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「ロマンスドール」(映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ロマンスドール.jpg
鬼才タナダユキさんが過去に発表した小説を、
自らの脚本で監督も務めて映画化しました。

ラブドールの職人の男性と、
その乳房の型取りのモデルとして知り合った女性との、
性愛の顛末を描くというかなりマニアックな素材です。

主人公の男性に高橋一生さん、
モデルの女性に蒼井優さんというキャストで、
果たしてどのような映画になるのかしら、
と興味が沸きます。

昔日活ロマンポルノの斜陽期には、
こうしたポルノのような藝術のような、
変な映画が沢山ありましたね。
小劇場演劇でも好んで題材になりそうなお話です。

これね、ピエール瀧さんが逮捕前に出演されていて、
ラブドールの会社の社長という大事な役どころを演じているんですよね。
しかも、猥褻絡みで劇中でも逮捕されるのです。
そのためにお蔵入りになりかかったのだと思うのですが、
年も変わってある意味ほとぼりも冷め、
めでたくオリジナルのままに、
公開の運びとなったようです。

感想としては、
ちょっと掘り下げが甘いというか、
ぼんやりとした印象のある映画で、
口当りは悪くなく面白く観ることは出来るのですが、
昔の突き詰めたような性愛映画と比較すると、
淡泊で物足りない印象はありました。

蒼井優さんは素晴らしいんですよね。
当代随一の演技派女優と言って間違いはありませんし、
監督も分かっているので、
執拗に蒼井さんのアップを長回しで撮るんですよね。
それはそれでとても良いのですが、
性愛がテーマの映画であるのに、
蒼井さんはヌードにはなりません。
まあ、彼女的にNGなんですね。

でもね、この映画は蒼井さんの登場シーンで、
工場のシャッターがゆっくり上がってゆくと、
見えなかった顔がゆっくりと見えてくる、
という演出をしているんです。
「隠されたものが露になる」という、
とてもワクワクするカットです。
その後で乳房の型取りをする、
という話になり、
恥じらいながら着替えをして、
ワンピースの胸元をゆっくりと下ろすと、
顔が見えるのと同じ呼吸で、
乳房が姿を現すという構成になっています。

なかなかのセンスですよね。

でも、勿論乳房はNGなので、
そこで画面は蒼井さんの後ろ姿に、
切り替わってしまうんですね。

これはありなのかしら?

かなり疑問に感じます。

映画の後半は繰り返しセックスの場面があるのですが、
その部分も露出は基本的にないのです。

別に蒼井優さんのヌードが見たい、
ということではないのです。

ただ、この映画ではヌードになる必然性があるでしょ。
彼女生き写しのラブドールまで登場しているのに、
本物が裸にならないというのは、
映画として成立しないという気がするんですよね。
レートもPG12でしょ。
ラブドールがバンバン出て来て、
性愛がテーマの映画なのに、
家族同伴なら小学生もOKというのは、
ちょっと何か考え方が根本的に誤っているように、
個人的には思いました。

このままの設定なら、
ヌードがNGでない蒼井さん以外のキャストにするか、
逆に蒼井さんを使うなら物語自体を他の設定に変えるか、
その二択ではなかったかと思うのです。

そんな訳で、これで本当に良かったのかしら、
ラブドールを何か芸術品のように捉えて、
様式的なセックスシーンのみで、
普通の恋愛を描くことに意味があったのかなあ、
これならもっと普通の設定にして、
家具職人や日本酒職人にしても、
成立してしまうのではないかしら、
とそんな風に思ってしまいました。

台本も演出もやや凡庸でしたよね。
良い映画というのは、
1つの場面で2つ以上の意味を持たせるでしょ。
この映画にはそうしたところがないんですよね。
たとえば、高橋さんが部下と居酒屋で飲んでいる場面がありますが、
「ただ飲んでいるだけ」という意味しか、
そのシーンにはないんですよね。
これじゃまずいのではないかな、
というように思いました。

そんな訳で、
意外に拾い物なのではないかしら、
と思って観に行ったのですが、
うーん、見なくても良かったかな、
というくらいの印象でした。

勿論以上は完全に個人的な感想ですので、
作品自体を貶めるつもりはありません。
どんな作品も映画である限り僕は好きです。
その点はご理解の上お読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「AI崩壊」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
AI崩壊.jpg
入江悠監督が完全オリジナルの近未来アクション映画、
「AI崩壊」を完成させて、
今ロードショー公開されています。

これは日本の娯楽映画としては、
相当頑張った部類だと思います。
ハリウッドのB級のアクション映画や、
韓国のアクション映画の水準作と比較しても、
そう引けは取らないのではないでしょうか。

でもこれだけ頑張ったのに、
あまり批評などは良くないですね。

残念なことだと思います。

個人的には「ご苦労様」と言いたいです。

勿論かつての東宝特撮大作や、
角川映画と同じように、
「かなり背伸びした感」はあるのです。
「地球防衛軍」の、
地球を攻撃する宇宙人と富士の裾野で大決戦とか、
「妖星ゴラス」の、
地球をロケットで動かして星の追突を避けるとか、
「復活の日」の、
新型インフルエンザで人類絶滅とか、
それをこの低予算で、この技術力とスタッフでやるのですか、
それ無理ですよね、無理でもやるんですか、
どうするの?
というような感じの背伸び感です。

どの映画も公開当時は批評はケチョンケチョンでした。

でも今観ると結構カルトで面白いし、
東宝映画はその先見性や中毒性が、
その後世界的にも評価されたでしょ。

いつの時代にも、
日本映画の同時代の評価は、
専門家からただの映画ファンまで、
先見性がなく、
本当に頑張った映画人の、
足を引っ張る役目しか果たさないのではないでしょうか?

話を戻します。

入江監督は「22年目の告白」を観て、
これはオリジナルではないのですが、
ハリウッドや韓国映画の良いところを、
研究して換骨奪胎するようなセンスに感心しました。

今回の映画はしかも監督の脚本によるオリジナルで、
そのセンスは今回も随所に発揮されていました。

最初を2023年という、
今より数年後にもってきて、
そこからバババっと時の流れを早回しして、
2030年に進むというオープニングが上手いですよね。
最後の台詞を含めて、
大風呂敷を広げた話を、
最後に1つの家族の物語に帰着させる、
という作劇も定番ですが良いと思います。

主人公は医療用AIを開発した天才科学者で、
何故かAI暴走の犯人にされて追われるのですが、
超人的な働きで逃げ続けます。
そんな訳ないじゃん、と思うところですが、
そう突っ込まれるのを想定の上で、
主人公をスーパーマンにするのは、
これはハリウッド映画の呼吸だと思います。

これね、予告編とは映像が質感も含めて全く違うんですね。
多分予告編の段階で本編がまだ仕上がっていなくて、
ギリギリのタイミングだったのだと思うのですが、
それでいてしっかり全場面が撮り切れていて、
「あっ、このカットが撮れてない」
というようなところがないでしょ。
その辺のこだわりは凄いと思います。
角川映画はその辺が全然駄目でしたもんね。

キャストも非常に頑張っていました。
大沢たかおさん、賀来賢人さん、岩田剛典さん、
という3人がいずれも熱演で、
脇に至るまで、
出なくてもいいような特出みたいな人は、
殆どいなかったですね。
これも凄いと思います。

うーん、ちょっとほめ過ぎかも知れないな。

あくまで今の日本映画の水準でみれば、
という話なので、
期待し過ぎてガッカリはしないで下さい。
ほどほどの期待を持って、
温かい目で鑑賞して頂ければと思います。
(お前は誰だよ!)

でもこの5年くらいは映画をコンスタントに観ていて、
昨年くらいから、
日本映画はそう悪くないですよね。

もっと自国の頑張った映画を、
褒めて育てて上げても良いのではないかしら。

そんな風に思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス肺炎425例の特徴(NEJM) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナウイルス肺炎のまとめ.jpg
これは2020年2月5日付で、
the New England Journal of Medicine誌にウェブ掲載された、
新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染肺炎425例の臨床像をまとめた、
中国発の報告です。

間違いなく現時点においては、
この病気の最もまとまった報告です。

これは2019年12月から2020年1月に掛けて、
遺伝子検査で確定診断された事例のみの解析です。

この病気を疑う基準としては、
38度以上の発熱があり、
レントゲンもしくはCT検査において肺炎像があって、
白血球数は正常もしくは低下しているか、リンパ球数が低下していて、
3から5日間の抗菌剤による治療に反応しない、
という臨床的ガイドラインが提示されています。

425例の患者の年齢の中央値は59歳で、
15歳から89歳の事例が報告されています。
15歳未満の肺炎事例はなく、
56%が男性です。

10人の患者の濃厚接触者を観察した結果、
平均の潜伏期間は5.2日(95%CI: 4.1から7.0)、
患者に接触してから感染症状が出るまでの期間は、
95%が12.5日以内です。
感染の広がりの初期において、
感染者が2倍になるまでの時間は7.4日で、
ある人の症状が出てから、感染した次の人に症状が出るまでの時間は、
平均で7.5日(95%CI:5.3から19)です。
何も対策を講じなければ、
概ね1週間で感染者が倍になる、
というイメージです。
ある1人の感染者から直接感染する二次感染者の数を、
the basic reproductive numberと呼びますが、
その数値(R0)(アールノートと言います)
は2.2(95%CI: 1.4から3.9)と計算されています。

このR0が1を超えている限り、
感染は拡大し続けます。
SARSのR0は3くらいと算出されていましたから、
現時点での感染力はSARSより低いという可能性が高いのです。
徹底した感染の封じ込めにより、
このR0が1を下回るようになると、
時間は掛かっても感染は終息することになる訳です。

現状の待期期間が14日とされているのは、
このデータが元になっているからです。
潜伏期間にある人は、
ほぼほぼ14日以内には症状が出ているからです。
この場合の症状というのは、
最初に定義された基準のことです。
つまり、38度以上の熱などの症状という意味です。
ただ、濃厚接触者においては、
症状が揃わなくても検査は行われています。

小児に感染事例がないと言う現象は、
まだその理由は不明ですが、
不顕性感染がある以上、
小児に感染しないということはほぼ有り得ないので、
おそらく小児では感染しても軽症で重症化はしにくい、
という何らかの理由があるように思われます。
ただ、ウイルスの性質が変われば、
この点はそのままとは限りません。

今回の論文では患者の基礎疾患などの情報はありません。
何となく情報を小出しにして論文数を稼いでいる、
というような印象もなくはありませんが、
それは編集部も容認している今回のみの特例です。
ともかく分かったことから論文化して発表する、
という姿勢は正しい在り方で、
今後もサーチを続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大豆と発酵食品(納豆、味噌)の生命予後改善効果(多目的コホート研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大豆と発酵食品(納豆、味噌)の生命予後改善効果(多目的コホート研究).jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
大豆食品の生命予後に与える影響についての論文です。
有名な日本の疫学データを解析した日本発の研究です。

大豆に含まれているイソフラボンというポリフェノールには、
血管の平滑筋の増殖を抑えるなど、
動脈硬化を予防するような作用のあることが報告されていて、
心血管疾患の予防や、
高血圧の予防に有効であるという可能性が示唆されています。

ただ、動物実験では高血圧予防効果が報告されている一方で、
大豆蛋白の摂取と高血圧との関連を検証したデータを、
まとめて解析したメタ解析の論文では、
あるものでは血圧降下作用が認められたとされている一方で、
別のものでは有意な降下作用が認められていないなど、
その結果は一定していません。

ここで1つ原因として考えられるのは、
大豆食品と大豆発酵食品(味噌や納豆など)との違いです。

大豆に含まれるイソフラボンは、
腸内細菌の働きによって代謝されてから吸収されるので、
その吸収には個人差があってかなり不安定なのですが、
発酵食品に含まれているイソフラボンは、
アグリコン型と呼ばれる小分子となっていて、
腸内細菌によらずにそのまま吸収されるからです。

今回の研究は、
日本の有数の大規模疫学データである、
多目的コホート研究のデータを活用して、
この問題を日本人で検証しています。

対象となっているのは、
登録時点で年齢が45から74歳のトータル92915名で、
食事アンケートから得られた、
大豆製品、大豆発酵食品(納豆、味噌)、豆腐の摂取量と、
14.8年という長期の経過観察における、
生命予後との関連を比較検証しています。

その結果、
トータルな大豆の摂取量と総死亡リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

しかし、納豆や味噌の発酵大豆食品の摂取量で見ると、
それを5分割して最も多い群は、
最も少ない群と比較して、
女性で10%(95%CI: 0.83 から0.97)、
男性で11%(95%CI: 0.80から0.98)、
総死亡のリスクがそれぞれ有意に低下していました。

また、納豆の摂取量が多いほど、
両方の性別において心血管疾患による死亡リスクが、
有意に低下していました。

このように今回の日本の疫学データにおいては、
大豆の発酵食品による生命予後の改善効果が認められました。

大豆の発酵食品が健康に良さそう、
という点では多くのデータがありますが、
このような大規模データで生命予後への効果が確認された、
というような報告はこれまでにあまりなく、
今後の検証にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第51回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
第51回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
2月15日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「コロナウイルスの最新知識」です。

皆さん良くご存じのように、
おそらくはコウモリ由来と思われる新型コロナウイルス感染症が、
昨年12月から中国武漢市を中心に発生流行し、
感染者は世界に拡大して大きな問題となっています。

連日そのニュースが報道されない日はありませんが、
その実態は必ずしも明確ではありません。

同様の新型感染症の騒動としては、
2009年の所謂「新型インフルエンザ」が個人的には印象深く、
水際対策から隔離の問題、情報発信のあり方の問題、
死亡事例の解析から多くのデマ情報、
ワクチン開発からその接種、収束と、
一連の流れを市井の一医療機関として体験し、
それなりに勉強もしました。

その時と比較して今回がどうなのか、
というのは今の時点ではまだ未知数です。

ただ、はっきりと言えることは、
2月末くらいまでには、
その感染の広がりを含めて、
この病気をどのくらい怖がるべきかの実際は、
ほぼ明らかになると言うことです。

おそらくそれほどの感染力はなく、
重症化も少ないのではと想定はされますが、
まだ確たることは言えません。

今月中はなるべく人込みなどは、
移動しないのが賢明であるようには思います。

今回は「最新知識」と銘打ちましたが、
勿論私はこの分野の専門家ということではありません。
一般臨床をしている市井の医療者として、
現時点で調べ得る範囲のことを調べ、
皆さんに現時点で誤りではないと思える情報を、
「マスクはどうなの?」というような、
身近なレベルでお伝えしたいという趣旨のものです。

どうかその点はご了承の上お出で頂ければと思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
2月13日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

まあ、そんなこともないと思うのですが、
参加希望者多数の場合には、
いつもご参加頂いている方を、
優先させて頂くこともご了承下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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自然気胸の保存的治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
自然気胸の保存的治療の予後.jpg
2020年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
自然気胸の保存的治療の効果についての論文です。

痩せ型で胸幅の狭い若い男性で、
急に胸の痛みを感じ、
息がし難い症状が続くとしたら、
どんな病気が疑われるでしょうか?

そう、自然気胸ですね。

自然気胸は肺の表面にある嚢胞という袋が破けて、
肺が部分的に縮んでしまう病気です。
「自然」という表現はあまり適切なものとは思えませんが、
これはたとえば交通事故で肺が傷付いたことによる気胸のように、
肺の傷付くはっきりした原因がないのに起こる、
という意味合いです。

通常一定レベル以上の大きさの気胸では、
肋骨のすぐ上に穴を開けて、
そこに管を入れ、陰圧を掛けて、
肺を膨らませる治療を行ないます。
これを胸腔ドレナージと言います。
通常数日で肺は膨らみ、肺の穴は塞がるので、
それを確認して管を抜きます。
再度縮まないことを確認して、
治療は終了となる訳です。
仮にドレナージで充分に肺が膨らまない場合には、
手術治療が考慮されることになります。

この治療を要する気胸の大きさの目安は、
実はあまり明確な国際基準のようなものはなく、
国や地域によっても差があります。
日本の場合はレントゲンで見た場合のつぶれた肺が、
鎖骨より下に位置している場合を治療の適応としています。
ただ、これは2センチという規定の国もあれば、
3センチという規定もあるようです。

ドレナージによる気胸の治療は入院を要しますし、
出血などの合併症が生じることもあります。
その一方で自然気胸を治療しないで観察すると、
大きな気胸でも合併症や進行性などがない場合には、
一定期間で自然に肺が膨らんで、
自然に元に戻るケースが多い、
という研究結果もあります。

ただ、これは観察研究であって、
実際に患者さんを保存的治療とドレナージ治療とに分けて、
経過をみるような臨床試験は、
これまで行われたことがありませんでした。

そこで今回の研究では、
オーストラリアとニュージーランドの複数施設において、
中等度から高度の基礎疾患のない、
片側性の自然気胸の事例を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は入院の上胸腔ドレナージの治療を行い、
もう一方は説明の上痛み止めなどを渡して、
外来で経過観察の方針として、
8週間以内の肺再膨張の有無を比較検証しています。
患者さんはトータルで316例で、
経過観察は12ヶ月後まで継続されています。
気胸は6センチ以上肺が縮んだ状態が対象ですから、
比較的重い気胸の患者さんです。

その結果、
37例は充分なデータが得られませんでしたが、
8週間以内の治癒(再膨張)率は、
ドレナージ治療群が98.5%に対して、
保存的治療群が94.4%で、
当初の設定では両群には明確な差はなく、
保存的治療はドレナージ治療と比較して、
劣ってはいない(非劣性)と判定されました。

ただ、今回のデータはかなり多くの欠損のある不充分なもので、
ドレナージしなくても多くの自然気胸の事例は、
2ヶ月以内には元に戻る可能性が高い、
ということは言えても、
ドレナージをしなくても良い、
とまでは言えない結果であるように思います。

従って、この問題はまだ解決されたとは言えず、
今後の更なる検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺眼症の新規治療薬の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バセドウ病眼症の新治療.jpg
2020年のthe New England Journal of Medicineに掲載された、
甲状腺眼症の最新治療の効果についての論文です。

バセドウ病において眼球が突出し、
目蓋が完全に閉じなくなったり、
視力が低下したりすることがあり、
これをバセドウ眼症のように呼んでいました。

それが、バセドウ病以外でも、
橋本病など甲状腺に対する自己抗体が存在していると、
同じような症状の起こることがあることが、
次第に明らかになり、
最近では甲状腺眼症として総称することが一般的です。

ただ、その大多数がバセドウ病であることは、
間違いがありません。

甲状腺眼症の原因は必ずしも明らかではありませんが、
眼の周囲の組織、
つまり眼瞼や涙腺、目を動かす筋肉や、
眼球周囲の脂肪組織などが、
自己抗体による炎症を起こして腫れることにより、
症状が起こっていることはほぼ間違いがありません。

この病気が問題なのは、
バセドウ病自体のコントロールは良好であっても、
甲状腺眼症は出現し進行することがあるということと、
一旦進行した眼症を、
確実に改善するような治療法が、
現時点では存在しないということです。

僕が以前大学の内分泌の教室に在籍していた時には、
バセドウ病の治療で甲状腺機能が急激に変動し、
機能低下を来したような時に眼症は悪化する、
というように教わりました。

実際にそうだと思われるようなケースもあるのですが、
間違いなく安定したコントロールであったのに、
ある時から急激に眼症が進行して、
目も閉じられない状態になり顔貌自体が大きく変化した、
というような事例も複数経験しています。

甲状腺眼症は甲状腺に対する自己抗体が、
目の周囲の組織にも炎症を起こしていることは、
ほぼ間違いのないことなので、
治療としてはパルス療法を含むステロイドの全身的な使用と、
目の後ろ側へのステロイドの注射、
また局所への放射線治療が、
以前から行われています。
ただ、その奏効率はそれほど高いものではなく、
副作用や有害事象も決して少なくはありません。

もっと抜本的な治療が強く望まれているのです。

そこで注目されているのが、
インスリン様成長因子1受容体(IGF-IR)の阻害剤の注射薬の有効性です。

インスリン様成長因子というのは、
その名前の通りインスリンに似た作用で、
組織の増殖や成長を促進する物質で、
この受容体は目の周辺組織に存在していて、
その過剰な発現がバセドウ病では認められることが確認されています。
バセドウ病の患者さんにおいて、
その受容体に結合する免疫グロブリンが、
増加していることも確認されています。

こうして知見からは、
甲状腺眼症がIGF-IRを介した反応によって、
全てではないにしても起こっている可能性があり、
それを選択的に阻害することが出来れば、
甲状腺眼症が改善するのではないか、
という可能性が示唆されます。

そこでまだ日本で実用化はされていませんが、
IGF-IRのモノクローナル抗体であるテプロツムマブを使用して、
IGF-IRの反応を阻害することにより、
甲状腺眼症が改善するかどうかの臨床試験が、
アメリカとヨーロッパの複数の専門施設で行われました。
その第二相臨床試験の結果は、
2017年のNew England…誌に論文として掲載され、
同年に当ブログでも早速記事にしています。

対象はバセドウ病の治療中に、
中等度以上の甲状腺眼症を発症して9か月以内の患者さんで、
年齢は18から75歳の112名を登録して2から6週間の経過観察を行い、
甲状腺機能が正常などの条件をクリアした88名を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分け、
一方はテプロツムマブの静脈注射を3週間に1回、
24週間に渡って継続し、
もう一方は偽の注射を同じように施行して、
24週の時点での眼症の症状の程度を評価します。
また治療終了後4週後の状態も確認されています。

病状の評価はClinical activity score(CAS)が主に用いられていて、
これは後眼窩の自発痛や違和感、上方視下方視時の痛み、
眼瞼の発赤、眼瞼の腫脹、結膜の充血、結膜の浮腫、
涙丘の発赤腫脹の7項目のうち、
3項目以上が陽性で活動性の眼症としているもので、
これが4以上であることが登録の条件となっていて、
治療後に2ポイント以上下がるか、
眼突が2ミリ以上改善することで有効と判断しています。

患者さんは抗甲状腺剤で治療をされているか、
放射性ヨードや手術による治療を受け、
甲状腺ホルモン剤の補充療法を受けている方が大部分です。

その結果…

治療24週で有効と判定されたのは、
テプロツムマブ群で42例中69%に当たる29例であったのに対して、
偽薬群では45例中20%に当たる9例で、
有意にテプロツムマブは眼症の症状を改善していました。
この差は治療開始6週の時点で既に有意になっていて、
治療終了後4週の時点でも、
リバウンドは認められませんでした。

重篤な有害事象はテプロツムマブ群で5例認められていて、
橋本脳症や炎症性腸疾患などとなっていますが、
例数が少ないのでここから安全性の判断は困難です。
ただ、免疫系への強い作用が、
リスクに結び付く可能性も否定は出来ません。

今回の有効率はかなり画期的なもので、
これまで確実に有効な治療が存在しなかった甲状腺眼症において、
非常に大きな意味を持つものです。

ただ、例数は少なく観察期間も短い点、
MRIなどの検査で病態の改善が確認されていない点など、
問題点も多い臨床試験であったことは確かでした。

そして、今回新たに発表された第三相の臨床試験では、
ほぼ同一の治療を同一期間施行した上で、
治療の有効性の判定基準は、
治療24週の時点での眼突の2ミリ以上の改善、
という1項目となっていて、
副次的な評価として、
臨床的な改善度など複数の指標が利用されています。
また、治療群の6例については、
治療前後のMRI検査で病変の評価を行っています。
症例数は治療群が41例で偽注射のコントロール群が42例ですから、
第二相の試験とそれほどの差はありません。

その結果、
今回主要評価項目である眼突の改善効果は、
治療群では全体の83%に当たる34例に認められたのに対して、
コントロール群では10%に当たる4例にしか認められず、
明確な有効性が確認されました。
その実際の有効性はこちらをご覧下さい。
バセドウ病眼症の画像.jpg
一番上の段のAは、
偽薬を使用したコントロールの治療前後で、
左の使用前より右の使用後で眼突は悪化しています。
2段目のBは治療群の治療前後で、
右の治療後においては、
格段に眼突が改善していることが分かります。
一番下のCは治療前後のMRI画像で、
外眼筋の肥大や眼窩周囲の脂肪の増加が、
治療により改善していることが分かります。

結果として、治療群の全ての患者において、
有効の基準には達していなくても、
何らかの眼突の改善が認められていました。

かなり画期的な結果と言って、良いように思います。

ただ、この結果は第二相臨床試験とほぼ同じ条件でありながら、
前回より格段に良い結果となっていて、
その点はちょっと引っかかります。

いずれにしても、
長期の有効性や安全性については今後の課題として、
ここまで明確な有効性のある治療はこれまでにないことは間違いがなく、
今後の検証の積み重ねと実用化を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「リチャード・ジュエル」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
リチャード・ジュエル.jpg
クリント・イーストウッド監督の新作は、
1996年のアトランタ爆弾テロ事件で、
FBIとメディアに犯人と名指しされて冤罪になりかけた、
警備員の実話の映画化です。

イーストウッド監督作は、
最近は毎回実際の事件を扱ったドラマが続き、
上映時間の短い、事実をなぞっただけのような、
薄っぺらな作品もあったのですが、
前作の「運び屋」は、
ユーモアを交えペーソスもある円熟した語り口で、
久しぶりに堪能した思いがありました。

今回の新作はその好調を持続しつつ、
より進化させたという感じもあって、
今年一番と言って良い感銘を受けました。

今年観た映画の中で、
気が早いですが、
「パラサイト」と「リチャード・ジュエル」は、
ほぼ間違いなくベスト5に入れると思います。

かなり手垢の付いた冤罪物なのですが、
主人公で爆弾テロの自作自演を疑われるジュエルが、
非常に複雑な人格として描かれていて、
実際にその時に報道などを見ていれば、
彼が犯人だと信じてしまうだろうな、
と思えるような説得力があります。

まずジュエルという人物を最初にしっかり描き、
弁護士との出逢いも描きながら、
テロ事件に至るという展開がさすがです。

段取りとしても、
かつての勤め先の上司が彼を告発し、
それがプロファイリングと一致したので、
FBIが嫌疑を強めたタイミングで、
捜査官が女性記者にそのことをリークしてしまい、
それが報道されたことで、
FBIも彼が犯人として動かざるを得なくなる、
という流れに説得力があり、
かつての日本の冤罪事件なども思い出してしまいます。

その後の展開は予想通りなのですが、
権力の怖さというのを強く感じますし、
クライマックスの主人公と弁護士の逆襲は、
物語としてはご都合主義にも感じますが、
実話であるという裏付けがあるので、
それほど違和感を感じることなく、
主人公の顛末に素直に共感出来ます。

複雑な人物をリアルに演じた、
ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザーと、
弁護士のサム・ロックウェルが良く、
最近のイーストウッド映画としては、
映画的な技術水準も高くて、
素直に良い映画を観た、
という感想を持つことが出来る作品です。

これはもう安心して皆さんにお勧め出来る1本です。

お時間のある方は是非ご覧下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ラストレター」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ラストレター.jpg
岩井俊二監督の新作「ラストレター」が今公開中です。

岩井監督は好きかと言われると微妙なところで、
「Love Letter」「スワロウテイル」は封切りで観ましたが、
あまりピンとは来ませんでした。

ただ、数年前の「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、
細部まで技巧が凝らされ、
先の読めない展開に惹き付けられました。
黒木華さんの演技も最高でした。

それで今回も期待をして出掛けました。

うーん、今回は微妙でしたね。

「Love Letter」の中山美穂さんと豊川悦司さんが特別出演していますが、
基本的には別の手紙を巡るお話です。

松たか子さん、広瀬すずさん、福山雅治さん、
森七菜さん、神木隆之介さんと、
これでもかというくらいに人気者や実力俳優を揃え、
脇には庵野秀明監督や小室等さんなど、
その道の大物まで出演させています。

凄いですね。

松たか子さんのお姉さんが、
亡くなってお葬式というところから物語は始まり、
自分もかつて好きであった、
姉の同級生の福山雅治さんと、
再会することで物語が動いて行きます。

1人の女性の死から、
家族を含めた周辺の人たちの、
心の揺らぎのようなものを綴った重層的な物語で、
「代筆」というキーワードから、
世代を超えた恋心が複雑に絡まり合います。
世代の違う血縁の女性を同じ役者さんが演じることで、
時間が円環的に閉じてゆく感じも強調されています。

オープニングの滝の場面がちょっと意表を突く感じで、
その空気感に惹き付けられます。
前半は松たか子さんを中心にストーリーは展開し、
そこからバトンタッチする感じで、
後半は福山雅治さんのストーリーになり、
そこに広瀬すずさんと森七菜さんのパートが、
挟まって展開されるという流れです。

物語の骨格が明確化される中段までは、
重層的な語り口や、
何処に動くか分からない、
先の見えない構造に魅力があり、
興味深く見ることが出来ました。

ただ、松たか子さんがその心情を吐露して以降は、
主人公2人の過去の愛情への思いが、
執拗に語られるだけの展開となり、
そこに共感と強い魅力を感じられれば、
惹き付けられるのでしょうが、
個人的にはあまりそうした気分にはならず、
「くどいなあ」と感じるだけで終わってしまった、
というのが正直な感想でした。

そんな訳で個人的には乗れなかったのですが、
如何にも岩井監督らしい力作ではあり、
監督のファンであれば堪能出来る作品ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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