SU剤とDPP4阻害剤のリスク比較(2019年直接比較試験結果) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
今臨床で使用されている、
代表的な飲み薬の糖尿病治療薬2種類を、
心血管疾患リスクに関して直接比較した臨床試験の論文です。
2型糖尿病の治療薬として世界的に第一選択の薬は、
ビグアナイト製剤のメトホルミンです。
しかし、メトホルミンのみで目標となる血糖コントロールが得られない時には、
そこに通常併用する形で他の治療薬が使用されます。
こうした場合に使用される薬剤として、
最も広く使用されて来た薬が、
SU剤というインスリン分泌の刺激剤です。
SU剤はインスリン分泌細胞に結合して、
強力にインスリン分泌を刺激する薬です。
飲み薬としては、
血糖降下作用も最も強力です。
ただ、その強力な作用のために、
重症で長引く低血糖が多いことと、
インスリン分泌が多くなるために、
体重増加が起こりやすいことが欠点です。
近年インクレチン関連薬と言って、
SU剤とは別個のメカニズムにより、
自然に近いインスリン分泌を促すタイプの薬と、
SGLT2阻害剤と言って、
尿への糖の排泄を促進するという、
全く新しいメカニズムの薬が開発され、
いずれもSU剤と比較して、
重症の低血糖を起こし難く、
体重増加も来し難いことが確認されています。
更に現在2型糖尿病の最も重要な治療目標と言って良い、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防効果においても、
GLP1アナログというインクレチン関連薬の注射剤と、
一部にSGLT2阻害剤において、
心血管疾患のリスクを低下させたり、
その生命予後にも良い影響を与えたとする臨床データが、
相次いで報告され注目を集めています。
SU剤には、低血糖を起こし易いだけではなく、
その使用継続により心血管疾患のリスクや、
死亡リスクにも悪影響を与えるのでは、
というイメージがあります。
これが事実であるとすれば、
2型糖尿病の治療薬としてSU剤は使用するべきではなく、
インクレチン関連薬やSGLT2阻害剤をもっぱら使用するべき、
ということになります。
ただし…
SU剤が低血糖を起こし易いことは事実です。
しかし、生命予後や心血管疾患のリスクにおいて、
本当に他の薬剤より劣っているのか、
という点については、
あまり新しいデータはなく、
直接比較のような試験もほとんどないのが実際です。
多くは観察研究かメタ解析で、
個々の臨床データは小規模で信頼性も低いものが多いのです。
今回の研究は、
SU剤とインクレチン関連薬のDPP4阻害剤を、
世界規模で厳密な方法で直接比較したもので、
以上の経緯から、
糖尿病の臨床において非常に画期的な意義のあるものなのです。
世界43か国の607の医療機関において、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cが6.5から8.5%で、
一定の心血管疾患のリスクのある2型糖尿病の患者、
トータル6042名を、
患者にも主治医にも分からないように2つの群に分けると、
一方はそれまでの治療に加えてリナグリプチン(トラゼンタ)
というDPP4阻害剤を1日5mg使用し、
もう一方はSU剤のグリメピリド(アマリール)を
1日1mgから4mgの用量で使用して、
中間値で6.3年の経過観察を行なっています。
患者さんの年齢の平均は64.0歳で、
42%は網膜症などの小血管合併症を持ち、
基礎治療は59%はメトホルミンの単独治療です。
その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中を併せたリスクは、
リナグリプチン群とグリメピリド群で差はありませんでした。
低血糖の発症率は、
経過の中で一度でも低血糖症状が認められた比率で見ると、
リナグリプチン群が10.6%に対して、
グリメピリド群は37.7%で、
明らかにグリメピリド群が多かったのですが、
重篤な合併症の頻度は、
年間100人当たり0.45件と、
それほど多いものではありませんでした。
この試験と並行して行われた、
リナグリプチンと偽薬との比較試験では、
偽薬と比較してリナグリプチンの使用は、
心血管疾患の予後を悪化させていないという結果でしたから、
それを併せて考えると、
確かにSU剤は低血糖は多いけれど、
重篤な低血糖の比率は慎重に治療を行なえば、
それほど頻度の多いものではなく、
心血管疾患の予後については、
DPP4阻害薬と明確な差はない、
という結論になります。
SU剤を使用することは、
百害あって一利なし、
というような見解を、
目を吊り上げて言われるような専門の先生もいらっしゃるのですが、
確かに低血糖と体重増加には、
留意しながら治療する必要のある薬ですが、
その血糖降下作用の確実性と薬価の安さは、
決して現時点でSU剤の使用を否定するものではなく、
その心血管疾患についての長期予後は、
DPP4阻害剤と大きく変わるものではないという事実は、
しっかりと押さえて置く必要があると思います。
勿論患者さんに明確な不利益があればいけませんが、
これだけ医療費の問題がクローズアップされる現在では、
安い薬を積極的に使う、
という考え方も一定の意味のあるものであり、
そうした観点からは、
まだSU剤の臨床における有用性は、
意外に大きいものなのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
今臨床で使用されている、
代表的な飲み薬の糖尿病治療薬2種類を、
心血管疾患リスクに関して直接比較した臨床試験の論文です。
2型糖尿病の治療薬として世界的に第一選択の薬は、
ビグアナイト製剤のメトホルミンです。
しかし、メトホルミンのみで目標となる血糖コントロールが得られない時には、
そこに通常併用する形で他の治療薬が使用されます。
こうした場合に使用される薬剤として、
最も広く使用されて来た薬が、
SU剤というインスリン分泌の刺激剤です。
SU剤はインスリン分泌細胞に結合して、
強力にインスリン分泌を刺激する薬です。
飲み薬としては、
血糖降下作用も最も強力です。
ただ、その強力な作用のために、
重症で長引く低血糖が多いことと、
インスリン分泌が多くなるために、
体重増加が起こりやすいことが欠点です。
近年インクレチン関連薬と言って、
SU剤とは別個のメカニズムにより、
自然に近いインスリン分泌を促すタイプの薬と、
SGLT2阻害剤と言って、
尿への糖の排泄を促進するという、
全く新しいメカニズムの薬が開発され、
いずれもSU剤と比較して、
重症の低血糖を起こし難く、
体重増加も来し難いことが確認されています。
更に現在2型糖尿病の最も重要な治療目標と言って良い、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防効果においても、
GLP1アナログというインクレチン関連薬の注射剤と、
一部にSGLT2阻害剤において、
心血管疾患のリスクを低下させたり、
その生命予後にも良い影響を与えたとする臨床データが、
相次いで報告され注目を集めています。
SU剤には、低血糖を起こし易いだけではなく、
その使用継続により心血管疾患のリスクや、
死亡リスクにも悪影響を与えるのでは、
というイメージがあります。
これが事実であるとすれば、
2型糖尿病の治療薬としてSU剤は使用するべきではなく、
インクレチン関連薬やSGLT2阻害剤をもっぱら使用するべき、
ということになります。
ただし…
SU剤が低血糖を起こし易いことは事実です。
しかし、生命予後や心血管疾患のリスクにおいて、
本当に他の薬剤より劣っているのか、
という点については、
あまり新しいデータはなく、
直接比較のような試験もほとんどないのが実際です。
多くは観察研究かメタ解析で、
個々の臨床データは小規模で信頼性も低いものが多いのです。
今回の研究は、
SU剤とインクレチン関連薬のDPP4阻害剤を、
世界規模で厳密な方法で直接比較したもので、
以上の経緯から、
糖尿病の臨床において非常に画期的な意義のあるものなのです。
世界43か国の607の医療機関において、
糖尿病コントロールの指標であるHbA1cが6.5から8.5%で、
一定の心血管疾患のリスクのある2型糖尿病の患者、
トータル6042名を、
患者にも主治医にも分からないように2つの群に分けると、
一方はそれまでの治療に加えてリナグリプチン(トラゼンタ)
というDPP4阻害剤を1日5mg使用し、
もう一方はSU剤のグリメピリド(アマリール)を
1日1mgから4mgの用量で使用して、
中間値で6.3年の経過観察を行なっています。
患者さんの年齢の平均は64.0歳で、
42%は網膜症などの小血管合併症を持ち、
基礎治療は59%はメトホルミンの単独治療です。
その結果、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中を併せたリスクは、
リナグリプチン群とグリメピリド群で差はありませんでした。
低血糖の発症率は、
経過の中で一度でも低血糖症状が認められた比率で見ると、
リナグリプチン群が10.6%に対して、
グリメピリド群は37.7%で、
明らかにグリメピリド群が多かったのですが、
重篤な合併症の頻度は、
年間100人当たり0.45件と、
それほど多いものではありませんでした。
この試験と並行して行われた、
リナグリプチンと偽薬との比較試験では、
偽薬と比較してリナグリプチンの使用は、
心血管疾患の予後を悪化させていないという結果でしたから、
それを併せて考えると、
確かにSU剤は低血糖は多いけれど、
重篤な低血糖の比率は慎重に治療を行なえば、
それほど頻度の多いものではなく、
心血管疾患の予後については、
DPP4阻害薬と明確な差はない、
という結論になります。
SU剤を使用することは、
百害あって一利なし、
というような見解を、
目を吊り上げて言われるような専門の先生もいらっしゃるのですが、
確かに低血糖と体重増加には、
留意しながら治療する必要のある薬ですが、
その血糖降下作用の確実性と薬価の安さは、
決して現時点でSU剤の使用を否定するものではなく、
その心血管疾患についての長期予後は、
DPP4阻害剤と大きく変わるものではないという事実は、
しっかりと押さえて置く必要があると思います。
勿論患者さんに明確な不利益があればいけませんが、
これだけ医療費の問題がクローズアップされる現在では、
安い薬を積極的に使う、
という考え方も一定の意味のあるものであり、
そうした観点からは、
まだSU剤の臨床における有用性は、
意外に大きいものなのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-10-03 06:53
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