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風邪のひきやすさと免疫、喘息との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
かぜのひきやすさと免疫.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2020年10日8日掲載された、
風邪の引きやすさと免疫との関係についての論文です。

風邪というのは鼻水や咳、発熱など、
一定の症状が1週間程度持続してから改善する、
複数のウイルス感染症に付けられた名称で、
その殆どは軽症で終わりますが、
乳幼児や高齢者、基礎疾患のある人などでは、
重症化したり、細菌感染症を併発するなどして、
命に関わることもあります。

それから、風邪をひきやすい人というのがあります。

同じ風邪の流行期に、
ある人は何度も何度も風邪をひくのに、
別の人は全く風邪をひかない、
ということがあります。
勿論手洗い、うがいなどの感染対策の差、
という部分もありそうですが、
何の対策もしていなそうな、
不健康な生活を送っているような人が、
意外に風邪をひかない、
というのは、
皆さんも経験することだと思います。

これは一体何故なのでしょうか?

おそらくは体質ではないかと考えられていますが、
それほど明確なことが分かっている、という訳ではありません。

風邪が悪化し易い病気の1つが気管支喘息です。

気管支喘息は気道のアレルギー性の炎症から、
特徴的な喘息発作を起こす慢性疾患で、
風邪をひくと発作が悪化して、
急性増悪と呼ばれる状態になりやすいことが知られています。
呼吸困難を起こし、救急治療が必要となることも稀ではありません。

気管支喘息の患者は風邪が重症化しやすいばかりではなく、
風邪自体もひきやすいのではないか、
という考え方があります。

仮にこれが事実であるとすると、
風邪のひきやすさと、
風邪の重症化のしやすさとの間には、
どうやら同じような体質的な異常が、
隠れているのではないか、
というような気もします。

それは一体何なのでしょうか?

風邪ウイルスに対する身体の防御は、
自然免疫という仕組みが大きく関連しています。
Toll様受容体(TLR)というのは自然免疫の賦活に関わる、
ウイルスの遺伝子などと結合するタンパク質で、
形質細胞様樹状細胞という特殊な免疫細胞に発現している、
このTLRが、
風邪ウイルスの遺伝子と結合すると、
そこから1型インターフェロンというサイトカインが分泌され、
それがウイルスの駆除に大きな役割を果たしているのです。

従って、何等かの原因により、
この仕組みが上手く働かないと、
風邪ウイルスを効率的に駆除することが出来ず、
それが風邪のひきやすさや重症化し易さに、
影響している可能性が否定出来ません。

TLR7とTRL8は、
共にウイルスのRNAに結合する受容体ですが、
性染色体であるX染色体上にあって、
この遺伝子の変異が風邪のひきやすさなどに関連しているとすると、
性差があってもおかしくはありません。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
150名の喘息患者と、151名の喘息のないコントロール群に、
遺伝子のパターンなどの検査を行ない、
経過観察中に風邪症状の頻度なども報告させて、
風邪症状の頻度と遺伝子変異や喘息などとの関連を検証しています。

その結果、
喘息患者は喘息のないコントロールと比較して、
風邪症状の頻度は有意に多く、
TRL7の遺伝子発現量も低下していました。

喘息以外で風邪症状の頻度と関連のある因子は、
男女で差が認められました。
女性では、
血液の好中球という白血球の数や年齢が若いことが、
風邪症状の多さと関連していましたが、
小児との接触の有無とは関連していませんでした。
一方で男性では、
TRL7の遺伝子発現量が低いことと、
形質細胞様樹状細胞に関連する遺伝子発現量が低いことが、
それぞれ独立して風邪症状の頻度の増加と関連していました。
気管支喘息のコントロールが不良であることと、
TRL8の遺伝子発現量の低さ、
また肥満との間には関連が認められました。

知見は複雑であまりすっきりとした結論に至っていませんが、
喘息では風邪に罹る頻度が多く、
それは自然免疫に関わる免疫の機能低下と、
関連している可能性が示唆されました。
男女で風邪の罹り易さに関わる因子は異なっていて、
これが遺伝子レベルの差によるものなのか、
それとも環境要因によるものなのかは、
今後より厳密な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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