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限局性前立腺癌治療後の長期予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
15年 前立腺癌.jpg
British Medical Journal誌に2020年掲載された、
限局性前立腺癌の治療後の長期予後を検証した論文です。

前立腺癌は高齢男性に多い癌ですが、
その予後は概ね良好で、
特に転移などのない限局性の前立腺癌では、
その5年生存率はほぼ100%と推計されています。
つまりその生命予後はその病気のない人と、
ほぼ変わらないと言えます。

ただ、中には進行する事例や転移する事例もあることは事実です。

従って、
癌が見つかっても、
進行しないかどうかの経過観察のみを行なって、
すぐに治療をしないというのも有効な選択肢の1つです。

治療には前立腺の全摘術やホルモン療法、
外照射と小線源治療を含む放射線治療などがあり、
そのいずれもが有効性を確認されています。
しかし、いずれも頻度は少ないながら合併症はあり、
治療をするかしないかの選択は、
その患者さんの長期のQOLに対する配慮が必要です。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
限局性の前立腺癌を診断された、
その時点で70歳未満の1642名を登録し、
一般住民786名を対照群として設定して、
15年を超える長期の経過観察を行なっています。

その結果、登録後15年の時点で勃起不全の頻度は、
対照群では42.7%に対して、
前立腺切除術施行群では83.0%、
経過観察群でも62.3%と、
限局性前立腺癌では有意に増加していました。
前立腺切除術後では、
15年が経過しても神経温存でも18.2%、
そうでない場合には27.0%排尿の異常が認められました。
他の治療と比較して、
放射線の外照射や線量の多い小線源療法、
ホルモン療法施行者では、
下痢や腹痛、下血などの、
消化管の不調が15年後にも多く認められました。

このように、
どの治療を選択しても、
治療に伴う合併症や後遺症は、
治療後15年を経過しても少なからず認められているので、
この病気の生命予後が極めて良いことを考えると、
限局性前立腺癌の治療を行なうに当たっては、
その長期のリスクについて、
今後はより明確に患者さんに説明される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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中性脂肪高値に伴う急性膵炎とその予防 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トリグリセリドと膵炎.jpg
BMJ誌に2020年10月12日ウェブ掲載された、
中性脂肪の高値に伴う健康障害と、
その治療についてのレビューです。

脂質異常症のうち、
コレステロールの高値が動脈硬化に係わることは、
実証されていて、
その治療により動脈硬化性疾患の予防になることも、
ほぼ確立された科学的事実です。

ただ、コレステロールとともに血液の脂の成分である、
中性脂肪については、
その病的意義や治療の有効性が、
確立されているとは言い難い側面があります。

血液の中性脂肪の正常値を、
150mg/dL未満として、
それ以上を高トリグリセリド血症とすることについては、
国内外のガイドラインにおいて一致していますが、
中性脂肪は食事の影響が大きく、
その数値は大きく変動するので、
どのレベル以上を治療域とするかは、
個々のガイドラインにおいて異なっています。

中性脂肪の高値が心血管疾患のリスクになることは、
ほぼ確立した所見ですが、
どのレベル以上を治療の対象とするかについては明確ではありません。
コレステロールを低下させるスタチンのように、
強力に中性脂肪を低下させる薬剤はなく、
薬により中性脂肪を低下させることにより、
明確に心血管疾患のリスクが低下したとする知見も、
コレステロールのそれと比べると充分ではないからです。

中性脂肪が高度に増加していることは、
急性膵炎のリスクになります。
概ね中性脂肪が500mg/dLを超えると膵炎のリスクが高まる、
という疫学データがあるので、
それを超える高トリグリセリド血症については、
薬物治療の対象とすることが多いのですが、
臨床研究のメタ解析においては、
中性脂肪を薬剤で低下させることにより、
膵炎のリスクが低下することは確認されませんでした。

こうした知見を元にして、
上記文献においては次のようなアルゴリズムを提唱しています。
トリグリセリドの治療アルゴリズム.jpg
中性脂肪が高値である場合には、
アルコールなど膵炎のリスクと、
高血圧や糖尿病など心血管疾患のリスクの有無を確認し、
肥満であれば体重減少、
糖質制限や砂糖の摂取制限、
アルコールの摂取量の低下などの生活改善を、
一定期間行います。
中性脂肪が500mg/dLを超える状態が、
生活改善で改善しない場合には、
フィブラートやω3系脂肪酸製剤の投与が検討されます。

今日は中性脂肪高値への対応についてのまとめでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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肥満減量手術(バリアトリック手術)の長期生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バリアトリック手術の長期予後.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年10月15日掲載された、
肥満減量手術の長期の生命予後についての論文です。

肥満減量手術はバリアトリック手術(Bariatric Surgery)と呼ばれ、
高度の肥満が社会問題となっている欧米では、
古くから行われている減量法です。
最も一般的なのは胃の容量を縮小する手術で、
それ以外に胃癌の胃切除手術のように、
部分切除した胃と小腸を倍パウするなど、
多くの方法が考案されています。
日本においては2014年から、
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が肥満減量手術として、
保険適用となっています。
ただ、欧米と比較して高度の肥満が少ない日本で、
現状その施行はまだ限られています。

減量手術は物理的に胃に入る食事の量を減らすので、
摂取カロリーは減り、体重減少効果のあることは間違いありません。
しかし、栄養素の吸収などは低下する可能性がありますから、
長期的にそれが健康寿命の延長に結び付くかどうかは、
この手術が始まって長期間の経過を観察しないと、
明確にはならない事項です。

今回の検証は肥満減量手術が多く行われているスウェーデンにおいて、
肥満減量手術を受けた2007名と、
肥満手術の適応はありながら、
保存的治療を選択した2040名、
そして、年齢などをマッチングさせた肥満のない一般住民、
1135名がコントロールとして比較されています。

肥満群の登録時の年齢は37から60歳で、
肥満の指標のBMIは、
男性は34以上、女性は38以上となっています。
かなり高度の肥満の事例です。

手術群で中間値24年、保存治療群で中間値22年、
という長期の経過観察を行った結果、
観察期間中に手術群の22.8%に当たる457名と、
保存的治療群の26.4%に当たる539名が死亡していて、
肥満減量手術によりその後の死亡リスクは、
23%(95%CI: 0.68から0.87)有意に低下していました。
個別の死因では、
心血管疾患による死亡リスクは30%(95%CI:0.57から0.85)、
癌による死亡リスクは23%(95%CI: 0.61から0.96)、
それぞれ有意に低下していました。

保存的治療に比較して、
高度の肥満者に手術療法を施行すると、
中間値で3.0年(95%CI:1.8から4.2)余命が延長していました。
しかし、肥満のない一般住民との比較では、
手術群でもその余命は5.5年短縮が認められました。

このように高度の肥満者に肥満減量手術を行うと、
長期的に生命予後の改善効果が確認されました。
ただ、それでも肥満のない人と比較するとまだ、
少なからず寿命の短縮は認められていて、
肥満の治療は決して手術だけでは解決はしない、
という点にも留意する必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ねずみの三銃士「獣道一直線!!!」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
獣道一直線.jpg
新しいパルコ劇場の開幕公演の一環として、
古田新太さん、生瀬勝久さん、池田成志さんという、
いずれ劣らぬ実力派の怪優がトリオを組み、
クドカンの脚本と川原雅彦さんの演出で上演する企画、
ねずみの三銃士の新作公演が、
今上演されています。
今回は3人以外にクドカン自身と、
池谷のぶえさん、山本美月さんが華を添えます。

僕はこれまでの公演のうち、
2回は観ていますが、
いつも実際に起こった猟奇的な事件がベースにあり、
それをメタフィクション的に再現しよう、
というような作品であることは一貫しています。
回を重ねる毎にスケールアップし、
観客サービスやお遊びの趣向の部分が拡大、
グロテスクでブラックな部分と笑いの部分が、
微妙にブレンドしたような作風になっています。

今回はそうですね、
僕が観た中では最も面白くて、
これまでの集大成的な作品と言って良いと思います。

最初にメインの3人が、
それぞれほぼ素の役者として登場し、
コロナ禍で役者のリハビリをする、
というような話になり、
その一環として、
実際の事件をモデルとした、
魔性の女による保険金殺人事件を、
再現する段取りになります。
その再現ドラマの監督がクドカンで、
その身重の妻が山本美月さんです。
そして保険金殺人で逮捕された、
魔性の女を池谷のぶえさんが演じていますが、
山本さんと池谷さんが入れ替わるという仕掛けがあり、
事件の関係者と役者が入れ替わるという仕掛けもあって、
構造は結構複雑で小劇場的です。
途中では山本さんがアイドルを演じるというサービスもあり、
山本さん以外の5人はいずれ劣らぬ手練れなので、
その演技合戦が一番の魅力です。

今回は池谷さんメインと言って良いのですが、
だいぶ以前より細身になった池谷さんが、
そのテンションは以前通りか、
以前に増してスケールの大きな大暴れを見せ、
そこがしっかり核になって、
中年の演劇怪獣達がそこに絡むので、
バランスの良い感じになったのが、
今回の一番の成功かな、という気がします。

僕自身は古田さんびいきなので、
古田さんが元気に目立っているのが嬉しく、
アル中の役柄で実際にもその傾向はありそうなので、
ちょっと心配はしながら堪能しました。

新装なったパルコ劇場は今回初めて訪問しましたが、
以前より倍くらいの大きさの劇場になっていて、
雰囲気は同じですが、
小劇場というより中劇場という規模になりました。
舞台からの距離が長くなったのはちょっと残念ですが、
通路などの幅が広く、段差もあるので、
以前より見やすい劇場にはなっていると思います。
感染防止という観点からは、
詰め込み過ぎの小劇場は多分今後は成立しないので、
結果としては時代に合った改装になった、
というように思います。

以前のパルコ劇場はエレベーターでしか入場出来ず、
それで混雑するのが一番のストレスだったのですが、
新装されたビルでは、
エスカレーターでも入場可で、
下りは広い外階段が遊歩道のようについているので、
そこから外に出られるという点も好印象です。
客席は最前列はつぶしていましたが、
それ以外はほぼ全席が販売されているようでした。
ここは飲食も可ですね。

演劇も少しずつ以前に戻って来ていますが、
個人的には完全に元に戻ることはなく、
特に小劇場がそのままの形で残ることは、
まずありそうにないことのように思います。
それでも僕は小劇場を愛しているので、
当面あまり感染リスクの高い場所には、
足を踏み入れることはありませんが、
その動静は出来る範囲で把握はしていたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ミッドナイトスワン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミッドナイトスワン.jpg
「全裸監督」などで好調の、
内田英治さんが原作・脚本・監督をつとめ、
草薙剛さんが主役のトランスジェンダーを演じた、
「ミッドナイトスワン」を観て来ました。

これはなかなか良いですよ。

今年の邦画の中で、
そのインパクトの強さで言えば、
「37セカンズ」と双璧ではないかしら。

特に前半は本当に素晴らしいんですよね。
色彩も美しいし、繊細で叙情的な描写がいいですね。
これは生涯の1本になるかもしれない、
というくらいに惚れ込んで観ていました。
ただ、後半が何かバタバタと展開して、
唐突な展開も多くて、
ちょっとボルテージが下がりました。
もう少し繊細なまま、あまりドラマチックな部分はなくて、
さらっと終わった方が良かったのじゃないかしら、
というように思いました。
それでも、トータルに見ても良い映画ですよね。

控えめに言って、お勧め!です。

これね、ヨーロッパ映画みたいなんですよね。
「老いた娼婦が少女の成長を見守る」という、
昔良くあったお話の現代版なんですね。
からかわれた少女が突然机を投げつけたり、
トリュフォーみたいですよね。
ラストは「ベニスに死す」を彷彿とさせました。

草薙剛さんもいいんですが、
バレエで頭角を現す内向的で精神的にも未熟な少女を演じた、
服部樹咲さんという新人の女の子が、
これはもう抜群ですよね。
バレエも本当に踊れるので説得力がありますし、
それだけではなく内向的な少女が、
少しずつ心を開いてゆく感じがね、
抜群にリアルで素敵です。
最初に練習に参加するところとか、
草薙さんと2人で野外で踊るところとか、
とてもとても繊細で美しくて心に残ります。

ラストの展開がちょっとね、
小説版を読むと、少女が広島に連れ戻されるところとか、
草薙さんを中学を卒業して探しに行くところとか、
そこに至る段取りが書き込まれているのですが、
それをはしょってしまっているので、
流れが悪くて少し残念な感じです。
ラストは少女は入水してしまうのだと思うのですが、
その後にニューヨークで成功する姿をくっつけているので、
幻想と現実どちらで解釈してもいいよ、
ということなのだと思いますが、
少し分かりにくくなってしまったような気がします。

草薙さんは上手いとは思わないですし、
決して役柄にも合っているとは思わないのですが、
それでも不思議に唯一無二の存在感があります。
凄みのある芝居でした。
それから少女の母親を演じた水川あさみさんが、
ちょっと最初は別人かと思うほど、
やりきった感がお見事でした。

そんな訳でやや扇情的で説明過多の部分は、
好みが分かれるとは思いますが、
非常に純度の高い繊細で美しい映画で、
主役2人の凄まじい芝居を見るだけでも、
映画館に足を運ぶ値打ちは充分にあると思います。

ご興味のある方は是非。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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インフルエンザワクチンがない! [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は身辺雑記的な話です。

インフルエンザワクチンが入荷しません。

クリニックではインフルエンザワクチンは、
医療品卸会社を通じて納入されます。
メーカーからの直売は許されません。
充分に在庫のある商品であれば、
必要な数を注文してそれが入荷されるのを待てば良いので、
何も問題もありませんが、
インフルエンザワクチンに関しては、
毎年非常なストレスが待っています。

注文を出しても、
その本数が入って来ることはありませんし、
何日までに納入をお願いしますと言っても、
その通りになることもありません。
50本のワクチンを注文したのに、
何の説明もなく5本しか入って来ないということもありますし、
希望日には全く入荷はなく、
1週間後にようやく半分入荷した、
というようなこともあります。

こんな状況があるので、
卸の担当者に直接会って、
その年のワクチンが流通する前に、
「今年は○○本が必要になりそうです」
という話をしておいて、
その本数を確保してもらうように交渉することになるのです。

ただ、毎年その交渉も一筋縄では行きません。

特に今年に関しては、
全くこちらの事情を聞いてもらえない、
という状況が続いていて、
10月中に老人ホームの入所者と職員の接種を、
開始しないといけないのですが、
それに必要な160本ほどのワクチンが、
とても工面出来そうにない、
という絶望的な状況となっています。

今年に関しては担当者から、
「昨年の分は最低限確保する」という話はあったのです。
その上でAというメーカーのワクチン70本を、
9月中に納入、というようなメモを渡されたのです。
それから10月の間にBのメーカーのワクチンを何本、
11月上旬までに残りのワクチンを納入、
というようなプランのメモです。

これを信じて、ワクチン接種のスケジュールを組んだのですが、
それがそもそもの誤りでした。

それとは別にメーカーAの担当者に話を聞きました。
すると今年はトータルでは13%、
昨年よりワクチンを増産しているという話があり、
通常は10月に4割、11月に4割、12月に2割を出荷しているが、
今年についてはそれを1ヶ月近く前倒ししている、
というような説明がありました。
最初の出荷は9月の17日頃にあり、
19日くらいには卸に入る予定なので、
次の週の初めにはクリニックへ入荷されておかしくはない、
というように説明を受けました。
10月には基本的に毎週ワクチンの検定があり、
週終わりには卸には納入される予定だ、
というのです。

この情報を得た上でワクチンを待ちました。
しかし、9月の26日になってもワクチンは入荷しません。
担当者に連絡するとメーカーからの入荷が遅れている、
という返事です。

本当だろうか、と疑問に思いました。
結局最初の入荷があったのは9月29日のことで、
10月1日の接種ギリギリです。
それでも最初の説明通り入荷しているなら、
「色々頑張って調整してくれたんだろうな」と思うところですが、
予定されたメモの半分しか入荷はなく、
メーカーAの70本はまるまる入荷しませんでした。

そのことを担当者に言うと、
別に「申し訳ありません」と言うことはなく、
「入荷がいつもより遅れているみたいです。
ひょっとしたら検定が落ちてしまったのかも知れませんね」
と他人事のようなことを言うだけでした。

確かに作られて出荷を待っていたワクチンが、
検定で不承認となり、出荷が見送りになる、
ということがあることは知っています。

毎年予定されたワクチンが入荷しないと、
必ず「検定落ち」のような説明がされていたので、
本当にそんなことがたびたびあるのだろうか、
という点については疑問に思っていました。

それでAメーカーの方に直接お聞きすると、
矢張り検定落ちなどはしていない、
という返事でした。
卸の担当者の言ったことは口からでまかせだったのです。

問題は予定の70本が一体何処に消えてしまったのかです。

おそらく、他の医療機関に納入されてしまったのだろうな、
ひどいな、とは思いましたが、証拠はありません。

その後ワクチンは、
依頼したよりかなり少ない量で、
納入はされましたが最初のメモとは、
比べものになりません。

そして、決定的なことが数日前に起こりました。
初めてAメーカーのワクチンが4本のみ納入されたのですが、
そのロットは9月のうちに最初の出荷されたものでした。
つまり、本来9月に納入される筈だったワクチンのごく一部が、
多分返品なのかどうか、
戻って来たという訳です。
担当者の説明は「今週入荷したワクチンを何とか確保しました」
という嘘で塗れたものでした。

ワクチンが前倒しで出荷されていることは、
何度もメーカーの方に確認しているのですが、
卸の担当者に「何故ワクチンが予定通り入らないのか?」と聞くと、
「出荷が遅れているようです」と真逆の答えが返って来ます。
都合が悪くなると何度電話をしても居留守を使います。
11月のいつに次のワクチンが入荷するのかと聞いても、
「それはメーカーの都合なので分かりません」と言うだけです。
全て嘘なのです。
メーカーはきちんとスケジュール通りに出荷していて、
それは予定通り卸には納入されているのです。
問題はそこでワクチンが「卸」という名前のブラックボックスに吸い込まれ、
こちらに届かなくなってしまうだけのことです。
ワクチンがないならないで、
その通りに言ってくれれば問題は起こらないのですが、
あやふやな説明しかなく、
最初は期待を持たせるようなことを言い、
それにも嘘が散りばめられているので、
混乱に拍車が掛かるだけなのです。

何故こんな不合理な仕組みがまかり通っているのでしょうか?

公的な商品であるワクチンの流通が、
こんなブラックボックス経由で良いのでしょうか?
いや良い筈がありません。

今年は前述にように老人ホームの接種者が多く、
その分は絶対に確保しないといけないのですが、
このままだとそれは不可能なまま、
流行期に突入してしまいそうです。

誰か何とかしてくれないでしょうか?

毎日妻と顔をつきあわせ、
絶望と怒りに身体を震わせているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染予防としてのフェイスシールドの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フェイスシールドの有効性.jpg
JAMA誌に2020年10月6日付で掲載されたレターですが、
フェイスシールドの感染予防としての有効性を検討した内容です。

新型コロナウイルス感染症の予防のために、
マスクと共に使用されることが多いのが、
フェイスシールドやマウスシールドです。

マスクの有効性については、
当初は感染者がすることでの、
周囲への感染拡大抑止が主体と考えられていましたが、
今では適切な使用を集団ですることにより、
感染防止効果もあるとする考え方が浸透しています。

フェイスシールドというのは、
結膜からの感染のリスクを低下させるために、
目の周囲を覆うゴーグルがその始まりで、
その後簡易的な飛沫感染防止として、
マスクの代用として使用されることが、
一般的には多くなっています。

ただ、このフェイスシールドやマウスシールドの、
単独での感染予防効果については、
科学的に実証はされていません。
簡易的な研究は幾つか行われていますが、
マスクの代用にはならないという結論では一致しています。

従って、
多くの飲食店やその他の店舗などにおいて、
マスクをしないでフェイスシールドやマウスシールドのみを、
感染予防のために装着しているという行為は、
実際には有害無益と言って良いと思います。

有害というのは、
それで感染を予防しているという意識が、
却って感染拡大を招くというリスクがあるからです。

ただ、マスクを装着した上、
フェイスシールドを併用することが、
より感染防御において効果があるのか、
という点については、
科学的議論の対象となっています。

今回の検証はインドにおいて、
地域のヘルスケア担当者が、
新型コロナウイルス感染症の罹患者の家族に、
感染対策に対するアドバイスを対面で行う活動において、
担当者が感染するリスクが、
通常の感染対策に加えて、
フェイスシールドの導入でどう変わるかを比較検証しています。

対象となるヘルスケア担当者は、
サージカルマスクと手袋、靴カバーは標準装備し、
患者家族とは一定の距離を取って接触しています。
しかし、そうした対応をしていても、
62名の担当者が5880カ所の家族を訪問して、
19%に当たる12名が感染しました。
その後へ通常の感染対策に加えてフェイスシールドを導入したところ、
50名の担当者が18228カ所の家族を訪問しましたが、
その後感染者は1人も発生しませんでした。

このように、他の条件を変えていないのに、
感染者が著明に減少したのは、
フェイスシールドの導入が有効であった可能性が示唆されました。

これは厳密な比較データとは言い難いものですが、
フェイスシールドの有効性を推測させるものではあります。

しかし、
マスクを付けた状態で、
顔をガードするだけのシールドに、
どのような付加的な効果があるのでしょうか?

現状の推測としては、
目の結膜からの感染を予防する効果と、
マスクの表面の汚染が減少する効果の、
2つが考えられます。

個人的な見解としては、
マスク表面の汚染予防が、
この有効性の主体ではないかと思います。

せっかくマスクを付けていても、
その表面を頻回に触ったり、
同じマスクを付けたり外したりすれば、
そこに付着したウイルスが、
結果として口や鼻から侵入するリスクが高くなります。

フェイスシールドを付けていると、
マスクの表面へのウイルスの付着は、
最小限度に抑えられるので、
それが感染防御に繋がっている可能性があるのではないでしょうか?

この問題はまだ解明されているとは言い難いのですが、
現状フェイスシールドはマスクをしない使用については、
感染防御効果はないに等しいと考えた方が良い一方、
マスクをして更にフェイスシールドを装着することは、
マスク単独をかなり上回る効果が、
期待出来ると考えても良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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風邪のひきやすさと免疫、喘息との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
かぜのひきやすさと免疫.jpg
European Respiratory Journal誌に、
2020年10日8日掲載された、
風邪の引きやすさと免疫との関係についての論文です。

風邪というのは鼻水や咳、発熱など、
一定の症状が1週間程度持続してから改善する、
複数のウイルス感染症に付けられた名称で、
その殆どは軽症で終わりますが、
乳幼児や高齢者、基礎疾患のある人などでは、
重症化したり、細菌感染症を併発するなどして、
命に関わることもあります。

それから、風邪をひきやすい人というのがあります。

同じ風邪の流行期に、
ある人は何度も何度も風邪をひくのに、
別の人は全く風邪をひかない、
ということがあります。
勿論手洗い、うがいなどの感染対策の差、
という部分もありそうですが、
何の対策もしていなそうな、
不健康な生活を送っているような人が、
意外に風邪をひかない、
というのは、
皆さんも経験することだと思います。

これは一体何故なのでしょうか?

おそらくは体質ではないかと考えられていますが、
それほど明確なことが分かっている、という訳ではありません。

風邪が悪化し易い病気の1つが気管支喘息です。

気管支喘息は気道のアレルギー性の炎症から、
特徴的な喘息発作を起こす慢性疾患で、
風邪をひくと発作が悪化して、
急性増悪と呼ばれる状態になりやすいことが知られています。
呼吸困難を起こし、救急治療が必要となることも稀ではありません。

気管支喘息の患者は風邪が重症化しやすいばかりではなく、
風邪自体もひきやすいのではないか、
という考え方があります。

仮にこれが事実であるとすると、
風邪のひきやすさと、
風邪の重症化のしやすさとの間には、
どうやら同じような体質的な異常が、
隠れているのではないか、
というような気もします。

それは一体何なのでしょうか?

風邪ウイルスに対する身体の防御は、
自然免疫という仕組みが大きく関連しています。
Toll様受容体(TLR)というのは自然免疫の賦活に関わる、
ウイルスの遺伝子などと結合するタンパク質で、
形質細胞様樹状細胞という特殊な免疫細胞に発現している、
このTLRが、
風邪ウイルスの遺伝子と結合すると、
そこから1型インターフェロンというサイトカインが分泌され、
それがウイルスの駆除に大きな役割を果たしているのです。

従って、何等かの原因により、
この仕組みが上手く働かないと、
風邪ウイルスを効率的に駆除することが出来ず、
それが風邪のひきやすさや重症化し易さに、
影響している可能性が否定出来ません。

TLR7とTRL8は、
共にウイルスのRNAに結合する受容体ですが、
性染色体であるX染色体上にあって、
この遺伝子の変異が風邪のひきやすさなどに関連しているとすると、
性差があってもおかしくはありません。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
150名の喘息患者と、151名の喘息のないコントロール群に、
遺伝子のパターンなどの検査を行ない、
経過観察中に風邪症状の頻度なども報告させて、
風邪症状の頻度と遺伝子変異や喘息などとの関連を検証しています。

その結果、
喘息患者は喘息のないコントロールと比較して、
風邪症状の頻度は有意に多く、
TRL7の遺伝子発現量も低下していました。

喘息以外で風邪症状の頻度と関連のある因子は、
男女で差が認められました。
女性では、
血液の好中球という白血球の数や年齢が若いことが、
風邪症状の多さと関連していましたが、
小児との接触の有無とは関連していませんでした。
一方で男性では、
TRL7の遺伝子発現量が低いことと、
形質細胞様樹状細胞に関連する遺伝子発現量が低いことが、
それぞれ独立して風邪症状の頻度の増加と関連していました。
気管支喘息のコントロールが不良であることと、
TRL8の遺伝子発現量の低さ、
また肥満との間には関連が認められました。

知見は複雑であまりすっきりとした結論に至っていませんが、
喘息では風邪に罹る頻度が多く、
それは自然免疫に関わる免疫の機能低下と、
関連している可能性が示唆されました。
男女で風邪の罹り易さに関わる因子は異なっていて、
これが遺伝子レベルの差によるものなのか、
それとも環境要因によるものなのかは、
今後より厳密な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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レジェネロン社の抗体カクテル療法(基礎文献) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナへの抗体カクテル.jpg
2020年6月15日のScience誌にウェブ掲載された、
抗体カクテル療法の利用抗体を選定した、
基礎研究の論文です。

トランプ大統領に使用されたことによって有名になった、
レジェネロン社の抗体カクテル、
REGN-COVについての基礎的文献です。
この薬については、
現時点ではこうした基礎実験のデータしか、
査読のある論文としては公表されておらず、
後はメーカーのプレスリリースで、
その臨床試験における有効性が発表された、
という状況です。

さて、抗体カクテル療法というのはどういうものなのでしょうか?

抗体というのは、
身体がウイルスなどの感染に対して、
特異的に産生するタンパク質で、
ウイルスなどの感染部位に結合するような性質があり、
それ自体がウイルスを不活化すると共に、
他の免疫系にもそのウイルスの情報を伝達して、
総合的にそのウイルスを排除する目印となるものです。

ウイルスなどの感染から回復すると、
血液中にはそのウイルスに、
特異的に結合する抗体が検出されるようになります。
抗体にも多くの種類がありますが、
中和抗体と呼ばれるものが上昇すると、
その感染症は通常治癒したと判断され、
通常周囲に感染は広がりませんし、
その抗体が一定レベル血液中に存在している間は、
その感染症に再び罹ることもなくなります。

それではその病気に罹った時に、
速やかに中和抗体を注射すると、
どのようなことが起こるでしょうか?

控え目に言って、その治癒が早まることは期待出来ます。

ただ、本来は免疫反応が連鎖的に起こって、
その結果として抗体が産生されるのですから、
抗体のみを最初に投入しても、
同じように免疫反応が進行するという訳ではありません。
免疫反応そのものの経過を早める、
ということにはならないからです。

抗体カクテルというのは、
複数の抗体を組み合わせて使用する、
という方法のことです。

人間の身体は通常、
中和抗体としての活性を持つ抗体を、
複数産生しているので、
そのうち有効性が高いと想定されるものを、
2つ以上一緒に投与するのです。

これはエボラ出血熱において活用され、
一定の有効性が確認された方法です。
単独の抗体のみを投与すると、
ウイルス側が変異して抗原が変化し、
有効性が失われることがあるので、
複数の抗体を同時に投与しているのです。

今回の研究では新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)に対して、
そのスパイクの部分に特異的に結合する抗体を、
人間の免疫系の遺伝子を導入したネズミと、
新型コロナウイルス感染症の患者の回復期の血清より、
中和活性のある抗体候補40種類を抽出して、
その構造や中和活性の活性を比較検証しています。
そして、最終的にREGN10933とREGN10987と名付けられた抗体を、
2種類のカクテルとして選択しています。

そして9月29日付のレジェネロン社のプレスリリースでは、
これまでの複数の臨床試験において、
一定の有効性が認められ、
問題となるような有害事象はなく、
世界で4つの第3相臨床試験が進行中であると発表されています。
この薬剤は比較的軽症で、
通院治療を選択された新型コロナウイルス感染症の患者に、
1回のみ使用され、
それにより1週間でウイルス量が劇的に低下した、
と記載をされています。
つまり、軽症例で治癒を早回しするような効果で、
今後より重症の入院事例での効果や、
濃厚接触者や患者家族の、
感染予防にも活用される予定であるようです。
イメージ的にはB型肝炎や破傷風における、
免疫グロブリンの使用に近いようなイメージです。

従って、トランプ大統領の場合、
レムデシビルとステロイドに加えて抗体カクテルを使用したのは、
重症であるからということではなく、
回復を少しでも早めたい、
という大統領の意向があったためのように推察されます。

今後この薬剤がどのように使用されるのかは、
現時点では何とも言えませんが、
発症予防効果が明確になれば、
重症事例よりむしろ感染拡大予防に、
その効果が期待出来るかも知れません。
ただ、薬価がかなり高額になるようであれば、
そうした使用は経済的側面から、
困難となってしまうかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対するレムデシビルの有効性(介入試験の最終報告) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
レムデシビル完全版.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年10月8日ウェブ掲載された、
抗ウイルス剤レムデシビルの、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する、
臨床試験結果をまとめた論文です。

これは5月に暫定的な結果が同紙面に論文化されています。
その時点でブログ記事でもご紹介しています。
今回のデータは同じ臨床試験の最終的な結果のまとめになります。

レムデシビルはDNAの原料となる核酸の誘導体で、
ウイルスが細胞内で核酸(RNA)の合成を行う、
RNAポリメラーゼの阻害剤です。

これはアビガン(ファビピラビル)と同様のメカニズムです。

この薬はアメリカの製薬会社ギリアドサイエンシズ社の開発品です。

新型コロナウイルス感染症に対するレムデシビルへの期待は、
この薬の新型コロナウイルスに対するEC50という、
ウイルスの感染細胞での増殖を50%抑制する濃度が、
0.77μMという低さであることが影響しています。

実験的にはここまで効果の高い薬は他にないからです。

その実際の有効性はどうなのでしょうか?

今回の大規模介入試験は、
中国以外の世界各地で行われており、
日本も1施設で参加しています。
国立国際医療研究センター病院であるようです。
施設はアメリカが多く、
イギリス、デンマーク、ドイツ、韓国、
メキシコ、スぺイン、シンガポールが参加しています。

この臨床試験以前に中国国内で介入試験が行われていて、
その結果は有効性が確認されるものではありませんでした。
今度は中国抜きの介入試験がより大規模に施行された、
という流れです。

登録された新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の患者は、
トータル1062名で、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はレムデシビルを初日は200ミリグラム、
2日目以降は100ミリグラムの静注を10日目まで継続し、
もう一方は偽の注射を行います。

そして、
効果判定は治癒にて退院か、
もしくは病状は治癒し、
感染予防目的のみでの入院と判断されるまでの期間を、
両群で比較しています。

レムデシビル群の回復までの期間の中間値は10日に対して、
偽薬群のそれは15日で、
偽薬群ではレムデシビル群と比較して、
回復までの期間が1.29倍(95%CI: 1.12から1.49)、
有意に延長していました。
治療開始29日の時点で、
レムデシビル群の死亡率が6.7%に対して偽薬群は11.9%で、
レムデシビルは29日時点の死亡リスクを、
27%(95%CI: 0.52 から1.03)、
有意ではないものの低下させる傾向を示しました。

今回の結果は色々と制限や限界のある中では、
かなり画期的なもので、
入院を要するような新型コロナウイルス感染症の治療においては、
現時点ではレムデシビルが、
最も有効性を期待出来る薬剤、
と言って良いように思います。

ただ、その効果は決して満足のゆくレベルのものではなく、
このウイルス感染症の克服のためには、
より有効な治療薬が必要であることは、
また間違いのないことなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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