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プロトンポンプ阻害剤と2型糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
プロトンポンプ阻害剤と糖尿病リスク.jpg
Gut誌に2020年9月28日ウェブ掲載された、
プロトンポンプ阻害剤の継続使用と2型糖尿病のリスクとの、
関連を検証した論文です。

プロトンポンプ阻害剤というのは、
強力に胃酸を抑制する作用を持つ胃薬で、
オメプラゾール、ランソプラゾール、
ラベプラゾールなどがその代表です。

プロトンポンプ阻害剤は世界中で、
最も多く使用されている薬の1つで、
胃潰瘍や胃食道逆流症などの治療薬として、
その有効性は確立しています。

プロトンポンプ阻害剤を短期的に使用することは、
健康上に大きな問題はないと考えられています。

ただ、問題なのは胃食道逆流症や慢性の機能性胃腸症などにおいては、
数年を超えるような長期使用が稀ではないということです。

胃酸は食物の消化を助け、
胃を滅菌して感染を予防するような役割があります。
胃の酸性が保たれていることは、
腸内細菌叢の健康な生育にも必要です。

強力に胃酸を抑制する状態が持続することが、
食物の消化や吸収、感染症の予防、
腸内細菌叢のバランスの維持などにおいて、
悪影響を及ぼす可能性が高いことは、
容易に想像の付くところです。

実際にこれまでの臨床データや疫学データにおいて、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用と、
骨折リスクや感染症リスクの増加、
慢性腎臓病や一部の癌の増加などが報告されています。

プロトンポンプ阻害剤の健康影響として、
最近議論となっているのが糖尿病(2型糖尿病)との関連です。

2型糖尿病は遺伝素因と環境要因が合わさって発症すると考えられ、
その環境要因の1つとして考えられているのが、
腸内細菌叢のバランスの変化です。
腸内細菌叢の変化により脂質や糖質の吸収が増加し、
それが肥満の原因になることが近年注目されているのです。

前述のように、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用は腸内細菌叢を変化させ、
それが糖尿病リスクの増加に繋がる可能性が想定されるのです。

ただ、これまでの疫学データや臨床データは、
プロトンポンプ阻害剤の使用者で、
糖尿病が多く発症した、というものがある一方で、
明確な関連がない、というものもあって一定していません。

今回の研究はアメリカで、
有名な医療従事者を対象とした、
大規模な疫学研究のデータを活用して、
プロトンポンプ阻害剤の継続使用と、
経過観察中の2型糖尿病の発症との関連を比較検証しています。

204689名を長期間観察したところ、
10105名の2型糖尿病が新規発症し、
未使用と比較したプロトンポンプ阻害剤の継続使用は、
2型糖尿病の新規発症リスクを、
24%(95%CI: 1.17から1.31)有意に増加させていました。
この糖尿病リスクの増加は、
プロトンポンプ阻害剤の使用期間と関連があり、
2年未満の使用年数では有意な増加がない一方で、
2年を超える場合には、
糖尿病発症リスクは26%(95%CI: 1.18から1.35)と、
リスク増加はより明確になっていました。

このように、特に2年を超えるプロトンポンプ阻害剤の使用は、
2型糖尿病の発症リスクに結び付く可能性があり、
今後そのメカニズムの検証を含めて、
更なる検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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