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降圧剤を朝から眠前にずらすことの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
寝る前の降圧剤の効果.jpg
2019年のEuropean Heart Journal誌に掲載された、
降圧剤の飲む時間とその効果についての論文です。

現在多くの高血圧の薬は1日1回の飲み薬です。

添付文書でも1日1回と書かれているだけで、
朝でも昼でも夜でも、
基本的には問題はないということになっています。

製薬会社の説明では、
その半減期は長く効果は安定しているので、
1日のうちどの時間に飲んでも、
同じ時間に継続して服用すれば、
血圧コントロールは安定するとされています。

しかし…

その一方で夜間の血圧をコントロールすることが、
昼間の血圧より重要であるという意見も根強くあります。
そして、そうした意見の専門家は、
1日1回のタイプの降圧剤は、
朝飲むより夜に飲んだ方が、
夜の血圧を低下させるので有効性が高い、
という言い方をされています。

実際にそれを示唆するデータも存在しています。
血圧を上昇される大きな要因の1つである、
レニン・アンジオテンシン系という一連のホルモン系は、
昼より夜寝ている時間帯に、
より活性化しているというデータがあります。
また、一部の降圧剤において、
朝より夜に飲んだ方が、
心血管疾患のリスク低下に結びついた、
というようなデータもあります。

ただ、実際に飲むタイミングと長期の患者さんの予後を、
比較検証したような臨床試験は、
これまでにはあまりなかったのが実際でした。

今回の研究はスペインの複数施設で行われたもので、
18歳以上で高血圧の治療を行っている、
トータル19084名をクジ引きで2つの群に分けると、
一方は全ての薬を昼間に内服し、
もう一方は1種類以上の薬を全て寝る前に内服して、
中間値で6.3年の経過観察を行っています。

血圧の評価は24時間血圧計で行い、
患者さんには試験の目的は知らされていませんが、
薬を飲む時間については知らされています。
つまり、偽薬を使用したような試験ではありません。

薬は自由に選べて、
外来の血圧値により治療がなされているので、
両群の血圧コントロールを比較することはあまり意味がありません。

この試験は敢くまで、
心血管疾患のリスクを比較しているものなのです。

年齢や血圧値などを補正した結果として、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、心不全、カテーテル治療、脳卒中を合わせたリスクは、
昼間の降圧剤の使用と比較して寝る前の服用では、
45%(95%CI: 0.50から0.61)有意に低下していました。

個別に見ても、
心血管疾患による死亡のリスクが56%(95%CI: 0.34から0.56)、
心筋梗塞のリスクが34%(95%CI: 0.52から0.84)、
カテーテル治療のリスクが40%(95%CI:0.52から0.84)、
心不全のリスクが42%(95%CI: 0.49から0.70)、
脳卒中のリスクが49%(95%CI: 0.41から0.63)と、
いずれも眠前内服群で有意に低下していました。

両群で特に有害事象や副作用に違いはありませんでした。

今回の実臨床のデータでは、
かなり劇的な差が、
薬を飲む時間だけで示されています。

これが事実であるとすれば、
降圧剤は寝る前に飲むのが、
もう必須と言って良いことになりますが、
お酒を飲まれるような患者さんでは、
果たしてアルコールと同時に近いような服用に、
問題がないのか、ということもありますし、
利尿剤を眠前に飲むことで、
夜間の頻尿などの問題は起こらないのか、
製薬会社の出している、
服用時間で血圧には差はないとするデータとの、
整合性はどう考えるのか、など、
疑問点は多くあることも事実です。

今後この問題はより詳細な検証が必要と思いますが、
当面安全に使用可能な範囲において、
どちらかを選ぶ際には、
降圧剤は寝る前の服用を選ぶのが妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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