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痛風発作を予測するマーカーの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は溜まった仕事を、
少しでも減らそうと思っています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CA72-4の痛風発作予測効果.jpg
2020年のRheumatology誌に掲載された、
保険適応もされている腫瘍マーカーの検査が、
痛風発作の予測に有効なのではないか、
という興味深い研究報告です。

痛風発作というのは、
身体で過剰な尿酸由来の結晶が関節内に沈着し、
そこに自己炎症と言うメカニズムによって起こる、
特有の強い痛みを伴う発作性の関節炎のことです。

尿酸値が高いことがこの痛風発作のリスクとなり、
薬で持続的に尿酸値を低下させると、
その発作が抑制されることは臨床的に実証された事実です。

ただ、尿酸値が高いだけで、
全ての方が発作を起こすという訳ではありません。
上記文献の記載によれば、
高尿酸血症の患者さんのうち、
痛風発作を起こすのは1割に過ぎません。

本来は尿酸値のみではなく、
痛風発作の起こりやすさを示す、
マーカーのようなものがあれば、
どの患者さんを治療すべきかの目安になり、
臨床的には有用性が高いのですが、
実際にはそうしたマーカーは見つかっていません。

ここにCA72-4という血液検査があります。
この検査は癌で比較的特異的に上昇する蛋白質を測定するもので、
胃癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、大腸癌などで上昇することが知られており、
癌の補助的診断として、
日本で保険適応もされている検査です。

上記文献の著者らは、
このマーカーが癌以外に、
高尿酸血症の患者さんの一部でも、
異常値となることを発見し、
722名の高尿酸血症の患者さんにこの検査を施行して、
半年間の経過観察を行い、
その結果を検証しています。
また高尿酸血症の833名とコントロールの541名、
関節リウマチの532名などでこのマーカー値の比較を行っています。

その結果、
CA72-4の数値は、
コントロールで1.59(95%CI: 0.99から3.39)U/mLであるのに対して、
痛風発作のない高尿酸血症では1.47(95%CI: 0.87から3.29)、
関節リウマチでは1.58(95%CI: 0.95から3.37)、
とほぼ同じような数値を示したのに対して、
痛風関節炎の患者さんでは4.55(95%CI:1.56から32.64)と、
著明な高値を示しました。

痛風の患者さんのうち、
過去1年間に2回以上の発作を起こした人は、
起こさない人よりCA72-4が高値を示していて、
このマーカーが6.9U/mLを超えていると、
超えていない場合と比較して、
その後半年の痛風発作発症リスクは3.89倍(95%CI:3.10から4.87ら)と、
有意に増加していて、
この発作のリスクは、
コルヒチンの予防的投与により、
著明に低下することも確認されました。

このように、
痛風の患者さんが発作を起こすかどうかの予測のために、
CA72-4を測定することには有効性があることは、
今回の結果からは間違いがないようです。

この数値を測定することにより、
高尿酸血症の患者さんのうち、
積極的に治療する対象を、
絞り込むことも出来そうです。

ただ、このマーカーは癌でも上昇するので、
その高値をどのように判断するのかは、
まだ検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コロナウイルスは机の上でどのくらい生きているのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの物体上での生存期間.jpg
2020年のJournal of Hospital Infection誌に掲載された、
コロナウイルスのガラスやプラスチックなどの上での、
生存期間についてのレビューです。
生存というと語弊があるかも知れません。
これは感染を起こす可能性のある期間、
という意味でご理解下さい。

新型コロナウイルスによる感染症において、
問題になる点の1つは感染経路です。

感染は主に咳などによる飛沫感染と、
ウイルスが付着した物を触ることによる接触感染と考えられています。

接触感染で問題となる事項の1つは、
飛沫により机の上やドアのノブなどに付着したウイルスが、
どのくらいの期間感染力を持っているのか、
ということです。

実際今回の新型コロナウイルスが、
物の上でどのくらいの期間感染力を持つか、
という点についてのデータはまだ殆どありません。

今回の研究では、
これまでのSARS、MERS、
そしてそれ以外の風邪の原因となるコロナウイルスの、
同種の物体上での感染可能期間のデータをまとめて解析することで、
この問題において、
これまで分かっていることを整理しています。

その結果、
金属、ガラス、プラスチックなどの上での、
コロナウイルスの感染可能期間は、
2時間から9日の間に分布していました。

MERSコロナウイルスは、
最も感染可能期間は短く、
概ね48時間という報告が殆どです。

SARSコロナウイルスは、
24時間という短い報告もあるのですが、
4から5日というものが多く、
中には9日に及ぶというものもあります。

風邪のコロナウイルスでは、
2時間というものから9日まで、
かなりばらつきがあり一定していません。

消毒については、
62から71%のエタノール、0.5%の過酸化水素、
0.1%の次亜塩素酸ナトリウムの使用により、
1分以内にウイルスは不活化されます。

以上は敢くまで、
今回の新型コロナウイルスの知見ではない、
と言う点に注意が必要ですが、
現状ではこうした知見を元に、
その性質を推測して対応しているのが実際なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの環境汚染と感染リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの感染経路.jpg
JAMA誌に2020年3月4日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの周辺への汚染と、
感染リスクについてのレターです。

新型コロナウイルスの感染経路は、
飛沫感染と接触感染が主なものとして想定されていますが、
ウイルスを含む飛沫などが付着した、
部屋の壁や家具などに、
触れることによって生じる接触感染については、
あまり正確なことが分かっていません。

そこで今回の研究ではシンガポールにおいて、
クリーンルームに隔離されて治療を受けている、
新型コロナウイルス感染症の3人の患者を対象として、
空気のサンプルや病室の26カ所の表面サンプルを複数回採取して、
ウイルス遺伝子をPCRで検出しています。

3名の患者はいずれも症状はありましたが、
2名は咳に発熱を伴う状態で、
残りの1名は咳のみの症状で発熱はない状態でした。
発熱のある2名は病室のクリーニング後に、
軽症の1例ではクリーニング前に検体採取が行われました。

その結果、
発熱のある2例のクリーニング後の検体では、
全てウイルス遺伝子は陰性でしたが、
発熱のない軽症事例のクリーニング前の検体では、
部屋の15カ所のうち87%に当たる13カ所で、
トイレの5カ所のうち60%に当たる3カ所で、
ウイルス遺伝子が検出されました。

ウイルスが部屋から検出された患者では、
下痢などの症状はなかったにも関わらず、
便のサンプルからはウイルス遺伝子が検出されました。
便器とシンクからウイルスは検出されていて、
このことは気道からの検体以外に、
便を介したウイルスの付着の可能性も、
否定出来ないと考察されています。

このように、
適切に消毒などの処置を行えば、
接触感染のリスクは低下させることが可能である一方、
今回の検出事例のように、
発熱もないような軽症であっても、
ウイルスを周辺には拡散していて、
下痢がなくても便から感染が拡大する、
という可能性も否定出来ません。

どうやらウイルスを周辺にまき散らすという性質と、
病気としての重症度とは、
常に一致しているということではなさそうです。

今回の新型コロナウイルス感染症は、
8割は軽症である一方、
潜伏期が長く、経過自体も長く、
症状の軽い患者さんでも、
周辺に感染を拡大するリスクが高い、という点が、
真に厄介なポイントであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「RED」(三島有紀子監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
RED.jpg
島本理生さんの同題のベストセラーを、
新鋭の三島有紀子さんが監督し、
スタイリッシュな恋愛映画に仕上げています。

これは先に原作を読んでから映画を観ました。

原作はなかなか面白いんですよね。
不倫物で一種の官能小説なのですが、
客観的に見ると何の不満もなさそうな環境であるのに、
それでもどんどん自分を追い込んで、
不倫に走ってしまう主人公の女性の造形が面白く、
ちょっとおかしいなとは思いながらも、
あれよあれよという感じで読めてしまいます。

ただ、これをそのまま映像化しても、
主人公がただの身勝手なだけに思えて、
凡庸になってしまうのではないかと、
映画化には少し危惧を感じるところです。

実際に出来上がった映画は、
台詞を最小限度に減らした、
かなりスタイリッシュな仕上がりで、
ちょっと森田芳光監督の「それから」みたいな感じです。
主人公の生活にもあまりリアルさはなく、
最初に洋館でパーティーをして、
いきなり壁ドンでキスされるとか、
かなり漫画的というのか、
現実離れした世界観で、
原作はもっと現実に密着した描写の積み重ねなので、
正直かなり違和感は感じました。

設定もかなり変わっていて、
映画で良いな、と思う部分はほぼほぼ映画のオリジナルで、
原作の設定が活きている部分は、
かなり間抜けに感じられる、という印象があります。

映画としては主人公2人の逃避行の移動撮影とか、
綺麗ですしなかなかセンスはあると思うのですね。
ただ、正直あまりに中身が乏しいかな、
というようには感じました。

ラストの処理は李相日監督の「悪人」に似ていて、
キャストも同じ妻夫木さんですし、
追い詰められた2人の逃避行と言う点でも、
似通った部分があるのですが、
「悪人」は殺人事件ですから、
もっとドラマは深刻で盛り上がりもあるのですが、
この作品はただの不倫だけで、
それも原作は敢えて凡庸な設定を選んでいるので、
映画になると画面はもったいぶっていて美しいのに、
内容は「どうだかなあ…」というように思ってしまいます。

島本理生さんの作品は、
最近はもっとドラマ性のあるものもあるのですが、
この作品のように、
凡庸な設定を描写で活かすというような作品については、
映画にするのはあまり意味のあることではないな、
というように思いました。

正直あまりお勧めではありませんが、
かなり観る側の立場で印象は変わる映画と思うので、
面白く感じる方もいらっしゃると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「犬鳴村」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
犬鳴村.jpg
「呪怨」で新感覚のホラー作家として、
一躍有名になった清水崇監督の新作ホラーに、
こうしたものは結構嫌いではないので足を運びました。

清水監督は、
確かに「呪怨」はオムニバスの構成が面白く、
即物的なおどかし演出も新鮮でした。

ただ、その後ホラー作品には、
「な・なんでこんなに詰まらないの?!」
と絶句するような作品も多くありました。

今回もそのためそれほど期待はせずに見に行きました。

感想としては、
まあ、ボチボチでしたね。

オープニングはスマホの自撮りの映像から始まるので、
如何にもという感じなのですが、
新味はありませんし、
途中で通常の外からのキャメラに切り替わるんですね。
その切り替えもあまりタイミングが良いと思えませんし、
その後も特にショッキングな映像はなく、
思わせぶりなだけで終わってしまいます。

いきなり鉄塔の上から少女が降って来るところなど、
面白いカットもあるのですが、
その後もありがちな場面や描写が続き、
クライマックスは関節をグキグキ鳴らしながら、
女のお化けが襲って来るという、
ジャパニーズホラーでは手垢に塗れた感じの描写なので、
これじゃ今更恐がれないな、
という感じにはなってしまいました。

テーマは「犬神」なんですね。
極めて古典的な日本の土俗のホラーのテーマです。
それを割とそのままやっていて、
ラストは死者が生者を見守っているという、
何か微笑ましい感じになるのも、
ちょっと脱力してしまいました。

そんな訳で見ても5秒くらいで忘れてしまう感じの映画で、
時間潰し以外の目的にはお薦めは出来ないというのが、
正直なところでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧低下への塩分制限の有効性(2020年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウムと血圧.jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
塩分の摂取量と血圧についてのメタ解析の論文です。

塩分は毎日どのくらい摂るのが最も健康的なのでしょうか?

これはまだ完全には解決されていない問題です。

日本人は欧米人と比較すると、
伝統的な食生活においては、
塩分が多く脂質は少ないという特徴がありました。

かつての日本人は平均で1日20グラム以上という、
非常に沢山の塩分を摂っていて、
そのために脳卒中や胃癌が多かったのです。

その一方で欧米では、
塩分の摂取はそれほど多くない一方で、
脂質の摂取量は多く、
そのために心筋梗塞が多かったのです。

高血圧は脳卒中のリスクにもなり、
また心筋梗塞のリスクにもなりますが、
塩分の摂取量を減らすことにより、
高血圧の患者さんでは血圧が減少することが実証され、
そのことから、
塩分は制限すればするほど健康的である、
という考えが一般にも広まりました。

WHOは2025年までに、
塩分の摂取量を1日5グラム未満にすることを目標に掲げています。

ただ、生命予後と塩分の摂取量との関連を検証した疫学研究では、
1日の塩分量は7から10グラムくらいが最も生命予後は良く、
それを上回っても下回っても悪化する、
というような複数の報告があり、
この問題を複雑にしています。

今回の研究は、
これまでの臨床データをまとめて解析する、
システマティック・レビューとメタ解析という手法を用いて、
塩分制限と血圧の低下が相関するのかをメインに、
これまでより詳細に、
塩分制限と血圧との関連を検証しています。

133の臨床研究のトータル12197名のデータを、
まとめて解析した結果として、
塩分摂取量の指標である、
尿中ナトリウム排泄量が50mmol(およそ2.9g)減る毎に、
収縮期血圧は1.10mmHg(95%CI: 0.66から1.54)低下し、
拡張期血圧は0.33mmHg(95%CI:0.04から0.63)低下する、
という一貫した関連が認められました。

同じ尿中ナトリウム排泄量の低下に対して、
高齢者、白人種以外、収縮期血圧高値では、
より血圧低下は大きくなる、という傾向が認められました。
介入期間が2週間を超えないような試験では、
ナトリウム排泄量低下に伴う血圧の低下は少なく、
減塩の血圧降下には、
2週間以上を要することが示唆されました。

このように今回の検証では、
これまでのデータより明確に、
ナトリウム制限による血圧の降下作用が確認されました。

高血圧の患者さんに対して、
まずは減塩の指導をするという方針は、
最新の知見においても、
動かないものと考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ダイアモンド・プリンセス号新型コロナウイルス集団感染の解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ダイアモンドプリンセスの感染.jpg
2020年2月28日のJournal of Travel Medicine誌にウェブ掲載された、
先日全乗員乗客の下船が終了した、
ダイアモンド・プリンセス号でのCOVID-19のアウトブレイクが、
収束した経緯を、
疫学的にまとめた論文です。
(ダイヤモンドかダイアモンドか、
というのはまちまちなのですが、
感染研でダイアモンドと記載されているので、
今回はダイアモンドとしています。
「ダイヤ」って変ですよね)

2020年の2月3日にクルーズ船ダイアモンド・プリンセスにて、
船内に10名の新型コロナウイルス感染者が確認されました。
これがアウトブレイクの発端となり、
2月19日の時点で3700名(論文中の記載です)の乗客乗員のうち、
17%に当たる619名の感染が確認されるまでに広がりました。
1月25日に香港で下船した乗客が、
その起点であったことがほぼ明らかになっています。
1月31日に横浜港に接岸し、
症状のある乗員乗客にはPCR検査を施行して、
新型コロナウイルス遺伝子が陽性となった患者は、
日本国内の病院に移送して治療。
症状のない乗員乗客は14日間船内で隔離する、
という措置が取られました。

その後も紆余曲折があり、
現場の混乱や二次感染など、
多くの問題を孕みながらも、
漸く3月1日に全ての乗員乗客は船を離れ、
まだ、下船者からの感染者など、
問題が全て解決した訳ではありませんが、
ダイアモンド・プリンセス号のアウトブレイク(これは論文での記載です)は、
ほぼ終息を迎えることになったのです。

今回の論文では、
主に船内患者発生からのタイムラインで、
どのように感染が広がり終息したかを、
疫学的に解析しています。
基本的には感染症研究所が会見で発表した、
データが元になっていると思われますが、
論文の執筆者はヨーロッパの研究者になっています。
日本人の名前は1つもありません。
何故このような形での論文化となったのかは、
よく分かりません。

それではこちらをご覧ください。
ダイアモンドプリンセスの感染の図.jpg
これは横軸が時間軸で、
縦軸は基礎再生産数(R0)を示しています。

R0というのは、
その時点で1人の患者が何人に感染を広げるのかを、
示す数値です。

中国でまとめられた疫学データによれば、
その感染拡大初期におけるR0は、
2.2と算出されています。
その後は3を超えているという推測もあります。

この数値が1を上回っている限り感染は拡大します。

従って、感染を封じ込めるためには、
感染者を隔離するなどして、
この数値を1に近づけ、それより低下させる、
という必要がある訳です。

このグラフを見ると、
当初のR0は14.8と算出されています。
1人から15人近くに感染するということですから、
かなり深刻な状態であったことが分かります。
空気があまり動かない場所で、
数千人の人間が接触しつつ暮らすという環境では、
こうした感染の広がりを見せるのです。

それが横浜港に接岸して、
患者の振り分けと船内隔離などの対策が取られてから、
1週間後くらいに劇的に低下しています。
計算上R0は1.78程度まで低下し、
その後はその水準で推移しています。
1を切ってはいないので、
何もしなかれば再び感染は拡大する訳ですが、
通常の感染対策を行なっていれば、
感染はそれほど拡大することなく、
トータルには終息に向かうのです。

1人の患者が発病してから、
感染した次の患者が発病するまで、
中国での初期のデータでは平均7.5日と計算されていますから、
概ねその期間で感染拡大が阻止されたということは、
基本的には感染対策が奏功したことを、
示していると思われます。

その一方でこの論文においては、
早期に全ての乗客を船から降ろし、
海外の乗客は母国に帰すような対応を取れば、
より感染者の数は抑えられた可能性が高い、
という推計も同時に行なっています。

指摘されているように、
船内の感染対策には多くの問題があり、
多くの混乱やミスもあった訳ですが、
それでも一貫した対応を取ることにより、
感染の封じ込めは一定レベルは可能であることを、
今回のケースは示しているように思います。

新型コロナウイルス感染症を正しく怖がる、
というのはおそらくそうした意味であると思います。
今の対策の効果、
皆さんが日々気を付けていることの効果は、
概ね1週間程度で形となって現れるのですが、
それは後から計算した場合の話で、
実感としてそれが感じられるのは、
おそらく1か月程度は経ってからのことではないかと思います。

矢張り今を正念場と考え、
出来ることを積み重ねるしかないと、
個人的にはそう考えています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
論文の内容に沿い、
部分的に補足し一部修正しました。
(令和2年3月15日午後8時53分)
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新型コロナウイルス72314名のまとめ(中国CDCの報告) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス中国全例まとめ.jpg
JAMA誌に2020年2月24日ウェブ掲載された、
中国CDCによる2月11日時点までの国内全症例、
72314例をまとめて解析した解説記事です。

これは2月28日付でWHOの報告書が出ていて、
そちらは少し例数は増えているのですが、
基本的にはほぼ今回と同様のデータが報告されています。
つまり、WHOの報告書の、
こちらは露払い的な、
ダイジェスト的な内容のものです。

その臨床的特徴ですが、
まずこちらをご覧下さい。
コロナウイルス臨床まとめ.jpg
全例の臨床的特徴のまとめです。
診断事例の中には遺伝子検査では確認されていないものもあり、
遺伝子検査が陽性で症状のない無症候性感染の事例は、
全体の1%程度です。
これは無症候性の感染が、
それほど多くはないことを期待はさせますが、
無症候の感染者が全例検査されている、
という訳では勿論ないので、
慎重に判断する必要があります。

年齢分布は10誌未満と10から19歳は、
それぞれ1%と明確に少なく、
30から79歳が87%を占めています。

病気の重症度でみると、
軽症の事例が81%、
肺炎による呼吸苦などが見られる重症事例が14%、
そして呼吸不全やショック、多臓器不全などを来した、
重篤事例が5%となっています。

よく言われる「8割が軽症」というのは、
このデータが元になっています。

ここで致死率をみると、
トータルでは2.3%、
80歳以上の致死率は14.8%、
70代の致死率は8.0%、
そして重篤事例の致死率は49.0%となっています。

次にこちらをご覧下さい。
コロナウイルス全例の経過の図.png
これは活字が細かくて見づらいと思いますが、
横軸が2019年12月8日から2020年2月11日までの時間経過を示し、
棒グラフは患者数の推移です。
グレイの棒グラフは症状出現時点を示し、
オレンジの棒グラフは診断の時点を示しています。

これを見ると患者数のピークは、
症状出現時点では1月26日くらいにあり、
今後は徐々に終息に向かうことが推測はされます。

これは今後に期待を持たせるデータですが、
まだ慎重に推移を見守る必要はあります。

次にこちらをご覧下さい。
コロナウイルスとSARSの比較の図.jpg
これは右側が今回の新型コロナウイルス感染の推移を、
左側が2002年から2003年のSARSの時の経緯を示したものです。

その発症はほぼ同時期に始まっていますが、
SARSの場合患者数が5000例に達したのは、
最初の患者が出現しておよそ5ヶ月後ですが、
今回のCOVID-19では最初の患者が出現してから2ヶ月で、
患者数は7万人を超えているのです。
ほぼ同様の性質を示し、
遺伝子にも高い相同性がありながら、
この2つのウイルスの感染の広がりは、
大きな違いがあることが分かります。

勿論今回の方が格段に感染の広がりが早く深刻なのです。

これまでの断片的な情報からは、
日本での事例も今回まとめられた臨床傾向と、
ほぼ同じであるように思われますが、
今後日本でも同様の検証が、
まとめられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の回復後検査陽性事例 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの回復後PCR陽性事例.jpg
JAMA誌に2020年2月27日ウェブ掲載されたレターですが、
日本でも報告事例のあった、
一旦症状が改善して遺伝子検査も陰性化した以降に、
再び検査で陽性反応が認められた事例4例をまとめた、
中国の単独施設における報告です。

これがインフルエンザウイルスの感染症であれば、
一度インフルエンザに感染し、
それが一定期間を経過して治癒すれば、
身体の免疫機能によりウイルスは駆除されるので、
インフルエンザの検査をしても当然陰性になります。
その後同じ型のウイルスに関しては、
1年以上は感染は起こりません。

ただ、ウイルスによっては、
慢性肝炎のウイルスのように、
感染が持続してしまうようなウイルスもあります。
また、水痘のようなウイルスは、
一度感染すると感染自体は2度は起こりませんが、
体内に潜んだウイルスの再活性化により、
帯状疱疹という別個の病気を引き起こします。

従って、ウイルス感染は常に一過性、
ということではないのです。

ただ、仮にコロナウイルスのように、
飛沫や接触感染を起こし、
1人の感染者から2人以上に感染するようなウイルスが、
高率に持続感染をして、
感染力を持ち続けるとすれば、
これを放置することは人類の種としての存続を、
揺るがすような事態にもなりかねません。

かつても同じような病気はあり、
その治療法が見つかるまでは、
感染した患者さんは、
死ぬまで隔離するという対策が取られました。
ハンセン病はそうした病気と誤解されたため、
隔離政策という悲劇が起きたことは、
皆さんもご存じの通りです。

それでは、今回の新型コロナウイルスについては、
その実際はどうなのでしょうか?

今回の報告は、
何度もこれまでにも取り上げられている、
武漢大学中南病院(Zhongnan Hospital of Wuhan Univercity)での、
事例報告です。
この病院の新型コロナウイルス感染の事例は、
同じJAMA誌に138例まとめたものが論文化されていますが、
院内感染が多かったことが1つの特徴です。

今回のケースは、
いずれも一定の基準で感染が治癒と判断されたものの、
その後再検査でウイルス遺伝子が陽性と、
陰性から陽性に変化した事例4例です。

4人とも当該の病院の医療従事者で、
院内感染の事例ですが、
3人は発熱などの症状を来した顕性の感染で、
もう1人は濃厚接触のため検査したら陽性であった、
という無症候性の感染です。
そのうちの1人は入院での治療を行っています。
年齢は30から36歳です。
4人とも胸部CT検査を行い、
すりガラス様陰影や浸潤影などの肺炎所見が確認されています。
無症候性の患者も、
CTでは軽度の肺炎像が確認されています。
治療はタミフルが5日間使用されています。

治癒の基準は、
3日以上平熱で、呼吸器症状がなく、
胸部CT検査で活動性の病変が認められず、
少なくとも1回の遺伝子検査でウイルス遺伝性が陰性、
という条件になっています。

4人の医療従事者はこの基準を満たして、
治癒と判断されたのですが、
その5から13日後に行われた遺伝子検査で、
今度は陽性と判定されました。
それから4、5日の期間をおいて、
3回の検査を繰り返してもいずれも陽性で、
PCRのキットを別の物に交換しても、
結果は同じでした。
4人とも症状はなく胸部CT検査でも肺炎再燃の所見はありませんでした。
4人は医療従事者で、
感染予防には気を配っていたので、
再感染という可能性は低そうです。

この4例のケースは、
ほぼ新型コロナウイルスの持続感染と考えられます。
ただ、一旦陰性になったのに、
その後一定期間をおいて陽性化するのが何故なのか、
という点は不明です。
回復期に一旦ウイルス量が減少するけれど、
その後増加して持続感染に移行する、
というようなメカニズムがあるのでしょうか?
その辺りはまだ分かりません。

日本の事例では、
風邪や発熱などの症状があったので再検査をした、
という経緯で判明しています。
これが新型コロナウイルス感染の再燃、
ということであれば深刻ですが、
おそらく別の感染を併発したのかな、
というようには思われます。
ただ、これは報告を待つ必要がありそうです。

現状の問題は、
新型コロナウイルスに感染した患者さんのうち、
どのくらいの比率で、
無症候性の持続感染、
すなわちキャリアの状態になるのか、
キャリアの状態で周囲に感染するリスクがありうるのか、
といった点にあるように思います。

今回の遺伝子検査は、
全て咽頭拭い液が検体として利用されていますが、
その方法が適切であるのかを含めて、
ウイルスの動態がもう少し明確になるのは、
細胞レベルや動物実験などの基礎実験のデータが、
ある程度揃うのを待つ必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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現状の新型コロナウイルスの封じ込め策はどの程度有効なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の封じ込めは実現可能か?.jpg
the Lancet Global Health誌に2020年2月28日ウェブ掲載された、
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染を、
症状が出現した時点で隔離するという対策で、
どの程度封じ込めが可能かを、
統計的に考察した論文です。

現状の新型コロナウイルス感染症の対策は、
まず症状があり感染が確認された事例を、
それが判明した時点で隔離して、
その濃厚接触者を追跡して、
適切な管理を行う、というものです。

この方法が感染の拡大を抑え、
封じ込めに有効であるのは、
潜伏期であったり、無症候感染の状態で、
感染力がそれほど強くはない、
ということをその前提としています。

どのような感染症であっても、
感染してから症状が出るまでの間に、
一定の潜伏期と呼ばれる期間があり、
また軽症で症状を自覚しないような、
そうした感染の事例もあります。

通常そうした症状のない時期にも、
感染が周囲に広がることはあっても、
それはあくまで例外的なケースであって、
感染力の強い時期は症状が出た段階である、
という考え方が、
今の封じ込め策の前提にはなっているのです。

こうした方法が無効であるとすれば、
もう流行地域を一定期間封鎖するしか、
感染拡大を阻止する方法はない訳です。

SARSも実際には潜伏期の感染の頻度は低かったので、
症例の隔離と濃厚接触者の追跡という方法で、
封じ込めに成功したのです。

では実際に今回の新型コロナウイルス感染症において、
症例の隔離と濃厚接触者の追跡という方法は、
どの程度の有効性があるのでしょうか?

今回の論文ではその点を数学的モデルを使って推測しています。

ここでは封じ込めの成功は、
初発の患者が見付かってから、
12から16週で新規の患者が発生しなくなる、
ということで定義しています。
この場合の患者というのは、
症状が出現している場合のことです。
そして、5000例以上の患者が特定地域で集積した時には、
この方法による封じ込めは、
最早不可能と想定されます。

その結果、
まず5例の感染事例が確認された場合、
1人の感染者から感染する人数を示したR0という指標が1.5で、
無症候の時期の感染が0%であれば、
濃厚接触者の追跡は不十分であっても、
感染の封じ込めは実現可能です。

しかし、これより感染事例が多く、
R0が2.5を超え、無症候の時期の感染も起こりやすくなると、
感染の封じ込め効果は低下します。

R0が1.5程度であれば、
接触者の50%を追跡出来れば封じ込めは可能ですが、
R0が2.5であると接触者の70%を追跡する必要があり。
R0が3.5となると、
接触者の90%以上を追跡しないと、
その封じ込めは困難となります。

R0が2.5以上のような状態で、
40件以上の事例が見つかった場合を想定すると、
無症状での感染リスクが、
全体の1%未満でなければ、
通常の方法による封じ込めは困難と、
考えた方が良いようです。

かなり現実に近い仮定で考えると、
R0が2.5で感染の15%が潜伏期に起こり、
比較的速やかに接触者の確認と隔離は行われるとすると、
接触者の8割は追跡出来ないと、
感染の封じ込めは困難になると推定されます。

上記文献の推計では、
週に25から100人の症状のある感染者が出現するのを、
感染のピークとして設定していますが、
中国、イタリア、韓国のケースは、
それを遙かに超えているので、
それだけでもう通常の方法による封じ込めは不可能、
と言って良い訳です。

これはですね、
日本でもかなり難しい局面になっているのですね。

地域によっては数例の患者さんが見付かり、
そこからまた数例が、という段階であれば、
しっかりとした接触者の追跡と隔離を行うことにより、
感染の封じ込めは可能と考えられますが、
北海道のケースはかなり厳しい局面になっていると思いますし、
愛知、東京、神奈川もギリギリのところに来ていると思います。
一方で和歌山は2月29日の新規感染者はなく、
感染者13名のうち8名が回復退院していますから、
封じ込めに成功した可能性が高いですよね。(2月29日現在)
こうした成功例をメディアは報道しませんが、
クラスター化しなければ、
適切な初動で封じ込めが可能だ、
ということを示した意義は大きいと思います。

この2週間が最も重要というのは、
そうした意味で、
この時期において、
現在行われている封じ込め策が、
失敗に終わるか成功に向かうかが、
ほぼ決まると言って良いのです。

僕も末端の1人の医療者として、
まずは自分の身を守ることに注意し、
それから周辺の人、
関わりのある患者さんと出来うる範囲で、
封じ込めの成功に向けまずは出来ることを日々やりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。
今日したことがよりよい明日に結び付きますように。

石原がお送りしました。
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