのまとったイメージの問題ですよね。
「利発で環境にも恵まれた聡明な少女」
というイメージを、
ある意味意図的にメディアで拡散しているのですから、
それで「虐待されていても家族を離れられない少女」を演じても、
とてもとても実感がわかないですね。
大森監督の演出がまたね、
個人的にはあまり好きではないのですね。
古い日本映画のあまり出来の良くないリメイク、
というような感じでしょ。
古い映画が悪いということではないのですが、
今の映画なのですから、
もっと今ならでは、という表現が欲しいですよね。
そんな訳で失敗作だと思うのですが、
もう上演も長くはありませんし、
ご興味のある方は映画館に足をお運び下さい。
映画を観てちんぷんかんぷんと思われた方は、
原作を是非お読み下さい。
ラスト以外はとても分かり易いです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2017年に刊行された今村夏子さんの同題の小説が、
大森立嗣監督の脚本、演出、
芦田愛菜さんの主演で映画化されました。
本年10月9日の公開ですが、
「鬼滅の刃」と重なるという不運もあり、
多くの映画館では10月29日には終了となるようです。
僕の行った時も客席は閑散としていました。
ただ、打ち切りは「鬼滅」のせいではないですね。
「ミッドナイトスワン」は頑張ってますもんね。
正直僕も観て、これは大失敗、と感じました。
原作は評判になっただけあって、
なかなかいいんですよね。
西加奈子さんにも似たスタイル。
新興宗教にのめり込んでどんどん貧しくなってゆく家族を、
その娘の視点から描くという発想が冴えていますね。
周囲の世界はその娘を被害者と考えていて、
家族から娘を引き離そうとするのですが、
本人は自分のことを不幸とは感じていないし、
両親のことも好きなんですね。
新興宗教が登場して、
それを善悪どちらとして位置づけてもいないので、
読者によって読み取り方が異なるのですが、
作者の言葉などを読むと、
明確に「虐待」の話だと話しているので、
「何故明らかに虐待されている子供が、
自分の意思で家族にとどまっているのか」
という問題に切り込んだ作品なのです。
映画は原作を比較的忠実に映像化しています。
ただ、意図的なのかどうか、
原作にはあって映画で曖昧にされている部分が幾つかあって、
それが結構大事な設定なので、
お話が分かりにくくなっています。
主人公の少女は、
小学生の時に「ターミネーター2」を見て、
ジョン・コナー役の俳優が好きになるんですね。
でも、映画ではエドワード・ファーロングという名前は出て来るのに、
映画の名前は出てこないので、
分かりにくくなってしまっています。
多分権利の関係で名前が出せなかったのだと思いますが、
それじゃ、意図が伝わらないですよね。
それから、主人公家族の一番の知り合いが、
教団幹部の落合さんで、
その息子がひきこもりのひろみち君なのですが、
映画では落合さんもひろみち君も、
設定自体はあって、ちらりと出て来るのですが、
原作のようには物語に絡みません。
これね、落合さんは裕福なままなのに、
主人公家族は信仰のためにどんどん貧乏になってゆくでしょ。
物語の根幹の部分なのに、
それをおざなりにしたらまずいですよね。
何らか理由があって省略したのだと思いますが、
それなら設定を変えるべきだったのじゃないかしら。
とても疑問です。
主人公の友達の信者の子がいて、
集会にボーイフレンドを連れて来るんですよね。
そのボーイフレンドが選ばれて発言をするところがあって、
小説にはそれが書かれているのですが、
映画ではカットされているんですね。
これも撮影はされている感じなので、
何故なのか分かりません。
大事な場面だと思うのですけどね。
ラストの処理も微妙ですね。
雪山で主人公は両親に囲まれて横になって、
それでいつまでも空を見ているでしょ。
主人公の少女は「もう帰りたい」と言うのですが、
両親は離さないのですね。
客観的に見て「心中」にしか見えないのですね。
そこまでは言い過ぎでも、
「死ぬまで少女はこの家族から離れることが出来ない」
という意味なんですね。
怖いでしょ。
でもその怖さが、映画では全くなかったですよね。
これはもう、明らかな失敗だと思います。
補足するとその前に、
両親と主人公がしばらく離ればなれになるんですね。
これは明らかに意図的なもので、
その間に教団から両親は何かを言われて、
ある決断をして娘を迎えに来たんですね。
それが何なのかは明かされないまま終わるのですが、
この家族はおそらく、
翌日も同じ状態では存在していないのです。
この映画の一番の失敗は、
申し訳ないのですが主役を芦田愛菜さんにやってもらったことですよね。
不幸な少女が不幸に見えないでしょ。
これはもう演技の上手い下手でカヴァー出来る問題ではなく、
芦田愛菜さんのまとったイメージの問題ですよね。
「利発で環境にも恵まれた聡明な少女」
というイメージを、
ある意味意図的にメディアで拡散しているのですから、
それで「虐待されていても家族を離れられない少女」を演じても、
とてもとても実感がわかないですね。
大森監督の演出がまたね、
個人的にはあまり好きではないのですね。
古い日本映画のあまり出来の良くないリメイク、
というような感じでしょ。
古い映画が悪いということではないのですが、
今の映画なのですから、
もっと今ならでは、という表現が欲しいですよね。
そんな訳で失敗作だと思うのですが、
もう上演も長くはありませんし、
ご興味のある方は映画館に足をお運び下さい。
映画を観てちんぷんかんぷんと思われた方は、
原作を是非お読み下さい。
ラスト以外はとても分かり易いです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。