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電子タバコによる肺障害のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
電子タバコ肺障害の組織所見.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
今話題の電子タバコによる肺障害についての短報です。

アメリカで今大きな問題となっているもので、
日本でも対岸の火事とは言えないものです。

タバコの代替品として、
急速にその利用が広まっているのが、
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。

非燃焼・加熱式タバコというのは、
葉タバコを燃焼させる代わりに、
加熱して吸引することにより、
その煙による害を和らげようという商品で、
基本的にはタバコとその性質は同じです。

一方で電子タバコは、
タバコに似た匂いのある液体を、
専用の器具で蒸気にして吸引するもので、
タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、
日本ではニコチンを含む商品は認められていません。

非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、
間違いがありませんが、
電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、
まだ結論が出ていません。

2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、
非燃焼・加熱式タバコのみならず、
電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、
使用者から拡散するエアロゾルが、
周囲に悪影響を与える可能性があるので、
飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、
とされています。

ただ、その根拠がそれほど現時点で明確、
という訳ではなく、
禁煙治療に一定の有効性があるという報告もあり、
それを後押しするような意見もあります。

ところが…

直近の2ヶ月間にアメリカの30の州において、
電子タバコの吸引後に発症した、
450件を超える重篤な肺疾患の事例が報告され、
そのうち死亡事例も5件を超えています。

共通する症状は咳や呼吸困難や胸部痛ですが、
吐き気や嘔吐、下痢を伴う事例も複数報告されていて、
だるさや発熱、体重減少を伴う事例もあります。

こうした状況を踏まえてアメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)は、
原因がはっきりするまで電子タバコの使用を控えるように警告しています。

アメリカではニコチンを含む電子タバコも流通していますが、
報告はニコチンのあるなしに関わらず認められていて、
どうやら電子タバコによる肺臓炎などの症状は、
ニコチンなどのタバコ特有の成分とは、
無関係の現象という可能性が高いのです。

それでは危険ではない筈の電子タバコの、
一体何が病気の原因となっているのでしょうか?

1つの可能性は電子タバコの吸引器を利用して、
大麻由来の成分であるテトラヒドロカンナビノールや、
カンナビスオイルを吸引している人がアメリカでは多く、
それが影響しているという可能性があります。

もう1つ電子タバコに含まれている可能性のある成分のうち、
ビタミンEから得られる油であるビタミンEアセテートが、
吸引することにより有毒な影響を肺組織に与えるのではないか、
という仮説があります。

ただ、これもまだ実証されたものではありません。

今回の報告は電子タバコの吸引後に発症した、
臨床的にその関連が疑われる肺障害の患者さん、
トータル17名の生検の肺組織像の検証を行っているものです。

その結果、組織所見の多くでは、
気道中心性の化学性肺炎と呼ばれる所見を認めました。
脂肪を吸引した泡沫状マクロファージや、
肺細胞の細胞質の空胞化という所見が特徴的に認められました。
リポイド肺炎という病態があり、
これは脂肪の吸引を原因として、
脂肪を貪食したマクロファージが出現する、
比較的軽症の肺炎のことですが、
今回の検証では電子タバコ関連の病変は、
リポイド肺炎の診断基準を満たすものではなく、
その病変もより重症度の高いものでした。

現時点では何らかの化学物質の吸引による、
肺の急性の変化がその病態であると思われますが、
その物質の特定を含めて、
まだ不明の点が多いのが実際のようです。

いずれにしても、
電子タバコによる肺障害は日本においても起きる可能性は否定出来ず、
その使用はアメリカと同じように、
現時点では慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病の患者さんの熱中症予防について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病と暑熱順化.jpg
2019年のJAMA誌のレターですが、
糖尿病の患者さんの熱中症予防についての研究です。

つい最近掲載されたもので、
ちょっと季節外れという感じはあるのですが、
興味深いテーマなので、
忘れないうちに記録しておくことにしました。

最近夏場になると必ず問題となるのが熱中症です。

熱中症は高温の状態に身体がさらされることにより、
体温を一定レベルに保とうとする身体の調節機能を超えて、
異常に体温が上昇して、
高度の脱水や電解質異常など、
身体に深刻な影響を与える病気です。

高温にさらされた時に、
体温の上昇を防ぐための身体の仕組みは、
主に沢山の汗をかいて、
その汗が蒸発する気化熱で身体を冷やすことです。

従って、
高温の環境において速やかに身体が反応し、
より多くの汗をかくことが重要となります。

熱中症になりやすい病気として、
指摘されることが多いのが糖尿病です。

これは何故かと言うと、
糖尿病では脱水状態になりやすく、
脱水状態では発汗量が低下するので、
体温を下げる力が弱いということが、
まず考えられます。

また、糖尿病が進行すれば、
自律神経障害を合併していて、
そのために皮膚表面の血流が低下し、
暑さを感じた時の身体の反応も悪い、
というような自律神経の関与も想定される要因の1つです。

ただ、こうした推測はあっても、
実際に糖尿病の患者さんとそうでない人を比較して、
熱中症のなりやすさを比較したようなデータは限られたものしかありません。

今回の研究はカナダにおいて、
運動習慣のある50歳から70歳の、
糖尿病の患者さん17名と、
年齢などをマッチングさせた、
糖尿病のないコントロール17名に、
40℃という高温環境で、
1日90分のサイクリングの運動を施行し、
その時の発汗による体温調節反応を比較しています。

その結果、
コントロールと比較して糖尿病の患者さんでは、
運動に反応した体温調節反応は有意に低下していました。

そこで、
高温に身体を慣らすために、
最大酸素摂取量の半分程度の負荷の運動を、
1日90分で7日間連続し、
その後に同じ高温下の運動を行うと、
その体温調節反応の改善は、
コントロール群をしのぐレベルになっていました。

つまり、
糖尿病の患者さんでは通常の状態での、
高温時の体温調節反応は低下していて、
発汗量も少ないのですが、
1週間程度の順化の時間があると、
その改善は大きなものが期待出来る、
ということになります。

熱中症になりやすい病気を持つ患者さんの方が、
より積極的に暑さに身体を慣らすことが必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第48回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
48回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
10月19日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「脂質異常症の最新知識」です。

脂質異常症というのは、
以前の高脂血症とほぼ同じ意味の病名で、
HDLコレステロールについては、
低いことが動脈硬化のリスクになるので、
そうした名称に変わったのです。

「悪玉コレステロール」と言い換えられることの多い、
LDLコレステロールは、
組織に運ばれているコレステロールのことで、
それ自体は必要なもので何ら悪玉ではありませんが、
その数値が上昇することにより、
心血管疾患、特に心筋梗塞などの虚血性心疾患が進行し、
一旦そうした病気を起こしたような人では、
スタチンというコレステロール降下剤を使用することにより、
その再発が予防されることが明確になったことから、
「動脈硬化の予防のためにコレステロールを下げる」
という治療が確立されました。

ただ、コレステロールを下げることによる脳卒中の予防効果は、
心筋梗塞ほど明確ではありませんし、
病気によってはコレステロールが低いことが、
リスクになるという場合もあります。

コレステロールを下げることが常に健康に良い、
とも言い切れないのです。

コレステロールと並び評されることの多い中性脂肪については、
より明確なことが分かっていません。
中性脂肪の高値が独立して心血管疾患のリスクであることは、
ほぼ間違いがありませんが、
その数値は食事などによる変動が大きく、
その安定した評価には成功していません。

また、スタチンのような確実性のある降下剤が、
中性脂肪にはなく、
その病気の予防や予後改善に対する有効性も、
確立しているとは言えません。

低糖質という観点から言うと、
脂肪の多い食事が見直される流れになります。

そこで問題となるのは脂肪の質と内容で、
EPAやDHAに代表されるω3系脂肪酸の健康上のメリットも、
近年の研究によりクローズアップされるようになりました。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
10月17日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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男性ホルモンの女性の性欲低下に対する有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロンの女性への効果.jpg
2019年のLancet Diabetes & Endcrinology誌に掲載された、
女性に対して男性ホルモンのテストステロンを使用するという、
興味深い治療法の評価についての論文です。

性ホルモンには女性ホルモンと男性ホルモンとがあり、
基本的には女性は女性ホルモンを分泌し、
男性は男性ホルモンを分泌しています。

ただ、それでは女性は100%女性ホルモンのみを分泌しているかと言うと、
実はそうではなくて、
女性も男性の10分の1から20分の1程度の男性ホルモンを作り、
分泌しています。

この女性における少量の男性ホルモンが、
どのような働きをしているのかは不明の点が多いのですが、
筋力を維持し増進するような作用は男性ホルモンに強いので、
女性の筋力維持の下支えになっているという考え方は出来ます。
そして、もう1つほぼ明確なのが、
性欲や性衝動の維持に、
女性における男性ホルモンが影響しているという知見です。

そのため、性欲減退を訴える主に閉経後の女性に対して、
男性ホルモンのテストステロンの製剤を、
使用することがしばしば行われています。

ただ、その有効性や安全性についてはまだ不明の点が多く、
国際的なガイドラインのような物も、
現時点では存在していません。

今回の研究はこれまでの女性に対する男性ホルモン治療を扱った、
臨床試験のデータをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析で、
これまでの36の介入試験の、
トータルで8480名の患者データが解析されています。

その結果、
性欲減退のある閉経後の女性に対する男性ホルモンの治療は、
偽薬や女性ホルモン製剤との比較において、
性機能を有意に改善し、
性欲減退に対する効果が確認されました。

その使用により体重増加や体毛の増加、
ニキビなどが認められたものの、
概ね有害事象は軽微で、
内服の製剤より外用剤において、
より有害事象は少なくなっていました。

このように閉経後の女性で、
性欲減退などの性関連の愁訴がある場合には、
外用剤としてテストステロン製剤を使用することには、
一定の有効性と有益性が認められるようです。

日本では一般にはこうした試みは、
まだあまりされていないと思いますが、
高齢化社会においては、
こうした治療も重要であるという側面もあり、
今後の検証や適正なガイドラインの作成を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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中性脂肪降下剤フェノフィブラートの心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フェノフィブラートの新規エビデンス.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
中性脂肪降下剤の心血管疾患予防効果についての論文です。

コレステロール特にLDLコレステロールが高いことが、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクになることは、
多くの疫学データにより確認されていて、
スタチンというコレステロール降下剤を使用することで、
そのリスクが高い人においては、
心血管疾患の予防効果のあることも実証されています。

ただ、心血管疾患のリスクのあるメタボリックシンドロームの人に、
スタチンで充分にコレステロール値を低下させても、
それでメタボのない人と同じようにリスクが低下することはありません。

つまり、心血管疾患の予防のためには、
コレステロールを下げるだけでは充分ではないのです。

それでは、他に介入可能なリスクは何かあるのでしょうか?

その候補の1つとして想定されているのが中性脂肪です。

中性脂肪の高値が、
コレステロールとは独立して、
心血管疾患のリスクであることは、
ほぼ間違いのない事実であると考えられています。

ただ、中性脂肪は食事などによる変動が非常に大きく、
どのような基準で低下させることが、
心血管疾患の予防に結び付くのか、
というような点については明確なことが分かっていません。

中性脂肪を低下させる薬として、
フィブラート製剤と呼ばれる薬剤が、
一般臨床において使用されていますが、
その有効性はスタチンほど明確には証明されていません。

フェノフィブラートは代表的なフィブラート製剤の1つですが、
2000年代初頭に糖尿病の患者さんで施行された介入試験では、
トータルには治療による心血管疾患の予防効果は確認されませんでした。
ただ、サブ解析では動脈硬化のリスクの高い脂質異常症群において、
一定の予防効果が示唆されました。

この問題はまだ結論が出ていないのです。

今回の疫学研究は韓国のもので、
40歳以上でメタボリックシンドロームがあり、
スタチンの治療をしている29771名を抽出し、
そのうちの2156名はフェノフィブラートとスタチンを併用していたので、
この2156名を年齢などで1対5にマッチングさせた、
スタチン単独治療の8549名と比較して、
スタチンに上乗せされたフェノフィブラートの、
心血管疾患予防効果を検証しています。
メタボの基準の1つとなる腹囲は、
日本では男性85センチ以上、女性90センチ以上ですが、
今回の韓国の基準は男性90センチ以上、女性80センチ以上で、
これは欧米の基準に準じたものです。

その結果、
スタチン単独治療と比較して、
フェノフィブラートの上乗せ治療は、
心血管疾患のリスクを、
26%(95%CI: 0.58から0.93)有意に低下させていました。

今回の検証は、
最初から患者さんを登録して行うような試験ではないので、
それほど信頼性の高いものではありませんが、
中性脂肪の予防効果は、
日本を含めて東アジア地域の臨床データで主に確認されていて、
東アジアにおいてはこうした薬の有効性が高い、
という可能性は否定出来ません。

今後より精度の高い臨床試験において、
こうした治験が検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ジョーカー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ジョーカー.jpg
バットマンのコミカルな悪役ジョーカーを、
70年代のアメリカニューシネマのスタイルで、
ひたすら救いなく暗い物語として再構築した、
話題の映画に足を運びました。

これはね、映像のスタイルからタイトルやエンドクレジットまで、
もろアメリカンニューシネマをなぞった映画で、
ほぼほぼ「タクシードライバー」です。
かつての「タクシードライバー」の主役であった、
ロバート・デ・ニーロを、
過去の笑いの帝王として登場させ、
彼を○○することにより、
新しい悪の象徴が誕生する、という物語になっています。

体裁は「バットマン」の前日談で、
ニューヨークの並行世界のような、
ゴッサムシティが登場し、
1970年代から80年代というテイストで、
少年期のブルース・ウェイン(バットマン)が登場します。

ジョーカーを演じたホアキン・フェニックスの怪演は、
好き嫌いはともかくかなりのインパクトがありますし、
彼がデニーロと対決する場面は、
色々な意味で象徴的であり衝撃的です。

バックグラウンドには色々と仕掛けがありますが、
冗談で渡された拳銃が不意に火を噴くところから、
社会の阻害された無垢な善人が、
悪の権化に変貌してゆくというのも、
犯罪映画の典型的なパターンで、
ワンカットで不意打ちのように銃が火を噴いて相手が倒れるのは、
黒沢清監督の映画も彷彿とさせます。
これを元をたどれば、
70年代のB級アクション映画のスタイルです。

このようにかなり意図的にノスタルジックで、
過去の再構築的な犯罪映画ですが、
問題はそれがあまりバットマンの世界と溶け合ってはいないことで、
ジョーカーの扮装にしても、
ウェインの大邸宅にしても、
そうしたものが登場する途端に、
画面は噓臭くなってしまいます。

この古典的な暗黒犯罪映画と、
DCコミックの世界の水と油の融合を、
「これもありだね」と思うか、
「いくら何でも無理があるじゃん」と思うかが、
この映画を容認出来るかどうかの分かれ目で、
個人的には僕は駄目でした。

何か珍妙な映画ですね。

「タクシードライバー」には、
何が起こるか分からないようなショックがあるでしょ。
予備知識なく観ていると、
ラストにあんな風な過激な描写になるとは想像出来ないので、
それが面白いんですよね。
今回の「ジョーカー」は話は同じなのですが、
最初から「悪の誕生」という前提が出来てしまっているので、
話に意外性や意外な展開が皆無でしょ。
それはもう仕方のないことなのですが、
矢張り映画としてはガッカリとは思うのです。

それから、笑いの世界を描いていながら、
スタンダップコメディの世界とか、
あまりそれらしく描かれていないですよね。
せっかくコメディ畑の監督を起用して、
おそらくそうした狙いが当初はあったのではないかと思うのですが、
それが全く活かされていないのが、
これも残念に感じました。
そこは主役の役作りのせいかも知れないですね。
彼の演技のトーンと、
笑いの世界は正反対のように思えるからです。

そんな訳で個人的にはあまり乗れませんでした。

ただ、完成度の高い映画ではあると思いますし、
好きな方は好きなタイプの映画ではないかと思います。

確実に万人向けではなく、
絶賛の著名人のコメントの8割くらいは、
多分「言わされコメント」なので、
その点は注意の上お出かけ下さい。
「とても仰々しくリメイクされたタクシードライバー」
というのがおそらくこの映画の本質です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ホテル・ムンバイ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ホテル・ムンバイ.jpg
2008年のインドの同時多発テロ事件を扱った、
オーストラリアとインド、アメリカの合作映画を観て来ました。

監督はオーストラリアの人で、
キャストは多国籍ですが、
ほぼインドで撮影され、
英語とヒンドゥー語の入り混じる、
とてもリアルな仕上がりになっています。

2008年の実話がモデルで、
イスラムの過激派の指示により、
10代くらいのテロリストがムンバイの町に送り込まれ、
駅などの街の中心地で無差別に銃を乱射し爆破を繰り返した後で、
高級ホテルに集結してホテルの客やスタッフを、
こちらも徹底的に無差別に殺戮してゆきます。

主人公はインド人のホテルマンで、
彼ばかりではなくテロリストを含めた多視点で、
この壮絶で悲惨なサバイバルが再現されます。

スタイルはハリウッドのアクション映画に近いような感じで、
ほぼ「ダイ・ハード」なのですが、
主人公のブルース・ウィリスのいない「ダイ・ハード」です。
後半は現実の映像とドラマの入り混じる、
昔のオリバー・ストーンみたいなタッチになります。

これは相当怖いです。

作りはアクション映画なのですが、
内容はリアリズムなのですよね。
必死で逃げるのですが、子供のような兵士に、
無雑作にバンバン殺されます。

僕達はもう昔観ていたアクション映画と同じ世界に生きていて、
いつ殺されるのかも分からない、という事実を、
とてもリアルに突き付けられます。
それでいて昔の映画のようなヒーローは何処にもいません。
いつ来るのかも分からない政府の特殊部隊を期待して、
必死に隠れ、逃げる以外にはないのです。

怖いですよね。

こんな身も蓋もないような映画は、
昔は成立しなかったと思うんですよね。

それを成立させてしまったのが凄いし、
今という時代はそこまで来てしまったのだな、
という気分にもなります。

ラストまで観ると、
主人公は矢張り多くのホテルマンで、
彼らが客を守ろうと必死に戦った、
ということが主眼になっていることが分かります。

ただ、それを殊更にフィクションにして盛り上げていない、
という点がこの映画の1つの美点で、
人間というのは結局与えられた役柄を生きていて、
それがテロリストであればそうなり、
「お客様が神様」であればそうなり、
「ホテルの従業員を見下す金持ち」であればそうなる、
というだけの話のようにも思えます。
命も確かに惜しいのだけれど、
子供のために自分を犠牲にしよう、
という気持ちにもなる一方、
家族がいるから、逃げてしまおう、
という気持ちにもなる訳です。
自己犠牲というのは1つの人間の美点であるけれど、
それを美化し過ぎるとテロリストにむしろ近づいてしまう。
そんな怖さも同時に感じました。

こうした多視点の魅力、
善悪や正義や人間はどうあるべき、
というような事項を1つに固めないで提示する、
というところがこの映画の素晴らしさだと思いますが、
その一方でピントのはっきりしない、
何かすっきりしない映画になっていることもまた事実です。
この辺は難しいところだと思います。

ディテールとしては、
テロリストを遠隔指示している指導者が、
CNNを見ていて、
閉じ込められた客からの情報などがテレビで流れてしまうので、
それで脱出作戦が見抜かれてしまう、
という件などは、
現代ならではの情報の怖さで印象に残りました。

いずれにしても現代の恐怖と、
その中での人間の本質をリアルに活写した力作で、
今年見逃せない1本であることは間違いがありません。

お時間のある方は是非。

怖いですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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身長が高く足が長いほど糖尿病にならない? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DMと身長との関係.jpg
2019年のDiabetologia誌に掲載された、
身長と2型糖尿病との関連についての論文です。

身長が低いことが糖尿病のリスクになる、
逆に言えば身長が高いと糖尿病にはなりにくい、
というのは、
主にヨーロッパの信頼のおける疫学データにおいて、
示されている知見です。

しかし、何故低身長だと糖尿病になりやすいのか、
というような点については、
明確なことは殆ど分かっていません。

これは糖尿病ばかりではなく、
心筋梗塞や脳卒中のような心血管疾患のリスクについても、
同じ疫学研究では、
低身長では病気になり易いという結果が得られています。

遺伝子変異によって病気のリスクを解析する、
というタイプの研究が最近は流行りですが、
最近のそうした検証においても、
矢張り身長と糖尿病、そして心血管疾患リスクとの間には、
一定の関連が見られるという結果が出ています。

今回の研究はドイツにおいて、
大規模な一般住民の疫学データから、
無作為に2500名を抽出し、
身長と糖尿病との関連を検証しているものです。

7年の経過観察において、
年齢や他の心血管疾患のリスクなどを補正した結果として、
男女とも高身長は糖尿病発症リスクの低下と関連していました。
身長が10センチ高くなると、
男性の糖尿病発症リスクは41%(95%CI: 0.47から0.75)、
女性の糖尿病発症リスクは33%(95%CI:0.51から0.88)、
それぞれ有意に低下していました。

身長を座高と足の長さで分けて解析すると、
女性では座高も足の長さも同程度に糖尿病リスクの低下と関連していましたが、
男性では主に関連が見られたのは足の長さのみでした。

他の心血管疾患リスク因子や代謝のマーカーとの関連で見ると、
身長の影響は肝脂肪などの内臓脂肪と関連が大きく、
特に女性においては、
低身長では内臓脂肪が多い傾向があることから、
その点が糖尿病リスクの増加と、
関連している可能性が示唆されました。

このように、
今回の検証でも身長と糖尿病リスクには、
一定の関連が見られていて、
これがヨーロッパ人種や地域に限った現象であるのか、
もっと広く関連のあることなのかはまだ不明ですが、
興味深い知見であることは事実で、
今後のメカニズムを含めた検証にも注目したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SU剤とDPP4阻害剤のリスク比較(2019年直接比較試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DPP4阻害剤と心血管疾患リスク.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
今臨床で使用されている、
代表的な飲み薬の糖尿病治療薬2種類を、
心血管疾患リスクに関して直接比較した臨床試験の論文です。

2型糖尿病の治療薬として世界的に第一選択の薬は、
ビグアナイト製剤のメトホルミンです。

しかし、メトホルミンのみで目標となる血糖コントロールが得られない時には、
そこに通常併用する形で他の治療薬が使用されます。

こうした場合に使用される薬剤として、
最も広く使用されて来た薬が、
SU剤というインスリン分泌の刺激剤です。

SU剤はインスリン分泌細胞に結合して、
強力にインスリン分泌を刺激する薬です。
飲み薬としては、
血糖降下作用も最も強力です。

ただ、その強力な作用のために、
重症で長引く低血糖が多いことと、
インスリン分泌が多くなるために、
体重増加が起こりやすいことが欠点です。

近年インクレチン関連薬と言って、
SU剤とは別個のメカニズムにより、
自然に近いインスリン分泌を促すタイプの薬と、
SGLT2阻害剤と言って、
尿への糖の排泄を促進するという、
全く新しいメカニズムの薬が開発され、
いずれもSU剤と比較して、
重症の低血糖を起こし難く、
体重増加も来し難いことが確認されています。

更に現在2型糖尿病の最も重要な治療目標と言って良い、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防効果においても、
GLP1アナログというインクレチン関連薬の注射剤と、
一部にSGLT2阻害剤において、
心血管疾患のリスクを低下させたり、
その生命予後にも良い影響を与えたとする臨床データが、
相次いで報告され注目を集めています。

SU剤には、低血糖を起こし易いだけではなく、
その使用継続により心血管疾患のリスクや、
死亡リスクにも悪影響を与えるのでは、
というイメージがあります。

これが事実であるとすれば、
2型糖尿病の治療薬としてSU剤は使用するべきではなく、
インクレチン関連薬やSGLT2阻害剤をもっぱら使用するべき、
ということになります。

ただし…

SU剤が低血糖を起こし易いことは事実です。

しかし、生命予後や心血管疾患のリスクにおいて、
本当に他の薬剤より劣っているのか、
という点については、
あまり新しいデータはなく、
直接比較のような試験もほとんどないのが実際です。
多くは観察研究かメタ解析で、
個々の臨床データは小規模で信頼性も低いものが多いのです。

今回の研究は、
SU剤とインクレチン関連薬のDPP4阻害剤を、
世界規模で厳密な方法で直接比較したもので、
以上の経緯から、
糖尿病の臨床において非常に画期的な意義のあるものなのです。

世界43か国の607の医療機関において、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cが6.5から8.5%で、
一定の心血管疾患のリスクのある2型糖尿病の患者、
トータル6042名を、
患者にも主治医にも分からないように2つの群に分けると、
一方はそれまでの治療に加えてリナグリプチン(トラゼンタ)
というDPP4阻害剤を1日5mg使用し、
もう一方はSU剤のグリメピリド(アマリール)を
1日1mgから4mgの用量で使用して、
中間値で6.3年の経過観察を行なっています。
患者さんの年齢の平均は64.0歳で、
42%は網膜症などの小血管合併症を持ち、
基礎治療は59%はメトホルミンの単独治療です。

その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中を併せたリスクは、
リナグリプチン群とグリメピリド群で差はありませんでした。

低血糖の発症率は、
経過の中で一度でも低血糖症状が認められた比率で見ると、
リナグリプチン群が10.6%に対して、
グリメピリド群は37.7%で、
明らかにグリメピリド群が多かったのですが、
重篤な合併症の頻度は、
年間100人当たり0.45件と、
それほど多いものではありませんでした。

この試験と並行して行われた、
リナグリプチンと偽薬との比較試験では、
偽薬と比較してリナグリプチンの使用は、
心血管疾患の予後を悪化させていないという結果でしたから、
それを併せて考えると、
確かにSU剤は低血糖は多いけれど、
重篤な低血糖の比率は慎重に治療を行なえば、
それほど頻度の多いものではなく、
心血管疾患の予後については、
DPP4阻害薬と明確な差はない、
という結論になります。

SU剤を使用することは、
百害あって一利なし、
というような見解を、
目を吊り上げて言われるような専門の先生もいらっしゃるのですが、
確かに低血糖と体重増加には、
留意しながら治療する必要のある薬ですが、
その血糖降下作用の確実性と薬価の安さは、
決して現時点でSU剤の使用を否定するものではなく、
その心血管疾患についての長期予後は、
DPP4阻害剤と大きく変わるものではないという事実は、
しっかりと押さえて置く必要があると思います。

勿論患者さんに明確な不利益があればいけませんが、
これだけ医療費の問題がクローズアップされる現在では、
安い薬を積極的に使う、
という考え方も一定の意味のあるものであり、
そうした観点からは、
まだSU剤の臨床における有用性は、
意外に大きいものなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高リスク病変に対する心臓バイパス手術とカテーテル治療の予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CABGとカテーテルの予後の差.jpg
2019年のLancet誌に掲載された、
高リスク病変に対する心臓バイパス手術とカテーテル治療の、
長期予後を比較した論文です。

狭心症や心筋梗塞の治療において、
心臓カテーテル検査を行ない、
狭くなったり詰まった血管に対して、
血管を広げるカテーテル治療は、
ここ20年くらいで急速な進歩を遂げた、
循環器内科治療の花形です。

初めはPTCAと言って、
狭くなった部分に風船を入れ、
それを膨らませる治療が主体でしたが、
この方法では、
一旦は広がった血管が、
すぐにまた詰まってしまうことが多かったので、
ステントという金属製の管が開発され、
それを狭くなった血管に挿入する、
という治療が主体となりました。

この方法ではステント自体は金属製ですから、
それ自体が塞がることはないのですが、
今度はステントを挿入した部分の血管の、
内側の壁が増殖して狭くなったり、
そこに血の塊が出来るような現象が起こるようになりました。
この初期のタイプのステントを、
ベアメタル・ステント(金属ステント)と呼んでいます。

そこで次に、ステントの内側に特殊な薬を塗り付けた、
「薬剤溶出性ステント」という器具が、
開発され使用されるようになりました。
塗り付けられているのは、
シロリムスという、細胞の増殖を抑えるような薬や、
パクリタクセルという抗癌剤の一種で、
毒性があるので、
全身的には使用することは出来ず、
そのためステントの部位のみで、
薬剤がしみ出すような仕組みが考案されたのです。

この薬剤溶出性ステントの使用により、
ステントの中が治療後すぐに狭くなるような合併症は、
かなり減少したのですが、
その一方で、しばらく時間が経ってから、
血栓という血の塊がステントの中に出来て、
それでステントが詰まってしまうような現象は、
頻度は少ないもののゼロにはなっていません。

薬剤溶出性ステントにおいて、
エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスなど、
より患者さんの体との適合性が高くするように改良されたものが、
第2世代の薬剤溶出性ステントと呼ばれています。

さて、
多枝病変と呼ばれる、
複数の血管に狭窄のあるタイプの狭心症や心筋梗塞では、
ステントなどを使用したカテーテル治療よりも、
心臓バイパス手術の方が、
長期的な生命予後は優れている、
というデータが複数存在しています。

ただ、その多くは、
まだステントが普及する以前のものか、
ステントは使用されていても、
ベアメタルステントのデータです。

以前ブログ記事でご紹介した2015年のNew England…誌の論文では、
多枝病変に対する、
第二世代の薬剤溶出性ステントを使用したインターベンションと、
心臓バイパス手術との比較において、
その死亡リスクには両群で差がなかったものの、
心筋梗塞の再発については、
ステント使用群でより多いという結果になっていました。

今回のデータは、
ヨーロッパとアメリカの18カ国85施設において、
最もリスクが高いと想定される3枝病変と、
左冠動脈主幹部病変に対して、
パクリタキセルを使用した、
第一世代薬剤溶出性ステントによるインターベンションと、
心臓バイパス手術のどちらかの治療をくじ引きで決め、
その後10年という長期予後を比較検証しているものです。

その結果、
10年の間にステントによるインターベンション群の27%、
心臓バイパス手術群の24%が死亡していて、
死亡率では両群には有意な差は認められませんでした。

これを3枝病変と左冠動脈主幹部病変とに分けて解析すると、
3枝病変においてはバイパス手術群と比較して、
ステント治療群での死亡リスクが1.41倍(95%CI: 1.10から1.80)
有意に高かったのに対して、
左冠動脈主幹部病変群においては、
2つの治療間の死亡リスクの差は認められませんでした。

今回の検証は第一世代の薬剤溶出性ステントを使用したもので、
第二世代以降のステントの使用では、
また別個の結果の出る可能性もありますが、
3枝病変においては長期の死亡リスクは、
まだバイパス手術がカテーテル治療を上回っているものの、
それ以外の病変においては、
バイパス手術とカテーテル治療の生命予後には、
大きな差はないと考えてほぼ間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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