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電子タバコによる肺障害のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
電子タバコ肺障害の組織所見.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
今話題の電子タバコによる肺障害についての短報です。

アメリカで今大きな問題となっているもので、
日本でも対岸の火事とは言えないものです。

タバコの代替品として、
急速にその利用が広まっているのが、
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。

非燃焼・加熱式タバコというのは、
葉タバコを燃焼させる代わりに、
加熱して吸引することにより、
その煙による害を和らげようという商品で、
基本的にはタバコとその性質は同じです。

一方で電子タバコは、
タバコに似た匂いのある液体を、
専用の器具で蒸気にして吸引するもので、
タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、
日本ではニコチンを含む商品は認められていません。

非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、
間違いがありませんが、
電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、
まだ結論が出ていません。

2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、
非燃焼・加熱式タバコのみならず、
電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、
使用者から拡散するエアロゾルが、
周囲に悪影響を与える可能性があるので、
飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、
とされています。

ただ、その根拠がそれほど現時点で明確、
という訳ではなく、
禁煙治療に一定の有効性があるという報告もあり、
それを後押しするような意見もあります。

ところが…

直近の2ヶ月間にアメリカの30の州において、
電子タバコの吸引後に発症した、
450件を超える重篤な肺疾患の事例が報告され、
そのうち死亡事例も5件を超えています。

共通する症状は咳や呼吸困難や胸部痛ですが、
吐き気や嘔吐、下痢を伴う事例も複数報告されていて、
だるさや発熱、体重減少を伴う事例もあります。

こうした状況を踏まえてアメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)は、
原因がはっきりするまで電子タバコの使用を控えるように警告しています。

アメリカではニコチンを含む電子タバコも流通していますが、
報告はニコチンのあるなしに関わらず認められていて、
どうやら電子タバコによる肺臓炎などの症状は、
ニコチンなどのタバコ特有の成分とは、
無関係の現象という可能性が高いのです。

それでは危険ではない筈の電子タバコの、
一体何が病気の原因となっているのでしょうか?

1つの可能性は電子タバコの吸引器を利用して、
大麻由来の成分であるテトラヒドロカンナビノールや、
カンナビスオイルを吸引している人がアメリカでは多く、
それが影響しているという可能性があります。

もう1つ電子タバコに含まれている可能性のある成分のうち、
ビタミンEから得られる油であるビタミンEアセテートが、
吸引することにより有毒な影響を肺組織に与えるのではないか、
という仮説があります。

ただ、これもまだ実証されたものではありません。

今回の報告は電子タバコの吸引後に発症した、
臨床的にその関連が疑われる肺障害の患者さん、
トータル17名の生検の肺組織像の検証を行っているものです。

その結果、組織所見の多くでは、
気道中心性の化学性肺炎と呼ばれる所見を認めました。
脂肪を吸引した泡沫状マクロファージや、
肺細胞の細胞質の空胞化という所見が特徴的に認められました。
リポイド肺炎という病態があり、
これは脂肪の吸引を原因として、
脂肪を貪食したマクロファージが出現する、
比較的軽症の肺炎のことですが、
今回の検証では電子タバコ関連の病変は、
リポイド肺炎の診断基準を満たすものではなく、
その病変もより重症度の高いものでした。

現時点では何らかの化学物質の吸引による、
肺の急性の変化がその病態であると思われますが、
その物質の特定を含めて、
まだ不明の点が多いのが実際のようです。

いずれにしても、
電子タバコによる肺障害は日本においても起きる可能性は否定出来ず、
その使用はアメリカと同じように、
現時点では慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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